機動戦士ガンダムGQuuuuuuX/ARMORED CORE6 スカーフェイス・ウィッチ 作:キサラギ職員
トレーニングルームは汗と鉄の匂いに満ちていた。シイコ・スガイは、タオルで首筋の汗を拭い、荒々しく息を吐いた。彼女の顔と背中の火傷の痕は、医療の進歩で目立たなくなっていたが、完全には消えていなかった。
ウォルターは言った。
「消さないのか」
「消さないわ。これはきっと私にとっての罪の証よ」
「そうか」
「あなたが足を再生医療で生やさないのも、そういうことなんでしょう?」
「費用がかかるだけだ」
「嘘をつくのが、下手ね」
黒を基調としたノーマルスーツに身を包む。新調したものだ。黒一色に、首元に赤いデザイン。記憶の中でちらつく自分も同じような装備だった、気がしたからだ。色までは思い出せなかったが。
突然、頭の奥で鋭い感覚が走った。
「――助けて……!」
声ではなく、意識の波だった。
トレーニングルームから戻ると、ウォルターが車椅子で待っていた。いつも冷静な老人の顔に、暗い影が落ちている。シイコは眉をひそめ、近づいた。
「どうしたの、ウォルター?」
彼は無言でモニターを指さした。画面には、ルビコニアンの集落が映っていた。粗末な建物が並ぶ小さな村、その周囲に企業連の部隊が集結している。MTの群れが砂塵を巻き上げ、ロケット砲の閃光が瞬く。住民たちが逃げ惑う中、進軍が始まろうとしていた。
「企業が戻ってきた。封鎖を突破して地上に降下し、拠点を作りつつある」
ウォルターの声は低く、苛立ちを帯びていた。
「コーラルを資源として使うことを諦めていない。見ろ、この集落は今、襲撃されようとしている」
シイコはモニターを凝視した。集落の中心に、古びた孤児院の看板が見えた。子どもたちが恐怖に駆られて走り回っている。シイコの胸に、先ほどの「助けて」の声が再び響いた。
拳を握った。ニュータイプの感応が、子どもたちの恐怖を彼女に伝えていた。
「これは個人的な依頼よ」
シイコはウォルターを振り返り、決然と言った。
「私の新型機、『スティグマ』で敵部隊を強襲する」
ウォルターの目が細まる。
「予定外の行動だ。無謀すぎる」
「私の分け前全部をかけるわ。ACはいないみたいだし、撃破は可能。それに、ライセンスも回収しないといけないんでしょう?」
シイコの言葉に、ウォルターは一瞬黙った。彼の視線が、シイコの瞳に宿る決意を捉える。
「……何か理由があるのか。分かった。出撃しろ」
シイコは頷き、内心の疑問を押し殺した。
シイコは黒を基調としたノーマルスーツに身を包み、格納庫へ急いだ。格納庫には、ウォルターが用意した新型アーマード・コア「スティグマ」が待っていた。中量二脚型、白と赤のカラーリングはゲルググ・スガイ機を彷彿とさせ、強化されたワイヤー射出装置が搭載されている。シイコはコックピットに滑り込み、システムを起動。モニターが点灯し、サイコフレームのネックレスが微かに光る。
「行くわ……」
「機体を投下する」
船は、大気圏外にいた。企業連の総攻撃があったためか既に衛星砲は機能していなかったので、航行は可能だ。船はそのまま企業連の総攻撃の爪痕が残る宙域へ突入した。無数のデブリが漂う中、やはり衛星砲はオフラインのまま沈黙。
シイコの機体を収めたカプセルが投下され、大気圏に突入。灼熱の炎に包まれ、彼女は急激なGに耐えた。
「くっ!」
うめき声を上げ、操縦桿を握りしめる。カプセルが低高度で分離し、「スティグマ」が流れ星のように地上へ落ちていく。その光を、ルビコニアンの子どもたちが地面から見上げていた。
集落は、孤児院を中心に築かれた小さなコミュニティだった。古びた建物には、ACのジェネレータを流用した発電所が併設され、子どもたちの生活を支えていた。しかし、今、その孤児院は企業連の部隊に包囲されている。MTの群れが砂塵を巻き上げ、ロケット砲が空を切り裂く。ルビコニアンの民兵が応戦するが、数の差は歴然。鐘が打ち鳴らされ、子どもたちが泣き叫びながら逃げ惑う。
「逃げて! 早く!」
孤児院の管理人が叫ぶが、MTの砲口が子どもたちに向けられる。その瞬間、爆発音が響き、MTが火花を散らして倒れた。空に一陣の光が走り、急激に角度を変えて降下。それはシイコの「スティグマ」だった。機体は子どもたちを守るように着地し、砂塵を巻き上げた。
赤く、カメラアイが光る。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
モニターに、敵MTの位置が赤い点で表示される。シイコはスラスターを点火し、ワイヤー射出装置を起動。
シュンッ!
ワイヤーが鋭い音を立て、MTに命中。フックが装甲に食い込み、シイコは機体を急加速。「スティグマ」は孤児院の周囲を跳ぶように動き、ワイヤーを軸に立体的な機動を展開。敵のミサイルが空を切り、爆発の衝撃波が機体を揺らす。シイコはブレードを手に、流れるような動きでMTを斬り裂く。
「子どもたちを……守る……!」
シイコは叫んだが、なぜそんな言葉が口をついたのか分からない。過去の記憶――戦友の笑顔、家族の温もり――が一瞬閃くが、すぐに霧に溶ける。彼女はワイヤーを別のMTに撃ち込み、機体を振り子のように旋回。レーザースライサーが回転し、コックピットを瞬く間に蒸発させた。爆発の光が孤児院を照らし、子どもたちの怯えた顔に希望が映る。
だが、敵は次々と押し寄せる。モニターに新たな赤い点が現れ、MTの数が減るどころか増えていく。
「敵機撃墜、次だ、急げ」
ウォルター、彼は驚嘆の言葉を口にせず、ただ戦場を見守っている。シイコは歯を食いしばり、ワイヤーを連続射出。MTの横を通り魔的にブレードで仕留める。孤児院の屋根を跳び、倒壊した鉄塔を滑る動きは、重力戦線下とは思えないほどで。
「残り、半数……! 他の武装は……」
武装はある、あるのだが下手に使うと流れ弾が恐ろしかった。故に、ほとんどブレードだけで戦う。
時折、遠くからやってくるヘリを落とすのにレーザーライフルを向ける程度だった。
彼女はMTのロケット砲をワイヤーで地面に叩きつけ、爆発で攻撃を無効化。だが、新たなMTの群れが孤児院に迫る。シイコは機体を急旋回させ、ブレードで敵を両断。爆発の衝撃波が孤児院を揺らし、「スティグマ」は一瞬膝をつく。
「シイコ、敵は20機を超えた。撤退を検討しろ。」
ウォルターの声が響くが、シイコは首を振った。
「ネガティブ」
「守り切るつもりか。ならば、手を抜くな。次だ、やれ」
シイコは叫び、残りのMTを相手に戦い続けた。彼女は息を切らし、視界が暗くなる中、最後のMTをブレードで仕留めた。「スティグマ」は膝をつき、コックピットでシイコはシートに沈み込む。
「子どもたち……無事……?」
ウォルターの声が通信機から響く。
「集落は守られた。子どもたちも無事だ、シイコ」
孤児院の子どもたちが窓から「スティグマ」を見つめ、感謝の声を上げる。
二足歩行兵器、アーマードコア。それが見つめる先には、煤けた大空があった。
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