穏やかな陽光が、見滝原中学校の教室を春霞のように満たしていた。チョークの乾いた音、教科書をめくる微かな紙擦れ、窓の外からは運動部の掛け声が遠く聞こえてくる。どこにでもある、ありふれた昼下がり。
隣の席の鹿目まどかは、少し困ったように眉を寄せながら、数学のプリントとにらめっこしている。その小さなつむじに、――はそっと消しゴムを差し出した。まどかは驚いたように顔を上げ、すぐにふわりと花が綻ぶような笑顔を見せた。
「あ、ありがとう、――くん」
その声は鈴を振るように可憐で、――の心に温かな灯をともす。――は小さく頷き、自分のプリントに視線を戻したが、まどかが時折、安堵したような、それでいてどこか頼るような視線を向けてくるのを感じていた。
教室の後ろの方の席、暁美ほむらは、いつも一人で窓の外を眺めている。その黒曜石のような瞳は、一点を見つめているようでいて、その実、何も映していないようにも見える。
時折、彼女の視線が、まるで磁石に引かれるようにまどかに向けられることがあった。それは、焦がれるような、祈るような、そしてひどく寂しそうな色を帯びていて、――は知らず知らずのうちに、その横顔から目が離せなくなるのだった。
まどかの記憶を刺激しまいと、ほむらは決して積極的に彼女に話しかけることはない。ただ、遠くから、その存在を確かめるように見つめているだけ。あなたは理由こそわからないが、その距離感は痛いほど伝わってきた。
ある日の放課後、――はまどかと一緒に図書室で調べ物をしていた。クラスで出された地域史のレポートのためだ。
「うーん、見滝原市の古いお祭りって、意外と資料が少ないんだね」
まどかが小さなため息をつく。――は、古い郷土史の分厚い本を何冊か抱え、まどかの隣にそっと置いた。そして、黙々とページをめくり始める。その積極的な姿に、まどかは再び感謝の笑みを浮かべた。
「――くんは、本当に優しいね。それに、なんだか頼りになるっていうか……」
その時、図書室の入口に、すっと影が差した。暁美ほむらだった。彼女は二人を一瞥すると、まっすぐに郷土史の棚へと向かう。そして、何気ない素振りで一冊の本を手に取ると、すぐに踵を返そうとした。
「あ、暁美さん!」
まどかが声をかける。ほむらはぴくりと肩を揺らし、ゆっくりと振り返った。
「……何かしら、鹿目さん」
その声は平坦で、感情の起伏を感じさせない。
「あのね、もし良かったら、レポートのこと、一緒に情報交換しない? 暁美さん、物知りだから」
まどかの屈託のない誘いに、ほむらは一瞬、戸惑ったような表情を見せた。その瞳が、まどかの隣にいる――を捉え、微かに揺れる。
「……遠慮しておくわ。私は、一人で調べる方が性に合っているから」
そう言って、ほむらは静かに図書室を出て行った。残されたまどかは、少し残念そうに眉を下げた。
「そっか……暁美さん、いつも一人だよね。なんだか、寂しくないのかな」
――は、何も言わずにまどかの隣に座り直し、再び本に目を落とす。だが、その心には、先ほどのほむらの、一瞬だけ揺らいだ瞳の奥に隠された感情が、小さな棘のように引っかかっていた。
数日後、――は奇妙な感覚に囚われるようになった。学校からの帰り道、いつも通るはずの商店街が、まるで初めて来た場所のように感じられたり、昨日話したはずのクラスメイトの言葉が、今日になると微妙に食い違っていたりするのだ。
気のせいだろうか。そう思おうとしても、胸の奥で何かが囁く。「これは、おかしい」と。
特に気になったのは、街の人々の会話だった。誰もが穏やかで、満ち足りた表情をしている。
しかし、その会話にはどこか深みがなく、まるで事前に用意された台本を読んでいるかのように空虚に響くことがあった。
――は、その違和感の正体を探ろうと、より注意深く周囲を観察するようになった。
そんなある日、まどかが珍しく浮かない顔をしているのに気づいた。昼休み、中庭のベンチで一人、ぼんやりと空を見上げている。
「まどかー、どうしたの? 何かあった?」
いつの間にか隣に来ていたクラスメイトの美樹さやかが、心配そうに声をかける。
「ううん、なんでもないの。ただ……時々、すごく大切な何かを忘れているような気がして……胸が苦しくなるんだ」
まどかは力なく微笑む。その笑顔はいつもの太陽のような明るさを潜め、儚げで、すぐに消えてしまいそうだった。
「……難しいこと考えすぎなんじゃない? ほら、購買の新作パン、美味しかったよ! 一緒に食べよ!」
さやかは努めて明るく振る舞い、まどかの気を紛らわせようとする。
――は、何も言わずに二人の傍に寄り添い、そっとまどかの背中を撫でた。温かい体温が伝わってくる。まどかは、――のその無言の優しさに、少しだけ強張っていた肩の力を抜いたように見えた。
その様子を、校舎の窓から暁美ほむらが見下ろしていた。彼女の表情は窺い知れない。ただ、まどかと――が触れ合うその瞬間、彼女の唇が微かに引き結ばれたのを、誰も気づくことはなかった。
ほむらは、この作り変えられた世界に、――という存在が入り込むことなど想定していなかった。本来ならば、ここにいるはずのないイレギュラー。
その存在が、静かに、しかし確実に、彼女の完璧なはずだった箱庭に波紋を広げ始めていることを、ほむらは感じ取っていた。
そして、その波紋の中心にいる――が、まどかの記憶を不用意に刺激するのではないかと、言いようのない焦燥感に駆られていた。
同時に、ほむらは理解しがたい感情にも囚われていた。――の、誰に対しても臆することなく向けられる真っ直ぐな優しさ。それは、孤独な戦いを続けてきた自分には眩しすぎるものであり、同時に、心のどこかで渇望していたものなのかもしれない。
――がまどかに向ける眼差しは、純粋な友愛だけではない何かを含んでいるように見えた。
そして、まどかもまた、――に特別な信頼を寄せている。その光景は、ほむらの胸を静かに締め付けた。
「まどかを守る為なら、私はどんな障害だって排除する」
かつて、何度も繰り返した誓い。
しかし、目の前にいる――は、明確な敵意を持っているわけではない。ただ、あまりにも自然に、あまりにも優しく、この世界の綻びに気づき始めている。
そして、ほむら自身もまた、そのイレギュラーな存在から、目が離せなくなっているのだった。
***
――の日常に潜む違和感は、日に日にその輪郭を濃くしていった。それは、まるで薄皮を一枚ずつ剥いでいくように、世界の歪みを顕にしていく。
ある日の美術の授業。課題は「大切なもの」をテーマにした自由制作だった。まどかは、スケッチブックに柔らかなタッチで、弓と矢を持つ少女の姿を描き始めていた。
「……あれ? 私、どうしてこんな絵を……」
まどかは不思議そうに首を傾げる。隣で――は、その絵から目が離せなかった。胸の奥が、きゅっと締め付けられるような感覚。
既視感、という言葉では片付けられない、もっと根源的な何かを揺さぶられるような気がした。
「鹿目さん、素敵な絵だね。モデルは誰かいるの?」
クラスメイトの一人が声をかける。
「ううん、なんだか、自然と手が動いちゃって……。でも、この絵、なんだろう……。どこかで見た事があるような、ないような……」
まどかの言葉は、霧の中に答えを探すように頼りない。
その時、教室の隅でキャンバスに向かっていた暁美ほむらの筆が、ぴたりと止まった。
彼女の視線は、まどかのスケッチブックに釘付けになっている。その表情は硬く、まるで何か恐ろしいものを見るかのように、瞳の奥に深い動揺が走っていた。
しかし、それも一瞬のこと。すぐにいつもの無表情に戻り、再び自分の作品に没頭し始めた。
――は、ほむらのその一瞬の動揺を見逃さなかった。まどかの描いた少女の絵と、ほむらの反応。そこには、何か繋がりがあるのではないか。――の探求心は、さらに強く刺激された。
放課後、――は一人、図書室で「魔法」や「奇跡」といったキーワードで本を探していた。
荒唐無稽だと分かっていながらも、あの少女の絵、そして世界の違和感が、――を非現実的な領域へと引き寄せていたのだ。
暫く探したが手がかりになりそうな本は見つからない、書架から手を離そうとした瞬間、一冊の古びた本が目に留まった。背表紙には何も書かれていない、黒革の装丁の本。
まるで誰にも見つからないように、棚の奥深くに押し込まれていた。
――は、何かに導かれるようにその本を手に取る。ページをめくると、そこには不可解な図形や、読めない文字でびっしりと何かが記されていた。そして、一枚だけ挟まっていた栞には、震えるような文字でこう書かれていた。
「――彼女を救うために、何度でも繰り返す。たとえ、それが悪魔の所業だとしても――」
その言葉を目にした瞬間、――の脳裏に、断片的だった悪夢の映像が鮮明にフラッシュバックした。炎、絶望、そして赤い瞳――。
「うっ……!」
思わず呻き声を上げ、本を取り落とす。心臓が激しく鼓動し、冷や汗が背中を伝った。
「大丈夫?」
静かな声と共に、誰かがそっと肩に手を置いた。振り返ると、そこにいたのは暁美ほむらだった。いつものように無表情だったが、その瞳の奥には、僅かな心配の色と、鋭い警戒心が混じり合っているように見えた。
「……顔色が悪いわ。何かあったの?」
ほむらは、床に落ちた黒革の本を一瞥し、そして再び――の顔を見つめる。その視線は、まるで心の中を見透かそうとしているかのようだ。
――は、言葉が出なかった。今見た言葉、そして蘇った悪夢の断片。それらが、ほむらと無関係だとは思えなかった。
「あまり、深入りしない方がいい」
ほむらは、低い声で言った。それは忠告とも、脅しとも取れる響きを持っていた。
「知らない方がいいこともある。……あなたのためにも」
そう言って、ほむらは落ちていた本を拾い上げると、元の場所よりもさらに奥深く、決して誰の目にも触れないような場所へと押し込んだ。そして、何も言わずに図書室を出て行こうとする。
――は、咄嗟にほむらの腕を掴んでいた。その行動は、ほとんど無意識だった。
ほむらは驚いたように振り返り、掴まれた自分の腕と、――の顔を交互に見る。その瞳には、初めて見る明確な動揺が浮かんでいた。
――は、言葉ではなく、その強い眼差しで訴えかけていた。
その真っ直ぐな視線に、ほむらは一瞬、たじろいだように見えた。
「……離して」
ほむらの声は、微かに震えていた。
「あなたには、関係ないことよ」
関係ある、と――は強く反論する。まどかが時折見せる悲しげな表情も、ほむらが纏う深い孤独も、この世界の歪みも、全てが繋がっているような気がしてならないのだ。
そして、自分もまた、その渦の中心に巻き込まれ始めていることを、――は自覚していた。
もし……もし、あなたが何か苦しんでいるのなら、私にも手伝えることがあるかもしれない。
あなたはいつの間にか、そう口にしていた。
――の優しさと積極性は、時に無謀なほど真っ直ぐに相手へと向かう。
ほむらは、――のその純粋な申し出に、一瞬、息を呑んだように見えた。彼女の黒い瞳が大きく見開かれ、そこには驚きと、戸惑いと、そしてほんの僅かな、救いを求めるような光が宿ったように――には感じられた。
しかし、それも束の間。ほむらは再び仮面を被るように無表情に戻ると、強い力で――の手を振り払った。
「余計な詮索はしないで。……これは、警告よ」
冷たく言い放ち、今度こそほむらは足早に図書室を去っていった。
一人残された――は、掴まれた腕に残るほむらの微かな温もりと、彼女が放った冷たい言葉のギャップに、ただ立ち尽くすしかなかった。
だが、――の心は折れていなかった。むしろ、ほむらのあの反応は、自分の推測が的を射ていることの証左のように思えた。そして、彼女の瞳の奥に見た一瞬の揺らぎが、――に諦めてはいけないと強く訴えかけていた。
大好きなまどかの笑顔を守りたい。そして、どこか苦しんでいるように見えるほむらを、独りにはしておけない。
――の決意は、この偽りの箱庭の中で、より一層固いものとなっていた。たとえそれが、どんな真実を暴き出すことになったとしても。
図書室での一件以来、――は暁美ほむらの言葉を胸に刻みつつも、諦めることなく真相を探る決意を固めていた。だが、一人で闇雲に動いても、ほむらの警戒を強めるだけだ。――は、もっと慎重に、そして多角的に情報を集める必要があると感じていた。
まず――が注目したのは、クラスの中でも特に活発で、情報通のように見える佐倉杏子だった。彼女はいつもどこか気だるげで、授業もサボりがちだが、時折見せる鋭い眼光や、誰にも媚びない態度は、何かを知っている者のそれのように――には思えた。
ある日の昼休み、――は校舎裏で一人、ポッキーを齧っている杏子に声をかけた。
「佐倉さん、少しお話いいですか?」
杏子は意外そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「ん? あんたがアタシに何の用だよ。ま、暇だからいいけどさ」
――は、単刀直入に切り出した。この世界の違和感、時折見る悪夢、そして暁美ほむらの謎めいた態度について。
杏子は、ポッキーを咥えたまま、面白そうに――の話を聞いていた。そして、一通り話し終えると、ふっと息を吐いた。
「へぇ……あんた、なかなか鋭いじゃん。でもさ、知らない方が幸せなことってのもあんだぜ?」
その言葉は、以前ほむらに言われたことと重なった。
でも、自分は知りたい
――の真剣な眼差しに、杏子は少しだけ表情を和らげた。
「……まあ、確かにこの街はちょっと変だよな。平和すぎて、逆に気味が悪いくらいだ。けど、アタシも詳しいことは知らねえよ。ただ……暁美ほむらって奴は、相当ヤバいモンを隠してる。そんくらいは分かる」
そう言って、杏子は再びポッキーを齧り始める。それ以上の情報を引き出すのは難しいと――は感じたが、ほむらへの警戒感を共有できただけでも収穫だった。
次に――が話を聞こうと思ったのは、三年生の巴マミだった。彼女は優雅で面倒見が良く、下級生からも慕われている。そして何より、あの悪夢の中で見た、華麗に戦う魔法少女の姿と、どこかマミの面影が重なる気がしたのだ。
放課後の誰もいない茶道室。マミは、穏やかな所作でお茶を点てていた。
「あら、――さん。どうしたのかしら、珍しいわね」
マミは、――の来訪を優しく迎え入れた。――は、杏子にしたのと同じように、この世界の違和感について、そして時折見る夢について話した。特に、夢の中で見た「魔法少女」のイメージを伝えると、マミの表情が微かに曇った。
「魔法少女……。なんだか、懐かしい響きね」
マミは、遠い目をして呟いた。
「でも、そんなものは、おとぎ話の世界のことよ。この平和な見滝原市には、必要ないものだわ」
その言葉は穏やかだったが、どこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。――は、マミもまた、何かを心の奥底に封じ込めているのではないかと感じた。しかし、彼女の鉄壁のような笑顔の前では、それ以上踏み込むことはできなかった。
――は、深入りを避けて話題を変えた。マミは、ほっとしたような、それでいて少し寂しそうな、複雑な表情を浮かべていた。
そして最後に、――は美樹さやかに話を聞くことにした。さやかは、まどかの親友であり、正義感が強く、竹を割ったような性格だ。そして、時折見せる影のある表情が、――には気になっていた。
ある雨の日の放課後、誰もいない音楽室でピアノを弾いているさやかを見つけた。そのメロディはどこか物悲しく、彼女の心情を表しているかのようだった。
――が声をかけると、さやかは驚いたように振り返り、そして少し気まずそうに笑った。
「……なんだ、――ね。……別に、ちょっと感傷に浸ってただけだよ」
――は、意を決して切り出した。この世界の違和感、悪夢、そしてまどかが時折見せる悲しげな表情について。そして、暁美ほむらが何かを隠しているのではないか、と。
すると、さやかの表情が一変した。それまでの快活さは消え、真剣で、どこか苦しげな眼差しで――を見つめた。
「……あんた、どこまで知ってるの?」
その声は低く、緊張を孕んでいた。――は、自分が感じていること、杏子やマミと話したことを正直に伝えた。
さやかはしばらく黙り込んでいたが、やがて重い口を開いた。
「……いいよ、教えてあげる。あんたなら、もしかしたら……」
さやかは深呼吸を一つすると、信じられないような話を語り始めた。
「ここはね、暁美ほむらが作った結界の中だよ。あいつは、まどかを……鹿目まどかを円環の理の運命から引き剥がして、自分の都合のいい世界に閉じ込めてるんだ」
円環の理、魔法少女、魔女、ワルプルギスの夜、そしてほむらが繰り返した時間。さやかの口から語られる言葉は、――の想像を遥かに超える、壮絶な真実だった。
「私たちは、一度死んだり、魔女になったりした魔法少女の、いわば抜け殻みたいなもの。ほむらの結界の中で、都合よく記憶を書き換えられて、平和な日常を演じさせられてるってわけ」
さやかの声には、諦めと、怒りと、そして深い悲しみが滲んでいた。
「まどかは……全ての魔法少女を救うために、概念になったんだ。神様みたいなもんかな。それを、ほむらは……あいつ、悪魔になっちゃったんだよ。まどかを独り占めするために」
――は、言葉を失った。あまりにも衝撃的な内容に、頭が真っ白になる。今まで感じていた世界の違和感の全てが、恐ろしいパズルのピースのように組み合わさっていく。
さやかは、悔しそうに唇を噛んだ。
「ほむらは、まどかの記憶が戻ることを何よりも恐れてる。まどかが円環の理としての力を取り戻したら、この結界は崩壊するからね。だから、あんたも気をつけて。ほむらは、あんたのことも監視してるはず」
全ての真相を知った――の心は、激しく揺さぶられた。絶望的な状況。しかし、同時に、強い使命感のようなものが湧き上がってくるのを感じた。
まどかを、そして囚われている皆を、この偽りの箱庭から救い出さなければならない。
でも、どうすれば? 悪魔となったほむらに、どう立ち向かえばいいのか?
何か方法はないのか
――の声には、切実な響きが込められていた。
さやかは、――のその真剣な眼差しを見て、少しだけ驚いたような顔をした。そして、ふっと自嘲気味に笑った。
「方法ねぇ……。正直、私にも分からないよ。でも……あんたみたいな、何も知らないはずのイレギュラーが現れたってこと自体が、何かのきっかけになるのかもしれないね」
さやかは、窓の外の雨を見つめながら言った。
「ただ、一つだけ言えるのは、迂闊に動くのは危険って事。暁美ほむらは、それだけ強大な力を持ってる。そして……あいつは、まどかのためなら、本当に何でもする」
――は、さやかの言葉を胸に刻み込んだ。危険は承知の上だ。それでも、何もしないという選択肢は、もはや――の中にはなかった。
大好きなまどかの、本当の笑顔を取り戻したい。
孤独な戦いを続けるほむらを、もし可能なら、その苦しみから解放してあげたい。
そして、さやかや杏子、マミ、囚われている全ての人々を……。
――は、この絶望的な状況の中で、わずかな希望の光を探し始めた。
それは、あまりにも無謀で、困難な道のりになるだろう。しかし、――の心の中には、持ち前の積極性と優しさが、静かに、しかし確かな炎となって燃え始めていた。
まずは、仲間が必要だ。そして、ほむらの目的と、彼女の心の奥底にある本当の願いを、もっと深く知る必要がある。
――の戦いは、まだ始まったばかりだった。