天の女主人の仔、王の剣   作:癖に従うマン

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今回のシュメール神話の用語

・パルス―或いはメー
神や人の全ての言動や考えなどの指針となる「聖なる掟・力」のこと。
どのような形をとるものかは神話内で定義されていないが、何らかの形で実体を持つものと認識されていた。
ある時女神イシュタルがとある神からパルス―/メーを強奪し自らのものとした。
それ以降これなるパルス―/メーが叙事詩内で記載されたことはない。


序章/プロローグ

 

 

 

 私は産まれる以前より自我を持っていた。

 そう理解したのはこの体を産むのであろう母の胎内、つまりは目も明けられぬ一種の領域に近い場所に私はあったのだが、それでも私は此処が胎内であるのだと理解した。

 だからと言って言葉は話せないし、意思疎通も不可能である。

 精神的にも幼すぎて、後に謁見したウルクの王よりも私は劣る存在だと言えた。

 自我を持っていたからと言って、それを私以外が確かめる術はもたない。

 なにせ、私をこの世に産み落とした母は私に名を授けた後、満足したようにウルクへと放置されたからだ。

 意思の疎通が取れていたのかどうかも分からない。

 

 生まれ出でてから数年経った頃、私は周囲の人間から浮いていた。

 ソレは悪い意味でもあり、同時に良い意味でもあったというべきなのだろう。

 

 生まれた時にはすでに言葉を発した。

 歳が一つの時には二足でも歩けるようになっていた。

 二つの時には既に親代わりである翁の手がいらない程、ある程度のことは出来た。

 

 あまりに成長が早すぎる。

 それが、周囲から受けた私の評価だろう。されど、取り立てて騒ぐほどの事ではないだろう。それ以上の存在がウルクには在ったのだから。

 私は己が周囲よりも優れた存在であると自覚している。けれども、それ以上の存在がこのウルクにある以上、私という存在の価値はその生まれ一点のみ。

 だが、その生まれこそが私にとっては何よりも感謝し、誇るべき事柄だ。

 

 ウルクの都市神にして守護神、美の具現、戦の女神───そして、天の女主人

 メソポタミアだけには及ばず、後に全土に広がる大女神。

 キュベレーイナンナミリッタアシュタルテ───数多の名を保有する彼の女神の名を“イシュタル

 

 例え、乳飲み子といえど何も出来ず、何も返せず、ただ与えられるだけの存在だった私を彼女は祝福してくれた、愛してくれた、認めてくれた。

 それだけで、私はもうこれ以上ないほどに満足していた。

 故にこそ、生まれ出でた瞬間から満たされた私は、その生涯で以て応えなければならない。

 愛に報いなければならない。

 そうあれかしと戒めなければならない。

 この体に刻まれぬ役目を、自らの意志で決めねばならない。

 そして、準じるための指標は幸いにもすでに授かっていた。

 

 

 

 

 

 

- ◇ -

 

 

 

 

 

「さて………何故貴様を今この場に呼び寄せたか分かるか?」 

 

 

 木霊する荘厳な声、その声の主は玉座にて坐すは黄金の男だった。

 逆立つ金色の髪は獅子を彷彿とさせ、蛇のような獰猛さを醸し出す紅玉の瞳。

 肉体はこの時代よりもはるか未来にて讃えられる黄金比を完璧に再現されていた。

 

 男の名は“ギルガメッシュ”或いは“ビルガメシュ”。

 この地、ウルクの王にして神々より天と地を結びつけるための楔の役割を持つ者。

 後に語られる人類最古の叙事詩の英雄にして王───英雄王の名を頂く男だ。

 この男ギルガメッシュは、産まれた当初神々のみならずウルクに住む民総出で祝福するほどの名君に育つと確信させる人物であった。

 そしてその予想通り、赤子ギルガメッシュは生まれながらに両眼を見開き、鳴き声を上げず、言葉を発した。

 この時点で常人たる人の仔ではあり得ぬ成長速度だった。

 当然、年月が経ち少年ギルガメッシュとなってもその成長性は既に達観の域にまで達していた。

 このままいけば誰もが望んだ理想の王として君臨するだろうと胸を高鳴らせた神と民であった────筈だった。

 何をどこで間違えてしまったのか───青年王ギルガメッシュはその純真さを捨て暴君へとなり果てた。

 民を護り導く国にして砦は、それらを跡形もなく蹴散らす嵐となってウルクの民に襲い掛かった。

 ウルクの民一人残らず役割を当て、当人が可能か不可能かもわからぬ段階で全霊を尽くさねば果たせぬ難題を押し付けた。

 無論、そこに満たなければ罰せられ、満たしたとしても次の役割を当てられ休まる暇はあれど精神はすり減っていく。

 なのに………こんな筈ではなかったと誰もが思う中、たった一人の例外がいた。

 

「はて、私は唯の兵に過ぎないのですが、何故玉座の間に招かれたのか思い至りません」

貴様が一介の兵であって堪るか戯け!!

 

 惚けたように平然とした口調で分からないと告げた人物に王たるギルガメッシュが声高に叫んだ。

 理不尽ともいえる叫びに、それでもその人物の態度は変わらない。

 

「されども、私の肩書はウルクの兵に過ぎない身です」

 

 そう、この人物が言う通り王に向かい答える者の肩書は一介の兵に過ぎないのは本当なのだ。

 

「確かにな───肩書としては何の間違いもなく一介の兵ではある………」

「そうでしょうとも」

「ウルクの兵として日々弛まぬ鍛錬に打ち込むのも当然と言えよう」

「ええ、無論です」

「だが─────8日だ」

「………」

「8日もの間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()がいてこの我が問題視せんと思ったか!!」

 

 そう、王に怒鳴られているこの人物───王が与えた役割である「兵として常に鍛錬を怠らず、ウルクを防衛し続ける鉾となり盾となれ」という命を文字通りそのまま休まずし続けていたのだ。

 王としてみても天晴を通り越してむしろ問題にしかならないとしてこの玉座の間に呼びつけたのだ。

 

「いや、抑々そのような効率を度外視した訓練を続け、それなりの結果を出せると知った周囲が真似をするような事態がもうすでに起きている!」

 

 そしてなんとこの人物に倣おうと真似をして倒れる訓練兵まで現れていた。これには王も困惑した。何より、自分が与えた役割を言葉そのままに実行し続ける大馬鹿がいるなどとギルガメッシュも想定していなかったのだ。

 当然、真似した訓練兵たちは疲労困憊で3日ほど再起不能になってしまった。

 これには王も───

 

「この責任、どう負うつもりだ?」

 

 やはり理不尽にその負債をどう解消させるか、目の前の大馬鹿をどうしてやろうかと思考していた。反抗するならばやむ無し、即刻牢屋に放り込むつもりだが、この難題を解決させることが出来るならば大目に見てやろうとも思っていた。

 

「それならば、自分がその問題を解決に奔走しなければなりません」

 

 よしよしと王は思った。

 流石に奴も反省しただろうと機嫌が直りかかってきた。

 

「ほう……馬鹿者かと思ってみればそれなりの危機感はあったか、ならばどのように問題を解決する?」

「然らば……私の真似をした結果倒れてしまった者たちの役割───全て私が代行しましょう

 

 ───そんな気がしただけだった。

 

「………裁定は決まった、貴様は我がヨシというまで牢で大人しくしているがいい」

「承知しました……それでは失礼します、王よ」

 

 そう最後に一礼して()()()()()()()()()()()は玉座の間を後にした。

 その後ろ姿が見えなくなるまで王は見送り、見えなくなって暫く天井を見上げて溜息を吐いた。

 

 

「従順で素直、その上与えられた役割には死んでも果たさんとする忠誠心、全くの問題点はない。

 寧ろこの我をして感嘆の言葉以外は出ん………………………………  ただし  奴個人が、あまりにも融通が利かぬので個人が熟す役割でなければ周囲がその熱に当てられて大問題に発展する……………………一体どこで成長の仕方を間違えた、“バルサ”よ───……… 」 

 

 

 

 

 

 

 

彼の名を ───“バルサ”或いは“パルスー

 

天の女主人───“女神イシュタルの子”にして、後の“王の剣”となる者

 

彼の生涯は己を生み出した母のために、彼の力は己を見守った王のために

 

これは、己の誓いを死して尚守り続ける英雄の物語

 

 

 

 

 

 

 






取り合えず元スレで描かれてる場面までは続けたいです。
感想や評価のほどよろしくお願いします。
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