ミユキが「ここだ」と指差す先には、雄大にそびえ立つ校舎があった。
しかしその入り口を、自動ドアが阻む。
「…許可証とかは…?」
「んなモン今持ってねえ」
そう言うとミユキは懐から薄っぺらい財布を取り出す。
「何する気…?もしかして乞食でもしようってんじゃないでしょうね?」
「ま、いいから見とけって」
自動ドアの前まで歩み寄ると、中に入っていた千円札を取り出す。
それをまるで鞭を打つ様にしならせ、真っ直ぐにすると、合間に差し込む。
つま先立ち、小刻みに震える体勢から勢いをつけ向こうに投げ込む。
「え?開い…た?」
どんなトリックを使ったのだろうか?
思わず声が裏返る。
「後で教えてやるよ」
ミユキは中に入り、空いたエレベーターに乗る。
呆気にとられながら、翔亜も同じ様に横に立った。
「……ここだ」
ドアの前に溜まった埃が異物感を漂わせる。
「ここ?」
「おう」
ミユキはドアを開ける。
そこは、また別の異物感が漂っていた。
軍隊の様にキッチリとした
___いや、キッチリとし過ぎた部屋の中には軍用の格納庫のように整備された銃器。
壁一面に並ぶアニメグッズ。ポスター、フィギュア、等身大パネル。
完璧すぎる配置。
その空間の奥に、一人の人物が椅子にもたれたまま、静かに眠っていた。
「よお、生きてるか」
その姿に、近づき椅子を乱暴に蹴って起こす。
「ミユキ氏!」
「生きてたのかよ、イナ」
「…あっ!」
「え?私!?」
イナはメガネの奥の目を輝かせ、細く青白い手で翔亜の手を握り、激しく握る。
「同志だぁぁぁ…!」
「え?あ、うん」
困惑する翔亜などお構いなしに、イナは話し続ける。
「メイド服のキャラって良いよね…。こう…使命感っていうのかなぁ〜…実はネルさんに頼んだら殴られちゃって…ね!お願い!もっとコレクションがあるからぁ…お金ならあるしぃ…女の子同士…ね」
出せない声を必死にミユキに訴えるも、ただ、肩を震わせてニヤニヤと笑うばかり。
「大丈夫… 着替えスペースならあっちにあるし、あとウィッグもいろいろあるから……」
「なにその本気のラインナップ!?」
「あー悪りぃ、盛るんなら後にしてくれ。今はそれどころじゃねぇ」
本番が始まってしまう前に、ミユキが切り出した。
「え〜…ミユキさん銃器の扱い悪いからなぁ…」
イナは心底嫌そ〜な顔を浮かべ、言い放つ。
もうアンタとはこりごりだと言わんばかりの意思が見える。
「そう言うなって、同志ちゃんの命ピンチなんだわ」
ミユキの言葉に表情が変わる。
瞳は細くなり、だらけきって空いた口が締められる。
「同志の為だ。喜んで」
イナはそう言って胸を張る。
イナの小さなソレがプルプルと震えた。
(うっわ〜、逃げて〜)
「早速なんだが…コイツらの整備を頼む。」
ミユキが鞄を開け、銃器を次々と机に並べ始める。
「ミユキさん…荒いっすね」
「……未使用だ」
「ハァ!?全部動作不良起こしてますけど!?」
その苛立ちを表現する様に、足でビートを踏み出した。
「私特製M4カービンね…」
無造作に並べられた銃器達からM4カービンを手に取る。
余計な音がない。
カチャ、と金属が離れ合う音が室内に響く。
それ以外には何の音もなかった。
独立したバレルからストックまで、視線が流れていく。
「やっぱり……内部に溜まった埃と、動作不足から来る故障ね……うん…バレルに埃が…
しかも変な錆出来てんじゃん…ミユキ氏、湿気管理してる?」
「乾燥は肌に悪りぃ……まあ、なんとかなるかなーって」
「なんとかなる訳ないじゃん。同志ちゃんが死んでたよ?」
イナの双眸の奥で確かな怒りの色が浮かんだ。
「だから頼ったんだヨ」
「…まあ基本、一部パーツ交換と洗浄だけで済むかなぁ」
イナはすぐにトレイの上でネジ一本に至るまで分解を始め、洗浄作業に入っていく。
「なんか……あの人、銃触ってる時だけ人間変わってない?」
ミユキが肩を竦める。
「本体はオタク。整備士の腕はプロ。それが
薬品と金属の臭いが、オタクとしてではなく、『プロ』のイナを魅せていた。