ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
「
「む? ああ、娘っ子か。」
ある日の昼下がり。
フレイヤは、〖
ここはドワーフ族の鉄ノ助とその妻、エルフ族のエルテルム夫妻がクワール街で経営する、武具屋である。
「槍の手入れですが…。」
「おう。
おーい! お前ー!」
「なにさーーー!?」
「娘っ子の槍を持ってきてくれんかー!
緋色の髪した
「フレイヤちゃんのーーー!?
あんた、お得意さんの名前ぐらい覚えなさいよーーー!」
「っじゃかーしいーーー!!!」
「はははっ…。」
鉄ノ助は現在、別の武具の手入れをして手が離せず、嫁のエルテルムに頼む。
その際に大声の言い合いを聞き、フレイヤは少し呆れつつも暖かく笑い、少し待つ。
「はーい、フレイヤちゃん。
待たせてごめんなさいねぇ~。」
「いえ、ありがとうございます。」
槍鞘を抜いて、刃先をよく見る。
そして、持ち手を握り、違和感が無いかなどを探るフレイヤ。
「外側の木材、数箇所割れそうだったから補強しておいた。
鉄芯に問題はまだないが、近い内にボロが出るかもしれん。
本当は変えたほうがいいんじゃがな。」
いくら手入れしても武器も消耗品。
この地に来て、刃先の交換は一度したが、持ち手の方は、何度も修正してもらい、今まで誤魔化してきたがそろそろ限界かとフレイヤは思う。
「新しくするとどれくらいですか?」
「…安くはねぇぞ。」
鉄ノ助は指を3本立てた。
フレイヤはそれが3桁や4桁の額じゃないと理解し、苦い顔をした。
「すみませんが、しばらくは…。」
「そうか…。 娘っ子がそういうならそうしよう。」
「ありがとうございます。 それでは。」
礼を言い、フレイヤは店を出て行った。
「いいのかい? 私の見立てでもそろそろあの槍限界でしょ?」
「ふん! エルフ族の見立てなんぞあてにもならんわい。」
バチンっという頭を引っ叩いた音が響いた後、鉄ノ助の文句の声。
「アンタの言う通り、持ち手をそれ以上安くはできんけど、なにかやり方があるだろう?
先に槍を渡して、数回に分けて後払いにしたりとか…。
フレイヤちゃんなら、踏み倒しなんてしないと思うけど?」
「そんなことすりゃ、あの娘っ子は更に働き詰めちまうだろう。」
「うーん…。」
「どういう事情か知らんが、あの娘には金がいるんだろう。
じゃなきゃ、譲り受けた大事な槍をあんなに使い潰そうとはせん。」
「譲り受けた?」
「持ち手の交換を渋るのは、金の都合もあるが、あの槍が完全に別の物になるのが嫌なんじゃろう。 刃先は新しくなっておるし。
そんで、ここに持ってくる時、手入れされてる跡…常日頃から大事にしておるし、感心するのが戦闘時でも槍に負担の掛からんように気を掛けて、使っておる。」
「へえ。」
「武家の朱槍ってのは、実力と信用を築き上げた者に与えられる一振り。
だったら、親しき者にでも譲り受けたと思ーただけよ。」
鉄ノ助の淡々とした推察を聞くエルテルム。
「なるほど。
でも、武器が無くなっちまったら、金も稼ぎづらくなるじゃない。
フレイヤちゃん、作業者なんだよ?」
「そんなことは知らん。」
「…。」
「他人の苦労に同情して、助けてたら、商売上がったりじゃろ?」
「ふーん…。」
冷たくも取られるが現実的に的を射た意見を言う鉄ノ助。
だが、エルテルムは作業場に長い棒状の物が置いてあるのを思い出す。
作成中なのか、木材がまだ磨かれてないが鉄芯だけが通してある…柄の様な物。
「ほら、一人の客ばかり考えるでない。
気取った若造に特注で依頼された武器。 それを作るから材料持ってきてくれ。」
「黒四君でしょ。 わかったわよ、偏屈ドワーフさん!」 バシッ!
腰を叩き、
エルテルムは彼に背を向け、仕事に戻る。
満足そうなその顔は、自分の出来た旦那を自慢そうに見せびらかす妻の笑顔だった。
ーーー
(一旦家に戻ろう。 母上の着替えなどを持っていかないと…。)
【鋼】を出た後、フレイヤは現在クワール街に居住している自宅へと戻っていた。
彼女の母、ヴェローナは現在、病に侵されている。
フリーリアにある病院で診断してもらった際に医者には、悪性の菌が体内に入り、それが頭を侵しているとの事。
フレイヤは、母が病気になった原因はこの大陸に来る為に乗った貿易用貨物船での航海だと考えていた。
敵側の三嶋国にバレない様に避難する為、港の全く知らない船乗り達の船に乗せてくれるように頼んだ彼女達。
船内の労働をすることを条件に目的地まで乗せていってくれることを了承してくれたのだ。
しかし、魔法が存在するこの世界だが、それを利用しても航海というのは過酷なものである。
魔法で帆に風を受けさせ、必要であれば人力でオールを漕いでいかなければ目的地には行けず、嵐に会えば只々それが過ぎ去るまで耐える。
食糧も大事であり、特に貴重なのは水…綺麗な水である。
脱水で死なない為の飲料水として使用されることが主であり、身体や船内を清潔に保つ為に使用される事など滅多にないので、常に不衛生な状況に身を置かれる。
そんな環境に身を置き、過酷な船内作業で体力を消耗していく。
父・槍匡から鍛えられたフレイヤは、免疫力を保てて大丈夫だったが、彼女の母・ヴェローナはそうもいかなかった。
アイゼンが黒四円に言った1年後には、頭痛や眩暈に頻繁に襲われ始め、2年後には手足が痺れて動けなくなり、寝たきりになってしまう。
そして、3年目から現在…。
頭にまで病が回ってしまい、フレイヤが話しかけても寝たままの姿勢で薄っすらと彼女を見て、「あー」や「うー」と言った、意識はあるが、言葉を繋げることが出来ない状態へとなっていった。
その様な容態だ。
ヴェローナが自身の娘・フレイヤを認識出来ているのか、どうかもわからない状況なのだが…。
「良し。」
フレイヤは、洗濯し終えている母親の着替えを持ち、自宅から出ていくのだった。
ーーー
「御免。」
「ああ、フレイヤちゃん。」
「先生。」
そして彼女は現在、母が療養している街医者の診療所へとやってきた。
ここは、クワール街の中で開業している小さな診療所であり、医者の名はミヨーネ。
「母は?」
「え? あー…うん…。 薬は飲んでもらったよ。」
「体調の方は?」
「大丈…夫…だと思うよ? 多分…。」
歯切れ悪い、自信なさげな物言いにフレイヤの眉間がピクッとしてしまうが気を落ち着ける。
母・ヴェローナが病気で苦しんでいるのがフレイヤには見てられなかった。
しかし、前に住んでいた都市・フリーリアに存在する大きな病院では入院代だけでも金が掛かる。
フレイヤ自身は働いてお金を稼がないといけないので母を付きっきりで看病出来ない。
病院に入院しといてもらわないといけないのだが、それと同時に痛みを和らげる為の鎮痛薬が必要であったのだが、これも値が張る。
入院費と薬代。
彼女がどれだけ依頼をこなし続けても、その2つを払い続けるのはきつく、現実的に難しいと感じていた。
そんな問題に悩んでいた彼女と偶然知り合ったのがミヨーネ。
彼曰く、少しやつれ気味の彼女が病院から出て来るのを見かけた。
話を聞き、自分なら寝床と鎮痛薬、両方安くしてあげれると言ってきたのである。
最初は疑っていたフレイヤだったが、彼が調合した薬を母に飲ませて数日…母は大病院で貰ってた薬と同様に効きはじめ、苦しまなくなった。
ミヨーネの事は、現在でも完全に信頼している訳ではない彼女だが、付き添い付きの寝床と薬。
それが無理なくお金を払い続ければ、定期的に手に入るこの提案に応じ、ミヨーネの診療所がある、クワール街へと引っ越してきたのである。
ミヨーネに了承を得たフレイヤは、母の寝ている部屋へと向かう。
「母上、着替えを持ってきました。」
「…。」
「寝ておいででしたか。」
診療所の1室。
そこには患者を寝させるベッドが3つあるが、その部屋で寝ているのはヴェローナ1人。
本来、この部屋も長期入院が必要な病人を寝かせる場ではないのだが、ミヨーネの了承を得て、ここをヴェローナの病室に使わせてもらっている。
しかし、ミヨーネ自身は言わないし、指摘されても誤魔化すように俯いて笑うのだが、この診療所に訪れている客はほとんどいない。
フレイヤも引っ越してきてから知ったのだが、ミヨーネの診療所に限らず、この街に住むまともな人達は仮に怪我や病気にかかったら、別の街の病院まで訪れるらしく、この街の医療施設を利用することはほとんどない。
理由としては医者の能力や信頼性の無さ、治療費のぼったくりなどであり、この街で医療知識と能力を持っている者は大半が闇医者の類なのであろう。
「先程、ち・鎮痛剤とい・一緒に…す・す・睡眠薬も、の・飲んでもらったんでね…。 へ…へへへ…。」
「…そうですか。」
なのでフレイヤはこのミヨーネという医者も全面的に信頼しているわけではない。
彼女達の事情を合わせて、融通を利かせたりしてはいるのだが、この街の住人にしてはやけに親切過ぎるのだ。
(ふむ…けど、母上も穏やかに寝ている…。)
しかし、フレイヤ達の現状、何処か別の場所に行くということもできない。
この医者の人柄が自分には生理的に嫌っていると思い、フレイヤはミヨーネの処置に礼を言う。
「では先生、母上の着替えを置いていくので、日が落ちた頃にまた来ます。」
「あ・う・うん…。
起きたら、き・着替えぐらいや・やっておくよ?」
「…御冗談を。」ギラ…
フレイヤの鋭い眼光にミヨーネはビクッと体を震わす。
この男のこういう所が彼女には癇に障るのだ。
「母上、また後程…。」
寝ているヴェローナに頭を下げ、フレイヤは診療所を後にした。
~~~5時間後 夕方~~~
あれから、依頼をこなし、日銭を稼ぎ続けたフレイヤ。
ギルドで報酬を受け取り、街を歩く。
空もすっかり黄昏時である。
(診療所に行く前に身体ぐらい拭いて行くか…。)
汗や魔物の血の臭いが自身の身体からふと臭い、自身の身なりが汚れていることに気付いたフレイヤは、一度身を清めようと自宅に戻ろうと帰路についていた。
「ん?」
すると、玄関の横に包みが置いている事に気付く。
開けてみると乾パン(2つ)や干し肉(3切)、トマト(1つ)が置かれていた。
トマトの鮮度が良いので、恐らく今日置かれたものであるが…。
(またか…。)
ここ3日間、最近彼女の自宅前にこうやって食べ物が置かれていることが多かった。
書き置きが置いてあるわけでもなく、誰が置いてくれているのかわからないのだが…。
(アイゼン殿か? あの人も自分の生活があるというのに…。)
しかし、ここに移り住んでから不定期ではあるのだが、アイゼンが差し入れをしてくれることがあった。
彼はこの街で彼女の苦労を知る数少ない人物である為、こうして自宅に差し入れを届けたり、カフェで「無料で良いから何か食べに来い…。」と言ってくれるのだ。
(ありがたいが三日連続は流石に心苦しい…。
とりあえず、明日、顔を出しにいくか。)
フレイヤは貰ったものを持ち上げ、それに軽く頭を下げ、家に入る。
身体を洗ってから、貰い物を有難くいただき、診療所へと向かうのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
ライファン世界の職業の1つ医者。
黒四円達がいる今の時代では、医師免許という物は無く、自称で名乗り、医療施設を開業することは誰でも出来る。 《無論、腕がなければ、流行る事はないのだが…》
しかし、最近では国認定の医療技術証と呼ばれる物が取得出来る様になってきている。
これは医療従事者として必要最低限の知識と能力を有していると国が認めた証書であり、その者は国お墨付きの医者ですよという証明になるのだ。
まだ、全ての地や国に浸透されてはないが、近年、大陸・南西部を治めるイスパル国。
そこの大病院では、この証書を取得したものしか雇っていない。