火薬の匂いが、廊下の空気の中に残っていた。
混じっていたのは、己の身体から漂う血の生々しい鉄の臭いと、物言わぬPMCから流れ出すオイルの香り。
ミユキはその空間の中で吐き気を覚えながら立っていた。
それでも、彼女の目の光は力強く灯っていた。
ミユキを先頭に慎重かつ迅速に歩みを進める___
PMCの連中に対して火力も、人数も圧倒的に足りない。
それに対して非戦闘2人に、辛うじて意識を掴んでいる死にかけが1人。
壁に背をつけ、廊下の角から奥を窺う。
___誰もいない。足音も、気配も無い。
そして廊下の先にオフィスへの入り口が見える。
ミユキは素早く駆け出し、オフィスの入り口まで辿り着き、中に入ろうと足を踏み出そうとしたが、確かな殺意を感じ、身構えるのと同時に鈍く重厚な
「死にたくないんなら、失せろ」
覚悟を決め,目の前のに立ち塞がる兵士に真っ直ぐ歩み寄る。
徐々に距離が狭まる。
数歩目、PMC兵が射程に入ったと判断したのか、速射する。
ミユキはそれを必要最低限の動きで躱した刹那、不意に放たれたスピンコック。
重さと遠心力をまとったそれが、ミユキの顎を鋭く打ち上げた。
「…やりやがったな」
フラつきながらもショットガンの銃身をきしむほどの力で掴み、トリガーを引く。
しかし、流れる様なスウェーバックで全て躱されてしまう。
間髪入れず続け様に上段への足刀蹴りを浴びせるも、上半身の動きだけで避けられる。
(……コイツはただの雑魚じゃねえな)
目の前のPMC兵は巧みにスピンコックを攻撃のコンビネーションに組み込み、反撃に転じる隙も与えない。
PMC兵は繊細かつ細かい牽制の嵐が襲いかかる。
普段ならステップで躱せたが、今に至るまで蓄積したダメージが足を引っ張り、何発も喰らってしまった。
視界が滲む。音が遠のいていく。
呼吸がうまくできない。
力が震える。
(クソッタレ…)
本能が倒れろと警告する。
だが、倒れない。
(これ以上のやり合いは死ぬな…)
長期戦では確実に負ける。
ジリ貧になる前に何とか短期決戦で済ませたい。
だが、相手から距離を詰められ、自分のリズムに持ち込めない。
「どうしたどうした?もう終わりかぁ?」
PMC兵が、口元を歪めて言った。
「そう見えるんなら、お前の頭は湧いてんな」
「死にかけの癖に言ってくれるねぇ」
言い終わるなり、PMC兵が銃身のボディーブローを打ち込む。
的確にレバーを撃ち込んでくる。
内臓が収縮し、胃の中身をぶち撒けそうになる。
「おいおい、もう終わりかぁ?」
PMC兵はニヤリと笑う。
「そうかもな…」
そう言ってファイティングポーズを解いた。
「じゃあ…死ね」
PMC兵はミユキの眉間にピッタリと銃口を付ける。
油断した隙は決して見逃さなかった。
ミユキは素早くタイミングを見計らってPMC兵の胸倉を掴む。
「な、何を___」
言い終わるよりも遥かに早く、そのままの背負い投げの要領で窓に向かって放り投げる。
ガラスが砕ける音。
ただ一瞬の静寂の後、雨の音に混じって、下で何かが潰れる音が響いた。