漆黒の玉座に腰掛け、悪魔ほむらは満足げに微笑んでいた。彼女が再構築したこの世界で、ただ一つの願い――あなたを手に入れること――がついに叶ったのだから。
あなたは、ほむらに招かれ、彼女の前に静かに立っていた。周囲には、現実離れした美しい、しかしどこか退廃的な風景が広がっている。
「よく来てくれたわ、私の愛しい人……!」
ほむらの声は、絹のように滑らかで、それでいて抗いがたい響きを持っていた。彼女はゆっくりと立ち上がり、あなたへと歩み寄る。その漆黒の翼が、床を擦る音もなく優雅に揺れた。
「ふふっ……ようやく、この時が来たのね。あなたはもう、誰にも渡さない。永遠に、この世界で私と共にいるのよ。あぁ……私がどれほどあなたを渇望していたか……!」
ほむらはあなたの頬にそっと手を添え、熱っぽい視線を向ける。その瞳には、狂おしいほどの独占欲が揺らめいていた。彼女は、あなたが少し怯えたり、あるいは戸惑ったりする表情を期待していたのかもしれない。それが、彼女の愛の証なのだから。
しかし、あなたの反応はほむらの予想を遥かに超えていた。
ほむらの言葉に、あなたは顔を輝かせ、一瞬たりとも目を逸らさずにほむらを見つめ返した。その瞳には、抑えきれないほどの喜びと、長年募らせてきたであろう深い愛情が宿っているかのようだ。あなたはほむらの手にそっと自分の手を重ね、まるで宝物でも見るかのようにその顔を見上げた。
その仕草からは、「あなたのためなら全てを捧げます」という無言の誓いすら感じ取れた。
「え……? ま、待ちなさい、何なの、その反応は……?思っていた反応と違うのだけれど……?」
ほむらの指が、ぴくりと震えた。予想外の反応に、彼女の完璧な表情がわずかに揺らぐ。
しかしよく考えれば、むしろ望んでいた事だと気付き、改めて話を続ける。
「……い、いや、そう、それでいいのよ。あなたは、ただ私の愛を……受け入れていればいいの。私が、あなたを幸せにしてあげるのだから」
どこか歯切れの悪い言葉が、ほむらの口からこぼれる。彼女は自分が主導権を握っているはずだと、自分に言い聞かせるように。
だが、あなたは、ほむらのその言葉が不満であるかのように、一歩踏み出し、今度は力強くほむらの両手を握った。あなたの瞳は、純粋な、しかし燃えるような情熱でキラキラと輝いていた。
そして次の瞬間、あなたはためらうことなくほむらを力いっぱい抱きしめた。
「う、ぐっ……!ち、ちょっと……!?く、苦しい……というか、ち、近いわ……!少し、離れなさい……っ!」
(でもこれはこれで悪くないかも……はっ、いやいや、そうじゃない)
悪魔の余裕はどこへやら、ほむらはあなたの腕の中で完全に固まっていた。彼女の心臓は、予期せぬ事態に戸惑いと、そしてほんの少しの――いや、かなり大きな――嬉しさで、かつてないほど高鳴っていた。
あなたは心配そうに、しかしどこか嬉しそうに、抱きしめたままほむらの顔を覗き込んできた。その真っ直ぐな視線に、ほむらの頬がカッと熱くなるのを感じた。
(うぅ……な、何なの……?私が主導権を握って、甘く蕩かすはずだったのに……!どうして私がこんなに……ドキドキさせられているのよ……!)
あなたはほむらをさらに強く抱きしめ、その肩口に顔を埋めた。その仕草は、ほむらの漆黒の翼も、悲しみを湛えた美しい瞳も、あなたを想ってこの世界を創ってくれたその強い意志も、全てを肯定し、包み込み、そして守り抜こうとする強い意志を感じさせた。
「くっ…!あ、あなたのその……少しは……その、加減というものを……!」
ほむらは思わず後ずさりしそうになるのを、かろうじて踏みとどまる。彼女の頬は、確かに熱を帯びていた。
(こ、こんなに……こんなに私を好きでいてくれるなんて……思ってもみなかった……勿論、嬉しい……けど、なんだか……調子が狂うわ……!もっとこう……私があなたを翻弄して、赤面させるはずだったのに!)
あなたはそっと腕の力を緩め、ほむらと見つめ合った。その潤んだ瞳は、次に何を求めているかを雄弁に物語っていた。あなたはゆっくりと顔を近づけ、ほむらの唇に吸い寄せられていく。
「ちょっ……!?ま、待ちなさい!!そ、それは……まだ……!心の準備というものが……!」
ほむらは反射的にあなたの肩を押し返し、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。しかし、その手はわずかに震えている。
「だ、駄目よ!私が……私が許すまで、待ちなさい!すぐに許してあげるとは限らないけれど……でも、その……いつかは……許してあげる……そ、それでは駄目、かしら……?」
早口でまくしたてるほむらの声は上ずり、いつもの冷静さは見る影もない。
あなたを愛してやまないほむらは、思った以上に自分を愛してくれるあなたに、逆に困惑し、赤面しながらも、その熱烈な愛情表現に翻弄されるしかなかったのだった。
この愛の主導権争いは、どうやらあなたの圧勝のようである。そして、そんなあなたに戸惑いながらも、満更でもない様子のほむらであった。