「で…要は、移動する為に足が欲しいと…」
腕を組んだウタハ呆れたように問いかける。
まるで女王。もうコイツ許さぬ、と言う圧が漂っていた。
「おなしゃす…」
夕陽が金属を輝かせ、複雑な影のアートを写す。
自然と機械の見事なアートの中に不純物が混じる。
恥も外見もかなぐり捨て、黄金長方形をその身で体現する、美しい土下座。
もはや一種の芸術の域に入っている。
ミユキ、お前は人間がその域に達するには20年はかかる物を___
「駄目だね」
「うわああああぁぁああん!」
たった一言。
その乞いは無慈悲に切り捨てられた。
「正直なところ、君に物を渡すと二、三回で壊すからね」
「別にいいじゃねーかよ! ツケ払うのがちょっと遅れるだけだしさぁ!」
「二、三回だけで、まともなデータが取れるとでも?…それに、先生に肩代わりして貰ってる人間の言うことかい…?」
「やだなーの!欲しい〜!」
子供の様に駄々をこねくり回す。
その姿に誇りは無かった。
「うっわ… ヒモじゃん、恋人にしたくないタイプだわ〜」
翔亜が心底うんざりしたように肩をすくめ、他人のフリをすると言う、なんとも無駄な抵抗した。
ひび割れたコンクリートの隙間から差し込む光が変わる。
夕陽はすでに沈み、代わりに街のネオンが、闇を照らしはじめる。
“もうこんな時間か“
思案にふけた脳が快楽を寄越せと催促する。
“たまには吸っちゃうか“
左手で胸のポケットからケースを取り出す。
一振り、一本取り出す合間に右手でライターを点火し、顔を傾け、火をつけ、左手でケースを仕舞う。
紫煙が汚らしい灯りの中へ溶けていった。
“…お腹減ったし出前でも頼むか“
スラムに近い街並みだが、まだ外郭の方にある。
意外と警察も来るし、最悪なんとかなるだろう。
“もしもし…ピザを一つ。マルゲリータ、オリーブ多めで頼みます……約15分後…分かりました〜“
「電波傍受……位置特定……商品到着十五分」
「了」
キッチリ15分後。
チャイム音が鳴らされる。
“はいは〜い”
軽い調子で扉を開け、宅配便からピザを受け取ろうとする。
だが、ピザの箱からは出てきたのは、ご注文のピザでは無かった。
月光に晒されて黒く光る拳銃の先端だった。
「よぉ先生…火薬のいい匂いが嗅ぎたけりゃ直接鼻にぶち込んでやるよ」
“……口コミで文句つけなきゃな……もちろん、てめえらの雇い主にだよ!!“
刹那、風を裂く勢いで扉が閉まり、わずかな隙間から伸びた腕がロボ兵士の首を引き寄せる。
次の瞬間、ドアに挟まれた首が、無様な音を響かせ、兵士はその場に崩れ落ちる。
それとほぼ同時に力強い声が空気を震わせる。
「ターゲット抵抗!制圧にかかれ!」
“近所迷惑って知らねえのかよ“
そう言うや否や、ベランダを突き破って外へ逃げる。
浮遊感の後、ゴミ箱のクッションの中へ着地した。
奴らはベランダの柵を越え、飛び降りようとしている。
“あー…今日燃えないゴミの日っぽいけどなぁ〜“
そう言って、火のついたライターをゴミ箱に近づける。
ぽんっ、と軽快な音を立てて、ゴミが燃え上がった。
それと同時に奴らは降りてしまった。
必死に足をバタつかせて抵抗を試みるも、あぁ…哀れ。
しかし悠長にはしてられない。
愛用のタブレットを手に、銃声と怒号が渦巻く夜の街へ飛び込んだ。