DRAGON BALL Z Re:Son Gohan 作:ナムルパス
――気がつけば、空が青い。
澄み切った空。揺れる草原。春先の柔らかな風。
まるで夢のように美しいその景色の中で、男は立ち尽くしていた。
「……ここは、どこだ……?」
年齢は、五、六歳といったところだろうか。小さな体。だが、内側には明らかに異質な“意識”が存在していた。
(違う……これは……俺じゃない)
混乱する思考の中で、彼はゆっくりと両手を見下ろす。掌は小さく、丸く、皮膚は幼い子ども特有の柔らかさを残している。
周囲の景色はあまりに現実離れしていて、それでいて“知っている”ような懐かしさすらあった。
そして、その懐かしさに呼応するように、脳裏に浮かんだ名前――
「……孫悟飯……?」
その瞬間、理解が脳内に一気に流れ込んできた。
この世界は、『ドラゴンボール』だ。
かつて夢中で読み、観て、語り合った、あの“物語”の世界。
――そして、自分は今、その物語の中に転生してしまったのだ。
しかも、「孫悟飯」として。
(まさか……いや、嘘だろ……けど、この体……この気の流れ……)
彼は目を閉じて、呼吸を整える。内側を巡る気の感覚。鼓動の力強さ。どれも“異質”なほどに自然だった。
疑いようもなく、この身体は孫悟飯のものだ。
原作では、戦士としても学者としても異彩を放つ存在だった少年。
だが――その悟飯が最も致命的な弱点を持っていたことを、彼は知っていた。
(慢心と、戦いへの甘さ……)
悟飯は本来、潜在能力では悟空すら凌ぐ“天才”だった。
だが、その力は時に使い切れず、また戦う覚悟に欠けていたがゆえに、多くの機会を逸した。
(だったら俺が、この体で……“正しい”悟飯にしてやる)
そう決意する彼――否、“俺”は、かつて武道の世界に身を置いていた。
己を鍛え、他者と拳を交えることに意味を見出し、気を練り、極めようとする日々。
死の直前に見た光が、この世界へと導いたのだとしたら、それはまさに運命の転生だった。
(こっちの世界で、もう一度、戦士として生きてみせる……!)
彼――いや、悟飯は、拳を握りしめた。
――その数日後。
「悟飯ちゃーん、ごはんだべー!」
山のふもとにある一軒家。小さな木造の家の中から、明るくも力強い女性の声が響いた。
「……母さん!」
「ほらほら、そったら走ってきたら転んじまうだべっ!」
声の主はチチ。悟空の妻であり、悟飯の母。
原作通りの田舎訛り混じりの話し方で、今日も精一杯に子どもを育てようとしている。
悟飯――いや転生者である彼は、毎日の生活に違和感を感じることなく適応していた。
違和感というより、懐かしさ、あるいは感謝だ。死を経験し、再び生きる機会を得た命。
今の悟飯にとって、何気ない日常ですら、かけがえのない時間だった。
しかし、その一方で焦りもあった。
(ラディッツが来るのは……たぶんあと一年もない)
それまでに自分を鍛えておかなくてはならない。悟空は修行のため、現在はカリン塔の上、神様のもとで修行中。
つまり、頼れるのは己の力のみ。
(独学でいける……気を感じることも、操作することもできる。鍛え方もわかる……俺は、元・武道家なんだ)
悟飯は裏山へと足を運ぶ。木立の中に囲まれたその場所は、彼の“修行場”になっていた。
初めは素振りから。次第に足捌き、呼吸法、気の集中、基礎の徹底。
小さな身体に無理がないように、それでいて確実に成長するように。
彼の中には前世の記憶、そして武道家としての経験が生きていた。
それが、今の幼い体と合わさることで、悟飯は常人の数倍の速度で強くなっていった。
(筋肉の密度が違う……やはりサイヤ人の血か。動けば動くほど、体が応えてくれる)
体が応える快感。気を操作する手応え。修行とは、まさに生の実感そのものだった。
だが、悟飯の目的はそれだけではない。
父・悟空と共に戦う未来。そのために、自分が“甘さ”を捨てなければならない。
(あのときの悟飯は、セルとの戦いで……ベジータがやられた時でさえ、油断した。……あんな結末はもう繰り返させない)
家では笑顔で“母さん”と呼び、表情を崩す彼だが、修行中の眼差しは鋭く、鬼気迫るものがあった。
「――はあっ!」
拳が風を裂き、木の幹が揺れる。
それを見下ろしていた一羽の鳥が、空へと逃げていった。
悟飯は息を吐く。
(まだ、全然足りない。もっと高みを目指さなきゃ……“あのとき”のために)
そう。全ては“その日”のために。
ラディッツ襲来、そしてベジータ、ナッパ、フリーザ――
(物語を知ってる俺が、この世界でできること……それは、誰よりも早く、強くなることだ)
風が吹いた。
それは、未来から吹く風。
新たな悟飯の戦いが、今――始まる。