“……“
「驚いた、まだ吐かないなんてな」
結婚式は挙げられないな。
痺れを切らしたPMC兵が鬱憤を晴らすようにドスを横に振るう。
片目が赫に染まる。
痛む箇所が増えただけだ。
そう言い聞かせて思考を赫の中に沈める。
夜は、まだ明けぬまま。
「結局、ついて来るのか…」
「当たり前じゃん」
バイクの後ろで抱きしめる用意はOK。
後は運転手を待つだけ。
待っている、その瞬間を。
「クソッタレ…死ぬなよ。」
「…ばーか」
2人が乗ったバイクは爆音を響かせ、風のように走っていった。
「もう飽きてもうたわ…もう死ぬか?なぁ先生サマ?」
“死にそうなんだよ、テメェのせいでな…ナンセンス野郎“
苦痛が、腹に撃ち込まれた鉛が、芯にのめり込んでいく。
活力と血が外へ抜け出ていく。
抜けた合間を埋めたのは三下の叫び。
「侵入者だーっ!」
微かな焦燥に夢だと勘違いしたくなる。
巻き込まないと祈ったのに。
「ウチらのお出ましだぁーっ!」
「覚悟しろー!」
死地を翔けるは、契りを交わした少女たち。
マズルフラッシュのスポイトを浴び、その姿は煌々と煌めく。
「当たってねえぞ!」
「そーだそーだー!」
お返しに弾丸のファンサービスをばら撒く。
その麗弾を受け止めた者たちは、地に伏していく。
「おまっ」
邪魔なソレをバイクで轢き殺し、
先生の前に滑り込むようにして立ち止まる。
「待たせたな…!先生!」
「うえーいまたせたなー」
巡る血が、ほんの少しだけ、あたたかくなった。
“……ただいま“
そのまま、ステージと客席の間に落ちていく。
「えちょ、先生!大丈夫なの!?」
“きにせず〜“
「ほっとけ…来るぞ」
怒声、手柄への執着。
聞くに耐えない雄叫びがステージへと向けられる。
雪崩れ込むのは兵士と、銃弾の嵐。
「我慢しろ」
「へ?」
返事を返されるよりも早く、翔亜を掴んで__高くまで放り投げる。
「へあぁぁあぁああ!?」
「落ちるまで…20秒か。ま、充分だな」
羽交い締めを狙った一体を飛び越え、
視線が交差した刹那、レディメイドが火を噴く。
ショットガンを構えたまま、敵の腕を掴み、
至近距離で引き金を絞る__
__PMC兵の上半身が、霧のように消えた。
間髪入れず、弾丸が群れを成して飛ぶ。
ミユキは、自ら地面に倒れ込むようにしてそれを躱す。
続けざまに迫るPMCの顔面へ、跳ね起きざまに回し蹴りを放つ。
足の確かな痛みと共に、敵は吹き飛んだ。
「クソ…こうなったら上のガキを撃てーっ!」
残った奴らの銃口が、空中の翔亜を狙う。
「え、ヤダーっっ!ミユキ!」
「安心しろ」
そう言ってフルスロットのバイクをPMC兵たちに放り投げる。
爆音を残して飛び出した車体は、
瓦礫の傾斜をスロープ代わりに猛獣のように駆け巡る。
PMCたちの銃口が向くより早く。
バイクは勢いそのままに全員を喰らい尽くし、忠犬のようにミユキのもとへと戻ってくる。
「ヒィ…!」
「に、逃げるぞ…!」
戻って来たバイクの車体を振るい、舞台の上をPMCだった物で埋め尽くしていく。
「よし」
息を吐く間も無く、上空から翔亜が悲鳴を上げて落下する。
「ミユキィィィィィ!!」
「ヤッベ…!!」
伸ばした手が、翔亜の体を掴む。
地面に叩きつけられる直前、転がって力を逃がしながら
二人は舞台のど真ん中に、倒れこんだ。
その勝者たちを労うように__
__しょぼい拍手喝采が迎えた。