「うおっ…イラついてんな…更年期?」
「……おばあちゃんは茶々入れないの」
指先が、目線が、揺れていた。
「…ヤバいんだな?ウタハ」
「……今回は出し惜しみ無しだ」
ウタハが顎で示した先にバイクが置いてあった。
「…良いのあんじゃん」
おそらく600ccエンジンを積んだ物だろう。
シートに跨り、エンジンをかけると早く走らせろと揺らされる。
「ギアチェンジ…って無えな…?」
「あぁ、それ無いタイプだからね」
…邪道だな、ギアチェンジの楽しさが味わえないなんて。
ミユキは内心そう毒づいてエンジンをスタートさせた。
「ミユキ?先生が何処に居るのか知ってるの?」
「あっ」
「…少し待ってくれるかい?腕利きのハッカーはいるからね」
ウタハの居ない部屋。
二人っきりの妙な沈黙が、部屋を包んだ。
「あー、悪りぃ翔亜…お前はここで__」
「やだ、連れて行って。」
お互いの間に、ピンと張り詰めた緊張が走った。
「お前…分かってんのかよ! 私じゃお前を守りきれ__」
激しく出かけた言葉を、翔亜の行動が遮る。
ミユキの喉に、銃口が静かに、だが深く押し当てられる
「…ミユキがくれたんでしょ? じゃあ、いいじゃん」
「私は……お前を……」
「殺しかけた。でしょ」
言葉が詰まる。
何かを言い返そうとして、言えない。
言葉が腹の奥に溜まっていく。
「あのさ…分かってるよ!死ぬってくらい!あの時も意識とんだもん…!でも__
「分かってるんだろ!じゃあ…」
___ミユキがいなくなる方が怖いや」
その手は、ミユキの手を掴んで、掴んで、離れない。
その言葉は、ミユキの心に刺さって、じわじわと色を犯す。
振り払えない事を、いや振り払ってはいけない事を察したミユキはニヒルに笑って。
そして笑った。
「…………乗れ」
「待ってました!」
“…くっそ座り心地悪いなこれ“
放置され、小道具達が埃を被った劇場の中。
円形のステージは朽ち、かつての輝きは微塵もない。
その中心に座らされた者を、観客席で取り囲むようにクソッタレ共が笑っていた。
「良い加減吐けよ…この期に及んで遊んでのか…それとも真面目君なのかいな…」
“真面目に遊んでやってんだよ“
「ほんま腹立つなぁお前、行くで」
PMCが手に持ったハンマーが空気を押しのけ、振り上げられる。
次の瞬間、足の指めがけて振り下ろされた。
鈍い音とともに、舞台ごと砕ける。
「吐く気なったか…?」
“指先って神経が集中してっからな…痛えわ…手の指合わせてたった8本…口割れる思ってんの?“
「ナメやがって、良い加減吐けや!」
言い終わるかどうか、握りしめた拳が頬に飛ぶ。
口の中に鉄の味が広がる。
「あのガキは何処だっつってんだよ!!……オイ、『アレ』持って来い」
「ヘイ!」
「…エンコ詰めてもらおうか」
縛り付けられた手の合間に、良く手入れされたドスが深々と刺さり、景色を反射する。
“なんだ、バーテンダーごっこじゃないのね“
「…嘘つくたびに落とす、1回目は左手の小指、2回目は左手の薬指、順番に行くで」
“おいおい…結婚指輪、はめられないじゃん”
「心配すんな。棺桶には両手揃えて入れてやるよ」