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ー俺とジョーカーは毎日浜辺を散歩するー
それは俺たちの日課となっていた。
2人で浜辺を散歩して、ジョーカーが白い貝殻や珊瑚のかけらを持って帰る。そうしてそれを窓辺に飾る。
毎日増えてゆく白い骨のような貝殻。
骨の瓶を抱え、窓辺にもたれかかり外を眺めるジョーカー。
透明なガラスの瓶、白い骨、白い貝殻、白い珊瑚、白い肌のジョーカー。
…そうして散歩するようになってから2週間が経った。
ジョーカーの語彙はみるみると増えていった。 希薄だった表情はだんだんと増えてゆき、たまに笑うこともあった。かつてと同じ…とまでは行かないとしてもたまにはジョークが出ることもあった。
今日もまた俺はジョーカーを連れて浜辺の散歩へと出る。
相変わらずの灰色の海。 白い貝殻を拾うジョーカー。
「 また拾ったのか?」
「 ああ、 バッツの骨と同じ色だろう?」
「 骨じゃない、ただの貝殻だ。」
俺は久々にその言葉を口にした。
「 …そんなことわかってる。だけどオレは本当はバッツのすべてが欲しかった。腕の骨だけじゃない。肉も骨も脳みそも心臓も内臓も髪も爪も血の一滴だって残さず欲しかった。だけど俺の手元にはバットマンの腕だけ。こんなのあんまりだろ … オレはひとかけら残さずバッツのものなのに。肉も骨も脳みそも心臓も内臓も髪も爪も血の一滴だって 全部全部、バッツのものなのに…」
自分が死んだ男のものだなんてなんて馬鹿げた発想だろう。
― だいたいお前が殺したんだろ― 俺はそう言ってやりたかった。
「バカなことを言ってないで帰るぞ」
そう言うと強くジョーカーの手を引っ張って家路へとついた。
夕食後、時間があれば2人で映画を見る。
ちゃんと会話が成り立つようになってからは、こうして一緒に映画を見る機会が増えた。
「 何がいい?」
「 これにする」
「 フェリーニの『道』か古典映画だな」
ジョーカーが選んだのはフレデリコ•フェリーニの『道』だった。
モノクロのイタリア映画である。
主人公はザンパノという男とジェルソミーナという少し知的障害がある設定の少女である。 ザンパノはどうしようもない男だった。 大道芸人ではあるがその芸というのが力任せに鎖を引きちぎるという とても芸とは呼べないような代物だ。 乱暴で無芸で愚かさを絵に書いたような男だ。 そんな男に ジェルソミーナは1万リラで売られる。 少女はそんな環境であっても朗らかで変わらない。 トランペットを吹き朗らかに話すジェルソミーナ。やがて2人は別の大道芸人の一団と合流する。その一団の中の一人の男とジェルソミーナが仲良くなったのが気に入らないザンパノは相手の男を殺してしまう。 それ以来 ジェルソミーナは 心を壊してしまい 死んだその時の話しかしなくなる。「変よ。彼が動かないのザンパノ」 やがて熱を出し体調を崩したジェルソミーナをザンパノは 海辺の教会に置き去りにして行ってしまう。 季節は巡りザンパノは再び教会を訪れる。 そしてシスターの口からジェルソミーナが そのまま 死んでしまったことを知る。
浜辺でうつぶせて泣き崩れるザンパノ。 物語はそこで終わる。
愚かな男が感じていたのは支配欲だろうか、愛情だろうか。
自分自身でもわからぬままジェルソミーナを失ってしまったのだろう。
ストーリーは淡々と進んで行く。
波は男の泣き声をかき消し物語は終わる。
「 なあ エドワード。 これってずっとモノクロの映画だっけ? 確かオレの記憶では途中でカラーになってそれから 最後の海のシーンでまたモノクロになったような気がするんだが」
「…何を言ってるんだ? これはモノクロ映画だ」
「 そうだっけ? 確かジェルソミーナが草原ではしゃいでいるシーンやトランペットを吹くシーンなんかはカラーだったような気がするんだが。それでまた 最後の方はモノクロに戻っちまうんだ」
「 …それはお前の心象が関係しているせいだろう。人間の脳というものは まず視覚情報が目から入り脳で処理される。 その時に映像の補正が入る。 例えば 空を飛ぶカモメなどは 本来ならば あの青色を反射して青く染まっているはずだが目の補正が入り白く修正される。 同じ薄いグレーの色が白い画面では黒く、黒い画面では 白っぽく見えるのと同じ現象だ。これは 脳内の補色などによって 色が違って見えるのと同じ現象になる。そうして脳が補正したものを人間は認知する。 認知とは脳によって補正が入った状態である。 さらにそこに 心理状況や考え方が入りさらに脳は補正をかける。 認識とはそういった状態だ。人間が正しく認識しているつもりでも無意識に 脳は二重に嘘をついている。 だから物事を正しく見るのは極めて困難なことだ」
ジョーカーは目をパチクリとさせた。
「 …さすがリドラー大先生。 何でもよく知ってるな」
「 当然!俺を誰だと思ってるんだ。お前のように思い込みの激しい人間は 特に認識を誤りやすいからな」
「 お前は 間違えないのかリドラー?」
「 もちろん。お前と違って物事を正しく判断できる」
「 …大した自信だな。 だけどな リドラーお前が思っているほど認識っていうやつは物事を歪めているわけじゃない。朗らかなシーンは 優しい色が付き、恋するシーンはバラ色に染まる。青い空に緑萌える草原。 笑い声はキラキラとした光になる。確かに色彩学的には間違いかもしれないが それは情緒や心理状況を理解する上では お前が思っているよりずっと大きな力を発揮するんだぜ」
「 ばかばかしい! 感情に左右され物事を正しく理解できていないだけだろう」
ジョーカーは深くため息をついた。
「… お前にはわかんねえか。 オレの灰色だった世界に色をつけてくれたのは バットマンだ。 世界が極彩色に変わり全てが意味を持った経験なんて、エディにはねえだろうし。お前、誰かを自分自身より愛したことなんかねえだろ」
「…バカなことを言ってないで、もう寝ろ !」
俺はジョーカーを寝室へ追いやった。
窓からほんのり月明かりが差し込む。
大きな白い満月が寝室全体をうっすらと照らしていた。
「 なあ エドワード… 月の影ってさコウモリの形に見えないか」
「 月の海の部分はただの標高差によって太陽の光の反射率が変わっているだけに過ぎない。 そこに何かの意味を見出そうとするのは無意味だ」
「 …お前ってさ 本当に、つまんねえやつだな」
ジョーカーはわざとらしくため息をついた。
「 それにあの影の部分に何らかの形を見いだすのは国によっても違う。魔女の影や 女の横顔、 うさぎにカニの姿。他にも色々ある」
「よその国の人間がどう感じているかなんて関係ねえよ。 …あれはコウモリだ。 もう ゴッサムに本当のバットシグナルは出なくなっちまった。 あの 月の影こそが本物のバットシグナルだ。…オレの愛しのバットマンは、きっとあの月にいる。彼処でオレのことを待っている」
「 バカなことを言ってないで寝ろ」
俺はカーテンを閉めた。…嫌な予感がした。
バットマンが本当にあの月にいて、舞い降りてきてジョーカーをさらってしまう、そんな気がした。
いくら何でも馬鹿げた妄想だ。どうかしている 。
ジョーカーに口づけると俺もまたベッドに入った。
触れる肌は暖かい。死んだ人間に何ができる。妄想もいいところだ。
それよりも今後のことを考えよう。
謎は世界中にある 。ならば探偵になり謎を追うというのはどうだろう。 もう二度とゴッサムには戻らずジョーカーを連れて世界中を回る。俺が満足できるような謎はもたくさんあるはずだ。こいつだって拒みはしないだろう。 こいつとは 今までそれなりに色々あったが、今は良好な関係と言って差し障りはないだろうから。
青りんごの匂いがする。 そっと頬を撫でる。 暖かい肌は心地よい。
俺はジョーカーを抱きしめ、 眠りの中へと落ちていった。
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浜辺を2人で歩くのはすっかり習慣化してここに来てから約半月が経った。
浜辺に落ちている骨を探す。いつも手に持ってるだけの骨を拾って帰る。バッツの骨は何百もの 小さなかけらになって浜辺に流れ着く。毎日持って帰るから もうすでにかなりの量が家に溜まっている。りんごの木箱に入れて俺は大事にそれを保管していた。人間1人分の骨。それは一体どれぐらいあるんだろう。きっと木箱がいっぱいになれば全部揃うはずだ。
「 また拾ったのか?」
呆れたような顔 エドワード がしている。 きっと こいつに何を話しても理解されない。オレが骨だといえば また それを否定するに決まっている。
「 ああ、 バッツの骨と同じ色だろう?」
「 骨じゃない、ただの貝殻だ。」
ほらやっぱり。 きっとこいつに話しても何も変わらない。同じやり取りを繰り返すだけだ。だからこいつが否定するのを蒸し返したりする気はない。
「 …そんなことわかってる」
オレにとってバッツがどんなに大事だったかを説明したところでエドワードには理解できない。…オレはひとかけら残らずバッツのものなのに。
「バカなことを言ってないで帰るぞ」
あからさまに不快そうな顔したエドワードは俺の手を乱暴に掴んで家路にと着いた。
すぐに窓辺に置いてあるリンゴの木箱に骨のかけらを入れる。 拾えるだけ集めた骨のかけらは木箱をいっぱいにした。
小さなかけらは千はあるだろうか。
骨のかけらをかっちりと合わせる。綺麗に組み立てればバッツは帰ってくる。きっと 俺のところに帰ってきてくれる。あの時みたいに抱きしめてくれる。
骨を眺めているうちに いつのまにか夕方になっていたようだ。
エドワード の呼ぶ声がする。いつもと同じように夕食。決してうまいとは言えないがまずくもないこいつの手料理。いつものように風呂に入ってこいつに洗われて湯から上がればドライヤーをかけられる。変わらない日常がそこにはあった。
まだたったの半月なのに もうずっとこうしているような気がする。
風呂上がりに2人で映画を見る。 いつのまにかできた習慣。
俺は 古典映画の『道』を選んだ。色の無い世界が広がっている。
「なあ エドワード。 これってずっとモノクロの映画だっけ? 確かオレの記憶では途中でカラーになってそれから 最後の海のシーンでまたモノクロになったような気がするんだが」
「…何を言ってるんだ? これはモノクロ映画だ」
「 そうだっけ? 確かジェルソミーナが草原ではしゃいでいるシーンやトランペットを吹くシーンなんかはカラーだったような気がするんだが。それでまた 最後の方はモノクロに戻っちまうんだ」
「 …それはお前の心象が関係しているせいだろ」
そう言った後 エドワードは人間の認知と認識、心理的心象についてくどくどと説明した。
「 …さすがリドラー大先生。 何でもよく知ってるな」
「 当然!俺を誰だと思ってるんだ。お前のように思い込みの激しい人間は 特に認識を誤りやすいからな」
エドワード、だけどお前が正しく物事を認識しているようには思えないんだがな。
「 お前は 間違えないのかリドラー?」
「 もちろん。お前と違って物事を正しく判断できる」
そうエドワードは自信満々に答えた。
この男は身勝手でオレの言葉なんて聞いちゃいない。
「…バカなことを言ってないで、もう寝ろ!」
そう言ってベッドへと追いやられる。
窓から月明かりを差し込んでいる。
柔らかな光は 窓に月明かりを落とした。
ああ、そうか今日は満月だった。
外にコウモリの群れが飛んでいるので見えた。 オレは窓から外を眺めた。コウモリの群れは月へ向かって飛んで行く。
本物の月なんてゴッサムでは、まず見ることができない。ましてやこんな美しい満月は。金色の月に影ができている。
「 なあ エドワード… 月の影ってさコウモリの形に見えないか」
そうだ コウモリの形だ。 どうして気づかなかったのだろう。まるでそれはバットシグナルのようにコウモリの形を映し出しているではないか。どうして今まで気づかなかった。
「 月の海の部分はただの標高差によって太陽の光の反射率が変わっているだけに過ぎない。 そこに何かの意味を見出そうとするのは無意味だ」
「 …お前ってさ 本当に、つまんねえやつだな」
オレはため息をついた。どうしてこの男はすぐに理屈をこねて人の意見をねじ伏せようとするのか。
「 それにあの影の部分に何らかの形を見いだすのは国によっても違う。魔女の影や 女の横顔、 うさぎにカニの姿。他にも色々ある」
「よその国の人間がどう感じているかなんて関係ねえよ。 …あれはコウモリだ。 もう ゴッサムに本当のバットシグナルは出なくなっちまった。 あの月の影こそが本物のバットシグナルだ。…オレの愛しのバットマンは、きっとあの月にいる。彼処でオレのことを待っている」
どうして気づかなかったのだろう。月にはコウモリがいる。どうして気がつかなかった?あいつはあそこにいる。
「 バカなことを言ってないで寝ろ」
エドワードはカーテンを閉めた。月明かりが カーテンの隙間から差し込む。
やっと見つけた俺のバットマン。
隣から静かに寝息が聞こえてくる。 エドワードが寝静まったのを見て俺はベッドから出た。心臓が高鳴る。
……やっとバットマンに会える!
いつもあいつとのデートはとびっきりお洒落をしたもんだ。とびっきりの一張羅、三つ揃いの燕尾服、革の手袋、皮の靴、コサージュを胸に、アイメイク、ルージュ、今日はリボンタイにしようかそれともボウタイ?ネクタイってのも悪くないかもしれない。爪にはとびっきり美しい黒いマニキュア 、手元が隠れて見れないって?見えないところこそおしゃれをするのが 紳士っていうもんだろう。靴の上に白い乗馬用のスパッツ、革製の上等なものを。黒っぽい革靴が美しく見えるように。ピカピカに磨き上げて白でアクセントをつけるんだ。アイメイク はこだわってグラデーションを入れるのを忘れずに ルージュは血の色 のような濃い赤、ぼやけた印象にならないようにリップペンシルでしっかり唇をなぞってその上から何種類も色を重ねグロスで仕上げる、もちろん髪は綺麗にセットして。 とびっきり笑顔が映えるように。
あいつと戦ってるうちにメイクはドロドロになっちまうし服は破れて血まみれ…構うものか、あいつだってオレのためにきっちり着込んで来ているんだから。
オレはエドワードの方を見た。柔らかそうな赤毛がカーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされている。わずかな寝息を立て胸元がかすかに上下している。そっと髪に触れた。 きっとエドワードは俺がいなくなっても何も変わらず暮らしてゆくのだろう。気晴らしの旅行だと言っていたから、またゴッサムに戻るのかもしれない。あるいは戻らずどこか違うところで生きていくのかもしれない。
こいつなら1人でどこででもうまくやっていくだろう。 バットマンとの知恵比べがなくなってしまって少々退屈するかもしれないが、それ以外は何一つ変わらないのだろう。
2人で浜辺を毎日歩いて、それからあんまり美味しくもないパスタ。ボローニャ風スパゲッティの甘ったるいミートソース。風呂でゴシゴシ体を洗われて、ドライヤーをかけるこいつの指先。お休みのキス、たわいのないおしゃべり。
それがなくなってもエドワードはきっと何も変わらないだろう。この男は謎さえあれば良い。きっとそのうちここを出てゴッサムに戻るか、それともまた全然違う場所に一人で行ってしまうのだろう。
俺はそっと額にキスをした。
窓辺に置いてあったリンゴの箱いっぱいの骨と瓶をオレは抱え上げる。
窓の外にまるで誘うかのようにコウモリが傾いている。
あいつに会いに行くのに、メイクもとびっきりの上等な服も靴も何も用意できないけれどもう構わなかった。
音を立てないように扉を開け家を後にした。
コウモリが飛んで行く方向に俺とは走り出した。向かうべきところは分かっている。 バットマンの血と肉と心臓があるところ。あいつの魂があるところ。
家からはそう遠くない距離だというのに箱と骨を抱え走ると、とても遠く感じられる。
心臓の音がする。 鼓動の音がする。
それは波の音によく似ている。
夜の海は所々に月明かりが反射し、高い波はまるでバットマンがたくさんいるかのように見えた。
コウモリたちは 月に向かって飛んで行く。
月がオレを見ている。いいや違う。 月からバットマンが俺を見ているんだ。
待っててくれダーリン、すぐに組み立てるから。
俺はリンゴ箱をひっくり返した。瓶の蓋を開け中の骨も全部ぶちまける。
砂浜の上、月明かりの下で骨が白く輝いた。
心臓の音がする。血液の流れる音だ。
…バットマンの心臓 骨 血と肉とそれから魂…
海が高くせり上がる。
オレは後ろを振り向いた。そこには バットマンがいた。 海に溶けたその肉体が俺に向かって覆いかぶさる。
月明かりは バットシグナル…… いいや違う胸のバットマークだ。
魂はそこにあった。
金色の光は波に溶けバットマンの肉体となり魂となって俺を抱きしめる。
あぁ、なんて力強い抱擁。
あの日のように強く抱きしめられ口から泡を吐き出し、バットマンの魂に肉体に包まれるのを感じた。
バッツィ…バッツィ……会いたかった、オレのダーリン…
オレたちずっと共にあり続けるんだろう……
やっと1つになったんだよな……ダーリン
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夜明けの黎明。
ほんの少し明るくなった東の空と鳥たちの鳴き声に朝は始まる。
…鳥の声。いや違う、これはコウモリの声だ!
俺は飛び起きた。汗でびっしょりと体が冷たい。隣で寝ていたはずのジョーカーの姿が見えない。
「… ジョーカー?」
考えすぎだ。きっとトイレにでも行っているだけに違いない。
「 …ジョーカーいるんだろ?」
家の中に人の気配はない。
「 ジョーカー どこだ? 返事をしろジョーカー!」
玄関の扉がほんの少し開いている。 …浜辺だ。俺は直感的にそう思った。
月は寝る前に見た時よりもはるか西の方へと移動している。
――白い月、色のない月。
空はだんだんと白んで来て、道に足跡が見える。
不安ばかりが肥大してゆく。月はより広く大きく見えた。
海岸の冷たい潮風。波の音、カモメの鳴き声。 砂浜の上に残る足跡。
「ジョーカー… ジョーカー…… ジョーカー !!」
砂浜の上に白い塊が見える。違うそんなはずない。
…だが確かにそれはジョーカー だった。
まだ肌は柔らかく暖かく、だが血の気は失せていて白い肌はますます白く磁器のような色味へと変わっていた。 それは本当にビスクドールのように思えた。 手に白い貝を持ち夢見るような表情を浮かべて、 目を見開いて死んでいた。恐らく死因は溺死。
蛍石の色をしたガラスのような瞳が月を見上げていた。
…何故外に出た…何故? ……何故?…何故 ?
心臓がギシギシと痛む。息の吸い方が分からなくなる。
『… お前にはわかんねえか。 オレの灰色だった世界に色をつけてくれたのは バットマンだ。 世界が極彩色に変わり全てが意味を持った経験なんて、エディにはねえだろうし。 お前、誰かを自分自身より愛したことなんかねえだろ』
ジョーカーの言葉が耳にこだまする。
違う…違う…違う!違う!!違う!!!違う!!!!……違う…聞いてくれ ジョーカー‼
認識を誤っていたのは俺の方だ。
正しい認識なんてできていなかったのは俺の方だ。
…聞いてくれ ジョーカー‼
俺はただ ジョーカーに抱きつき、声を上げて泣いた。
波は男の泣き声をかき消し物語は終わる。
―空に浮かぶはモノクロームの月―