滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く   作:矢代大介

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第24話 糧食精製施設にて

 

 

「……っと、ここか」

 

 マザーに課せられた新たな仕事をこなすべくやってきた、コロニー内の工業区画。

 その一角に、目的地である〈糧食精製施設〉のウォールプレートを見つけた俺は、少し遠慮がちな挙動で施設内へと踏み入った。

 

「……あら? あなたもしかして、マザーが言ってた新しい鎧装機兵さんかしら?」

 

 衛生面に気を遣っているのか、白く清潔感のある構内を物珍しげに見回していると、不意に横合いから声がかかる。

 見ればそこには、白い作務衣をかっちりと着こなし、金属製のマグカップを片手に佇む黒髪の女性が、こちらへ向けて手を振っている姿があった。

 

「こんにちは、鎧装機兵のチヒロです。マザーから、ここの配達を手伝ってきてくれと言われてきました」

「あらー、これはご丁寧にどうも。ここの統括をしてる〈アルマ・ベイカー〉です。よろしくね、チヒロちゃん」

 

 互いに握手を交わすと、アルマと名乗った女性はニコニコと人の良い笑顔を浮かべる。

 

「マザーからお話は聞いてるわ。配達を手伝ってくれるんですってね?」

「はい。まだコロニーの中に慣れてないんで、ちょっともたつくとは思いますけど」

「いいのいいの、気にしないで。ずっと外の世界で働き詰めだったんでしょう? 急ぎの仕事でもないし、これを機にゆっくりとコロニーの中を散策するのも悪くないと思うわよ」

「はは、マザーにも同じこと言われました。ありがたく、お言葉に甘えさせてもらいます」

「決まりね。なら、さっそくだけどお願いするわ。こっちに来てちょうだい」

 

 そう言って先導するアルマの後をついていった先にあったのは、施設の外に増築されていた倉庫。

 中へ入ると、そこには両手で抱えられるサイズのコンテナが所狭しと並べられて、大きな山を形成している光景があった。

 

「ちなみに、チヒロちゃんはこのコロニーの食べ物がどうやってできてるかは知ってるかしら?」

 

 倉庫の中を歩く傍ら、アルマがそんなことを聞いてくる。

 

「いえ、特には。ここの中身をそのまま食べるってわけじゃないのは、なんとなくわかりますけど」

「その通り。ここにあるのは、あなたたち鎧装機兵が手に入れた素材から精製した、いわば『食べ物の(もと)』よ。私たちは〈フードカートリッジ〉とも呼んでるわ」

 

 そう言って、アルマがコンテナの中身を拾い上げ、俺に見せてくる。

 アルマの手の上に乗っているのは、プラスチック製と思しき立方体の容器だ。開かれた蓋の中を覗き込んでみれば、中には人肌に似た色をしたペースト状の物体が、みっちりと詰め込まれているのが見える。

 

「これを専用のフードメーカーに差し込むことで、合成肉はもちろん、チーズなんかの加工食品や人工野菜までなんでも精製できるの」

「野菜まで……なんか、未来って感じがしますね」

「そんなにいいものじゃないわよ。本物に比べれば断然味も落ちるし、整えてあげなきゃ見た目も良くないわ。でも、天然栽培で作られる量の限られているコロニーにとって、これはまさに生命線と呼べる代物なのよ」

 

 そう話すアルマの顔は、どことなく誇らしげだ。きっと彼女の中には、コロニーのライフラインを守る者としての誇りや信念といったものが、確かに息づいているのだろう。

 

「というわけで、あなたにはこれの配達をお願いするわ。商業区画の飲食店やマーケットを中心に、要請を出してる人へこれを届けてちょうだい」

「了解です。……えっと、配達用の車とかはチャーターできるんですか?」

 

 コロニーの中で使われる輸送手段は、主に車両と輸送機だと以前に聞いた覚えがあった。

 この程度の業務で輸送機を飛ばすのはさすがに憚られるが、それでも数が数である。いかに常人離れした身体性能を持つ鎧装機兵と言えど、身一つで運べる量には限界があるのだ。

 

「チャーターというか、うちで使う小さな輸送車を貸すつもりよ。運転できるかは………まぁ、鎧装機兵さんに聞くまでもないわね」

「ええ、大丈夫です。シミュレーターで習っただけなんで、実際どのくらい動かせるかは分かりませんけど」

「大丈夫、簡単よ。コロニー内専用だからスピードも出ないようになってるし、一人乗りだから小回りも効くから、なんとでもなるわよ」

 

 そう言ってアルマが指差す先、倉庫の入り口を隔てた向こう側に、一台の乗り物が停まっているのが見える。

 ゴツいタイヤと剥き出しの操縦席、そしてバイクのそれと良く似たハンドルで構成されたそれは、一人乗りのバギーだ。後部には人が引く荷車のようなものが増設されており、無理矢理感あふれるその装いからは、いかにもなハンドメイド感が漂っていた。

 

「なるほど、あれなら俺でもなんとかなりそうです」

「よかったわ。それじゃ、今日の分を積み込みましょうか」

 

 アルマの指示の元、指定された分量のフードカートリッジを、バギー型輸送車の荷台へと積み込んでいく。

 

 満載して行った方が効率がいいんじゃないか、と思ったのだが、アルマ曰くこのフードカートリッジは消費が激しいらしく、配給しすぎるとすぐになくなってしまうらしい。

 なので、いざという時のために常に充分な量の貯蓄を確保して置けるよう、いわゆる定期配達の形を取ることで、過剰な消費を防いでいるのだそうだ。

 

 そんな裏話を聞きつつ、積み込みを完了した俺は、バギーの座席へと腰を下ろす。

 

「届け先のリストは、ハンドルの下にあるポケットに入れてあるわ。わからなくなったら確認してちょうだい」

「了解です。じゃあ、行ってきます」

「お願いするわ。気をつけていってらっしゃいね〜」

 

 まるで母親が子を心配するかのような物言いに苦笑を漏らしながら、俺は一路、配送用バギーを商業区画へと走らせ始めた。

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