「クソッ!ちょこまかしやがって…」
闇に落ちたビル群の合間を全速力でバンは駆ける。
その後ろにバイク部隊。
上空にはドローンとヘリ。
ヘリはホバリングしながら、バンにスポットライトを当てていた。
暗闇から突如姿を表すバイクとドローンの突進を防ぐために、ミユキは神経を研ぎ澄まし、車体に触れる数メートル前で命中させていく。
時折上空からのスナイパーの一撃を避けるたびに、バンは大きく揺れ、ミユキの体は何度も投げ出されそうになる。
「先生!もっと優しく運転してくんねーか!?揺れすぎなんだよ!」
“あいにく、酔い止めは切らしててね。エチケット袋ならあるけど?“
その軽口に呼応するかのように、ミサイルが空を裂いて飛んできた。
「クソッタレ…!」
刹那、バンは急加速する。
Gに耐えるため、ミユキは脚に力を込めて車体にしがみつく。
突然、背後からの風が消えた。
「……っ!」
振り返ると、巨大な看板が迫っていた。
ミユキは反射的に体をひねり、高跳びの要領で看板を背にするように跳躍し、わずかな隙間を越えていく。
一瞬の浮遊感の後、背中に衝撃が走り、呼吸が止まる。
ミサイルが直撃した看板達が追っていたバイクが激突し、爆発音が夜に響く。
巻き込まれたドローンも炎上に巻き込まれ、次々と姿を消していく。
その混乱の中、バンはトンネルの入り口へと吸い込まれて行った。
“ヘコみの修理代は、負けとくよ”
「そいつはドーモ」
「ねえ…あそこに誰かいない?」
トンネルを抜けた先、翔亜がふと何かに気づいた様に暗がりを指差す。
そこには壁を背にへたり込み、何かを抱える人影があった。
「ほっとけ。んな事よりもとっとと電波が通じるとこに___」
「…ごめん!」
そう言うと、バンを飛び出し人影へと走る。
「死んでも知らねーからな!クソッタレ!」
後を追う様にミユキが走る。
あぁ…
視界は黒く景色と共にブラックアウトしていく。
結局、何も伝えられず何も助けられず終わるのか。
最後の力を振り絞り、スマホの電源を入れようとする。
だが、何も映さない。
脳裏に朧気に浮かんだ愛すべき後輩達の顔と飄々とした先生の顔…
暗がりに浮かぶ、異世界の少女と憎たらしい負債者の面。
だったら、せめて恨み言の一つくらい言ってやらなきゃ気が済まない。
「…あの子を頼んだよ…それと…借金はチャラに___」
「え!?マジで良いのかよ!?」
「へっ?」
目の前に立つ二人。
幻覚では……ない?
「いや、そ、そんな甘い話が…」
「言ったよなコイツ!なあ翔亜!」
「いや、返しなさいよ。それよりも車内に運んであげようよ」
「へいへい分かりやしたよ」
“あれ?ウタハ帰ったんじゃないの!?“
後部座席に押し込まれた血みどろのウタハに驚愕する。
「いや…帰る前にPMCと一悶着あってね…」
その声には疲れと身体に負ったダメージが酷く滲んでいた。
“そっか、それじゃあゆっくりしてなよ“
「…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
車に揺られて数十分、その視線の先に希望の輝きが目に映る。
“やっと…電磁パルスの範囲外かな…“
そう呟き、アクセルを踏み込む。
刹那、目の前に広がっていた輝きは絶望の光に塗りつぶされる。
“クソッタレ!“「クソッタレ!」
バンの行き先を塞ぐ様に
誰もが呻き声を上げる中ウタハは一人微笑んでいた。
「ここに来てアレが役に立つ時が来るとはね…!ミユキ…10秒だ」
「10秒で良いのか?」
「あぁ、任せたよ」
その声を聞かず、着地と同時にアサルトライフルを構え、ゴリアテの四肢を狙って正確に弾をブチ込む。
重厚な装甲の合間、脆い部分が甲高い悲鳴を上げる。
怒り任せるように、ゴリアテの双腕の機銃が唸り、バンを狙って弾丸を放つ。
だが先生の操縦するバンはフルスロットルで走り、弾丸の嵐を掻い潜る。
ゴリアテの注意が強くバンに向いた。
ミユキはすかさず地面を転がりながら距離を詰め、足元にグレネード弾を撃ち込んだ。
一瞬の間の後、轟音が轟く。
ゴリアテの脚部が爆発に巻き込まれ、僅かにバランスを崩す。
「これで十分か?」
「上出来だね」
ウタハはゴリアテの死角からコア部の懐まで走り込み、包みの中のナトリウムを投げる。
「ナトリウムが水に濡れるとどうなるか、知ってるかい?」
操縦者の答えを待たず、大雨に撃たれたナトリウムから発せられた熱の伴った閃光が、ゴリアテを炎に包んだ。
白熱する光が、絶望の光を焼き裂くように弾けた。