DRAGON BALL Z Re:Son Gohan 作:ナムルパス
この一年間――悟飯は決して一人ではなかった。
転生者としての記憶と技を活かし、己を鍛え上げ、そしてピッコロという唯一無二の師と向き合ってきた。
その日々が、今の悟飯を作り上げた。
ピッコロはふと空を見上げる。
「……来るぞ、悟飯。もうすぐだ。ナッパとベジータ、あのサイヤ人どもがこの星に降り立つ」
「ええ。……感じます。すごい気が、空の彼方に近づいてるのが」
悟飯が空を睨み、拳を握りしめる。
その眼差しに、もはや“かつての泣き虫”の面影はなかった。
その頃――
亀仙人の家では、すでに地球の戦士たちが最後の準備を整えていた。
クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子、そしてヤジロベー。
それぞれがカリン塔での修行を終え、カリン様から仙豆を受け取り、集結の時を待っていた。
ブルマも、通信機器の最終チェックに追われながら、空を見上げる。
「……悟空、早く戻ってきてよ。地球が……やばいのよ」
誰もがその“時”が近づいていることを肌で感じていた。
だが、一番その気配を鋭く察していたのは――神の神殿にいる、ミスター・ポポと神様だった。
「神様……空が……揺れてる……!」
「うむ……これは……強大なエネルギー……二つ……まもなく地球に……」
ゴゴゴゴゴゴ……!
空の彼方が、轟音と共に二つの閃光を地上に叩きつける。
落下地点は、東の都から少し外れた荒野地帯。
砂煙が舞い上がり、大地が震える。
――ついに、その時が来た。
着地と同時に、二つの戦闘ポッドから現れたのは――大男・ナッパと、低身長ながら鋭い眼光を放つベジータだった。
「ふん……これが地球か。くだらん星だ」
ナッパが鼻で笑い、足元の岩を踏み砕く。
「どうでもいい。それより……あのカカロットとやら、まだ帰ってきていないようだな」
ベジータがスカウターで周囲の戦闘力を探る。
「……チッ、雑魚ばかりだ。だが一つ……いや、二つ。少しマシなのが近くにいるようだな」
その“マシな二つ”こそ、ピッコロと孫悟飯であった。
ピッコロは既にナッパとベジータの気を捉えていた。
「悟飯……ヤツらが来た。場所は……東の荒野。ここからなら飛んで十五分もあれば着く」
「はい……行きましょう!ピッコロさん!」
「その前に……これを飲め」
ピッコロが渡したのは、仙豆の入った小袋。
「カリン様からの伝言だ。お前の分もある」
悟飯は素直に受け取り、ひとつ口にする。
「……すごい……体が……元気になっていく……!」
「無駄にするなよ。それは命そのものだ」
ピッコロも静かに自分の仙豆を口にし、気を集中させる。
二人は一瞬、無言で目を合わせ――空へと舞い上がった。
同じ頃、カメハウスにいたZ戦士たちにも気が届いた。
「来たな……悟空が戻る前に始まるか」
天津飯が静かに呟き、気を高める。
クリリンはブルマから受け取った通信装置を耳に当てる。
「よし、全員! 集合場所は東の荒野だ! すぐに向かうぞ!」
ナッパとベジータの元に、Z戦士たちは着実に集結しつつあった。
一方その頃、蛇の道の遥か彼方――
界王との修行を終えたカカロット、すなわち孫悟空は全速力で蛇の道を駆けていた。
「くそっ、間に合え……! みんなが……地球が危ねぇんだ……!」
彼の姿は、まだ遥か彼方にあった。
荒野の岩山――。
静寂を切り裂くように、ピッコロと孫悟飯が着地する。すでに天津飯、餃子、クリリン、ヤムチャ、ヤジロベーも集まっていた。
「クリリンさん!あとは、初めましてですね」
「悟飯、お前……でけぇ気を感じたぞ……ずいぶん成長したな!」
クリリンが目を見張る。
「そうだ!お前は初めて会うかもしれないな、天津飯さんに餃子、ヤムチャさんにヤジロベーだ」
「ありがとうございます。でも、まだ足りない……だから、皆さんと力を合わせて戦います」
悟飯の声は、年齢に見合わぬ強さと覚悟を帯びていた。
「来たな……」
砂煙が舞う荒野の中央。クリリンが絞り出すように呟いた。
ナッパとベジータ。ふたりのサイヤ人戦士が、大地を震わせる足音とともに現れた。
「で……どいつが最初の相手だ?」
腕を組んだナッパがニヤリと笑い、視線を舐め回すようにクリリンたちへ向ける。対する戦士たち――ピッコロ、天津飯、ヤムチャ、餃子、ヤジロベー、そして悟飯が、並び立ちその気迫に抗っていた。
「悟空……まだなのか……」
クリリンが空を見上げ、歯を食いしばる。だが気の気配は、まだどこにも感じられない。
「時間がない。来る前に……奴らを何とかするしかないってわけか」
ピッコロの言葉に、悟飯は拳を握る。だが、心は静かだった。転生者としての意識は、この状況を冷静に捉えている。
――逃げる選択肢はない。勝つために、命をかける。
ベジータが一歩前へ進み出た。髪を逆立てた小柄なサイヤ人は、冷えた眼差しを戦士たちに向ける。
「まずは遊び相手を出してやろう。サイバイマン、出てこい」
ベジータの声と共に、大地が震える。数個の球体が地面から飛び出し、割れて、中から緑色の小柄な生物――サイバイマンが姿を現した。
「数は六体か……!」
天津飯が警戒心を強める。体は小さくとも、気の大きさは常人をはるかに超えていた。
「こいつら……強いぞ。油断するな!」
ピッコロがそう告げた刹那、サイバイマンたちが一斉に咆哮を上げる。
「ギィイイッ!!」
第一陣、開始。
「俺が行く!」
ヤムチャが一歩前へ出た。拳を構え、真っすぐにサイバイマンを見据える。
「気をつけろ、ヤムチャ!」
天津飯の声が背中から飛ぶが、ヤムチャは頷くだけで返す。
「大丈夫さ。こいつら、意外と軽い」
ヤムチャが駆け、サイバイマンの一体に飛び膝蹴りを叩き込む。直撃。サイバイマンは仰け反り、ヤムチャの連撃を浴びながら後退した。
「はっ!」
気を集中させた掌から、光弾を撃ち込む――
爆発。サイバイマンの肉片が砂に散る。
「一体、撃破!」
クリリンが叫ぶが、その瞬間。
「ギイイィ!」
別のサイバイマンがヤムチャの背後から飛びかかった。動きが――速い!
「くっ――しまっ……!」
次の瞬間、サイバイマンがヤムチャに組み付き、自らの身体を緑の気で膨張させる。
「ヤムチさん――!!」
クリリンの絶叫。
大爆発。
爆煙の中心には、地面に力なく横たわるヤムチャの亡骸が――
動かない。
誰も、言葉を発せなかった。
「やってくれたな……!」
天津飯の三つの目が、怒りに燃える。額に血管が浮かび上がるほどの力で、拳を握る。
「餃子、下がってろ!」
「……天さん、気をつけて」
天津飯が飛び出すと、二体のサイバイマンが襲いかかってきた。だが彼は冷静だった。
「どけぇぇぇっ!!」
蹴り上げた一撃がサイバイマンの頭部を吹き飛ばし、さらに気功砲を一閃。大地が裂け、二体目も巻き込まれて消し飛ぶ。
「まだ足りない……!」
天津飯の怒りは収まらない。だがその時――
「天津飯、後ろだ!」
悟飯の叫び。しかし、遅かった。
第三のサイバイマンが地中から跳びかかり、天津飯の肩に鋭い爪を突き立てる。
「ぐっ……!」
傷は深い。だが、致命傷ではない。
「くそっ……一匹残らず叩き潰す!」
天津飯の気が爆発的に高まり――
「はああああっ!!」
気功砲。サイバイマンごと自らの身体を焼き尽くさんとする猛撃が荒野を切り裂く。
しかし――次の瞬間。
天津飯の身体が、膝から崩れた。肩の傷は毒を含んでいたのか、動きが鈍る。そこに、ベジータの一撃が飛ぶ。
「無様だな」
天津飯の胸に、抉るような一撃。
血飛沫を撒いて、天津飯は沈んだ。
「天さんっ!!」
餃子が叫ぶ。身体が震えている。恐怖でも、絶望でもない。
「……もう、我慢できないよ」
静かに餃子が空へ飛ぶ。そして――背中にしがみつくように、ナッパに取りついた。
「……な、なんだ!? 離れろ!」
「仇は打つよ、天さん……」
小さく、でも確かに響いたその声の後。
餃子の気が、一点に収束し――
「爆発……する気か!?」
ピッコロが叫ぶ。
そして――閃光。
餃子の自爆によって、巨大な爆発がナッパを呑み込んだ。
砂煙。衝撃波。
誰もが凍りつく中、そこに――ナッパの姿があった。
しかし、傷一つない。
「くそったれが……ちくしょうが……!」
クリリンが唇を噛み、拳を震わせる。
「餃子まで……!」
悟飯もその場に膝をついた。だが、涙は見せなかった。
「強くならなきゃダメなんだ……こんなにも、無力なんて」
ピッコロが、横で静かに言葉を落とす。
「覚えておけ、悟飯……これが戦いだ」
餃子の死を目前にしながらも、悟飯は拳を強く握りしめた。
「ピッコロさん……オレ……」
その声は震えていたが、心は折れていなかった。憑依転生した元武道家としての理性が、悲しみを抑え込んでいた。
「泣いている時間はない。餃子さんも、天津飯さんも、ヤムチャさんも……全員、本気でこの地球を守ろうとして、命を張ったんだ。次は……オレが守る番だ」
ピッコロは悟飯の横顔を見つめ、無言のまま頷いた。
「よし、気を抑えるな。全力でいけ、悟飯!」
「はい!」
悟飯の気が爆発する。地を裂くような気の高まりに、ナッパが目を見張った。
「チビが……気合いだけは一人前か!」
サイバイマンの残り二体が悟飯へと飛びかかる。
「はあああああっ!!」
悟飯の気が弾け、鋭い拳が一体を真正面から打ち砕いた。残り一体の腹部に渾身の蹴りを叩き込む――
「ギイイイイイイィィィッ!!」
悲鳴を上げながら、サイバイマンは崩れ落ちた。
「やった……!」
クリリンが呟いた。
「見事だ、悟飯!」
ピッコロの声が飛ぶ。
その時、空気が変わった。
ナッパが一歩、前に出た。
その圧だけで地が軋む。
「もう遊びは終わりだ」
ナッパの両手に、渦巻くような気の塊が生まれる。
「くるぞ!」
ピッコロが悟飯を庇うように前へ出る。ナッパがその両腕を振り下ろした瞬間、大地が真っ二つに割れんばかりのエネルギー波が放たれた。
「ギャリックガン……!!」
ピッコロが手を交差させて防ぐ。悟飯もすかさずエネルギー波を重ねる。
「はあああああああっ!!」
しかし、ナッパの力は桁違いだった。押し返される。ピッコロの腕が焦げ、悟飯の額に汗が滲む。
「くっ……!」
その時――
空が、揺れた。
突如として、遥か彼方から一つの強烈な気が近づいてくる。
「な、なんだこの気は……!?」
ナッパが目を見開いた。
「この気……まさか……」
クリリンが空を仰ぎ、声を震わせた。
「悟空……!? 孫悟空が、来た……!!」
その名を聞いた瞬間、悟飯の心に熱い何かが灯った。
「父さん……!」
ピッコロは悟飯の肩に手を置いた。
「気を抜くな、悟飯。来るまでは……俺たちで、持ちこたえるぞ!」
「はいっ!」
ベジータが一歩前に出た。
「ふん……やっと来るか。だが――遅すぎたな」
ベジータの冷笑に、クリリンが叫ぶ。
「遅くなんかない! 悟空は、きっと間に合うさ!」
「その前に……お前らを一人残らず潰す!」
ナッパが再び気を解き放つ。ピッコロと悟飯が正面から立ち塞がる。
そして、背後ではクリリンが気円斬を構え、全力で渾身の気を込める。
「みんなの命を無駄にしない……! ここで終わらせるわけにはいかないんだ!」
悟飯の目に再び涙が浮かぶ――だがそれは悲しみの涙ではない。
「餃子さん、天津飯さん、ヤムチャさん……あなたたちの意思は、オレが、繋ぐ……!」
ピッコロの隣で、悟飯は拳を構えた。