ん、おかえり、――。今日も随分帰りが遅かったね。
ふーん……いや、私はただキミのことが心配だっただけさ。最近ずっと遅いだろ……夜も不安で、眠れなくなるんだよ。
(すん、と鼻を鳴らす音)
……ん?ねえ、――。ちょっとこっちにきて
……やっぱり。キミから知らない香りがする
これ……香水?すごく甘ったるい……私、こんなの知らない。どこの女の匂い?
『会社の人』……?へえ、会社のヤツがこんなキツイ香水つけてるんだ?それも、キミの服にこんなに匂いがつくほど……ずっと近くにいたんだろ?
ねえ、正直に言って。その女と、どんな関係?
『ただの同僚で、仕事で長時間一緒にいただけ』……?ふぅん……『ただの同僚』の匂いが、こんなに服につくもの?私には信じられないけど
毎日毎日、夜遅くまで『残業』とか言って…本当は、その女と会ってたんじゃないのか?
あたしに隠れてコソコソと…他の女と、楽しんでたんだろ?キミも隅に置けないね。
……なあ、キミは、私のこと、もういらないのかい……?飽きちゃったのか……?
そんなの……そんなの、嫌だ……!キミがいなくなったら、私……私はどうすればいいんだ……!ひとりにしないでくれよ……!
キミは、私のものなのに。私だけの――なのに……!他の女なんかに、キミを渡したくない……!渡せるわけないだろ……!
お願いだから、私を見捨てないでくれよ……!キミだけなんだ、私には……――がいない世界なんて、考えられないんだよ……!
「『信じてほしい』……?……だったら、証明してくれ……!私だけだって、ちゃんと言ってくれよ……!」
……そう。……分かった。信じるよ、キミの言葉を。でも……もし、これが嘘だったら……私、本当に何するかわからないから
キミを失うくらいなら、私は……
だから……だから、他の女なんか見ないでくれ。私だけを見ててくれよ……絶対に、あたしのそばから離れないで。
もう二度と、私にこんな不安な思いさせないでくれ。……いいかい?これは命令だ。
……ほら、夕飯、冷めちゃっただろ。温め直すから、そこに座って待ってて。キミがいないと、ご飯も美味しくないんだから。
……うん。キミはそこに座ってて。私が温め直してきてあげるから。キミがいない食卓なんて、味気ないどころか、砂を噛んでるみたいなんだからさ。
(キッチンで食器がカチャカチャと鳴る音。時折、キリカが――の様子を窺う気配がする)
(……本当に、信じていいのか?キミの言葉を。さっきは勢いで信じるって言ったけど……もし、あの甘ったるい匂いが、やっぱりそういうことだったら……?キミが、私以外の女に心を移していたとしたら……?)
(キリカが温め直した料理をテーブルに並べる)
はい、お待たせ、――。熱いから気をつけて食べてくれよ。……ああ、そうだ。こっちに詰めて。キミの隣がいい。
(キリカは――のすぐ隣に座り、じっと顔を見つめる)
……どう?美味しい?今日のハンバーグ、キミの好きなキノコのソースにしたんだ。ちゃんと、私の愛情、感じてくれてる?
……そっか。よかった。キミがそう言ってくれるだけで、私は……本当に、満たされるんだ。
(しばらく、二人は静かに食事を進める。しかし、キリカは時折、何かを思い出したように箸を止め、――の顔を不安げに見つめる)
……なあ、――。さっきの女……本当に、キミに気があるとか、そういうのじゃないよな?キミは優しいから……すぐ他のヤツがつけあがるんじゃないかって、私、心配なんだ。
……うん、そうだよな。キミはそう言った。……私、キミのこと信じてる。信じてる、けど……。
(キリカは俯き、小さな声で続ける)
もし、もしもだよ?キミが私に嘘をついて……その女と、何か……何かあったら……私は、キミのことを、絶対に許さない。キミだけじゃない……その女も、ズタズタにしてやる。私の――を誑かした罰だ。絶対に、逃がさない。
(顔を上げたキリカの瞳には、暗い光が宿っている)
……ごめん、怖いこと言ったね。でも、それくらい、キミが大事だってことなんだよ。分かってくれるだろ?
今日のことは、もうこれでおしまいにする。……だけど、もう二度と、あんな思いはさせないでくれ。いいね?
(食事が終わり、リビングでくつろごうとする――に、キリカが寄り添う)
ねえ、――。約束、してくれる?
これからは、毎日ちゃんと……ううん、できるだけ早く帰ってきてほしい。会社の飲み会とかも、どうしてもっていう時以外は行かないで。行くなら、必ず私に正直に言って。誰とどこで何時まで飲むのか、全部。
それから……他の女とは、仕事で必要なこと以外、話しちゃダメだ。二人きりになるのもダメ。連絡先も、もう新しいのは交換しないでくれ。……いいだろ?これくらい。
……本当か?よかった……。キミがそう言ってくれるなら、私も安心できる。キミは、私の言うことだけ聞いて、私のそばにいてくれればいいんだから。
(キリカは――の腕に自分の腕を絡め、肩にそっと頭を乗せる)
ん……やっぱり、キミの匂いが一番落ち着く。この匂いだけが、私を生かしてくれるんだ。……もう、変な香水つけて帰ってくるなよ?
さっきも言ったけど……これは、ただのお願いじゃない。キミと私の、大事な『約束』だ。もし、この約束を破ったら……キミが、私以外のものになったら……私、何をするか分からない。キミがいない世界なんて考えられないけど、キミが他の女のものになるくらいなら……いっそ、キミを……ううん、なんでもない。
(キリカは顔を上げ、――の目を真っ直ぐに見つめる。その瞳の奥には、狂おしいほどの独占欲が揺らめいている)
だから、絶対に私から離れないで。私だけを見て、私のことだけを考えていてくれ。いいな、――?これは、命令だよ。キミを愛してるからこその、命令。
……ふふっ。よし。じゃあ、今日はもう一緒に寝よう?キミが隣にいないと、悪い夢を見そうなんだ。キミの体温を感じながらじゃないと、私……眠れないんだ。
(キリカは――の手をぎゅっと握り、悪戯っぽく微笑む。しかし、その笑顔の裏には、決して逃がさないという強い意志が隠されているのだった)