「ねえ、――、相談があるんだけど……」
放課後の教室。夕日が差し込んで、なんだかちょっとだけセンチメンタルな気分。
いつものあたしらしくないって、自分でも思う。
隣の席の――に声をかけると、彼はどうしたの?っていつものお人好し全開な笑顔でこっちを向いた。
「あのね……恭介のことなんだけど……」
口に出すのは少し恥ずかしい。でも、――ならきっと、真剣に聞いてくれる。
「恭介と……も、もっと仲良くなりたいの。できれば……その、お付き合いなんかも出来たらなーなんて、あはは……な、なんちゃって」
顔、熱い。絶対赤くなってる。
――は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに任せてと力強く胸を叩いてくれた。
その頼もしい言葉に、少しだけ不安が軽くなった気がした。
それから、――との秘密の作戦が始まった。恭介が退院したら、きっとデートに誘う。その日のために、――が練習に付き合ってくれることになった。
「映画?確かにいいかも、終わった後感想言い合えるし」
「じゃあ、その後はカフェでお茶とか?」
「うんうん、正に王道って感じ!……き、恭介もそういうの喜ぶかな?……うん、そうだよね!そういう普通のデートの方が喜ぶよね!」
――と話しながら、映画館のつもりで並んで歩いたり、カフェのつもりでファミレスに入ったり。
恭介が喜びそうな場所、話しそうなこと、――は男の子目線で的確なアドバイスをくれる。あたしはそれを一生懸命メモした。
なんだか、――とのこのやり取り自体が、ちょっとドキドキして、楽しいなんて思っちゃってるのは、恭介への作戦だからだよね?
うん、きっとそう。
普段の生活でも、――のフォローは完璧だった。
これ、恭介が好きそうなお菓子だよってさりげなく恭介の見舞いの差し入れをくれたり、この前テレビでやってたヴァイオリンの特集を教えてくれて、会話のきっかけをくれたり。
「――のおかげだよ、ありがとう!」
心からの感謝を伝えると、――は別に何もしてないなんて照れくさそうに笑う。そういうとこ、本当に昔から変わらない。
でも、そんな穏やかな日々は、突然終わりを告げた。
魔法少女の真実。希望を叶えた代償。あたしたちの魂は、ソウルジェムっていう宝石に移されて、もう普通の人間じゃない。ゾンビになったようなものだ。
「私……もう人間じゃないんだ……こんな身体で恭介に愛して欲しいなんて、言えるわけないよ……」
部屋の隅で膝を抱えて、あたしはただただその事実に打ちのめされていた。
大好きだった恭介のことも、もうどうでもよくなっていた。だって、こんなあたしじゃ、恭介の隣にいる資格なんてない。
そんな時、部屋のドアが遠慮がちに開いて、――が入ってきた。いつもみたいに軽く声をかけてくるけど、その顔は心配でいっぱいなのがすぐに分かった。
大丈夫か聞いてくる彼の声が、やけに遠くに聞こえる。
「っ、大丈夫なわけないでしょ!もうあたし……人間じゃないんだよ!?こんな化け物みたいな身体で、恭介に会えるわけないでしょ!!」
八つ当たりだって分かってる。でも、溢れ出す感情を止められなかった。涙が止まらなくて、――の顔もちゃんと見れない。
化け物なんかじゃない
――の声が、いつになく強い響きを帯びていた。ハッとして顔を上げると、彼はまっすぐに私を見つめていた。その瞳は、怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。
さやかがどれだけ恭介のことを想って、どれだけ必死に頑張ってきたか知っている。ソウルジェムがなんだ、それがさやかの優しさや、強さを奪うわけじゃない
彼の言葉が、冷え切っていた心に少しずつ熱を灯していくようだった。
「でも……でも、普通の人間とは違う……。こんなこと、恭介に知られたら……」
――は、ゆっくりとあたしの隣に座った。そして、震えるあたしの手を、そっと握ってくれた。大きくて、温かい手だった。
恭介は、そんなことでさやかを嫌いになったり、見放したりするような奴じゃない。自分が保証する。
彼の言葉は、まるで魔法みたいだった。頑なに閉じていた心の扉が、少しずつ開いていくのが分かった。そうだ、あたしの好きな人は、そんな事で人を判断なんてしない。
――がこんなにもあたしのことを信じてくれている。
「っ……うん……そうだよね……!」
涙はまだ止まらなかったけど、それはさっきまでの絶望の涙とは違っていた。――の優しさが、温かさが、胸いっぱいに広がっていく。
「私、もう一度頑張ってみる。恭介に、ちゃんと私の気持ちと……魔法少女のことも話してみる」
そう言うと、――はその意気だと、いつもの優しい笑顔で頷いてくれた。
その笑顔に、あたしはどれだけ救われただろう。
この時、あたしの心の中で、何かが確かに変わったのを感じていた。
数日後。決意を胸に、あたしは恭介の元へ向かった。――は何も言わず、ただ、あたしの背中をそっと押してくれた気がした。
結果は…うん、まあ、そうなるよねって感じだった。
恭介は、魔法少女のあたしのことも受け入れてくれた。でも、「これからも友達でいたいんだ」って。
優しく、でもはっきりと、振られちゃった。
――は、きっとあたしが泣き崩れるとでも思ったんだろうな。
大丈夫?無理するなよって、すごく心配そうにしてる。
でも、あれ?あたし、なんでだろう……あんまりショックじゃないかも……。
涙も出ない。胸が苦しいわけでもない……いや、流石にちょっとは苦しいけど。でもむしろ、なんだかスッキリしてるような…。
不思議に思って、今までのことをゆっくりと思い返してみた。恭介のこと、――とのこと…。そして、気づいた。
ああ、そっか。私……。
――と擬似デートしてた時、楽しかったのは恭介のためだけじゃなかった。――が褒めてくれるたびに、胸がドキドキしてた。
絶望してたあたしを、力強く励ましてくれた――の言葉が、何よりもうれしかった。
隣で不思議そうにあたしを見ている――。その顔を見たら、なんだか急に恥ずかしくなって、同時にちょっと意地悪したくなった。
頬が熱くなるのを感じながら、あたしは少し潤んだ瞳で、いたずらっぽく笑って彼に言った。
「あははっ!……さーて、なんでだろうねっ?」
夕焼けが二人を包む教室。――はまだ不思議そうな顔で首を傾げている。
この気持ち、いつかちゃんと伝えられる日が来るのかな。
今はまだ、この甘酸っぱい秘密を胸にしまっておこう。