ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
フレイヤがミヨーネと彼の診療所で話し合いをしている同時刻。
「食料、ありがとう。 珈琲もご馳走さん。」
「…ああ、毎度。」
売ってもらったのは、バケットパン(半分)・干し肉2切れ・リンゴ3個という1人分、節制して2人分というぐらいの食料。
それらを手に、黒四円はクワール街を歩く。
(あの女は今頃、仕事の最中だろう。
不審に思われるが、玄関内にこれを置いていくとしよう、外だと置き引きされるかもしれんし…。)
アイゼンが推察してた通り、ここ3日間フレイヤ宅に食料を差し入れてたのは、黒四円である。
三嶋国は、過去に春日ノ国を潰し、自国の領地としている。
元々、彼は三嶋国の忍であり、言うなれば国潰しに加担した者の1人でもある。
罪悪感を散らす為の罪滅ぼし?
または、同情に値する境遇からの情け?
人助けをやり始め、それで自分が今更許されると思わないし、そんな風に思って罪の重さを軽くして誤魔化そうとする自分が嫌なのだ。
かといって、相手をそんな境遇に叩き込んでおきながら、同情をして、情けをかける…それはあまりにも相手の尊厳を踏み躙っているのでは無いかとも彼は考えてしまう。
考えても考えても、答えの出ない自問自答の繰り返し…。
だから、そんな禅問答を一度止め、彼は自分の中の声を聞いてみることにしたのだ。
(さっさと置いて、俺も仕事しないとな。
これ買って、もう金無いし…。)
〜 フレイヤに関わる 〜
この声に従い、黒四円は行動することを決めたのだ。
とりあえず、母の治療費優先で自身の食事すら蔑ろにしているらしい彼女に食料を差し入れているのだった。
「ん?」
「…。」
(あの獣人…。)
フレイヤの自宅へと向かう黒四円。
だが、その道の前に見覚えのある者が立っていた。
マラリアの宿で見た、犬型獣人種のフリードである。
(素通り…って訳には行かないみたいだな。)
顔を覚えている程度なので、挨拶もせずに横を通って行っても良いようなものだが、フリードは明らかに黒四円を見ながら、こちらに近づいてくる。
「……。」
「…何か用か?」
近づいてきたのに無言なフリード。
見ているというよりも半ば睨んで威嚇するような視線であり、気に触るような言動をすればすぐにでも噛みついてきそうな敵意を感じてしまう。
だが、黒四円はそんな意思をさらっ流し、率直に尋ねる。
「グルルゥゥ…。 姐さんが貴様を連れてきて欲しいと頼んできた。」
「姐さん? マラリア婆さんのことか?」
「ああ。」
「何のようだ…? 前の手伝いじゃ、部屋の立て替え代の付け、足りなかったとか…?
わかった、宿屋に行けばいいか?」
「いや…。 ………。」
フリードは、彼がポベロンに向かうことを止める。
通常ならマラリアの居る場所を続けて言葉にしそうなものだが、口を閉じてしまう。
「姐さんは何故、貴様なんぞを呼びつける?」
「そんなの俺がわかる訳ないだろう?
頼まれたあんたなら、理由を話してるんだろう?」
「俺が言いたいのは、何故貴様の様な遠い地から来た得体の知れない人間を【住まい】へと招かねばならないのか、ということだ!」
威嚇の唸り声を強くしながら、フリードは不服そうにそう言う。
「住まい?」
「姐さんは何を考えている?
こんな、血生臭くなるほど人を殺している様な異常者を組織に呼ぶなんて…!」
「…随分な言い様だな。
まだ、一度しか顔を合わせた事のない相手に対して。」
冷めた笑いをしながら、黒四円がそう言うとフリードは「あ?」と言いながら彼の眼前まで近づき、睨む。
「貴様の様な奴は一度会えば、わかるんだよ…!」
「へぇ。」
「血の臭いをさせる様な野郎は、この街では珍しくないが、貴様は特別だ…!
ふと臭ってきただけで大量の死者を連想させる様な奴は初めて見た。」
「…。」
「そこまで悪臭を放つのに何人殺ってきた?
百か?千か?
そんな奴を異常者といって、何がおかしいんだよ…!?」
声こそ荒げていないが沸々と怒りを込めた声で話すフリード。
だが、黒四円は無表情で彼の言い分を聞き、彼の話が終わると鼻息一つもらし、口を開く。
「そういうお前はどうなんだ?」
「なにぃ…?」
「俺がお前を見て感じたことは、戦や争い事の気配だが…?
それに血は流れないのか?」
「っ!? 俺が殺しをする時は、命令か死んで当然の悪党だけだ!!!」
「殺しは殺しだ。」
「っ!!!」
フリードは鋭い爪を立て、低い唸り声を立てて黒四円を見下ろす。
「止めろ。
無駄な争いで目立ちたくないし、怪我するぞ?」
「ほう? お前がか? 怪我どころでは済まないかもしれんがな…!
この街では路地裏で誰かが死んでいても、気にも留められんぞ?」
爪が立った手に力が込められる。
今の状況なら、このまま腹にその爪を抉り込み、殺すことも出来る。
「いや、怪我人だけで済む。
お前と付き添い…計五人のな。」
「!?」
フリードは目を見開いて驚愕してしまう。
彼が同行を拒否しようものなら、まず数で脅し、それでも拒めばフリードが力づくで黙らせ、部下の4人に運ばせるつもりであった。
隠れている部下達は街の調査や敵対者たちの懐に潜り込むのを得意とする諜報チーム。
仮にフリードがやられても、チームは腕に覚えのある者達であり、間違ってもこの街のチンピラなどに遅れをとるような戦力ではないのだ。
それを黒四円は、人数まで見抜き、5名に怪我を負わせる…すなわち勝つと宣言してみせたのだ。
(このガキ…最初っから気づいてたのか…?)
勝利宣言はハッタリだとしても、隠密に長けた者を瞬時に看破してみせた黒四円。
フリードは警戒を余儀なくしてしまう。
「素直に婆さんに会いに行くと言ってるのだから、案内をしてくれないか?
あんた、多分俺より年上だろう?
大人の対応をしたらどうだ?」
「…。」
二人は視線を合わせ、互いの様子を伺う。
「ついて来るがいい。」
「わかった。」
そして、数秒後…。
フリードは背を向け先行し、黒四円は付いていく。
ーーー
道順は中央広場を通り、南方面…娼館やカジノが経営されている区画に到着する。
昼頃ではこの区画の店はまだ、営業するような時間帯ではなく、静かなものである。
そのまま南区画を進んでいく。
そして、路地裏を通るとそこ空間の真ん中に2階建ての小さな雑居ビルの様な建物が存在した。
それ自体は普通に見えるが他の建物で隠されたように囲われたその建物は、妙な不気味さがあった。
「これが【住まい】とやらか?」
「そのひとつだ。
俺達の【住まい】は、クワール街のあらゆる場所に用意されてる。」
「へぇ…。」
フリードが質問に答える。
この街では余程大きな組織なのだろうと思い、マラリアの正体に少し興味が出てきた黒四円は、中へと入っていくのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
クワール街の中央広場から各方面に行った時の場所一覧[48のお話・時点]
東方面
街に入る為の門[半壊中]
Café Moku
西方面
ギルド役所
警備隊本部
南方面
娼館やカジノ、酒場などの店がよくある区画 [同衾館アカレンガなど。]
《クワール街は欲望の街なのでどの場所にでもこの手の店は存在している。》
北方面
宿屋・ポベロン
住宅街【フレイヤ宅もこの辺りに存在している。】
北東方面
鍛冶屋【鋼】
ミヨーネの診療所