“そそ、しかもだけど私のいた世界からね”
「いや、割とどうでも良い」
しかし異世界ねぇ…
そう言われても「はいそうですか」とは中々言えない。
しかし彼女が銃弾一発で負傷したのを視る限り本当なのだろう。腑に落ちてしまった悔しさを飲み込み、先を促す。
“それでなんだけどさ、依頼者を探し出してくれないかい?”
「金」
“え?“
「は?」
目の前の生徒の口はへの字にへし曲がった。
“…お金…取るの…!?“
「払えないなら帰る」
お金を取る前提らしい。
それは、譲らない態度だった。
迷いも遠慮もない。
躊躇いもせず立ち上がるとそのまま扉に向かって歩く。
“あんまり生徒とお金のやり取りはしたくないんだ、この通り頼めるかい?“
そう言って深々と頭を下げた。
“(…足舐めたらいけるかな?)“
先生のお願いに対して、最大の愛嬌と猫撫で声で堂々と、可愛らしく魔性の風格で答える。
「…お 断 り ♡」
流石に予想外だったのだろうか、先生は目を丸くして固まってしまった。
「いや…流石に予想外だったかもしれねえけど…そんな顔するまでか?」
目の前の少女に呆気を取られた。
先程までのハードボイルド、いやクールなヒロインと形容すべきか?
いっそかっこいいを詰め込んだ存在と言って良い彼女からは出ないようなキュートさで思わずキッ…
いやギャップってやつなのだろう。
確かな戸惑いを覚えつつ尋ねる。
“一応理由は聞いても良いかい?”
「…金ってのは鎖だ。」
身も蓋も無い。
正直言って数十年生きた子がカッコつけて言ってる訳では無い。
この社会の『正解』を語っている。
「情やら理念っていう朧げな蝋燭の火をたった数枚の札で仰げばフッと…消えちまう。それだけの事だ。」
そう言うと彼女は窓の外に広がる景色を眺める。
その横顔には悲哀が滲んでいた。
“う〜ん…”
『先生』として子供とお金の契約をするのは気が引ける、守るべき一線。と言うべきライン。
しかしこの子の事は出来るだけ秘匿かつ、安全に行きたい。
生徒を信用しない訳では無いが、何処から情報が漏れてしまう事を考えると彼女に任せたい。
う〜ん…
やっぱ足舐めるか?
(よし足舐めよ)
その時、二人の声では無い新たな声が聞こえた。
「えっと…お金なら心辺りが…」
声の元に視線を送ると、そこにはフラつきながらも立つ、今回のターゲットの姿があった。
助けを得るために掠れた記憶を手探りで読む。
苦痛だった、理解できずに恐怖してばかりだった、深い記憶の底に沈めたい身体の記憶。
もう一つは元の世界への強い願望。
踏み出さなければ。傷を隠していたら彼女たちの協力は無い。
「大っきい…凄い…研究所があります…」
これが選択した最善の手だった。
「で?」
頭湧いてんのか?
馬鹿かこいつ、おそらくミレニアムの事だ。
アホかマジ、ミレニアム相手に喧嘩売れって?
マヌケ、お断りじゃ!
ボケが…そりゃ金もあるでしょーが…
文句を腹の中に垂れ流す中、心の声に被せるように先生の声が被さる。
“…心辺りがある、ちょっとその子の面倒見ててね”
「…は?」
そう言うと先生は反論する隙も無く消えてしまった。
二人っきりの妙な沈黙が、部屋を包んだ。