滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く   作:矢代大介

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第28話 配送業務-終わりに

 

 オグニが居た資料館への配達をもって、任されていた配達業務は全て完了となった。

 あとは、糧食精製施設のアルマの元へ戻り、バギーの返却と報告を済ませれば、晴れて今回の仕事は終わりだ。

 

 あちこちでいろんな人と出会うことになったし、外の世界で戦うだけではできないような、いろんな経験をさせてもらうこともできた。

 鎧装機兵として戦う理由を改めて振り返ることができた、という意味でも、今回の仕事は大きな実りのあるものだったと言えるだろう。

 

 

「君、少しいいかね?」

 

 なんてことを考えながらバギーを走らせていると、不意に横合いから声がかかる。

 

 バギーを停めて視線を向ければ、そこにいたのは初老の男性だ。頭には白髪が目立つ反面、その背筋はしっかりと伸びていて、外見の割にずいぶん若々しく見えるのが印象的だった。

 

「あれ……えっと、確かさっきお会いしたような?」

 

 その佇まいと風貌に、脳裏を既視感がよぎる。

 どこで会った人だったか……としばらく記憶を掘り返すが、決定的な記憶が見当たらず、言葉に詰まってしまった。

 

「うむ、確かに会っていたな。とは言っても、君が出発したところですれ違いざまに声をかけただけだ。すぐに思い出せないのも無理からぬ話だろう」

「…………あ、あぁ! あの時の!」

 

 確かに、精製施設から最初の目的地であるシシリーの食堂へ向かう途中で「配達ご苦労様」と声をかけてくれた男性がいた。思い返せば、その風貌は今しがた目の前にいる男性と全く同じだったのだ。

 

「思い出してくれて光栄だよ」と笑う初老の男性は、その場で貴族のように優雅な一礼を見せる。

 

「私は〈デイビッド・メイヤー〉。マザー・ゼムリアの采配の元、このコロニーの市政に携わる者――わかりやすくいうなら『もう一人の市長』だ。以後、お見知りおきを」

 

 直後に続く自己紹介で、俺は驚きに目を見開く。

 コロニーの統治はマザーの仕事だと認識していて、実際本人もそれを肯定していた。なので、よもや「もう一人の市長」なんて存在が飛び出してくるなど、夢にも思っていなかったのだ。

 

「はは、驚かせてしまったか。まぁ、肩書きはたいそうなものだが、ようは市民代表としてマザーとやり取りをする、単なる連絡係のようなものだ。どうか、いち市民の一人として扱ってもらえると嬉しい」

「は、はぁ……そう言ってくださるなら」

 

 思わず生返事を返してしまい、失礼だったかと思ったが、当のデイビッド本人は特に気に留めてもいないようだった。

 

「っと、すみません。挨拶も返さずに。チヒロといいます」

「チヒロ? ……あぁ、そうか。君がマザーの言っていた『外からの来訪者』だったのだな」

「俺のこと、知ってるんですか?」

「うむ。これでも立場上はマザーに次ぐ役職の人間だ。君の抱える事情に関しても、おおむね把握はしているよ」

 

 それもそうか、と、遅まきに納得する。普通のコミュニティならリーダーを務めているような人材に、俺に関する話が通っていないはずもないのだ。

 

「報告は受けていたが……こうして見ると、普通の鎧装機兵と遜色はないな。いや、どちらかといえば彼女たちの方が『ヒトらしい』と形容するべきか」

「それは、確かにそう思います。機兵のみんなと接していても、違和感は全くありませんからね」

 

 デイビッドの言葉に同調すると、彼も「まったくだ」と感心交じりの苦笑を漏らす。

 

「君の目から見てもそう思えたなら、やはりあの施策は正解だったのだろうな。ヒトを守る存在がヒトに拒まれてしまえば、それこそ本末転倒であるからな」

 

 以前マザーから聞かされた「鎧装機兵が今の姿になった理由」に絡むであろう感想を述べながら、デイビッドは豊かな顎髭を撫でつけた。

 

「……ところで、チヒロ君。工業区画に向かっているということは、カートリッジの配達は終わったのかね?」

「あ、はい。いろいろありましたけど、無事に終わったところです。……って、なんでそれを知って?」

「なに、その輸送車やマザーの性格を知る身なら、すぐにわかるものさ。普段ならアルマ君や精製施設の職員が乗っているそれを、見覚えのない者が乗り回しているとなれば、おおよその察しは付くというものだ」

 

 至極簡潔に説明される理由に、納得の声が漏れる。

 確かに、普段見慣れた車に見慣れない人間が乗っていれば、気づく人はすぐに違和感を覚えるだろう。

 

「おおかた、君が街へ慣れるためにマザーが配慮した、といったところだろう。あの方(マザー)がしそうなことだ」

「あはは、おっしゃる通りです。やっぱり、市長さんみたいな人ならわかるものなんですね」

「わかるとも。これでも、マザーとはそれなりに長い付き合いだからな」

 

 そう語るデイビッドの瞳には、どこか郷愁の念がこもっているように感じられた。

 きっと、彼とマザーの付き合いの長さは、彼が語る言葉以上に長いものなのだろう。

 

「それで、どうだったかね。君の目から見て、この街は『良い街』だったかな?」

 

 まっすぐにこちらを見て問いかけてくるデイビッドに、俺は――迷わず首肯を返す。

 

「はい、とても。大人も子供もみんな温かくて、『鎧装機兵として、この人たちを守りたい』って、そう思えた。良い街だと、心の底から思います」

 

 鎧装機兵に全てを任せることをよしとせず、その力を貸してくれる人たちがいた。

 鎧装機兵に憧れと尊敬を抱き、未来を夢見る子供たちがいた。

 鎧装機兵の加護の元、過去に置き去りにされた歴史を今に繋がんとする人がいた。

 

 さまざまな人々と出会ってきたが、彼ら彼女らはみな一様に、俺たち鎧装機兵の存在を受け入れ、共に歩まんとしていた。

 そんな姿をこの目で直に見た今、俺は自分自身の意思で「この街を守るに相応わしい存在になりたい」と、心からそう思えるのだ。

 

「……そうか。他ならぬ君にそう言ってもらえると、市長の職を預かる身として、とても嬉しく思うよ」

 

 誇るように、あるいは安堵するように、デイビッドは深く首肯する。

 

「これからも、この街をよろしく頼むよ。鎧装機兵としても、一人の人間としても、この街を好く思って貰えるとありがたい」

「もちろんです。こちらこそ、これからよろしくお願い」

 

 柔和な笑みと共にデイビッドが差し出した手を、しかと取ってみせる。

 ふしくれだった手はとても大きくて、父親の背を眺めるかのような、不思議な安心感があった。

 

「では、私はそろそろ失礼するとしよう。マザーによろしく頼むよ」

 

 そう言いつつ、デイビッドはまた優雅に一礼し、その場を立ち去っていく。

 

 よもや市長と出会うなどとは思いもしなかったが、おかげさまで今日一日のできごとを顧みることができたのは、大きな収穫と言えるだろう。

 街のことや人のこと。そしてそこに息づく、確かな息吹のこと。鎧装機兵として生きるにあたって、今日の経験は非常に身のあるものだった。

 

「改めて、頑張っていかないとな」

 

 決意を新たにした俺は、ひとまず今日の仕事を終えるために、再びバギーを発進させるのだった。

 

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