「ちょっと待ってろ」
「え?」
問い返す暇もなく、ミユキは部屋から出ていった。
取り残された私は、ぽかんとしたまま部屋に取り残される。
翔亜は部屋で待たされること数分、何やら荷物を抱えたミユキが帰ってくる。
「ほらヨ」
ミユキが紙袋を投げ渡す。
「…なにこれ?」
「何って…変装用衣装だが?」
「なんで変装?」
「お前さぁ…今懸賞金掛かってんの忘れたのか?」
「あぁ…」
実感がイマイチ湧かないが、私の首には大金がかけられている。
変装なしでブラついてたらいつ捕まるかわからない。
「少し目立つが…賞金首が目立つ格好でウロつく訳ないって言う盲点をつく策だ」
「なるへそ。んじゃ着替えてくる」
一抹の不安を覚えながら、紙袋の中に入っていた服に袖を通す。
「…ミユキ?」
全身を映す鏡はない。
でも、手に取った服を見れば一目瞭然。
「…私で遊んでるでしょ!?」
思わず声が震え、心臓がバクバクと鳴り、足が震えてうまく立っていられない。
完全に遊ばれてる。
紙袋の中から出てきたのは、膝上丈のメイド服。
それもフリル多めのゴスロリ風。
紙袋をひっくり返せばガーターベルトとイヤリング、それにヒールに黒マスクまで揃ってる。
ご丁寧に下着まで用意されている。
「う〜ん…黒マスクは性癖じゃねえが、似合ってんな」
「オイ。ていうかなんで…その…胸のサイズが…?」
「は…?みりゃ分かんだろ?正確に言ったらBカップ、ウエストは___」
「黙れえぇぇぇ!!」
その口を両手でガッチリつねりあげる。
痛覚が、喉が、悲鳴を上げるまで。
「ムームー!(分かった!分かったから!)」
「分かった!?」
「ムー!」
人混みでごった返す電車のシートにもたれて、外の情景を眺める。
しばらくして電車は大都会的な街中に停まった。
巨大な街並みはどこか雄大で、それゆえに味気なかった。
ミユキの後を追って人混みの中に入る。
道ゆく人達に後ろ指刺されて嘲笑されると思っていたが、そうでもないみたいだ。
ある人は道を譲り、ある人はそそくさとその場を後にする。
「なにこれ…?」
言葉に出来ない不安を覚え、ミユキを問い詰める。
しかしどうアプローチしても返ってくるのは
「気が向いたらな」
の一点張り。
そのうち翔亜は聞くのをやめた。
「ねえ〜?いつなったらつくのぉ…?」
慣れないヒールで数時間歩かされて、心も身体も泣き声を上げ始める。
「文句言うな、裏路地使って近道してんだよ」
「嘘だ嘘だー!」
油断していた。
勿論、翔亜を変装をさせてる以上、そう易々とバレない訳で…
ただギヴォトスの治安の悪さを考慮しないと言う大失態を。
横道から、フッと、フードを被った奴が一人、デザートイーグルを構えて叫んだ。
「止まれ!金出せ!あと…スマホとか時計とか!」
(…えっ〜?デザートイーグルだけど…ねぇ?)
銃と構えが全てを語っている。[私はへなちょこです]って声が聞こえてきそうなくらいに。
「ね、ねぇ!ババーンってやってよ!」
翔亜はミユキの背に隠れながら、必死に声を抑えて耳打ちする。
「整備不足でポンコツなのよ、全部」
「なにコソコソ話してんだ!?スーツのお前!全部集めて持って来い!」
強盗は、足元に紙袋を放り投げた。
「あーわりー、コイツ行かせていいか?」
そう言って怯えて縮こまる翔亜を指差す。
「ふざけ…イヤ、ソイツにやらせろ!」
「ミユキっ…!まじふざけんな…!」
「いいかよく聞け翔亜、ちょっと手ほどきしてやる」
「早く持って来い!」
紙袋を持った瞬間、手にずっしり重みがかかる。中には…財布、イヤリング、それに…さっきまで身につけてたアクセ類のせいだ。
「わ、分かったわ、でも2回に分けるわ。次はこのバックよ」
そう言いながら、強盗の元へ歩む。
「…妙な真似すんなよ」
「しないわよ」
強盗が紙袋に手を伸ばした瞬間、わざと前向きにつんのめる。
「うわっ!!」
紙袋の中身がばら撒かれる。
強盗の意識が下に向いた瞬間、ぐっと力を込めて、手首をねじるように外側へと捻る。
乾いた関節の軋みと、強盗の悲鳴が重なり、裏路地に響く。
「あうっ…!」
骨がきしむ音と、鋭い痛みが一気に手に爆ぜる。
しかし、銃は離さない。
その隙を見逃さなかったミユキが静かに一歩踏み出す。
死角から飛び出した彼女の体は宙に舞い、勢いよく回し蹴りを繰り出す。
回し蹴りを喰らった強盗の身体はぶっ飛び、ゴミ箱に勢いよく突き刺さる。
ゴミ箱が大きく揺れ、中のゴミが辺りに撒き散った。
ゴミの中からもがく音が漏れる。
ミユキが近づき、大きく開かれていたゴミ箱の蓋をそっと閉めた。
てれてれってってー。
頭の中に幾度と聞いたレベルアップ音が鳴る。
「ねえ…ミユキ…?」
「なんだ?」
達成感から来る声の震えを抑えつけて問う。
「めっちゃ…かっこよかったくない…?私」
「う〜ん…5点。まあ死ななかったトコ褒めてやるよ」
「………ケチ!」
私の苦情なんてお構いなしに、ミユキはいつもの調子で物をかき集めていた。