遊戯王とは無関係の(顔だけ)ミザエルそっくりの元奴隷のとある海賊の話。

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息抜きに投稿。
遊戯王ではタキオンが一番好きです。




リュウリュウの実モデル時空竜を食べた海賊の話

 

 

 それは竜とは呼ぶには余りにも機械的な風貌で、過去の伝説と称すにはあまりにも先進的な───未来兵器の如き怪物(ドラゴン)だった。

 

「なんなんだ、あの化け物は……!?」

「臆するな! あれは『人間狩り』から逃げ出した『脱兎(ラビット)』───悪魔の実の能力者だ!!」

「それならあの姿が賞品の悪魔の実の力だってのか!? 大砲を喰らってもビクともしないぞ!!」

 

 聖地マリージョアにて起きた、とある魚人による奴隷の解放騒動。

 その騒ぎに乗じて突如聖地へと急襲を仕掛けて来た紫黒の竜が、迎撃するため広場に集った兵士たちを赤熱化した両腕から放つ炎の円環で薙ぎ払っていく。

 

 業火に包まれたマリージョアの各地から止めどなく響き渡る悲鳴を他所に、聖地を守る任を命じられた兵士たちだったが……自分たちの持つ刀や銃器では傷一つつかず、軍艦相手にも対抗出来る砲撃が直撃してもまるで堪えた様子を見せない彼の竜の佇まいに、大半の兵士たちはその戦意を削がれて絶望と共に膝をつき、怪物が浮かぶ空をただただ見上げるばかりであった。

 

「駐屯地にいる海軍からの応援はまだか!?」

「逃げ出した奴隷たちの捕縛と天竜人の護衛に掛かり切りで、とても手を回せる状態ではないとのことです!!」

「ふざけるな! こんな化け物を我々だけで抑えきれる訳がないだろう!!」

 

 如何に相手が昨日まで奴隷だった存在と言えども、天竜人たちをして『宝』とまで称されたその悪魔の実の能力は、その奴隷という身分を補って余りある想像を絶するほどの規格外の力だった。

 

 常人では決して太刀打ち出来ない圧倒的な竜の膂力に、赤熱化した両腕から放たれる鉄をも容易に溶かす炎輪、そして───竜の能力者に相応しくその風貌に見合った光波の熱線は、その射線上に介在する全てを蒸発させ文字通り跡形もなく消し飛ばして見せた。

 

 数え切れないほどの天竜人たちが危機に晒され、既に甚大な被害を受けている現状を鑑みて、海軍本部から大将を筆頭に複数の中将たちまでもが派遣されていると報告を受けたが……それでも現状の兵力だけで、彼らの到着までに目の前の怪物をこの場に引き留め続ける事が出来るとは到底思えなかった。

 

 しかし───どうすればいいんだ、と、兵士たちを率いる男が兜の中で口を嚙み締めたその時、状況は一変する。

 

「ミザエル……?」

 

 解放された奴隷の一人であろう少女が、その背中にもう二人の女の奴隷たちを連れて広場に現れ、怪物を前に目を丸くして佇んでいたのだ。

 知り合いなのか? と、少女を視界に捉えた瞬間にピタリと動きを止めた怪物を目の当たりにして、男は肩で息をしながら訝し気にその光景を見据える。

 

 

「───良かった」

「え?」

 

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 ノイズが走った言葉と共に紫黒の粒子をその両翼から溢れさせた怪物は、瞬きの後には眼前の奴隷三人を抱えて聖地の空へと飛翔していく。

 その速度たるや、度々聖地に駆り出される海軍大将『黄猿』に匹敵するほどのものであり……男はこれほどの惨劇を齎した怪物が未だにその力の全てを出していなかったことに戦慄しつつ、空の彼方に消えていった怪物を見送ると腰が抜けたように地面にへたり込んでしまう。

 

「…………助かった、のか?」

 

 その疑問に答える者はおらず、緊張の糸が切れた男はそのまま意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ───生まれた時から私は奴隷だった。

 

 奴隷商の男曰く、左右で異なる色の眼をしていることが原因で両親から売り飛ばされた私は、物心ついた頃には人間屋(ヒューマンショップ)の牢獄に繋がれ、いつか来る競り(・・)のために最低限の食事を与えられその時を待ち続けるだけの日々を送っていた。

 牢の中の景色しか知らず、故に夢も希望もなくただただ与えられた質素な食事を噛み締めながら……天井のシミを数え続けるだけの空虚な日々を。

 

 だからこそ、その頃の私はこの牢から出られるなら自分の購入者が誰だって構わないと心底から考えていて……絶望に沈んだ顔で牢から連れ出される奴隷仲間たちのことを、どうしてここから解放されるのにそんな暗い表情をしているんだ、と常々疑問に思いながら送り出していた。

 

 そう───幼かった私は、余りにもこの世界に対して無知だったのだ。

 それを思い知らされたのが……牢に繋がれたままの方がマシだったと思い知ったあの時には、もう何もかもが手遅れだった。

 

 

『その奴隷を一億で買うえ~~~!!』

 

 

 オークションで私を買ったのは世界貴族と呼ばれる天竜人。

 人魚でもないただの人間の子供、それも男であるのに……本来ならあり得ない通常の二百倍の額で競り落とされた私は、皮肉にも両親から捨てられた原因でもあるこの『眼』を気に入られて天竜人の奴隷になった。

 当時天竜人と言う存在がどういう人種なのか分からず、降って湧いた大金を前に狂喜に打ち震える支配人に対して良かったな、と他人事のように思う余裕すら当時の私にはあった。

 

 僅か数時間後にはその余裕が絶望に覆ることなど露知らず───

 

 

『姉様、助けて! いや、止めて、来ないで……!!』

『その手を放せ無礼者! 我らは気高き九蛇の海賊、お主たち醜悪な者たちの奴隷になど決してならな───ッ!?』

『ソニア姉様! ハンコック姉様!!』

 

 

 

 ───そこからは、文字通り地獄だった。

 

 一緒に買われた奴隷姉妹たちと共に連れていかれた聖地にて、私は生涯拭うことの出来ない印をその背中に刻み付けられた。

 体の芯から焼き尽くすような痛みを受け、その時になって初めて恐怖と絶望が一身に襲い掛かって来たが、しかしもう地上に引き返すことなんて出来なくて……本当に、思い出したくもない四年間だった。

 

 人を人とも思わない、その日の当人の気分次第で呆気なく人が惨殺されていく毎日。

 慰め合っていた仲間たちが次に目覚めた時には肉塊となって隣に転がされているかもしれない恐怖。

 奴隷狩りというふざけた風習に幾度も放り投げられ、迫る刃と弾丸から命からがら逃げ続ける生き地獄。

 

 何度も楽になりたいと願った。

 夜の数だけ絶望して、数えきれないほど自分の舌を噛み切ろうと考えた。

 それでも必死になって生きようと藻掻き続けたのは、偏に───

 

 

『誰か、助けて……』

 

 

 ───切っ掛けは四年経ったある日のことだ。

 

 数年に一度開催される『人間狩り』で『脱兎(ラビット)』に選ばれてしまいもう後がなくなった私は、どうせ殺されるなら、と一か八かの大勝負に出た。

 

『奴隷が賞品を奪って逃走した! すぐに捕らえて騎士団の前に差し出せ!!』

 

 それは天竜人たちが『宝』とまで称した賞品───悪魔の実を強奪して、私自身が能力者となってこの窮地を切り抜けるという考えなしの無謀なもの。

 しかし只人の身では狩りに出張って来た『神の騎士団』の相手など務まるはずもなく、一縷の希望に縋って悪魔の実の可能性に賭ける以外に生き残る術がなかったのも事実だった。

 

 そして奴隷狩りで培った先読みの力(・・・・)を活かし追っ手の凶弾から逃げ切ってギリギリまで彼らを賞品から遠ざけ、見失った隙をついて賞品を奪取することに成功し間髪入れずにその果実に齧り付いて───

 

 ───私はその大勝負に勝ったんだ。

 

 

『何だこの能力は!? おれたちの攻撃が一切通じない!!?』

『神の騎士団に救援要請を! 既に計り知れない被害が出ているぞ!』

『聖地で奴隷解放の暴動が起きてるんだ! こちらに回せる人員が圧倒的に足りてない!!』

 

 

 悪魔の実の力は想像を遥かに超えるほどの圧倒的なものだった。

 動物系・幻獣種と称されるその能力は、自らの体をそのモデルとなった『時空竜(タキオン・ドラゴン)』と呼ばれる機械仕掛けの巨大な竜の姿へと変貌させ、警備の兵たちを一掃するほどの圧倒的な力を誇った。

 加えて天竜人たちが住むマリージョアで起きた暴動も重なり、どうにか『神の騎士団』の魔の手から逃れることが出来た私は『人間狩り』の舞台となった島を脱出してマリージョアへ急行し……逃げ出していた彼女たち(・・・・)を拾ってついにあの地獄から解放されたのだ。

 

 

 

 

 

 

「──────なるほどね、それが政府が躍起になって揉み消した『あの事件』の真相って訳だ」

「ええ」

「ハンコックたちが君に首ったけなのも当然だわ……カッコいいじゃん、ミザちゃん」

「……フィッシャー・タイガーの尽力あってこそですよ」

 

 本当にあの方には頭が上がらない、そう言葉を続けて差し出されたグラスに口を付ける。

 

 確かに悪魔の実の力は強大だったが、それでも『神の騎士団』相手にはまるで通じなかった。

 団員たちは素の戦闘能力もさることながら各々が悪魔の実の能力者であり、初見殺しにも等しいその力に翻弄されていた私は傍から見たら終始彼らに遊ばれているようにすら見えただろう。

 しかしその悪魔の実の能力を上回るほどに厄介だったのは……どれだけ痛手を与えても次の瞬間にはけろりと立ち上がって来る、あの人間離れした異常な回復力だった。

 

 体の何処を抉り吹き飛ばしても何事もなかったかのように塞がっていく傷を目の当たりにした時は、狩りを楽しむように徐々にコチラを追い込んでいくその姿も重なって悪夢以外の何物でもなく……もしフィッシャー・タイガーが聖地で暴動を起こさなかったら、間違いなく私は聖地から駆け付けた騎士団の増援に制圧されて世界貴族の面前で処刑されていたことだろう。

 ハンコックたちを無事『女ヶ島』に送り届けられたのも、彼が奴隷たちを解放して逃走の準備を整えてくれていたからに他ならない。

 

 故にこそ、彼にはどれだけ感謝してもし尽くせなくて……もう二度と会えないことが残念でならなかった。

 

「それで、その恩に報いるために奴隷解放なんて酔狂なことをやってるって訳ね」

「……それは誤解です、本当に」

「ふふ、私ミザちゃんのファンになっちゃいそう」

 

 その言葉にやめてください、と頭を振ってもシャッキーさんは気にも留めず笑っている。

 自分がからかわれていることを自覚しつつ、奴隷解放のことは本当にただの誤解なんだ、と昨今の自分の評判を思い返して思わず嘆息してしまう。

 

「海賊になるつもりなんて微塵もなかったのに……」

 

 スッ、とシャッキーさんが静かに机に置いた自分の手配書を見て、そこに記された金額の件も相俟って頭が痛くなってくるのは道理だった。

 

3億3860万───初頭手配(・・・・)でこれは高すぎるでしょう」

 

 その金額が『宝』を奪って逃げた奴隷をようやく見つけたから、という理由から来るものだとは重々承知しているが……それでもやり過ぎではないか、という考えは否めない。

 お陰様で賞金稼ぎとして細々と暮らしていた生活を追われ、今や『超新星』の一人として持て囃され逆に賞金稼ぎから狙われる日々を送ることになってしまった。

 しかもハンコックたちの九蛇への勧誘を断り続けていたせいで、結局海賊になるのではないか! と彼女から想定外の反感まで買ってしまう始末。

 

 政府が嫌がらせ目的で私にこの懸賞金を掛けたのなら大成功だよ、本当に。

 

「それだけ政府もミザちゃんを危険視してるってことでしょ? むしろ私個人としてはそれを踏まえた上でも安すぎると思うけど」

「素直には喜べませんね……」

「ちなみに私の情報網によると、今この島には億越えの賞金首がキミも含めて十人───あぁ、そう言えば彼ら(・・)も上陸したって聞いたから今は十二人かしら? その中でもミザちゃんは額で言ったら一番上よ、良かったじゃない」

「…………全然嬉しくないですし何なら聞きたくなかったです」

 

 いやに賞金稼ぎや海賊たちから目の敵にされていると思ったらそれが理由だったのか……賞金稼ぎとして生計を立てていた身からすれば、それは放っておける訳もないと納得出来てしまえるのが辛いところであり、今後彼らが私にどう言う風に接触して来るのかもある程度分かってしまい余計頭が痛くなった。

 

「私はただお二人に白ひげの動向を尋ねに来ただけなのに……」

「レイさんはここ半年くらい帰って来てないからねぇ……大方賭博場で有金使い果たして女のところにいるんでしょうけど」

 

 やっぱり気になる? これ、と机の上に開いたままの新聞の一面を差してシャッキーさんは言う。

 その言葉を受けて改めてニュース・クーから貰った新聞へ目を向ければ、そこには黒ひげなる海賊が白ひげ海賊団の二番隊隊長を手土産に七武海へ加盟したその後の旨が記されており……件の黒ひげと二番隊隊長とはあまり関わりのない私だが、白ひげ本人には過去に世話になって一時期船に乗っていたこともあるため、その内容は到底看過出来ないものであった。

 

「戦争が起こるかもしれない……いや、白ひげは家族を害する存在は相手が誰だろうと決して許さない以上、必ず起きます」

 

 ポートガス・D・エースの公開処刑───それが、海軍が全世界に向けて発表した今朝の新聞に記された内容だった。

 そんなことを、当然ながらあの白ひげが黙って見ているとは思えない。

 私と白ひげは親子の盃を交わした訳ではないが、それでもあの人は私にとってフィッシャー・タイガーに並ぶもう一人の大恩人だ。

 

 だからこそ、伝説の海賊相手に私如きが烏滸がましいとは重々承知しているが……何か白ひげの力になれることはないかと思い、私の知る限り最も情報通であるシャッキーさんと白ひげと関わりの深いレイリーさんの下をこうして訪れていたのだ。

 

「もし白ひげと関わりがあることを政府に知られたら今よりもっと有名になっちゃうわよ?」

「政府が私の生存を認知した以上、このまま野放しにして置くとは思えない……だったら私は、恩人のためにこの力を使いたい」

 

 もう二度と、恩を返せないまま死に別れることはしたくありません、と語る私に、シャッキーさんはジッとコチラを見据えたと思えば、直後に楽しそうな笑みを溢していた。

 

「やっぱり私、ミザちゃんのファンだわ───それなら、私の方でも白ひげ関連の情報は集めておくわね」

 

 何か分かったら連絡して上げる、と言うシャッキーさんに、私は心からの感謝を告げて彼女の店を後にした。

 

「一先ず賞金稼ぎたちに気を付けながらレイリーさんを探してみよう……賭博場が集まってるのは何番GRだったか……」

 

「ルフィさん、前から人が来られてますよ」

「お? わりいわりい! ありがとな、ブルック」

「ヨホホホ、お気になさらず」

 

 その道行で麦わら帽子を被った見覚えのある少年と動く骸骨がシャッキーさんの店へ入って行くのを目にしたが……骸骨が動く訳ないか、と彼らがぼったくられる心配をするよりも先に、内心で先ほどの光景が見間違えであることを祈るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「───それで、あの男はシャボンディ諸島に行くと言うたのだな? マーガレット」

「は、はい! 今朝の新聞を見て血相を変えるとあのお姿(・・・・)になられて空へ……」

「……大方、白ひげの動向についてレイリーたちに話を聞きに向かったのであろう。わらわの帰りも待てぬほどとは、余程切羽詰まっていると見える」

「申し訳ありません、蛇姫様! 私の力ではとても引き止めることが叶わず……」

「あれを止めろなどと言う無茶まで命じた覚えはない───此度の件は不問とする故、下がってよいぞ」

 

「…………まったく。つ、妻の帰りに出迎えの一つもなしとは、我が夫ながら? 聞いて呆れるというものよ」

「まだ夫婦はおろか恋人にすらなっておらにゅではにゃいか」

「言わないでニョン婆、姉様だって頑張ってるんだから」

「そうは言うがにゃソニア……毎度毎度蛇姫めの無茶に付き合わされるあやつを見てると、わしはもう不憫で不憫で仕方にゃく」

「ま、まぁ、彼も本心から姉様を嫌ってることはないだろうから…………多分」

 

「仕方あるまい、夫が帰って来た時のために馳走をたらふく用意して待っておるとしよう。ふふふ、わらわは何て出来た妻なのか───はっ!? まさかこれが……おしどり夫婦!?」

「違う」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 『超新星』の一人───麦わらのルフィによる天竜人(チャルロス聖)への暴行。

 それは瞬く間にシャボンディ諸島全域に波紋となって広がり、今や彼らがいる人間屋(ヒューマンショップ)を中心にシャボンディ諸島にいる全ての者たちを巻き込んでの大騒動が巻き起こっていた。

 

「内には衛兵、外には海兵、更に時間を置けば海軍大将と……あんまりここでゆっくりもしてられねェぞ、ルフィ!」

「ああ、分かってる! 早くケイミーを助けてここから脱出しよう!!」

 

 迫る衛兵たちを場内に駆け付けた傍から片付けて、ルフィは友人が捕らえられている会場の中心へ視線を向けると、その首に付けられている爆弾付きの枷を見据えて仲間の一人へ声を掛ける。

 

「フランキー! ケイミーの首の爆弾、どうにか出来ねェかな!?」

「アウ! 任せとけ船長、会場の裏手に奴隷たちの鍵があるって衛兵(コイツ)に吐かさせた! すぐに見つけて来てやるからここは頼んだぜ!!」

「分かった、ありがとう!」

 

 仲間が大丈夫だと言ったのなら何も心配はいらない、と笑みを浮かべたルフィが、残った仲間たちと共に友人の救出と脱出経路の確保に専念すべくそのギア(・・)を上げる。

 

「そこ退けお前ら! ギア2(セカンド)!!」

 

 体から蒸気を立ち昇らせ、麦わらのルフィが加速する。

 目にも留まらぬその動きは彼のありとあらゆる技が瞬きの後には眼前に迫っているほどの速度を誇り、とてもではないがただの衛兵たちの手に負える相手ではなく、増援に駆け付けた他の仲間たちの活躍も相俟って場内での戦いの優劣は火を見るよりも明らかであった。

 

 更にはこんな状況下でも未だに傍観に徹しているキッドとローの事も考えれば、オークション会場の制圧は最早秒読みの段階にまで至っていると言えた。

 

「本当に使えない奴らアマス! こんなのこの魚を殺してしまえばいいだけの話アマス!!」

「ッ!? ケイミーちゃん!!」

 

 騒動の元凶はこの人魚だと判断した場内で唯一意識のある天竜人(シャルリア宮)が、その拳銃の矛先を水槽に囚われ身動きの取れないケイミーへと向けながら宣言すれば、彼女の救出のために動いていた麦わらの一味全員の注目を集め、その動きを否応なしに停止させる。

 

「さァ魚! 死ぬアマス!!」

「いけない!!」

 

 透かさずロビンを筆頭に距離が開いていても対応出来る仲間たちが、各々の武器を手にシャルリア宮の引鉄を阻止しようと動き出し───しかしその行動は無意味だったと悟らされる。

 

 

「見てみろミザエル、やはり会場はえらい騒ぎだ。お前はどうも奴隷関連の事件に縁があるようだな」

「…………頭が痛い」

 

 

 ケイミーの背後の壁が轟音と共に破壊されかと思えば、引鉄を引こうとしていたシャルリア宮が突如として意識を失い倒れ伏し、崩れ落ちる瓦礫の中から二つの人影が姿を現す。

 

 一つは立ち居振る舞いから歴戦の戦士たる威圧感を漂わせる、右目の一本傷が特徴的な白髪の老人。

 もう一つは貴族的な装いをした、左右でその色が異なる双眸を持つ顔立ちの整った金髪の青年。

 どちらもその腰に得物らしき刀を携えているが、しかしシャルリア宮を気絶させるために抜刀した痕跡は見受けられなかった。

 

 頭を抱えて大きくため息を吐き出すミザエルと呼ばれた青年を他所に、老人は数多の衛兵たちと天竜人が倒れる会場を見渡して状況を把握したのか、酷い怪我を負っている友人へ軽い挨拶だけ交わすと……自分たちを見て騒然とする衛兵たちを黙らせるように不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 

 

「久しぶりの弟子と友人との再会だ───口を挟まないで貰おうか

「「「!!?」」」

 

 

 瞬間、老人を中心に吹き荒れた何かが場内を駆け巡り、その力に中てられた衛兵たちが次々とシャルリア宮のように意識を失い一様に床に倒れ伏していく。

 

 何をしたんだ、と意識を保っていた者たちが驚愕の表情を浮かべる最中、老人は満足そうにその様子を眺めると隣に立つ青年へケイミー(彼女)の首輪を外してやりなさいと指示を出す。

 

「ここまでやっておいて丸投げですか……?」

「目立ちたくないと言っただろう。あとは、弟子の成長を見てみたいという師匠心もあるかもしれんな」

「親心の亜種みたいに言わないでください」

 

 別にいいですけど、と文句を溢しつつも指示に従う青年に微笑みながら、老人は治療を受けている友人───ハチと親しまれるタコの魚人の下へ歩みを進める。

 

「手酷くやられたな、ハチ……あれほどこの島を歩いてはいかんと言っておるのに」

「ニュ~~~、すまねェレイリー……しかし、ケイミーは本当に大丈夫なのか?」

「おいおっさん! おれ達あの首輪が爆発するところを見たんだ!! 今おれの仲間が鍵取りに向かってるからそれまで───」

 

「───その麦わら帽子は精悍な男によく似合う……会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ」

 

 言ってる場合か!? と方々からツッコミを受けるレイリー()を横目に、後を任されたミザエル(弟子)は自身を不安そうに見つめるケイミーを安心させるように笑みを浮かべると、じっとしていて下さい、と言って躊躇なくその首輪へ手を掛けた。

 

「おい、お前!?」

「大丈夫だ、そのまま見ていなさい」

 

 思わず飛び出そうとするルフィたちをレイリーが静止し、既に介入が間に合わないこともあって皆が固唾を呑んでその光景を見守り───

 

「行きますよ」

 

 そんな言葉と共にミザエルの手でぐしゃり、と握り潰されケイミーの首から外された枷が、爆弾の起動音を響かせながら上空へ放り投げられその威力を示すように大爆発を引き起こす。

 

「ケイビ~~~!!!」

 

 友人が爆発に巻き込まれたと顔を青くするパッパグや他の面々を他所に、ルフィと一部の実力者たちだけは首輪が外れる様を目視していたため、爆煙の先にいるケイミーの無事を確信しつつも……しかしミザエルがどうやって首輪を外すことが出来たのか皆目見当もつかず、煙が晴れるまで彼らは終始疑問符を浮かべていた。

 

 

「───さて……積もる話もあるが、まずはここを抜けねばな」

 

 再会を喜ぶ面々と成長した弟子の姿に破顔しながら、海賊王の右腕と称された『冥王』が海軍に取り囲まれた現状を打破するべく、私にいい考えがある、とミザエルへ視線を向けながらその手を叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 人使いが荒すぎる、と実に十年振りに再会した師の姿を思い返し、今日で何度目か分からないため息を吐く。

 

 賭博場で有り金を使い果たしたことまではシャッキーさんも言っていたからある程度予想はついていたが、まさか新たに資金を確保するために人間屋(ヒューマンショップ)に奴隷となって居座っていたなんて誰が考えられようか。

 支配人から話を聞いた時なんて開いた口が塞がらなかったし、何をやってるんだあの人は、と我が師ながら呆れてしまったほどだ。

 

「───出て来たぞ! 構えろ!!」

 

 そんなことを考えながら正面玄関から顔を出してみれば、案の定と言うべきかそこには人間屋(ヒューマンショップ)から人っ子一人逃がさないと言わんばかりの海軍の包囲網が展開されており……これから海軍大将までやって来ることを考えれば今日は厄日だな、と思わずにはいられなかった。

 

「え!? 主犯格は麦わらのルフィで、その他にはキャプテン・キッドとトラファルガー・ローしかいない筈じゃ……」

「あの男まで今回の事件に関わっていたのか!?」

 

「何故お前までここにいる───『銀河竜』!!」

 

 何故って、そんなこと私が聞きたいくらいだ。

 白ひげのことを聞きに女ヶ島を飛び出して、久しぶりに会うレイリーさんとシャッキーさんに軽い挨拶と世間話だけしてすぐに帰るつもりだったのに……それが気づいたらこの有様だし、何なら私だって偶々居合わせて巻き込まれただけの被害者ですらある。

 

 あとその異名で呼ばれると背中がむずむずするからやめてほしい、せめて呼ぶなら悪魔の実と同じ『時空竜』にして欲しいと切に願う。

 

「待て待て待て~~~!!!」

「てめェら、下がってろって言ったよなァ!?」

「おれに命令するなユースタス屋、お前から消したっていいんだぞ?」

 

 何にしても、彼らが逃げる時間は稼がないとな、と能力を行使しようとすると、何故か背後から騒がしいやり取りと共に、裏口から逃げる手筈だった『超新星』に数えられるあの会場にいた海賊団の三船長がやって来てしまっていた。

 

「…………作戦は?」

 

「全部ぶっ倒す!」

「てめェの世話にはならねェよ」

「右に同じ」

 

 余りにも自分勝手な理由でやって来た彼らに思わず頬が引きつってしまう。

 何のために態々海軍の前に姿を晒してまで時間を稼いでいたと思っているのか……そう言うことなら全然彼らにこの役割を譲ったし、出来ることなら私だって裏口からひっそりと逃げ出したかった側なのに。

 

「主犯格の麦わらたちだ!」

「各船の船長が先陣きって出てきやがった!」

「四人とも億越えの賞金首だ! ルーキーだからと言って油断はするなよ!!」

 

 海軍からの共犯者扱いに今更背を向けても遅いことを察してしまい、渋々ではあるが海兵の放った迫撃砲を跳ね返す彼らの横に並んで……私も戦う意思を表明するように能力を行使して空へ飛翔する。

 

「やる気か? 銀河竜」

「へェ、これが噂の……」

「きょきょきょ、巨大(ロボ)~~~!!?」

 

 約一名反応がおかしいような気もしたが気にしていても仕方ないので……口内に紫白の粒子を集めて自身の代名詞とも呼ばれるようになったその技を───彼らと同様に私にも放たれた複数の迫撃砲目掛け打ち出す。

 

 それは『神の騎士団』相手にも通じた、聖地の建造物を軒並み消し飛ばした時空竜の咆哮。

 本家の(ドラゴン)のように視覚的に分かりやすい炎をまとっている訳ではないが、それでも射線上の対象をその咆哮で消し炭にするという一点は変わらない。

 

 

「殲滅のタキオン・スパイラル───!!」

 

 

 紫白の光波の奔流が迫撃砲をモノともせず宙で消し飛ばす。

 

 予め調整していたので建造物やマングローブに当たることなくそのまま消えていった咆哮だが、もしも当たっていたら光波に呑まれた部分が消失していたことは間違いないだろう。

 海軍たちはその光景を目の当たりにし唖然とした表情を隠せていなかったが……何故か麦わらが感涙したまま立ち尽くしてしまっていたので、当初の作戦通り私の方から彼らに宣言させて貰うことにした。

 

 

「海軍大将でも何でもかかってこい、私が───私たちが相手になってやる!」

 

 

 ──────今思えば、この出会いと宣言が全ての始まりだったのかもしれない。

 麦わらのルフィと出会い、共に海軍へ宣戦布告紛いのことをしてしまったがために……私は彼を中心に巻き起こる新時代の荒波に引き摺り込まれ、後に世界の命運をかけた戦いに臨むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懸賞金3億3860万───『銀河竜』ミザエル。

 

 これは、リュウリュウの実・幻獣種モデル時空竜(タキオン・ドラゴン)を食べた元奴隷の海賊が、天竜人傷害事件や頂上戦争を乗り越えて近い未来で四皇と呼ばれる地位に至り───いずれは海賊王の座をかけた決戦にその身を投じていく物語。

 

 






3億3860万と言う懸賞金額はミザ(33)エル(86)から取りました。
年齢はハンコックの3つ下の設定なので、二年前の今の段階だと26歳になります。

息抜きに執筆したものなので続きは未定です。


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