それでも青は色褪せず ~Wrath of Set~   作:白桐

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「――うっ、いった……っ!」

 

 

 少女、黒見セリカは頭を床に打つ痛みで目を覚ました。

小さく被りを振ってぶつけた頭を手で押さえようとする――が、背後に回された手は自由に動くことはなかった。

どうやら縄のようなもので拘束されているらしく、そのことを把握したセリカの心臓が跳ね上がる。

 

 擦れていた視界は徐々に鮮明さを取り戻していった。

薄ぼんやりとした暗闇でこそあったが、そこに仄かに浮かぶ幌枠の骨組みと輪郭から、

自身が運搬車両の荷台に放り込まれたということにセリカは気が付いた。

 

 ――自身が襲撃に遭い、ヘルメット団に拉致されたということも。

 

 

「ああもう、ヘルメット団の奴ら、私をどこへ連れて行くつもりなの……っ!」

 

 

 痛む体に鞭を打ち、手首を縛る縄を解こうとするもびくともしない。

ならばせめてと、荷台幌の隙間から差し込む光へと体を這わせて向かう。

そしてその隙間の先を覗き見れば、そこには建造物と打ち棄てられた廃線という荒寥な景色が広がっていた。

 

 セリカはこの場所を知っていた。

砂漠化の進んでいる市街地の郊外で、強引なインフラ・土地開発に失敗した結果、

無人となってしまい壊死した土地。

そんな場所に連れて行かれて何をされるのか――セリカに脳裏にいくつかの結末が過り、

頭から血の気が引いていった。

 

 ――脱出しなければならないが、しかしこの状態では不可能。

 ――仮に脱出したとしても連絡手段はない。

 

 セリカの体から一気に力が抜けた。

自分ではもはやどうしようもなく、徐々に絶望が迫って来るそんな状況。

このまま誰にも気が付かれず、砂漠に放置されるのか、埋められてしまうのか――。

否。自身に降りかかるそれらよりも、セリカの心中で大きくなっていく不安と恐怖があった。

 

 ――裏切ったと思われるのだろうか。

 ――かつてこの学校を去っていた生徒たちのように、アビドスを見捨てたと思われるのだろうか。

 

 自分はそんな薄情な人間ではないと心が叫ぶものの、しかしそれを証明する手段は断たれている。

悔しかった、悲しかった、叫びたかった。

だが彼女はなにも出来ない。非力故に一人故に。

セリカの瞳から涙が零れ落ちた。

 

 

「う、うぅ――う?」

 

 

 ――だがその時、車両の走行音に混じって微かな電子的なノイズが耳を突いた。

 

 それは獣人故に優れた聴覚だからこそ、聞き取ることが出来たのかもしれない。

そちらへと視線を向ければ、セリカのいつも使っているスクールバッグが転がっていた。

どうやら自身と一緒にトラックの荷台に放り込まれたらしい。

 

 

「……っ!」

 

 

 セリカは床を這うようにしてそちらへと向かった。

携帯端末は奇襲された際に破損した――ならばその中に仕舞っていたインカムからか。

不安と恐怖こそ未だにあるものの、少しばかり冷静になった思考がその体を何とか動かした。

 

 彼女はバッグの元まで近寄ると、器用に口でチャックを開けてそのまま頭を突っこむ。

微かな電子音を頼りに顔を動かし、それらしい感触を捉えると無理矢理顔の側面を押し付けた。

 

 

『――ねえ、聞こえる?』

 

 

 その声は不思議と鮮明に聞こえた。

低く、感情のない無機質な女性の声――少なくとも対策委員会の誰かではない。

そのことに驚きつつも、セリカは声を上げた。

 

 

「あ、あんた誰!?」

 

『ヘルメット団に誘拐された、ってことでいいのよね』

 

『そ、そうだと思うけど……いや、と言うか本当にあんた誰!? なんでこの無線に入ってきてるの!?

これ、アビドスの通信用の……』

 

『落ち着いて。ホシノに呼ばれて助けに来た』

 

「え、ホシノ先輩の知り合いなの!?」

 

 

 自身の知る名前が飛び出してきたことに混乱するも、通話先の声の主は肯定するように「ええ」と呟いた。

 

 

『だから落ち着いて……怪我はない?』

 

「ふらふらするけど、多分大丈夫……」

 

『……申し訳ないけど、もう一回きつい体験をしてもらうことになるわ。しっかりと頭を守って、それから口を閉じて』

 

「それってどういう――」

 

 

 それは次の瞬間だった。

 

 尾を引くような重い金属音とでも言うべきだろうか。

まるで獣、または雷鳴。

あるいは悍ましい怪物の咆哮を想起させるようなそれが響き渡ったその瞬間。

 

 ――セリカの世界が回転した。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

『先生、見えた……っ!』

 

「あとちょっとだから頑張って!」

 

 

 セリカを誘拐したヘルメット団の追跡は夜通し行われ、すでに周囲には陽光が満ちていた。

現在、"私"たちはひび割れたアスファルトの道路を車両で進んでいた。

 

 そしてロードバイクを駆り、ドローンと共に先行するのはシロコである。

砂にまみれたコンクリートの悪路を走破していく姿はまさに疾風が如く。

それは大切な後輩が誘拐されたからこその勢いであったが、

夜通しの走行はさすがの彼女も堪えるらしく、徐々にペースが落ちていた。

 

 もっとも、道中の下り坂が多いとはいえ、車両に乗るこちらよりも速度を出している。

さすがキヴォトスの人間だと"私"は思う。

 

 その"私"はと言えば、アビドス高校の数少ない備品の一つである、

オープントップのジープに乗って彼女の後を追っていた。

運転席にはアヤネがおり、助手席には"私"。後部座席にノノミとホシノが座っている。

 

 

「先生、少し揺れますよ!」

 

「了解! 皆も準備して!」

 

「大丈夫大丈夫。なんとかなるから」

 

 

 私の言葉にのんびりとした声が割り込む。

 

 それは後部座席に座る少女――小鳥遊ホシノであった。

アビドス高校の三年生であり最年長の彼女は、

愛銃であるショットガンと無骨なバリスティックシールドを準備しながらも、

その表情に薄い笑みを浮かべてリラックスしているようだった。

 

 

「なにか策があるの?」

 

「まあね」

 

 

 ホシノは"私"の問いに短い返答をする。

 

 力強くもなければ深い理由を語ったわけでもない――しかし不思議とそれは、

"私"を納得させるような説得力を持っていた。

それがなぜなのかは分からない。

だがどこか自信に満ちた微笑みが見えたからこそ、そう思えたのかもしれない。

 

 

『先生、シロコ先輩! 敵アジト方面から増援です!』

 

 

 インカムからアヤネの声が飛んでくる。

車の停車と同時に、"私"たちは素早く飛び降りて砂地へと降り立ち、駆けて行った。

 

 前方ではシロコがロードバイクを砂地に放り投げ、そのまま近くにあった瓦礫の影に飛び込んでいた。

直後、断続的な爆ぜるような射撃音が響き渡る――シロコが敵対勢力の第一陣と衝突したらしい。

 

 ならばと"私"は『シッテムの箱』――自分だけが動かせる特殊なタブレットらしいが

詳細は不明――の画面をタップし、素早く戦術指揮の為に戦場となるであろうマップをウィンドウに呼び起す。

 

 廃線となった鉄道の跡地だろうか。

比較的平らな荒野で、廃棄された電車や瓦礫が点在するような3Dマップがそこに表示された。

遮蔽物は多く、身を隠せる場所は多いが――同時にこちらは進攻に手こずるだろうというのが"私"の見立てである。

 

 だからこそ、内心ではまずいと呟かずにはいられなかった。

 

 ――シロコのドローンが撃ち落される。それはまだいい。

 ――そのままセリカを敵アジトへと運び込まれる可能性がある。

 ――籠城戦……夜通し追跡した疲労がこちらにはあり、それは避けたい。

 

 無論、不確定要素は多いが、対策委員会の戦力であれば籠城戦だろうと攻略は可能だと思う。

だがセリカが誘拐された経緯を考えれば、彼女が負傷している可能性があるのも事実であった。

 

 その程度は分からない。

もしかすると軽傷かもしれないが、それでも最悪の可能性は捨てきれなかった。

 

 故に彼女らの体力面を踏まえても長期戦は望ましいものではない。

何よりもその可能性を示唆しているのが彼女の端末が最後に残した位置情報であり、

現場の状況から判断すると爆発を伴う戦闘が発生したことが判明しているからでもある。

 

 いかにヘイローを有する彼女らが頑強とは言え、

教師としては生徒の負傷度合いが判断できない状況には焦燥感を抱かざるを得なかった。

 

 

『――ねえ、聞こえる?』

 

『あ、あんた誰!?』

 

 

 その時、ふと聞き馴染みのない低い声がインカムから響いた。

対策委員会の面々が一瞬ざわつき、セリカの声が響く。

どうやら大声を上げられる程度には元気らしく、彼女の体調に問題がないことに"私"は安堵した。

 

 しかしこの声の主は誰だろうか。

そう思い声を掛けたかったのだが――その時、不意に『コンコン』と言う耳を突くような音が二回鳴る。

 

 この時の"私"は知らなかったが、これは対策委員会の内で決められた合図とのことだった。

声を出せない隠密行動時、インカムを二回指で叩く。『問題なし』と告げる意味を持つらしい。

 

 他の面々が黙っていることから、"私"もそう言った空気を感じて沈黙に徹した。

 

 そしてその声の主はパニックになっているセリカへと淡々と言葉を伝えていく。

 

 ――セリカがヘルメット団に誘拐されたこと、アビドスの無線番号を知っていること。

 ――ホシノの知り合いだということ。

 

 少なくとも敵ではないのだろうと"私"は判断する。

そして目の前に迫りつつある戦闘で、協力体制を上手く取れないか、など。

 

 そうしていると、とうとうその時が訪れる。

 

 

『――しっかりと頭を守って、それから口を閉じて』

 

『それってどういう――』

 

 

 ――次の瞬間、尾を引くような重い金属的な衝撃音が辺りに響き渡った。

 

 セリカの言葉を遮ったそれは、さながら感情を剥き出しにした獣の咆哮、あるいは雷鳴。

突如として響き渡ったその銃声の正体が何なのかと、

"私"は状況把握に努め――遠くの砂地を走行していたトラックが勢い良く横転する光景を目撃した。

 

 

『う、うわあああっ!?』

 

 

 インカムから響く少女の悲鳴。

それと同時に横転したそのトラックの荷台から人影が飛び出した。

 

 "私"はシッテムの箱へと視線を移し、二つのウィンドウを上部に弾いて呼び起こす。

アヤネとシロコのドローンから共有されている二つの映像がすぐさまポップアップされた。

 

 そしてそこには砂地を転げるセリカの姿があった。

 

 

『セリカちゃん発見! 生存確認しました!』

 

『ん、こっちも確認した。半泣きのセリカ発見』

 

『うわああ!? うるさいっ!』

 

 

 泣いてなんかいないと力強く弁明する彼女に安堵する。

無傷と言うことはないがその様子から察するに、動くことに支障はないようだった。

 

 "私"がアヤネとノノミと共に彼女の下へと駆け寄ると、

彼女は目を見開いて、ひどく驚いた表情でこちらを見た。

 

 

「セリカ、大丈夫?」

 

「な、何で先生まで! どうやってここまで来たの!?」

 

「伊達にストーカーじゃないからね」

 

「ふ、ふざけないでよ! この変態教師!」

 

 

 それだけの返事が出来るのなら安心だ――そう思った次の瞬間、再びあの重い銃声が響き渡る。

 

 反射的に前方へと視線を移せば、砂に埋もれた電車の物陰からヘルメットを被った生徒が

勢い良く飛び出して倒れ伏す――そんな光景を目撃した。

 

 だがそれは一度だけではない。

間髪入れずに響き渡る銃声は、こちらへと迫って来ていたヘルメット団の尖兵達を的確に撃ち抜いていた。

 

 それはボルトアクション式の狙撃銃の連射速度ではない。

ならばセミオートなのだろうか。

そして間髪入れずに的確に敵を無力化する腕前は相当なものだと判断できた。

 

 

「狙撃手? いったい誰が……」

 

「大丈夫だよノノミちゃん、おじさんが応援を頼んだだけだから」

 

『……ホシノ、そこにいる大人は?』

 

 

 インカムの向こうから件の狙撃手からの問いがホシノへと向けられる。

ホシノはセリカの拘束を解きながら、こちらを見て少し言い淀むように小さく唸った。

そして溜息をつくと、気の抜けた笑みを見せる。

 

 

「……連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』の先生、だってさ」

 

『連邦捜査部って……連邦生徒会が今さら支援を寄こしたってこと?』

 

「そういうことになるかなぁ……」

 

 

 苛立ちと皮肉を孕んだその返答に、ホシノはこちらを見て申し訳なさそうに笑った。

さらに次いでインカムの向こう側から、ふっ、と明らかな嘲笑が返ってくる。

 

 対する"私"は"気にしてないと笑みを浮かべて首を振った。

借金を抱えた学園を今まで見向きしなかった為、

支援を先延ばしにし続けた相手に対してそれは当然の反応である、と。

 

 だが、今はそう言った罪悪感に共感している場合ではない。

 

 

「君たちを助けに来たよ」

 

 

 むしろ甘んじてそういった批判を受け止めるのが大人の務めだ。

だからこそ、卑下せずに堂々とそう告げる。

それは"私"なりの意思表明でもあった。

 

 

「ところで君の名前は?」

 

 

 しかしその問いに返って来るのは沈黙――が、少しして小さな溜息が微かに聞こえた。

 

 

『……梔子アキです。こちらは廃墟のビル群の上にいるので、

火力支援が必要であれば仰ってください。仕事は確実にします』

 

「分かった、よろしくね」

 

 

 そこからは迅速だった。

 

 すぐさま面々は瓦礫の遮蔽物へと身を隠し、それぞれがポジションを確保して迎撃態勢を取る。

 

 

「前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認! 来ます!」

 

『梔子より各員へ。その後続に改造されたFlak41も来てるわよ。雑魚の包囲網に飲まれないように気を付けて』

 

 

 アヤネと梔子アキと名乗った少女からの報告に、面々はそれぞれの武器を構えて敵性集団を見据えた。

 

 その最中、再び近くに寄ってきたホシノと目が合う。

彼女はいつもの気の抜けたような――だが、いつもと比べてどこか寂し気にも見える笑みを浮かべた。

 

 そしてそれ以外にも様々な感情が入り混じった表情だと"私"は思う。

それが何を意味するかは分からない。

 

 

「先生、強気でいって大丈夫だよ。狙撃手の子の腕はおじさんが保証するから」

 

「……わかった、それじゃあ行こう!」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 体調は万全ではなかったものの、セリカは自らのポジションでの責務を全うしていく。

 

 前線で戦うホシノとシロコがヘルメット団を正面から潰していくのだが、

その右側面から回り込んで攻めようとする三名の敵をセリカは目視する。

 

 ――セリカは間髪入れずに引き金を引く。

 ――弾丸は彼女らの近くにあった廃電車に命中し、足を止める。

 ――そしてこちらの射線に気が付き、近くの遮蔽物に隠れた。だがこれでいい。

 ――やるべきは倒すのではなく、足止めして前衛二人への攻撃を阻害することなのだから。

 

 援護と牽制――それがセリカの役割であった。

 

 対策委員会では抜きん出て近接戦闘に特化しているのはホシノとシロコである。

そのシロコと言えば入学してから戦闘技術の手ほどきをホシノがしていたらしく、

その戦い方が似るのは必然であった。

 

 だからこそセリカに求められたのは中衛(MIDDLE)であった。

 

 二人が前線を押し上げると同時に、セリカがその死角や間隙を潰すように援護と牽制に徹する――。

 

 それは決して華やかなポジションではないが、確実に対策委員会の面々の被害を最小限に抑え、

前衛の二人の攻撃性能をさらに鋭利なものへと特化させていた。

 

 そんなセリカの射線に気が付いた敵兵達が、今度は彼女へと反撃してくる。

 

 

「ぐっ、やば……っ!」

 

 

 三つの銃口から放たれた銃弾は弾幕となり、セリカの隠れる遮蔽へと降り注ぐ。

当たっては敵わないと、セリカは瓦礫に引っ込んだ。

 

 こう言った場合、こちらに射線が向くことは大歓迎であった。

無警戒の敵側面を狙うのはホシノとシロコであり、確実に無力化してくれるのだから。

 

 だがこの日は違った。

あの重い鉄の咆哮、あるいは雷鳴が三回――間髪入れずに響き渡る。

同時に弾幕が止まり、僅かな静寂が訪れた。

 

 セリカが遮蔽から顔を出せば、廃電車の傍に倒れる敵兵三名の姿があった。

 

 

『ごめんね、強引にトラックを止めたから怪我してるでしょ。無茶はしないで任せて』

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 

 そしそこに返ってきたのは、こちらを気遣う優しい声色だった。

先ほどまで先生やホシノとの会話で発していた刺々しい雰囲気はない。

それも含めて動揺してしまった所為か、セリカは述べた感謝の言葉も途切れ途切れな上に敬語となってしまう。

 

 別の遮蔽から顔を出した敵兵へと再び弾幕を張って牽制しながらも、

セリカは不思議とこの狙撃手のことが気になって仕方がなかった。

先輩であるホシノを呼び捨てで呼んでいたことから、彼女の同級生や親しい友人なのだろうか。

 

 ――梔子……多分、上級生だと思う。

 ――だけど学校で見かけたこともなければ聞いたこともない名前。

 ――ホシノ先輩を呼び捨て……深い仲なのだろうか?

 

 などと、彼女はどうにも戦闘に集中できずにいた。

それに加え、ホシノに対してどうにも余所余所しいと言う印象をセリカは感じ取っていた。

もしかすると、あまり仲は良くないのだろうか、とも。

 

 

『ホシノ、電車の影』

 

『いけるよ』

 

 

 しかしあの教師の指揮の合間に差し込まれる彼女達の短いやり取りに、それも再び疑問の海へと沈む。

 

 ホシノは無骨なバリスティックシールドを構えながら、

廃棄された電車を遮蔽にしている不良へと突貫。そのまま盾で殴りつける。

 

 その勢いのままに吹き飛ばされた敵兵は開けた場所へとよろけて飛び出し、

そこを例の狙撃手が間髪入れずに撃ち抜いて無力化する――。

 

 前線を押し上げるホシノと、確実にその側面や死角を潰していく狙撃手。

その一連のコンビネーションは、互いの動きを熟知していなければ出来ないものだった。

 

 ホシノはそのままの勢いで件の改造戦車の前に躍り出る。

その姿を確認するや否や、砲身が彼女へと向けられた。

すぐさま耳を劈く轟音と共に砲身が炎を吐き出す――が、すでにそこにホシノはおらず、爆炎と砂煙だけが派手に噴き上がる。

 

 そんなホシノを追うように後続から同系の改造戦車が迫っていた。

 

 だがそこへ向けられたのが、あの尾を引くような重い金属音の咆哮である。

それが聞こえたかと思うと、改造戦車は突如と失速し、とうとう動かなくなった。

 

 そしてそのハッチからフルフェイスのヘルメットを被った

不良生徒が飛び出す――が、それも間髪入れずにあの重い咆哮が響き渡ると、その搭乗者は砂地へと吹き飛んでいく。

 

 

『一両破壊。先行しているそっちの一両は瓦礫に隠れて無理』

 

『オーケー、こっちで注意を引く……と言うわけで皆、おじさんが疲れちゃう前に早く手伝いにきてね~』

 

 

 先ほどまで狙撃種と話していた際の低い声が、突如としていつもの気の抜けた声へと戻る。

その前半のホシノの声色は、初めて聞くものだった。

普段は昼寝ばかりをしていて昼行燈の如く掴み所のない人柄だが、

どうにも狙撃手の彼女と関るとその気が消え去っているように感じ取れた。

 

 

「すごいですね~。ああいうのを相棒って言うんでしょうか」

 

 

 その思案の最中、セリカの隣にやって来たのは、先輩である二年生の十六夜ノノミであった。

彼女は愛銃であるミニガンを掃射しながら、セリカの前方で構えていたヘルメット団の面々を薙ぎ払っていく。

 

 辛うじてそれを逃れた彼女らは瓦礫の遮蔽物の影へと逃げ延びるが、

ノノミの射撃が終わると同時に、その対面へとシロコが飛び出した。

 

 

『シロコ、前方の遮蔽物に手榴弾!』

 

 

 さらにそこへ間髪入れずにインカムから発せられるのは、

自分たちを導くと宣言してくれたあの教師のものだった。

 

 それを合図に瓦礫の遮蔽へとシロコの手榴弾が放り込まれる。

弾着と共に遮蔽物と敵をまとめて吹き飛ばし、

爆発の後には地面に倒れ伏す数名のヘルメット団員たちだけが残っていた。

 

 ひとまずは周囲に敵影はなく、第一波は無力化したと、セリカは周囲を警戒しつつもそう判断をした。

しかしまだ油断はできないと、彼女は遮蔽に再び隠れるように背を預けてマガジンの交換を急いだ。

 

 そうしているとノノミが同じように遮蔽へとやってくる。

そこでセリカは、自身の胸中に渦巻く疑問を問いかけることにした。

 

 

「ノノミ先輩、あの人のこと知ってる……?」

 

「昔一度だけ見かけことがありますけど、それ以来見てないですねぇ……シロコちゃんは?」

 

「ん、見たことも聞いたこともない……いや、昔狙撃で助けてくれた人かも?」

 

 

 さらにこちらへと合流したシロコも、ノノミと同じようにいつもの落ち着いた調子でそう言う。

ともすれば彼女達よりも上級生で、ホシノと同学年と考えるのが妥当だろうか。

 

 しかしホシノからそのようなことを聞いたことがないのも事実であった。

そしてホシノの性格上、特に問題がなければそれを隠すことはないだろうとも思う。

仲が良いのか悪いのか――ぐるぐると思考が頭の中で絡まっていく。

 

 

「やっぱり、仲悪いのかな……」

 

 

 独り言のようにそう呟いて、セリカは砂に埋もれた遠くの廃墟群へと視線を移す。

 

 こちらの体を気遣ってくれたあの優しい声色の彼女が、

自身らが慕うホシノと確執があるのではないかと想像して、少しだけ心が痛んだ。

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