「このっ…どすけべ!えろ女!ばーか!脳内ピンク花畑!」
薄汚れた何処かの街角に、場違いなほど爽やかな声が響き渡る。
「おーおー、流石頭ン中まっピンクな年頃だァ」
そんな苦情をものともせず、新聞紙の後ろから軽薄な声が返る。
「こんの…まっ、朝が早いお年寄りには理解できないでしょーね!」
「…なっ、なんつったよ…!?」
新聞紙を握りしめる手にギュっと皺が寄る。
「アラ?お耳が遠いのね お ば あ ち ゃ ま♪」
「言わせとけば…!」
「なに?新聞?」
「みりゃわかんだろ…?」
「読まして!おばあちゃんは後!だって目が見えないからね〜!」
「あっ、テメー…」
そう言うが早いか、ミユキの手から新聞をひったくる。
「ふ〜ん…」
「読み終わったら早く返せよ。昨日の事が詳しく書かれてなくてな………ってオイ、まだか?」
翔亜は無言のまま紙面に集中していた。
瞳孔が収束し、呼吸は浅い。静けさだけが漂う。
「……何かあったのか?」
「10点かな…♤」
「お、おう…?」
覗き込んだミユキに、翔亜は新聞を傾けて見せる。
「これ見なよ……このオチ、成立してない」
そこに描かれたのは、正真正銘、出来の悪い3流以下の4コマ漫画だった。
「それだけか…?」
「うん、それだけ」
翔亜の手から新聞を奪い取ると、丸めてゴミ箱に放り捨てる。
「ったく…花畑はどっちだよ…椅子座って待ってろ」
ミユキはため息を吐きながら、キッチンへと向かった。
テーブルにはよく焼いたトーストと目玉焼き、そして『醤油』が置かれていた。
「食ったら今日は___」
「待って」
ミユキが予定を伝える声を、翔亜の怒気の孕んだ声が遮る。
「なぜ!醤油なの…?どうして『醤油』だけなのよォォォ!?」
「は…?」
「おかしいッ…!これは目玉焼きへの『冒涜』よッ!」
確かな怒りが翔亜を突き動かす。
「お前…もしやだが…『ケチャップ派』なのか…?」
「そうね…今ッ、私の心はボー然としてるわ…」
翔亜の手に収まったトーストが無惨に歪んでいく。
「いい?よく聞きなさい。ケチャップと胡椒、さらにチーズの組み合わせよ。ミユキはこのノーベル賞級の発明を無視してるのよッ!」
「ノーベル賞のバーゲンセールかよ」
ミユキは半ば呆れながら、醤油をたっぷりかけた目玉焼きをトーストにのせてかぶりつく。
醤油の塩気が、甘く香ばしい卵に春風のような清々しさを広げる。
サクサクの耳に染みた醤油と、フカフカの部分に垂れた醤油が程よい柔らかさを演出する。
その絶妙な味わいは、噛むことを誘っている。
息も絶え絶えの翔亜は、握りつぶしたパンを見ずに問いかける。
「ねえ…分かった…?」
「おう、今日は帰りに『マヨネーズ』買ってやるよ」
「ぜんっぜん分かってない〜!」
翔亜の悲鳴が、狭い部屋に響き渡った。
「さて…飯の時間は終わり。…行き先言ったっけな」
「聞かされて無いわよ…」
「これから行くのは…科学と最先端の学舎____
___ミレニアムだ」
そう言ってミユキは埃を被った銃器達を無造作にバッグに放り投げた。