モノクロームの月   作:hiro 

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バットマンが死んでおかしくなっているジョーカーをリドラーが連れ出す話。
以前書いた話を加筆修正しました。
※ご注意ください。
死ネタです。
バットマンが初めから死んでる設定です。


モノクロームの月1

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  バットマンが死んだ 。

 

そんなニュース や噂はこの ゴッサムにおいてよく流れる類のものである。だから俺も信じなかった。ほんの少し待てばまた、まるで何事もなかったかのように あのコウモリは姿を表すのだ。 だがその話が真実があると分かったのは ブルース・ウェイン が死亡したというニュースが 一週間後に流れたからだった。

バットマンの正体について 知っているのは 俺以外にいるだろうか。

ニュースは毎日のように強盗や殺人を伝えていた。

 あのコウモリが生きていようが死のうがこの町は決して変わることはない。 犯罪は総合的に見れば増えることも減ることもなく バットマンが現れる前も現れてからも そして死んでからも 変わることはないのだ。 頭のイカれた 自警団気取りのコウモリが生きていようが死のうが、はっきり言ってしまえば この町にも俺自身にも全く関係はない。

 この時俺は アーカムアサイラムにいた。 適切な治療を受けるため… のはずがなく 、ここは退屈だが案外居心地は良い。

壁を見つめながら1人思考をめぐらし、やがて俺自身が楽しめる謎を見つければいつでも出て行ける。

それにここにいれば情報には事欠かないのだ。 ひっきりなしに入っては出ていく マフィアやジャンキー崩れのおしゃべり、ゴッサムの狂人ども、 俺を楽しませてくれるアイディアや新しい謎、欲しい情報なんかは すぐに手に入る。 蛇の道は蛇 。

…もちろん、アイスバーグや街中に張り巡らした情報網や 手下を使ってセーフハウスにいる時だって 十分情報は 集められるのだが。

近くの間、俺はコウモリに関する死の情報やブルース・ウェインのニュースなどを 他の連中から聞いていた。

バットマンがいなくなったことにより ほんの少しばかり 町の勢力図は変わってくるかもしれない。やつがアーカムアサイラムに放り込んでいた連中はますます力をつけるか、 やつ自身に執着し事件を起こしていたような頭のイカれた連中は少しばかりおとなしくなるか。

 

 

 ーふと、あの道化の顔が思い浮かんだ。

奴はバットマンに異常なほど執着していた。

持っているもののすべてを捧げのように 計画を立てバットマンと対峙するの生きがいとする男。

やつは バットマンの正体に気がついていただろうか?

 

 頭に浮かんだそんな疑問を確かめたくなり俺はここを出て行くことにした。

もちろん脱走なんて馬鹿な真似はしない。

俺のやり方はもっとスマートだ。ほんの少し看守と楽しいおしゃべりをすれば 黙って俺の衣類を返し道を開けてくれる。

俺が脅迫しただって? 人聞きが悪い 。

楽しいおしゃべりの後にほんの少し家族のことを聞いただけさ。そうすれば青い顔して俺の服を返してくれたってわけだ。 後は話を聞いたやつが勝手に想像し …勝手に解釈しただけだ 。 実にスマートだろう ?

誰これ構わず人を殺しまくって 建物を破壊し、火の海にしてお祭り騒ぎで脱走するあの道化とはわけが違う。

最もそういった派手なものに憧れるバカは大勢いるが。

 

 アーカムの門を出て 見上げた空は相変わらず薄汚れた灰色をしている 。

州の毒物の規制 などあってないようなものだ。 工場の煙突は 光化学スモッグを 排出し続け、 毒物がたっぷり含んだ汚水を下水に流し続ける。 それが我らが愛するゴッサムである。

そういえばあの 道化は エースケミカルの 廃液タンクに 落ちて あの姿になった という話をしていた。 この話自体は 割と有名な話で 同じ話を違うパターンで 聞かされた連中は 山のようにいる。

 最も奴の話は 毎回辻褄があっておらず自分は不幸な身の上でコメディアンを目指していたが 悪党の悪巧みに巻き込まれ 廃液タンクに落ちたとか あるいは奴自身がギャング団のリーダーでバットマンと対峙した挙句落ちたとか、 そんな話は全く関係なく、肌と髪の色は生まれつきで見世物小屋 生まれ育ったなど … その内容は多岐にわたる。

 なんてことはない 。思いつきで即興の話を語り嘘ついて嘲笑っているだけにすぎない 。

そもそも 本当に廃液タンクなんかに落ちていたかどうかすら分からない。 やつの身の上も素性も何もか信用できるものなど何一つない 。聞くだけ意味のないおとぎ話のようなものだ 。

それでも やつの素性に興味がないと言えば、 嘘になるかもしれないが。

 

 門の前には、手下が車を止めて待っていた。

俺は郊外のセーフハウスに向かわせた。

室内はしばらく使わないうちに すっかりホコリがたまっていたが、街中に張り巡らした監視機能は正常に起動して、情報を集積し続けていた。

手下に掃除をさせるとコーヒーを買いに行かせる。

元々セーフハウス内に置いてあったコーヒーは すでに湿気で使い物にならなくなっておりとても口にできるものではない。

シャワーを浴びて着替える。 アーカムの職員が返した服はすでに あちらこちら破れ汚れており、もう着るにはばかられるものだった。

頭髪をドライヤーで乾かしコロンをつける。

 コーヒーの香ばしい匂いと苦味と酸味とポリフェノールとカフェインが淀んで曇っていた思考をやがてクリアなものに変えて行く。

  俺は目を細め液晶の画面を眺めた。

バットマン死亡時の状況。 ニュース。ゴッサム市警の公式記録と秘密裏に隠された情報。 死亡したバットマンの 死亡時間と生体情報。

ブルース・ウェイン死亡のニュース。 もちろん 死亡時の状況と 死亡時間 公式記録 さらには 葬儀に関する記録 。やつの息子たちに関する情報もだ。

その中から真実を探し出す 。

監視カメラと情報を照合していく。バットマンが死亡したその日も電子システムはしっかりと機能しておりその姿を捉えていた。

やはり、ゴッサム市警の情報は全く当てにならない 。死亡時刻・死亡場所は全くのでたらめだった。

 そもそも バットマンの正体すら明かされていないというのに、本物かどうかどう判断したというのか 。 単純に考えられるのはゴッサム市警の中に バットマンの正体を知る協力者がいるということだ 。今までやつがしてきたことを考えればその方が妥当だろう。

ゴッサムはどこもかしこも腐敗しまくっている 。

口を閉じさせ正体を覆い隠し真実を伏せてしまうには、 大した労力はかからないはずだ。

 特に奴の正体がブルース・ウェインだったのだから。

 

 監視カメラは嘘をつかない。

もちろん 人間が手を加えれば フェイク画像はいくらでも作り出せるが、その存在を知らなければ偽の画像など出てくるはずがない。

最後にバットマンと思われる人影が映っているそこは、すでに人の気配がなく寂れ切った廃工場だった。

 見間違えるはずがない。

背が高く痩せ細った人影 、揺れるテールコート、甲高い笑い声。

… ジョーカーだ 。

工場の爆破音、きらめく閃光、 騒々しい音楽、 サイケデリックな爆炎。 紙吹雪に風船、 煙突から生えたジェットコースター、 なぜだか工場から飛び出す悪夢のような蛇や動物やピエロのハリボテ。

何もかもがチープでバカバカしい 。

 新聞もニュースもその廃工場であった爆発を伝えてはいない。

覆い隠された真実はそこにある。

…気づいているものはいるだろうか。

 

 やつが殺したのか?

ジョーカーがバットマンを殺した?

… ジョーカーがバットマンの死に関係しているのは おそらく間違いがないだろう。

 

 やつがうっとりとしたように バットマンの話をするのを思い出した。

無邪気な子供のような無垢さで目を輝かせて話すのだ 。

やつをおびき出すために人間を次々と風船のように爆発していく計画や建物をドミノ倒しにする計画、 どうやって開発したのかまるでわからない 毒の魚をばらまいたり 解析不能な毒ガスや毒物をばらまいたり。

一見するとジョーカーの行動は 無計画で支離滅裂に見えるが 精密で完成されていて美しい。

これだけ 複雑な計画を立て、なおかつ専門知識を必要とする オリジナルの毒物を作り出す人間が狂っているはずがない。

繊細に編み込まれた計画 の一部が例えばバットマンによって崩されたとしても スペアの計画を一瞬でたて 行動に移すことができる。

けして気が狂っている人間がする行動ではない。

ジョーカーは狂ったふりをしているだけに過ぎない。

 

 ジョーカーという存在は、綿密な計画性も 今までになかったものを作り出す 創造性も さらには わずかな言葉や心理的誘導で他人を意のままに コントロールすることすらできる。

一体この男のどこが 狂っているというのだ。

 

 だが あのコウモリはそのことすらわかっていなかったかもしれない。

大真面目にヤツを救おうと アーカムに送り込んでは またすぐに脱走される。 しかも 派手に他の囚人たち精神疾患の患者たちを巻き込み、 周りを大混乱に陥れて大脱走する。 結果的に町の治安はもっと悪くなる。

俺の知ったことではないが。

バットマンの行動は結局ヤツの行動を肥大化させているだけに過ぎない。

そうして あのコウモリ はまたジョーカーを追いかけるのだ。

延々と繰り返されるいたちごっこは、 俺から見れば実にばかばかしい意味のないものだが、あの道化にとっては違うらしい。

ジョーカーが望んだことは大概すぐに成功してしまうそうだ。 … 確かに やつが作っている毒物を見れば その言葉は嘘でないのだろう 。

それが面白くないようだ 。

ナイフでさせばころりと死ぬし毒物をばらまけば大量に死ぬ。反撃してくる相手がいないというのは恐ろしく退屈らしい。 急所を刺せば死ぬのは当たり前だと思うが。

 

 幼い頃子供が スーパーヒーローを見るように 目をキラキラと輝かせ バットマンの話をする。

いやスーパーヒーローそのものだったのだろう。

どんなに刺しても死なない。 爆弾を作って仕掛けても、 罠を張り巡らせても 毒ガスや毒物を使っても。

決して死なない不死身のヒーロー…そんなものいるはずないだろう。

ジョーカーがどんな バットマンのことを ヒーローのように思っていたとしても、 事実奴は人間だ。

 

ジョーカーを哀れな狂人と思っていたバットマンと、 バットマンを不死身のスーパーヒーローだと思っていたジョーカー。

お互い認識の誤りだ。

 多方、ジョーカーがやりすぎてバットマンを殺してしまったのだろう。

何をしても決して死なない人間などいるものか。

 

 俺は残りのコーヒーを一気にのみほした。

既に冷めており、香りと酸味が舌に残った。

 

1度監視カメラの画像を閉じるとブルース・ウェインの 死亡のニュースの検索を始める 。

伝えられているニュースは 葬儀は身内でひそかに執り行ったというものであった。参列者・葬儀の時刻・場所・内容・墓地の場所・埋葬方法。 情報は特に隠されている様子はなく簡単に出てくる。

参列者の中にセリーナ・カイルの名前があった。

そういえば バットマンと付き合っていると絶えず噂があった。

…彼女は知っていたのだろう。 最も正体など知らず、ただ単にブルース・ウェインと繋がりがあっただけかもしれないが。

葬儀の様子は教会の監視カメラで確認ができた。

あちらこちらですすり泣く声がする。 ウェインの息子たちは全員参加している。

棺は顔の部分のみ開いており、故人に別れを告げることができたようだ。

教会のカメラの画像ではどうも拉致が開かない。

 やはりここは自分の目で確かめに行くしかないか。

葬儀は静かに始まり淡々と取り行われ 粛々と終了した。

…そこに勿論ジョーカーの影はなかった。だとするならば 、やつはバットマンの正体を知らなかったと考えるべきか。

パソコンの電源を落とし、革靴を履いて、セーフハウスを後にする。

 

 ウェインの敷地内にある 墓地に荒らされた形跡はない。

花が飾られて綺麗に整えられている 。

…だがここに ブルース・ウェインの死体は埋まっていないということに気がついた。

墓の周りの芝生は綺麗に短く刈り込まれていてた。

手入れはされているが毎日 家族が誰かしら 墓参りに来ていたのならば 墓の前の芝生はもっとハゲていても良いはずだ。

きっちり手入れこそされてはいるものの、毎日人が通ったような 形跡はない。

 この墓はダミーだ 。 …ならば本物の遺体はどこへ?

あらかじめ 荒らされることを前提に 別の場所に隠してあるのかもしくは ブルース・ウェインの死そのものが偽装であるのかのどちらかになる。

偽装されている可能性も出てきた。 だが正体を知るものはほぼいないであろうし、 偽装する理由が思い当たらない。 正体を知っていて狙ってくるものがいるのなら話は別だが。 監視カメラが 最後に映しているのは ジョーカーを追いかけるバットマンの姿だった。 ジョーカーがもし バットマンの正体を知っているとすれば、 墓を荒らしに来るのではないだろうか。 …いや ジョーカーでなくとも バットマンの正体を知る者がいれば 墓は 荒らされるだろう 。 ならば ダミーの墓を用意するというのはさほど不自然なことではないかもしれない 。

―死が偽装でないならば、 隠してあるのはおそらくコウモリの巣の中だ 。 いくら何でも潜入するにはハイリスクすぎる。

セリーナに直接情報を聞き出した方が早い。 とはいえ、もちろんそれ相応の見返りを用意しなければ彼女が応じるはずもなく、そちらも後回しにすることにした。

 

 まずは ジョーカーを探すこと。

話はそれからだ。 居場所の見当はついている。

俺は廃工場へと向かった。

 

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