映画ザ・バットマンのエドワード・ナシュトンと友達の話 作:hiro
一緒に脱走して住んでいる設定です。
出会って1年目のハロウィンの話。
10月31日
「 おい、エドワード。飯食いに行こうぜ !」
ひどく上機嫌に友人がそういうので 、私は読みかけの本をパタンと閉じた。
外食なんて珍しい。一体全体 、急に どうしたのだろう。
「いいけど…」
私がそう言うと、彼はチラシを差し出した。
そこには「仮装したお客様、ランチ半額 !」と書かれていた。
派手なジャックオランタンやコウモリや魔女の絵が至る所に描かれている。
今日はハロウィンだ。
この日はゴッサムも例外ではなく、あちらこちらでハロウィンの飾り付けがなされ 仮装した人々が練り歩き、飲食店ではどこもかしこも セールを実施している。
…まるで1年前の事件なんてなかったかのようだ。
この町は相変わらず 腐敗しきっていて毎日のように、マフィアの抗争や殺人のニュースが流れる。治安は悪く…だがそれ以上に人々の無関心が腐敗しきったこの町を見ようとしない。私が起こした事件など 人々はあっという間に忘れてしまったかのようだ。時折流れてくるのは あのコウモリの格好をしたイカれたヴィジランテのことぐらい。みんな生きるのに疲弊しきっているはずなのに、事実から目を瞑り続ける。あるいはあまりに愚鈍で事実に気がつかないのか。
…ならば どんな愚鈍なものにも気がつくように事実を突きつければ良い。
それはおそらく私がなさねばならない責務であり、きっと私の存在意義でもある。
あの日から1年。
初めて手を血に染めたことに後悔は一切ない。
私たちからわずかばかりのパンや寝床すら取り上げた連中に復讐をし、恐怖を与えることができたのなら むしろ それは私にとって誇らしいことだ。
私のような孤児たちや本当に支援が必要な 貧しい者たちをずっと長い間甚振りそれこそ大量に殺し続けた連中に鉄槌を下して何が悪い。
むしろ今後もそんな連中は駆逐していくべきだろう。
そのために私はリドラーで在り続ける。
そしてその隣には彼が…ジョーカーが必要である。
1年前のハロウィン。
私が晒し出した事実に共感した群衆はたくさんいたはずだ。それは不正を働いた連中に恐怖を与え 群衆のデモへと発展した。多くの群衆が私に共感を覚え、ゴッサムを牛耳る上流階級への不満を口にした。
11月5日の計画が失敗に終わったとしても私のやったことは決して無駄ではなかったはずだ。 その後のニュースもコウモリがした人命救助を賛美する声もあったが私に共感するものも多々あったはずだ。
事実、私がジョーカーとアーカム精神病院を脱走してから協力したいという者は山のように増えていった。
それは団体だったり 個人だったり様々だ。実際には協力ではなく利用したいのであろうというものも数多く混じっていたし、あるいはカルト的に私を崇めるような連中も多かった。
『手駒は多ければ多い方がいい』ジョーカーはそう言っている。
…その意見には賛同しかねるが、その中から本当に信頼できるものを探し出すには 母数が大きい方が確かに人数も増える。
カムバックの計画のためには大勢の賛同者が必要だ。
人数も規模も資金も一人で計画し、フォロワーに協力を仰いだあの時よりもずっと大きなものになるだろう。
今度は私と友人とその他の大勢の賛同者たちと…報復するのだ この街へ。
「さっさと 着替えてこいよ。 ランチの時間終わっちまうぜ」
その声に現実に引き戻される。
「え、あー。…うん」
思わず 間抜けな返事をして私は急いで着替えを取りに部屋に戻り、クローゼットを開けた。
仮装…仮装。 一体何の格好をすればいいんだ?
だめだ、仮装に使えそうな服なんて持ってない !
「エドワ〜〜ド! 何してんだよ。」
「 ご、ごめん!…何の格好したらいいのかわからなくって」
「そんなの 何だっていいんだぜ !」
彼はため息をつきながら クローゼットの一番下に収納してあった一番色の黒っぽいシーツを取り出した。それを私の頭からかぶせると 首元を深紫のリボンでくくって洗面台の鏡の所へと連れて行く。
彼の私物のメイク用品を取り出すとおそらく眉墨 と思われるものを 私の目元へ塗りたくった。ルージュを口から大きくはみ出して乱雑 に塗って行く。
私はあっという間に化け物じみた 顔へと変貌した。
「…これ何の仮装?」
「ん〜〜。…死神 ?」
彼は何とも曖昧な返事をした。
メイクが終わると 今度はリビングのクローゼットから武器を次々と 取り出す。私は彼が投げた長い刃物 (日本刀と言うらしい)とライフルを肩からかける。
…帰りにどこかを襲撃する予定だろうか? 彼なら急にやりだしかねない。
「さあ行くぜ」
上出来 と言わんばかりの 満面の笑みを浮かべ彼は玄関の方へ走って行った。
「…ちょっと待って」
君はメイクをしなくていいの?
私は一瞬 浮かんだその考えを、慌てて否定した。
…必要がないのだ。 なんてバカなことを考えたんだろう。彼が他人からどのように見られ どのように扱われているか、そばでいつも見ているというのに。いつも 異様なものを見るように見られ、時には悲鳴すら上げられる。どこに行っても 化け物扱いされ ひどく怯えられ あるいは攻撃を受ける。
彼の困った性分は知っている。
すぐに人を殺してしまうし、私が嘘は嫌いなのは知っていても嘘ばかり平気でつく。
誰よりも頭が良く 人の感情に敏感で相手の気持ちを読むのに長けている。
だがそれは他人に過剰に攻撃され傷つけられるがゆえの自己防衛ではないだろうか?
他者から身を守るために 先制攻撃を仕掛けなければ 己がやられてしまうし、相手の感情をいち早く読まなければ身を守ることができない状況に置かれ続けたがゆえではないだろうか。彼には嘘ぐらいしか 身を守る武器がないのだろう。
…哀れで小さなかわいそうな私の友人。
嘘ばかりつく人殺しの仕方のない性格だとしても、1年前私を救ってくれてずっとそばにいてくれたのだから。
だから私は彼の多少の嘘は許している。
テーブルの上のカバンを肩からかけると扉に鍵を閉め、アパートメントを後にした。
街はハロウィンらしく騒々しい。
仮装した人々があちらこちらに屯し、ケバケバしい装飾があちらこちらに施されている。フリークが街中に溢れかえっている。
異様で異質な異形の者たち。
freaks……freak
フリーク…私はそんなに異質だったのだろうか。
少年時代 そう言って いじめっ子にからかわれた事をふと思い出す。
子供というのは残酷だ。 自分と違う異物を見つければ たちまち、よってたかっていじめにかかる。私はそんなに奇妙な子供だったのだろうか。
異様で異常な怪物だったのだろうか。
事件を起こした 今となっては確かにそう言えるかもしれない。
だが あの頃はただの子供だったはずだ。
フリーク…そう呼ばれるほど私は子供の頃から怪物じみていたのだろうか。
私は隣の友人の方を見た。 どこに行っても怪物扱いされる私の友人。
確かに怪物めいた姿をしている。病でボロボロにいたんだ肌、緑の髪。だがそれは 表面的なことにすぎない。私はほんの少しだが彼の内面を知っている。嘘ばかりつく人殺しの友人。まあ 確かに姿ばかりか内面も少々怪物じみている…かもしれないが、それだけではないことを知っている。私が苦しくてたまらない時にずっとそばにいてくれた 、それは利用しようという思いや計算高さだけではないはずだ。
怪物めいた姿と心の内側に隠れているのは、私よりずっと弱くて小さい傷ついた少年のような気がしてならない。
それに本当のことを言ってしまえば彼の姿など大した問題ではなかった。
私には 人間が時々 怪物のような姿に見える。それは人間の内面が現れて視覚化したものではないかと時々思う。人は誰しも醜い心をその魂の奥底に隠している。それを隠さぬものもいるし、自覚がないものもいれば 自覚し他者を利用するものもいる。
そんな連中から見れば嘘も 人殺しも一切隠そうとしない彼の存在はむしろ私にとって正直にすら感じる。
真実は醜い怪物 ばかりの このゴッサムで、怪物であることを隠そうとしない彼はむしろ私にとってはまともな人間に感じるのだ。
街の人間が怪物の姿をし フリークだらけになったこのゴッサムで、 元々フリークと呼ばれていた私たちはただのまともな人間へと変わる。
どこに行っても彼を奇妙で異質な怪物とみなすものはいない。
ただの人間として街を歩き、ただの人間として会話をし、ただの人間としてランチを食べる。
美味しそうにランチを頬張る友人の顔を見て私もつられて微笑んだ。
「うまいなこれ。見た目は悪いけど」
「目玉のデコレーションはやりすぎだよね。でも人気あるみたい 。…もう食べちゃったの。」
「お前だってもう食べたじゃねえか。デザートどれすんだよ」
「もちろん パンプキンパイ!」
「何だよ〜また、パンプキンパイか!好きだな お前。お、上のデコレーションがコウモリじゃねえか。じゃあ、俺もこれ!」
…そう私たちはただの人間である。
怪物が人間に、人間が怪物になる。
今日はHalloweenなのだから。