勝った。
ミユキは大きく穴の空いたガラスを見つめ、そのまま倒れ込んだ。
何にしても、あと少しだけだ。
残りカスのような気力を振り絞って、ゆっくり立ち上がる。
「丁度いいくらいの死にかけのガキがいるじゃねえか〜!」
背後から下衆で品の無い声がした。
振り返るとチンピラの様な兵士がヘラヘラと銃の先を向けていた。
「なんだ…ただのペーぺーかよ」
「んだと…!?」
普段なら奪い取って叩きのめす所だが、今のミユキにはそんな余力は無い。
せめてもの抵抗として、挑発して先生と翔亜が脱出する時間を稼ぐ。
(___最後の晩餐も無しか。随分とシケた命日だ。)
諦めが身体を支配したその瞬間、兵士の背後から影が忍び寄った。
その影は、近くにあった来客用パイプ椅子を手に取り、PMC兵の後頭部に音が歪むほどの渾身の一撃を叩き込む。
パイプ椅子が衝撃で歪むと同時にチンピラ風の兵士が困惑と共に膝をつく。
「誰だ…!?」
背後の先生に銃口を向ける瞬間を逃さなかった。
迷わずトリガーを引く。
残った弾丸すべてが敵の身体を貫いた。
「ったく…依頼の内容忘れたのかよ…!?」
全身で息をしながら呆れ声で問う。
“別にィ〜?私の護衛はしてくれとは言ってないし、翔亜なら私の後ろにいるよ、ホラ”
そう言うと先生はくるりとダンサーの様に回ってまるで翔亜を示す。
「そうじゃなくてさぁ…『私が』ソイツを命に変えても守れって契約だったろ?何で先生が危険を冒してんだよ?報酬もないのにさ」
ミユキは内心で「救えないな」と毒づきながら耳を傾ける。
“報酬以前に君達は私の『生徒』だからね、私が命を捨てても守るべきだと思ってる。反省はしないよ”
「……契約より、金よりも『先生』としてってか?」
“そーそー。”
飄々と掴めない表情を浮かべて笑うその顔には、危険を犯した後悔も葛藤も一切滲んでいない。
ただ真っ直ぐな信念が表情に浮かんでいた。
「……アンタ、喰えねぇ人だな」
“そりゃ光栄サマ“
一瞬の静寂。
決して分かり合えるはずの無い二つの思想が不思議な居心地の良い和みの空気を生み出した。
「…逃げるぞ」
“もちろん“
薄暗い非常通路を抜けた先は油の匂いが染みついた薄暗いガレージだった。
「……一つ聞いていいか?」
ミユキが息を整えながら問いかける。
“道、間違えたのか? でしょ?わざとだから“
先生はそう言いながら、無造作に停められていたバンに乗り込むと、キーを回す。
甲高いエンジン音が、静寂を破る。
「わざと……って、何考えてんだアンタ……!エントランスから逃げる手筈だったろ…!?」
ミユキの当惑混じりの苛立ちの声にも、先生はいつもの調子で答える。
“どーせこっちの逃走ルートはバレてる。だったらさ、小細工はナシって事で。
でも、どうせこのまま出たところで物量に押されて動けず、即ジ・エンドってとこかな〜“
言葉の意味を理解した瞬間、悪態をついた。
「ったく、死ねって言ってんのと同じじゃねーかよクソッタレ……!終わったら寿司も追加な…!」
“回る寿司で良ければね”
ミユキはバンの上でアサルトライフルを構え直した。
フルスロットルでシャッターを破り、幾人ものPMCを轢きながら爆進する。
その向こうに待っていたのは、銃を構えたPMCの増援と飛来するドローン。
「クソッタレ…さっそく大歓迎ってか!」
歓迎会のお礼にミユキはグレネードを連中にプレゼントし、飛ぶドローンに弾丸をプレゼントする。
爆弾を抱え、爆ぜるように熱いハグをしようと近づくドローンはフルスイングで対応する。
3人を乗せたバンは爆音と銃火をかき分けるようにして猛進していった。