機動戦士ガンダムGQuuuuuuX/ARMORED CORE6 スカーフェイス・ウィッチ   作:キサラギ職員

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ビギニング

 ルビコン3の荒野は、赤茶色の砂と岩が果てしなく広がる不毛の地だった。風が巻き上げる砂塵が視界を曇らせ、遠くには崩れた鉄塔や錆びた機械の残骸が点在していた。かつての繁栄の痕跡は、戦争と時間の爪痕に埋もれている。灰色の雲が空を覆い、時折響く爆音が企業の戦闘を告げていた。

 シイコ・スガイは、ウォルターが用意した探査用アーマード・コア「LOADER5」のコックピットに身を沈めていた。首に下がるサイコフレームのネックレスは、微かに温かさを帯び、彼女の瞳には一瞬、燐光のような輝きが宿った――だが、それは戦場の緊張に紛れて見過ごされた。

 コックピットは狭い。シイコの体は火傷の痛みに苛まれ、治り切っていない。ウォルターの提案を即座に受け入れたのは、生きるために戦う以外に道がないと悟ったからだ。ルビコン3の過酷な世界で、立ち止まることは死を意味する。

 

「コーラルデバイスなしの手動操縦だ。Gで体が潰れるぞ」

 

 ウォルターの声が通信機から響く。車椅子の老人は、ヘリの操縦席からシイコを監視していた。

 

「やってみせろ」

「なんとでもなるはずよ」

 

 シイコは首を振った。

 

「他に道なんてないもの」

 

 声に迷いはなかったが、内心は不安で揺れていた。記憶は断片的で、「スティグマ戦術」の詳細やかつての戦闘感覚が曖昧だ。それでも、彼女は戦士としての本能を信じた。

 

「しかし、やってみせろとは言ったが……そうとは言っても、練習なしでできるとは思えんぞ」

 

 ウォルターの冷淡な言葉に、シイコは小さく笑った。

 

「シミュレーションでやってのけたわ。あなたが用意した装置も、悪くないものよ」

「ほとんど初見で対応できるとはな。MSと言ったか、操縦方法が似ているのか」

「ええ、基本的な部分は変わらなかったわ」

 

 彼女はモニターに映るワイヤー射出装置のアイコンを見つめた。LOADER5には、シイコの要望で急遽搭載されたワイヤー射出ユニットがあった。かつてゲルググ・スガイ機で繰り出した「スティグマ戦術」を再現するためのものだ。だが、戦術の核心――ワイヤーの正確な射出や急加速のタイミング――が、記憶の霧に埋もれていた。

 

「廃グリッドに巣食う敵集団を排除しろ。MTが12機。撤退も視野に入れておけ」

 

 ウォルターの指示は簡潔だった。シイコは頷き、ヘリが指定ポイントに到達するのを待った。やがて、LOADER5が固定具から解放され、荒野に投下される。重力に引かれ、機体が地面に着地した瞬間、モニターにシステムメッセージが表示された。

 

【メインシステム、戦闘モード、起動】

【Main system combat mode active.】

【DISPLAY LATENCY】

【OVERBOOST CAP】

【WPN FCS】

【EN RECYCLING】

 

 廃グリッドは、崩れた工場と絡み合うパイプや鉄骨が迷宮を形成する戦場だった。暗闇の中で、敵MTの赤いセンサー光が不気味に点滅している。シイコは操縦桿を握り、深く息を吸った。火傷の痛みが全身を刺し、視界が揺れる。それでも、彼女はスラスターを点火し、機体を前進させた。

 

「どれくらい寝てたのかしら?」

 

 通信越しに問うと、ウォルターの声が返る。

 

「二週間だ」

「二週間……」

 

 シイコは呟き、唇を噛んだ。わずか二週間で、彼女の体は戦士の鋭さを失っていた。筋肉は衰え、反応は鈍い。それでも、彼女は自分を鼓舞した。

 

「できるはずよ。私、ニュータイプなのだから……ニュータイプ?」

 

 その言葉が脳裏に閃いた瞬間、記憶の断片が蘇る。シュウジの赤いガンダム、クランバトルの熱狂、ニュータイプの感応――だが、すぐに霧に溶ける。シイコは頭を振って集中を取り戻し、ワイヤー射出装置を起動した。

 

 シュンッ!

 

 ワイヤーが鋭い音を立て、近くのMTに命中。フックが装甲に食い込み、シイコはブースターを全開にした。アサルトブースト。

 シートに体が食い込む。MSと比べ、明らかに鋭い瞬発力。

 

「く、くううううう……重力め……!」

 

 LOADER5は鉄骨やパイプを縫うように跳び、ワイヤーを軸に立体的な機動を展開する。敵MTのミサイルが爆発し、衝撃波が機体を揺らす。シイコは右手にブレードを握り、流れるような動きで敵を斬り裂いた。

 

「動け……動きなさい!」

 

 彼女は自分に言い聞かせた。ワイヤーを鉄骨に撃ち込み、機体を振り子のように旋回。背後から迫るMTを振り切り、ブレードでそのコックピットを貫く。爆発の閃光が荒野を照らし、廃グリッドに一瞬の美しさを刻んだ。

 視界が暗くなる。息が詰まる。

 

「まだ……まだよ……!」

 

  シイコは歯を食いしばり、別のMTにワイヤーを撃ち込んだ。機体を急旋回させ、ブレードで敵を両断。だが、反応の遅れから、敵のレーザー砲がLOADER5の左肩を掠める。警告音がコックピットを満たし、モニターが赤く点滅した。

 

「残り6機だ!」

 

ウォルターの声が響くが、シイコは首を振った。

 

「やれる……私が……!」

 

 彼女の瞳に、光が宿る。それはニュータイプの感応か、単なる執念か。シイコは力を振り絞り、ワイヤーを連続射出。MTを次々と拘束し、ブレードで仕留める。鉄骨を跳び、パイプを滑る動きは、かつての「魔女の撃墜王」の片鱗を見せた。

 

「本当に生身か?」

 

 ウォルターの声に感嘆が混じる。

 

「撤退の予定だったが、やれるならやれ。残り3機!」

 

 

 額に、ひらめきが。

 

 背面から放たれる、ロックさえされず放たれるめくら撃ちを、振り返らずに機動する。

 ライフルの速射で反撃して沈める。

 

 シイコは息を切らし、視界が狭まりながらも最後のMTを破壊した。爆発の衝撃波がLOADER5を揺らし、機体は膝をつくように停止。コックピットで、シイコはシートに沈み込んだ。

 

「鍛え直す……必ず……」

 

 回収ヘリのローター音が近づく中、シイコはモニターに映る荒野を見た。サイコフレームのネックレスが、微かに温かさを増していた。ウォルターの声が通信機から響く。

 

「よくやった、シイコ・スガイ。次はもう少しマシな仕事を用意する」

 

 シイコは小さく笑い、目を閉じた。ルビコン3の戦場は、彼女に新たな生きる理由を刻み始めていた。

 すなわち、戦いを。




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