まどマギキャラクターと貴方   作:shinshinta

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新人魔法少女の貴方と、貴方を一人前にする為に厳しく指導をする暁美ほむらのお話です


短編
暁美ほむらは報われない


 

 

わかっている……つもりだった。あなたが一人前の魔法少女になるために、私がどれほど厳しく接してきたか。

 

全てはあなたを守るため、この過酷な運命の中で生き残らせるため。そう、信じていた。

 

 

 

あの日も、あなたの動きは私の要求する水準には程遠かった。

 

魔力の制御も、何度指摘すれば改善されるのか。

私は内心で沸騰しそうな焦燥を押し殺し、静かに、だが一分の隙も見せない声であなたに問いかけた。

 

「……なぜ出来ないのか、説明できる?」

 

あなたの顔から血の気が引いていくのが見て取れた。何か答えようと口を開きかけては、言葉にならないまま閉じる。その躊躇いが、私には許容できないものだった。

 

 

「はぁ……思考が追いついていないのね。それとも、理解することを放棄したのかしら。どちらにしても、魔法少女として致命的よ」

 

 

私は一歩、あなたに近づく。あなたは無意識に後ずさった。

 

 

「これまでの訓練結果を振り返ってみましょう。あなたの成長速度は、他の魔法少女と比較して著しく低い。これは客観的な事実。……それについて、あなた自身の考えを教えて頂戴」

 

 

淡々とした私の声は、訓練場に冷たく響いた。あなたの肩が小さく震えている。

 

 

「感情論や言い訳は不要よ。必要なのは現状認識と、それに基づいた具体的な改善策。それすら提示できないというのなら……」

 

 

私はそこで言葉を切り、あなたの目を真っ直ぐに見据えた。その瞳の奥に揺らめく微かな希望の光を、見逃しはしなかったけれど、あえて無視した。

 

 

 

 

 

「…これ以上、あなたに時間を割くのは非効率的だと判断せざるを得ない。あなたは、魔法少女としての適性に欠けていると言わざるを得ないわ。残念だけれど」

 

 

 

 

 

 

あの訓練の後、一人になった部屋で、私は自分の発した言葉を反芻していた。

 

「なぜ出来ないのか」「思考が追いついていない」

「致命的」「非効率的」「適性に欠けている」

 

 

事実を突きつけたつもりだった。

 

でも、あなたのあの時の表情。凍りついたように動きを止め、瞳から急速に光が失われていく様が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

あれは指導だったのだろうか。それとも、ただの断罪だったのか。

 

私の冷静さは、あなたを追い詰めるための道具に過ぎなかったのではないか。

 

言いようのない不安と後悔が、じわじわと私の心を侵食し始める。今更かもしれない。でも、謝らなきゃ。

 

取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという恐怖に駆られ、謝罪のために、震える足であなたの部屋へ向かった。

 

そう思って、あなたの部屋へ向かった。

ドアをノックしても返事はない。

 

胸騒ぎがして、私は躊躇いながらもドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、見た。

 

部屋の中央で、静かに揺れる、あなたの姿を。

 

首には、ロープ。

 

足は、床についていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が止まった。呼吸ができない。理解が追いつかない。違う。何かの間違いだ。だって、あなたは、ついさっきまで……

 

「……なん……で……?」

 

か細い声が漏れた。返事など、あるはずもないのに。

 

ふらふらと近づき、あなたの足元に落ちていたノートに気がついた。あなたがいつも大切にしていた日記帳。震える手で拾い上げ、最初のページを開いた。

 

そこには、魔法少女になれた喜びと、私への無邪気な憧れが、弾けるような文字で綴られていた。

 

 

 

『今日から私も魔法少女!ほむらちゃんみたいに、カッコよくて強くて、みんなを守れる魔法少女になる!特訓は大変だけど、ほむらちゃんが教えてくれるから頑張れる!』

 

 

『初めて魔女の使い魔を倒せた!すっごく嬉しくて、ほむらちゃんも褒めてくれた!もっともっと強くなって、いつかほむらちゃんと肩を並べて戦いたい!』

 

 

 

 

 

ページをめくるたびに、胸が締め付けられる。こんなにも純粋な期待を、私は……

 

次のページからは、少しずつ影が差し始めていた。

 

 

 

 

『今日の特訓、ほむらちゃんの言葉がいつもより冷たかった。「あなたは他の子と比べて成長が遅い」って。分かってる。分かってるけど……やっぱりちょっと、辛い』

 

 

『最近、ほむらちゃんが私を見る目が怖い。きっと、私が何か間違ったことをしているんだと思う。私が弱いから、イライラさせてるんだ。ごめんなさい。もっと強くならなきゃ』

 

 

『眠れない夜が増えた。目を閉じると、ほむらちゃんの「なぜできないの?」っていう声が聞こえてくる。私、本当に魔法少女に向いてないのかもしれない。でも、諦めたくない。ほむらちゃんに認めてもらいたいから』

 

 

 

私の言葉が、ナイフのようにあなたの心を切り刻んでいたのだと、今更ながらに理解した。ページをめくる手が震え、鉛のように重くなる。

 

 

そして、最近の日付のページは、黒々とした絶望で塗りつぶされていた。

 

 

 

『もう無理かもしれない。何をやってもダメ。私はほむらちゃんの期待に応えられない。私は出来損ないなんだ』

 

『毎日が苦しい。特訓も、生きていることも。もう、楽になりたい。消えてしまいたい』

 

 

 

『ごめんなさい、ほむらちゃん。私に才能が無くて、私のせいでイライラさせてしまって、私が全部悪い、全部私のせいなんだ。私が駄目だから。ほむらちゃんは悪くない。ほむらちゃんは悪くないのに、私はほむらちゃんを嫌いになってる。本当に自分勝手、そんな自分が、大っ嫌いだ』

 

 

 

そして、最後の日付のページ。そこには、今日私が浴びせた言葉が形を変えて、何度も、何度も、力の限り書き殴られていた。

 

 

 

「何も出来ない」「何も考えれない」

「向いてない」「全て時間の無駄」

 

 

 

その文字の歪みが、あなたの絶望の深さを物語っていた。

 

「あ……あぁ……あああああああああっ!!」

 

日記が手から滑り落ち、私はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

私が殺した。

 

 

 

私が、この手で、あなたの希望を、あなたの未来を、あなたの命を奪った。

 

 

 

守りたかった?何を馬鹿な。

 

私はただ、自分の理想をあなたに押し付け、その重圧であなたを押し潰しただけ。この残酷な運命から救うどころか、私自身があなたにとっての最大の絶望になっていたなんて。

 

 

後悔。自責。絶望。

 

 

言葉にならない感情の濁流が、私を飲み込んでいく。あなたのいない部屋で、私はただ嗚咽を漏らすことしかできない。

 

あなたの明るかった笑顔、私を信じて見上げていた真っ直ぐな瞳、そして、最後に見た恐怖に歪んだ顔。

 

全てが私の脳裏で繰り返し再生され、心を抉る。

 

ああ、まただ。また、私は救えなかった。それどころか、最も残酷な形で、未来を閉ざしてしまった。何度繰り返しても、私はこの愚かな過ちを繰り返す。

 

 

 

もう、何も見たくない。何も聞きたくない。何も、感じたくない。

 

 

 

あなたのいないこの世界に、私が存在する意味なんて。

 

 

 

 

光が、遠のいていく。思考が、停止していく。

 

 

 

 

 

私の心は、もう、二度と浮上することはない。

 

 

 

 

 

 

深い、深い絶望の底で、あなたの名前を呼び続けることしかできないのだから。

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