初めての土地で、私のために身体を張ってくれる人(?)を得たその日。
頼もしく思えた彼女の存在に、今まで白黒だった世界は途端に表情を変え、少しだけマシに見えた。
(なんだか、なんとかなりそうじゃん!)
頭を掻く彼女の顔を見上げながらそんなことを思った私は、緊張がゆるみ__盛大に、お腹の虫を鳴らしてしまった。
時計の針はとっくに4時を回っていた、思えば私の食事はしょぼっくれた豚箱の臭い飯みたいのしか食べていない。
“…出前頼もっか?“
目の前の大人は、ただは呆れたように笑って、私の手を取る。この世界で2回目の温もりは、思っていたよりもあたたかくて、ホッとして不思議と胸の奥まで沁みていく。
知らない場所、知らない人たち、危険な銃社会で怖かったはずだったのに__
自然と笑みが溢れた。
“二人ともなんでもいい?“
「ピザ、シカゴ風でオリーブ抜きで」
私がなんでも良いと答えるより早くミユキが食い気味でリクエストする。
「…ミユキさん図々しくないですか…?」
率直な意見を喉の奥に飲み込めず、口から飛び出る。
「いーんだよ、どーせタダなんだから」
「タダだから遠慮するんじゃないの?」
「気にすんなっての」
別にピザは好きだし、そんな噛みつく事でもない。
それよりももっと知りたいことがあった。
「…それって本物?」
「は…?あたり前だろ?」
当然と言わんばかりの回答に少し腰を抜かしつつも少し無茶な要望をリクエストする。
「…触っていい?」
「もち」
「え?」
そう言ってミユキは腰のホルスターのソレを投げ渡す。
思ってたより……重い。
見た目は凄く軽そうに見えたのに。
手の中にあるソレは、ずっしりとしていて、ただの『道具』とか『おもちゃ』って感じじゃなかった。シンプルな『暴力』って感じだった。
トリガーに指を添えるだけで、指先が緊張し、震えて嫌な汗が背中に垂れる。
グリップは意外と握りやすくて、私の手で収まる。だけど冷たくて、硬くて……やっぱり、怖い。
これで人を撃てるなんて、信じられないし、彼女たちがいくら強いからってにわかには信じられなかった。
でもこの世界では『フツー』なんだ、私も慣れなくちゃいけない。
それでも多分、私はこの重さと冷たさに、絶対に慣れちゃいけない気がした。
二人の会話をバックに聞き流しながら、ピザのチラシに片目をやりつつスマホを起動する。
”……?”
画面がつかない。
充電切れだろうか?
仕方がない、固定電話で出前を取ろう。
そう思って受話器を手に取るが、どのボタンを押しても沈黙。
ツー音すらしない。
“(停電……かな?)“
そう思った瞬間、ようやく部屋が妙に暗くなっていることに気づく。
蛍光灯も、テレビも、何もかもが沈黙している。
静かだ。妙に静かすぎる。
電気特有の音すらしない。
なんだ…?
胸の奥にじんわりと広がる、得体の知れない恐怖が部屋を襲う。
明るくしよう。雰囲気だけでも。
“…カーテン、開ければいっか“
少しだけ気持ちを切り替えて、カーテンに手をかける。
光が差せば、きっと少しはマシになる。
カーテンを開けたその瞬間___
無音で、ヘリが飛んでいた。
“え?”
「ターゲット発見。」
思考が止まる。
エンジン音も、風を切る音も、何もない。
刹那、破裂音が響き渡った。