機動戦士ガンダムGQuuuuuuX/ARMORED CORE6 スカーフェイス・ウィッチ 作:キサラギ職員
ルビコン3の荒野に、夕陽が血のように赤い光を投げかけていた。孤児院を中心とした集落は、企業連の襲撃を生き延び、壊れた建物と砂塵の中で再び息を吹き返していた。シイコ・スガイは「スティグマ」のコックピットから降り、黒を基調としたノーマルスーツの埃を払った。
今、彼女は集落の入り口に立ち、子どもたちの笑い声に迎えられていた。小さな手が彼女の手を掴み、引っ張る。
「傭兵さん! 来て、来て!」
少女の声が弾み、シイコはつられるように歩を進めた。粗末な家屋の間を抜け、壊れた遊具の周りを走り回る子どもたちの姿に、彼女の心は不思議な温かさに包まれた。
「ねえ、傭兵さん! 名前なんて言うの!」
名前。自分が持っている全てに等しいものだ。一瞬躊躇したが、何せこの世界では存在しないも同然の名だ。名乗って差し支えなかろう。
「シイコ。シイコ・スガイよ」
「シイコさん! また戦うの!?」
少年が目を輝かせて尋ねる。シイコはしゃがみ、少年の頭をそっと撫でた。
「たぶんね。でも、君たちを守るためなら、いつでも戦うわ」
言葉が口をついた瞬間、彼女は内心で戸惑った。なぜそんな約束をしたのか、記憶の霧が答えを隠している。
集落の広場では、住民たちが粗末なテーブルに保存食やわずかな野菜を並べていた。子どもたちがシイコを囲み、少女が描いた「スティグマ」の絵を見せる。
「これ、シイコさんの機体! かっこいいよね!」
シイコは絵を受け取り、微笑んだ。「上手ね。ありがとう」
少年が興奮気味に続ける。
「あのとき、ズガーンって敵をやっつけたんだ! ヒーローみたいだった!」
シイコは笑い、少年の頭を撫でた。なぜ自分が子どもたちに惹かれるのか、彼女には分からなかった。
通信機が鳴り、ウォルターの声が割り込んだ。
「甘い奴だな。子どもを救いたかったのか?」
声にはあきれたような響きがあった。シイコは「スティグマ」の近くで立ち止まり、夕陽を見上げた。
「でも、あなたも本当はそうしたかったんじゃない? 子どもたちを守ること」
ウォルターは一瞬沈黙した。シイコの言葉が、彼の冷徹な仮面の下に隠された何かを突いたようだった。
「ふん。感傷は仕事の邪魔だぞ」
そっけない返答だったが、シイコは小さく笑った。
集落の中央で、シイコは集落の長、エリアスと対面した。白髪交じりの壮年男性は、深い皺の刻まれた顔で頭を下げた。
「君のおかげで、集落は救われた。ルビコニアンを代表して感謝する、シイコ・スガイ」
シイコは手を振った。
「礼なら、子どもたちから十分もらったわ。それより……撃墜されたACがあれば教えて欲しい。パーツが使えるかもしれない。」
エリアスは顎を撫で、考え込んだ。
「裏手側に一機ある。パーツ取りに使えるかもしれないが、朽ち果てかけているよ」
シイコの瞳が鋭く光った。
「案内して」
エリアスに連れられ、彼女は集落の裏手へ向かった。砂と岩の荒野が広がり、夕陽が長い影を落としていた。
荒野の端、砂に半ば埋もれた場所に、白一色に染め上げられたアーマード・コアの残骸が横たわっていた。装甲はひび割れ、関節部は錆に侵され、風に削られた表面が哀れな姿を晒していた。だが、流線型のデザインは、かつての優美さをかすかに残していた。シイコは残骸に近づき、触れた瞬間、記憶の断片が閃いた。白い機体、戦場の光、誰かの叫び声――だが、すぐに霧に溶ける。彼女は首を振って集中を取り戻した。
「この機体……何か知ってる?」
エリアスは肩をすくめた。
「数年前、企業連との戦いで撃墜されたらしい。パイロットのことは誰も知らない。データが残ってるかもしれない」
シイコは頷き、「スティグマ」に戻った。コックピットに滑り込み、アクセスするためウォルターに通信する。
登録番号:LR-39
傭兵ランク:圏内
識別名:……
モニターが一瞬停止し、文字が浮かんだ。
リンクス
シイコは呟いた。
「リンクス……繋がり、か」
そのとき、通信機からウォルターの声が響いた。
「データは回収できたか? リンクス、それがこの惑星でのお前の名前だ。構わないな?」
シイコは残骸を見つめ、静かに答えた。
「いいわ。リンクス……悪くない」
夜が訪れ、集落は小さな祝宴を開いた。粗末なテーブルに並ぶのは、乾いたパンと缶詰、わずかな野菜だけだったが、子どもたちの笑い声が場を温めた。
通信機が鳴り、耳に付けた小型装置からウォルターの声が割り込んだ。
「リンクス、新たな依頼だ。ルビコン統一戦線――かつてルビコン解放戦線と呼ばれていた組織からだ。各傭兵に対するばら撒き依頼だ。名前を上げるためにも受けるべきだろう。企業連の施設を襲撃し、撤収しろ」
シイコは即座に答えた。
「わかったわ。すぐに向かう」
彼女は子どもたちに囲まれながら、集落の外へ歩を進めた。子どもたちが「シイコさん!」と呼びながら追いかけてくる。シイコは振り返り、一人一人の頭を撫でた。
「また戻ってくるわ。約束」
少女が小さな花を手渡し、シイコはそれをスーツのポケットにしまった。子どもたちの声が響く中、彼女は「スティグマ」のコックピットに滑り込んだ。
コックピットは狭く、金属と樹脂の匂いが鼻をついた。シイコは操縦桿を握り、システムを起動。モニターが点灯し、サイコフレームのネックレスが微かに光る。回収用のヘリのローター音が近づき、集落の灯りが遠ざかる。
「ルビコン統一戦線………か行くわよ」
スラスターが点火し、「スティグマ」はヘリに飛び乗った。そして夜の荒野へ飛び立ったのであった。