「イナさん…銃持ってる…?」
目の前の全てから逃げ出した、抑揚の無い声で尋ねる。
「あったりまえですよ〜!ホラ!」
サラリとした態度で懐から取り出したのは、よく手入れされた拳銃。
それは白雪のような
「ありがとうございました」
翔亜は渡された拳銃を躊躇無く
これが死ぬって事なのね_____
…あんまり痛くない。
耳は静寂をも聞き逃さず、
視界は澄み渡り、意識は嫌になるほど鋭く冴えていた。
_____まだなの?
戸惑いを覚え、銃口を覗く。
そこには弾丸の代わりに旗が、ひょこんと飛び出ていた。
微かになびいているその旗には、私を小馬鹿にしたような小洒落た書体でこう綴られていた。
『Now,the show starts』
「……なにこれ。ふざけてるんですか」
凄む翔亜の声に、能天気な笑い声で返す。
「そんな怖い顔しないでくださいよ〜、同志ぃ〜。
……死にたいなら、ウチが一生飼ってあげますよ?」
「ケッコウデス!!」
即答。恐怖による、光速の即答。
だが、その恐怖が逆に意識を覚醒させた。
「ふふふ…プリンセスに魔法をかけてあげましょうか!」
両手を広げ、相変わらずどこかお気楽な声と雰囲気でイナは胸を張る。
「…マジ助かります。てか、飼うって冗談には聞こえなかったですよ」
「へ?ウチ、冗談言いませんよ?」
「え」
ブラックコーヒーよりも黒い言葉を吐きながら、イナの住処へと歩み出した。
「さてさて…よくもやってくれましたねぇ」
どこか呆れと、冷酷な怒りが入り混じった声。
倒し損ねたPMCがミユキに泥水をかけて叩き起こす。
ぬるい泥水がミユキに起きろと催促する。
空気を肺に入れるよりも先に、濁流が肺に侵入する。
「っぷ…モーニングコーヒー派でね、オレ派じゃなのヨ、私」
…コリャマズった。
このピンチを脱する手はあいにく持ち合わせて無い。
投げ出すに限る。
抵抗の気力を捨てて、意識を沈めた。
「さてさて、もうお迎えが来ましたね」
「…同志クサイ」
「え!?ウソ!?」
イナの住処に着くや否や、ヒステリックと悲鳴が入り混じった金切り声をあげ、翔亜はイナの胸元に深く顔を埋めた。
「ひぃ…」
「さて、本当ならミユキ氏の匂いが消えるまで…といきたいところスけど、用意しますか」
「ミユキを助けに、ですよね」
イナの言葉は一見、ミユキへの感情があからさまに感じられたが、まあしゃーなしで助けるか、という意思の表れだとわかった。
その言葉に確かな安堵を覚え、同時にその先に待つ未来へ覚悟を持った。
「てな訳ほい。同志、コレ着て」
直後、ピッチピチの怪盗服が渡された。
…もうやだぁ
…イナ船降りろ。
ほんまガイドラインギリギリの事ばっか言いやがって!!