機動戦士ガンダムGQuuuuuuX/ARMORED CORE6 スカーフェイス・ウィッチ   作:キサラギ職員

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クロスオーバーの醍醐味ってキャラ交流もそうだけど設定のすり合わせというか「この手があったか」にあると思います


621

 

 根本的なことを言えばハンドラー・ウォルターは科学者だ。対象がコーラルであるという点において特異かもしれないが、未知の現象への好奇心は例え摩耗し、肉体の一部を失い、余命少なくなった今でも持ち合わせている。

 シイコがこの世界に持ち込んだ機体。ゲルググ。その解析を行っていたのだ。もう珍しくもない核融合炉。それはいい。駆動系を電磁コーティング。これもいい。似た技術は既に、この世界にも普及しているのだから。

 

「ミノフスキー粒子か……静止質量がほぼゼロ、正粒子は負、反粒子は正に荷電する素粒子……核融合炉の放射線及びプラズマを遮断しているのはこれか。だからここまで軽量化できる、ということか」

 

 核融合炉。プラズマや放射線の封じ込めが一番のネックとなっていたのだが、宇宙世紀と呼ばれる世界ではミノフスキー粒子で解決しているらしい。

 

「エネルギーを遮断する性質、か………あるいは……」

 

 ぶつぶつと呟き続ける。

 

「コーラル物質の………遮断さえ可能なのか」

 

 小型宇宙船に据え付けられた、一室。研究室。弱毒化したコーラル物質が、高濃度の酸素の中に注入されたそれ。それが発する波長を完全に遮断してのける、ミノフスキー粒子の壁。

 既存物理学を過去にするような発見はしかし、彼にとって一点にのみ絞られていた。

 コーラルの、制御。かつてナガイ博士ら技研が挑んでついに叶わなかった技術。結局のところあふれ出る深淵からの闇を、推し留めるのが精いっぱいだった、無念。

 それを、この、小さな機械が実現できる可能性を、ハンドラー・ウォルターは理解してしまった。

 

「コーラルとの共存………か………621…………」

 

 友の名を呼ぶ。

 かつて621は、自分を裏切った。それはコーラル物質と感応し“友人”と話し合って決めたことだ。それはいい。

 “選ばない奴とは、敵にも味方にもなれない”。かつて、シンダー・カーラはそういった。結局621に斃されてしまったが、彼女は幸せだったのだろうか。

 そして、自分だけが生き延びてしまった。機体の設計が優秀過ぎた。代わりに足を失ったし、寿命も相当削られたが、それでも生きていかなければならない。

 だが、もし。

 だが、もし、621の手助けが許されるならば。この罪を贖う術があるのであれば、この技術を使い――――。

 

 コーラルとの、共存が可能になるかもしれなかった。

 

 しかし今更どの面下げて会いに行けばいいというのだろう。

 考え込みながらブリッジに出てみると、合成コーヒー片手にガラス越しに宇宙を見つめているシイコがいた。

 

「悩み事?」

「いや」

 

 妙に勘のいい女だ。異世界から流れ着いてきた、卓越した戦闘能力を垣間見せる女。

 はっきり言って面白くない女だ。あるいは面白い女かもしれない。今まで会ったことのないタイプの女だったが、どこかで似たような―――そうだ、カーラと少し似ているのだ。だがカーラともやはり少し違う。

 

「ミノフスキー粒子発生装置だが、あれは」

「好きにしてもらって構わないわ。どうせ、他に上げられるものもないものね」

「そうか」

「悩み事があるなら聞くけれど」

 

 やはり勘が鋭い女だ。もとよりウォルターという男は隠し事ができる性質ではない。素直で、けれど不器用なだけだ。

 ため息を吐くと、車椅子を操作して隣に並んだ。

 

「少し昔話をしよう。ある科学者がいた。コーラル物質に憑りつかれ研究に没頭し、狂った成果を山ほど作って死んだ。善良な科学者もいた。全てを清算して、満足して死んだ。あとに残された家族は、それを見て、遺志を継いだ。教訓がある。一度生まれたものは、そう簡単には死なない。いや死ねない」

「…………自分のことなのね」

「死のうと思った。死ねなかった。俺には、この動乱を見届ける権利と義務がある」

「歴史の立会人として?」

「いや、俺は立会人ではない。演じて、最後に退場する役だ」

 

 ウォルターは静かに言うと、視線を煤けた彼方に見えるバスキュラープラントに映した。解体され、もはや根本しか残っていないそれ。視線を更に遠くに映すと、それを遥かに超えるサイズの物体が鎮座している。衛星軌道上、バスキュラープラントがバカバカしく思える大きさの、基地。

 

「あんなに大きなものを作って、どうするのかしら」

「バスキュラープラントの代わりだろう。地上は現状ルビコン統一戦線が占拠している。排除完了次第再接続する予定だろう」

 

 もう一つ月が出来ているとでも言うべきそれは、企業の力を示すもののようだ。

 ウォルターは続けた。

 

「今後について、話しておく。俺は621と接触する」

「ネットで少し調べたわ。黒い鳥……イレギュラー。ルビコンの解放者。素性までは出てこなかったけど、相当強い子みたいね。ルビコン中を炊きつけた英雄さん、とでも言うべきかしら」

「ああ、かつての俺の“猟犬”だった。今は違う。やつとコンタクトを取る」

「なぜ?」

「これだ」

 

 ミノフスキー粒子に関するデータを、窓に投影させる、ウォルター。

 

「ミノフスキー粒子発生装置を使えばコーラルを遮断できる可能性がある。これを使いコーラル井戸の不活性化を行いたい。だが、何はともあれ解析が必要だ。621と、RaDにコンタクトを取り、合流する」

「一度殺しにかかった相手に頭を下げると」

「プライドなら、犬に食わせた。殺されるなら構わん。お前が後を継げ、シイコ・スガイ」

「嫌と言ったら?」

「断れない性質だ、お前は。じゃなければここまで話を突っ込んで聞いたりはしない」

 

 見透かされている。そして、見透かしている。

 シイコはコーヒーを飲みほした。

 

「子供か。赤の他人だが、ルビコンを守るつもりか。調べたならば察しているはずだ。俺は、今のこの計画が失敗し、コーラルが破綻の兆しを見せ次第、星ごと焼き払うつもりだ」

「ええ。でも聞いている限り救おうとしているように聞こえるけれど」

「なぜ、一度会っただけの子どもたちを守るために即断できる」

「なんででしょうね」

 

 宇宙を見上げてシイコは呟いた。

 

「失ったら、後悔しそうな気がして」

 

 ぽろりと一滴涙がこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 ため息を吐く。深呼吸をする。

 そして、コンタクトを取った。通信を繋ぐ。繋がった。相手は、無言である。

 相手の画面には表示されていることだろう。

 ボロボロで、火がついていて、無数の縄(リード)が手から生えているとも、手がリードそのもので、それが崩壊しつつあるとでも取れるエンブレムが。

 

『久しぶりだな、621………いや、ルビコンの解放者と言うべきか』

『………ウォルター……』

 

 若い男の声だった。困惑していたが、どこか嬉しそうだった。

 

『手術は、したのか』

『まだ。ケリがついたら、する、つもり』

『そうか。よく寝られているか?』

『うん』

 

 ウォルターは言葉を切ると、一拍置いた。

 

『伝えることがある。済まなかった、621』

『いいんだ。ウォルターにも、やるべきことがあったのは、わかってる。ウォルターは、“選んだ”んだね』

『ああ。手短に伝える。研究は、恐らく進んでいないだろう。コーラルとの共存はそれだけ難しいものだ。データを送る。この特殊粒子を使えば、可能性はある』

『………うん、“友人”も、可能性はあるって』

『そうか。合流地点は暗号化データで送信する。後で落ち合おう。621』

 

「仲がいいのね」

「そう聞こえたか」

「ええ」

 

 

「まるで親子みたいだったわ」

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