ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
どうやら彼女はここクワール街に存在する組織の人間であり、案内役として遣わされた、フリードという獣人から、【住まい】と呼ばれている建物へと案内されていた。
そしてフリードから、彼女を呼びに行くからここで待てと指示をされ、現在、玄関に入ってすぐの広間で待機中。
待っている間に黒四円は、広間の周りを見渡していた。
建物内ではかなりの人数が行き来しており、この組織もなかなかの規模なのだろう。
彼が昔、居た
「おい。」
「ん?」
すると前から5人ほどの男達が黒四円に声をかけてきた。
「見ねー顔だな? どこのチーム所属だ?」
「ちーむ…?」
急に言われてなんのことかわからず、単語を繰り返すだけになってしまう。
大きな組織になれば、ある一定の人数で固まって動くものであり、ここではそれをチームと表現している。
「チームだよチーム! 誰の下で働いているかってことだ。」
「ああ、そういうこと…。
俺は別にここの者じゃない。」
「あーん?」
そう答えると5人組の男達は彼を囲むように動き始める。
「マフィアの
彼の返答に不満を持ち、怪しむように睨みながら、声を荒げて恫喝してくる半袖半ズボンの男。
仕切る側の立場の様だが、見る限りの下っ端のチンピラ感があり、他の4人もそんな風体の者達だ。
「本当だ。 ちーむというものはおろか、あんた等、集団の名前さえも知らない。」
「なにぃ!? この街で住んでて、オレ等ファミリー・【グレイツィア】をしらねーってのか!?」
「【グレイツィア】…それが組織名か?」
下っ端の口から明かされる組織の名前。
【ギャングファミリー・グレイツィア】
クワール街を拠点に活動しているギャングチームであり、街の住人だけでなく、別の街や都市でも噂される程の知名度を持った、大規模な裏社会組織のひとつである。
「この街にいるやつ等なら、オレ等、ファミリーの名を知らねー奴なんて絶対にいねーんだよ。」
得意げな顔をしながら、胸を張り威張る、話しかけてきた男の1人。
変な柄の半袖に革素材の半ズボンとサンダル、髪型はサイドを刈り上げた短髪で大股に歩く姿はチンピラ感を際立たせていた。
「へぇ〜中々の規模の組織ってことか。」
「ったりめーよ!」
この男に黒四円は、(さっきまで威圧的だったのに急にその態度がなくなったな?)と疑問に思いながら、グレイツィアに対しての感想を素直に口に出す。
すると自分の所属しているグレイツィアを褒められて嬉しかったのか更に機嫌良くなった男を見て、黒四円は(単純そうな奴)と思う。
そんな風なやり取りの内、仲間の1人がその男に小声で呼びかける。
「あのベオさん…?」
「ぁん? なんだ?」
「いや、何だじゃなくて…こいつが何なのか聞き出すんじゃないんですか?」
「………おお! そうだった、そうだった!」
数秒前に自分が決めた目的を思い出し、再び黒四円に向き直る、ベオという男。
その際に周りの仲間達が呆れたような、馬鹿にしたような視線を向けていたことは気づきもしない彼だったが…。
「そんで、話をもどすが…テメェはなんの目的でここに居るんだぁ?」
「俺はただ、呼ばれただけだ。」
「呼ばれたー? 誰にだよ?」
「宿屋の婆さんにだ。」
黒四円がそれを口にするとベオだけでなく、周りの仲間4人やその会話が聞こえていた、周りのグレイツィアのメンバーも目を見開いて彼を見た。
「宿屋の婆さん…て事は2代目の…!?」
「おいベオ!!!」
するとベオを押し除けて、別の人間が黒四円に詰め寄ってきた。
「貴様…何処でそれを知った?」
「は?」
「外部の者が前のボスの正体と居場所を知っているのは、余程信頼されている者だけの筈だ。
私は、古参の人間だが、お前の様な奴は初めて見る…何処の人間だ…!?」
身なりの整ったスーツを着た壮年の…そう、見るからにマフィアと呼ばれるような格好をした男性は冷静に…だが、威圧を含んだ声で聞いてくる。
唯ならぬ程の緊張感に辺りが包まれていく。
だが黒四円は、一息つき、口を開く。
「そこにいる奴にも言ったが、俺は呼ばれたんだ。
あの婆さんが何処の誰かなんてのも知らないし、呼ばれた理由も知らない。
黒犬の奴が婆さんを呼びに行くから、ここで待ってろって言われたから、ここで待機してるだけだ。」
冷静に淡々と説明していく黒四円。
実際にそれ以外の理由は無いのだし、やましい事はなに一つとしてないのだから取り繕うような言葉はなにも付け足さずに堂々とした様だった。
しかし、ファミリーの古参と言ったその男は、懐からナイフを素早く取り出し、彼の首筋に刃を立てる。
「堂々とした態度で答えたのは評価してやる。
だが、素直に納得してやれる程、この件は簡単には済まないんだ。」
(あの黒犬といい、この組織はすぐに得物を向けてこようとするな…。)
先程のフリードが脅してきた事といい、呆れるように心の中でそう思う。
「短刀を収めろ…後悔するぞ?」
「なんだ…とっ!?」
黒四円は、素早く男の手首を掴み、体を入れ替えて脇固めへと移行する。
「ぐああぁ!!」
肩関節を極められ、前屈みの体勢。
古参の男は、掴まれた腕に力を入れたり、体勢を変えてみようと努力するが無駄な抵抗。
自分の体の動きを完全に制限されてしまったのである。
「てめぇ!!!」
「なにしてんだあ!!!」
「…。」
周りのグレイツィアのメンバーは、攻撃行動を見るや怒鳴り、敵意を向けてきて、黒四円も周囲を見て警戒する。
一触即発……!
そのまま争いが始まろうとした瞬間であった。
「ゥワァン!!!!!」
しかし、その瞬間に犬の吠え声が辺りに響き、周囲の者達を止めた。
鳴き声の方向を全員が見るとフリード。
そして、あの時、彼と一緒にいた、ルシーヴィラという女性が立っていた。
「貴様ら! 何をしている!?」
フリードがそう言うと原因である黒四円達の方へと足を進めていく。
「フ・フリードさん…。」
「ベオ…何を揉めている?」
ベオの仲間が彼の名前を呟く中、フリードは馴染みの顔であるベオに問いかける。
「いや、ワンコウ…オレは知らねえやつがここに居たから、話聞こうと思ってよー。」
「ここを出る前にお前と話して、客人を連れてくると言ったと思うが?」
「………ああ!! それがこいつかー!」
「お前なぁ…。」ハア…
「ベオは、相変わらず馬鹿。」
「う…ルシー、そんな事言ったってどんな奴か知らないんだから、しょうがないだろう?」
「そういうのは察するもの。」
追い討ちするようにそう言うルシーヴィラにベオは「ぅぐ…」と詰まり、頭を掻く。
フリードとベオとルシーヴィラ。
3人は共にグレイツィアに入った日が近く、付き合いも長い。
頭の弱いベオは、いまだにファミリーで大したポジションに就いていないが気さくに話せる間柄の様である。
「お客さん。」
「ん?」
「離してあげて。」
3人の少しやり取りの後、ルシーヴィラは、黒四円の方を見て、そう言う。
そして黒四円は警戒しながらゆっくりと手を離していった。
「ちっ…!」
「大丈夫?」
「ああ。 フリード、ルシー…本当に客人なのかこの男?
会わせるつもりなのか…2代目と?」
「俺も反対してるんですがね…。」
「
叶えてあげる。」
ルシーヴィラがそう言うが古参の男は、まだ心配そうである。
「俺とルシーも同席します。」
「むぅ………わかった、頼むぞ。」
そして古参の男は、渋々とその場を後にするのであった。
「じゃあ、お客さん、こっち来て。」
「ああ。」
「ベオ、じゃあな。」
「おう! しっかりとなー!」
「お前が言うな。
今月納める金、まだ足りてないぞ。」
「ああー!?」という声が後ろから聞こえる中、2人に連れられて黒四円は部屋へと向かうのであった。