「おりゃああぁぁッ!!!」
気合を込めた雄叫びと共に、掌中のバスターソードを横薙ぎに振り抜く。
銀閃を刻む切っ先が捉えたのは、四つ足の獣によく似たシルエットを持つ異形。かつて俺を襲ったのと同じ、俗に〈A型ファイント〉と呼ばれるそれは今、俺の目の前で頭を真っ二つに割り裂かれ、その場で物言わぬ亡骸と化していた。
「ふぅ……ガンマ5、交戦終了。A型ファイント、識別名〈ハウンド〉を二体、追加で撃破しました」
レーダーの捜査を走らせ、周囲から敵の反応が消えたのを確認してから、俺は無線で通信を入れる。
《ガンマ1了解。ガンマ5、余力があるならそいつらも拾ってきてくれ。ノルマには充分だが、多く集めるに越したことはないからな》
無線の向こうから帰ってきた声は、スイやマザーのそれとはまた趣の異なる、凛としてよく通る声。
ガンマ1と名乗るその声の正体は、他でもない「今回の任務で同じ部隊に配属された鎧装機兵」だ。実践経験の豊富な彼女を隊長に据え、その下に俺を含めた4機の鎧装機兵を当てがうことで、ひとつの分隊として今回の任務――A型ファイントの討伐任務に当たっていたのである。
隊長の指令に了解と返答しながら、俺はバスターソードを納刀。
代わりに取り出した大きなネットを地面に広げたのち、俺は撃破したA型ファイント2体ぶんの遺骸を、ネットの中へ下ろして括り上げる。
運びやすいひとかたまりにしたネットを持ち上げた俺は、機動推進器を戦闘用出力から巡行用出力へ切り替えて点火。ノズルの角度を調整して、ふわりと宙へ浮かび上がる。
「うぐっ……この身体でも、さすがにこれを2体分は重いな……」
一緒に浮かび上がるネットの中から伝わる重量感に顔をしかめつつも、俺は飛行を開始。隊長が待機する輸送機の元へと移動を始めた。
*
スイと共に臨んだ初陣の日から、早いもので数日ほど。
いっぱしの鎧装機兵として働けることを無事に証明できた俺は、この数日間、マザーから下される指令を受けて、あれこれと任務――破壊された観測装置の再設営やコロニー外壁の修繕作業など、新兵へ向けた危険度の少ない仕事に従事していた。
そして今日課せられたのは、「複数機の鎧装機兵による集団討伐任務」。
少々敵が多く、俺を含めて数名ほど交戦時間が長引いてしまったものの、任務自体は無事に終了。現在は、隊長を務める鎧装機兵を筆頭にして、作戦会議室でマザーへのデブリーフィングを行っていた。
「はい、規定量の納入を確認しました。みなさん、任務お疲れ様です」
ここ数日間ですっかり見慣れた作戦会議室で、これまた見慣れたマザーの躯体が、任務に従事した鎧装機兵へ労いの言葉をかける。
「A型ファイントの出没数が予想を超えているのは気がかりですが、収穫が増えたのは望外の幸運と言えるでしょう。各自、損耗報告とメンテナンスは忘れないようにしつつ、解散してください」
マザーの言葉に頷いて、鎧装機兵たちは各々会議室を退出していく。
見事な敬礼を見せ、長い髪を翻して立ち去る隊長に続き、俺もまた形程度に敬礼。踵を返し、会議室を後に――
「あぁ、チヒロ。すみませんが、少しお時間をいただけませんか?」
しようとしたところで、マザーの声が俺の足をぴたりとせき止めた。
「は、はい。なんですか?」
何か良くないことでもしてしまっただろうか、という懸念と共に振り向くが、マザーの表情は依然として柔らかいままだ。どうやら、心配したような内容の話ではないらしい。
「実は、あなたにお願いがあるのです。仕事を終えた直後に申し訳ないのですが……」
「あぁいえ、大丈夫ですよ。俺にできることであれば、ぜひ」
ひらひらと手を振って大丈夫とアピールすれば、マザーは苦笑しながら「ありがとうございます」と口ずさんだ。
「では――チヒロ、今回遂行した任務の目的は覚えていますか?」
少し姿勢を正したマザーにそう問われ、俺は顎に手を当てて作戦開始前のブリーフィングを振り返る。
「えっと……たしか〈A型ファイントの掃討と、それを利用した食料源の回収〉でしたっけ」
「はい、その通りです。かつての姿形から大きく変容してこそいますが、A型ファイントは今や貴重な『野生の動物』であり、その血肉は人間にとって、確かな栄養源となるのです」
「だから、今回はただ討伐するんじゃなくて、回収もしてたんですね」
「そういうことです。……それで、こちらが本題なのですが、チヒロには『配給』をお願いしたいのです」
配給? と首を傾げる俺に、マザーは説明を重ねる。
「回収したA型ファイントは、工業区画の
つまるところ、配達人の代行をしてくれ、ということか。
内容に関しては納得したものの、俺の中にはまだ疑問符が浮かんでいた。
「それは大丈夫ですけど……俺、まだそこまでコロニーの中に詳しいわけじゃないんで、時間がかかると思いますよ?」
「構いませんよ。むしろ、これを通じてあなたが区画の把握をできればと思っていましたので、これを機にしっかりと覚えてください」
なるほど、これもこのコロニーに慣れるための一環ということらしい。
俺としても、暇ができたらコロニーの中に関しても知っておきたいと思っていたので、今回の提案はまさしく渡りに船だと言えた。
「そういうことなら、了解です。できる限り頑張ります」
「お願いします。街の人々のためにも、しっかり届けてきてくださいね」
「はい!」
頷く俺に微笑むマザーの見送りを受けながら、俺は新たな仕事をこなすべく、一路コロニーの工業区画へ向かうこととなった。