滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く   作:矢代大介

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幕間

 

 

「――お二人とも、ご足労頂きありがとうございます。夜半に突然呼び立てて申し訳ありません」

 

 

 機材の光と、大きなモニタの光だけで照らされた、薄暗い空間。

 

 モニタの前に立つ女性――マザーは、自らの眼前に座る二人の人物へ向けて、折り目正しく一礼して見せた。

 

「構わんよ。こうしてマザーが招集をかけるということは、よほどの事態だということだろう? なれば、市政の片翼を担うものとして、即座に応じるのが『もう一人の市長』の役目だ」

 

 頭を下げたマザーに対しそう語るのは、白髪の目立つ初老の男性。

 どこか優雅な居住まいで席に着き、〈デイビッド・メイヤー〉という名の男は、鷹揚に頷いて見せた。

 

「……デイビッドさんが呼ばれるのはわかりますが、僕はここにいていいんですか? てっきり、しかるべき処分を下されると思っていたんですが」

 

 デイビッドに引き続くような形で、もう一人の男性――〈ヴィクター・スミス〉が口を開く。

 いつもと変わらないどこか不健康そうな顔は、現在進行形で疑念の表情を浮かべていた。

 

「その件ですが、結果としてあの行動が先の作戦を成功に導いたのも事実です。これから話す内容のこともあるため、今回は特例として不問とします」

「了解です。寛大な措置に感謝いたします」

 

 ヴィクターが深々と一礼するのを見届けると、マザーは一泊を置いてから、再び口を開く。

 

「さて、改めて今回の内容をまとめます。――先の大規模作戦で討伐された〈C型ファイント〉。その残骸に関して、ヴィクターの指揮の元で特務班に解析してもらいました。結果、いくつかの収穫が得られましたことを報告します」

 

 マザーが軽く手を振ると、部屋の大型モニタが切り替わる。

 モニタ内には、C型ファイントの残骸を映した写真に添える形で、何行にもわたる文章を綴られたウィンドウが複数、複数枚展開されていた。

 

「まず、かの存在には我々が手にしていない新技術がいくつも用いられていました。これらを解析して技術転用すれば、コロニー内のインフラ強化はもちろん、頓挫していた鎧装機兵用の新武装開発計画も再始動できる見込みです」

「ありがたい話ですよ。正直なところ、現状の武装技術は頭打ちだったので、これがブレイクスルーになると期待したいです」

「市としても、インフラの強化は喜ばしい限りだ。補修は欠かさなかったといえ、老朽化していた部分も多い。そこを補えれば、居住区画の安全性を大きく高められることだろう」

 

 明るいニュースに、ヴィクターとデイビッドは揃って今後の展望を話し合う。

 

「ですが、今しがたお伝えした情報は、喜ばしいだけのものではありません。――実のところ、今回発見された新技術のいくつかは、かのファイントがたどったであろう自己進化の形跡から外れたものであるという見解も出ているのです」

 

 そんな二人の歓談を遮って、マザーがそう説明する。浮かべる表情は、どこか緊張を孕んでいた。

 

「ファイントとは、外的要因で様々に姿を変えるのだろう? 自己進化以外にも、別の個体を『共食い』して力を得たと考えれば、不思議な話ではないのではないか?」

「僕らとしても、その線は追ったんですがね。構造や組成から類推するに、どうもアイツが保有していた力のいくつかは、『外から人為的に取り付けられたもの』の可能性が高いんです」

 

 ズレた眼鏡を直しながら、ヴィクターが言葉を続ける。

 

「最たるものとしては、攻撃の遮断に使っていたバリア機構でしょう。発動機構の大部分は腹に埋め込まれていますが、そこにはもともと消化器官が収まっていた形跡がありました」

「なんと……確かに、生きるために必要な器官を自分から切除にかかるような生物は存在しないだろうな」

「ええ、デイビッドさんの言う通りです。もっと言えば、奴の腹部にはわかりづらいですが、確かな切開痕がありました。このこともあるので、『バリア能力の獲得は、他の何物かによって植え付けられたモノだ』というのが、僕ら技術班の見解です」

 

 そこで一度言葉を区切ったヴィクターは、眉根を寄せて難解そうな表情を作る。

 

「問題は、あのバリア機構が明らかな『オーバーテクノロジー』だということです」

「オーバーテクノロジー? つまり、我々よりも進んだ技術で作られたものということかね?」

「はい。技術主任をやって長い身ですが、少なくとも僕自身は過去にあんな技術を見たことはないです。あんな便利な代物があったなら、とっくに全鎧装機兵の標準装備として実装していますよ」

 

 肩をすくめてそうぼやくが、どこか剣呑な表情は崩れない。

 それだけの非常事態であることを言外に語るさまを見て、デイビッドもまた、いっそう表情を引き締めた。

 

「私も過去のデータベースを当たりましたが、大災厄以前の文献にも同様のものはありませんでした。となれば考えうる可能性はそう多くありません」

「それはつまり――『あの技術が、我々以外の何者かによって生み出されたものだ』という可能性があるということですね?」

「そうなります。仮にそれが事実であるなら、この世界には我々以外にも、生き延びて文明を築いた者がいるという証明となるでしょう」

 

 マザーの口から告げられるのは、傍から聞けば明るいニュースにも聞こえるもの。

 しかし、その可能性が望ましくないものであることは、この場にいる三人ともが痛いほどに感じていた。

 

「もしそうなら、その主犯は生物兵器を作り上げる狂人の類ということになる、か」

「あれほど高度な技術を使って生み出すのが、人間の役に立つ道具ではなく、あんな物騒な代物なんです。少なくとも、穏便に話し合える手合いでないことは確かでしょうね」

 

 最悪の可能性を脳裏に浮かべて、ヴィクターとデイビッドは揃ってため息をつく。

 

「いずれにせよ、今回の一件は今後のコロニー運営に大きな影響を与えることになります。混乱を防ぐため、今はまだ公表を避けるつもりですが、万が一のための備えは怠らないようにするべきと考えています」

「私の方に異存はない。とはいえ、我ら三人だけでは限界もある。幾人かの役員には内々に声をかけておくとしよう」

「僕の方もそうしておきます。今回の調査に携わったメンバーには、僕から釘を刺しておきますね」

「ありがとうございます。では、ひとまずはその方向で。何かしらの進展があり次第、また招集をかけさせていただきますね」

 

 マザーがそう締めくくると、顔を見合わせて会釈してから、二人の男性はそれぞれに会議室を後にしていった。

 

 

「……過去からの来訪者に、未知の技術を携えた脅威。いつかは大きな変革が訪れると思っていましたが、やはり避けられる未来ではないようですね」

 

 モニタの明かりも落ち、闇と静寂に閉ざされた部屋の中で、マザーはその場の椅子へ腰を下ろしながら、独りごちる。

 

「ならば、乗り越えてみせましょう。――私の愛しい人々は、鎧装機兵たちは、どんな試練であろうと、きっと乗り越えるはずですから」

 

 口元へ浮かぶのは、確信を宿した微かな笑み。

 

 演算のために接続が断ち切られると、マザーの躯体は、その場で眠るように項垂れた。

 

 




 ここまでの読了、ありがとうございました!
 今回の更新をもって、本作はいったん完結とさせていただきます。

 物語的にはまだまだ半ば、かつ今後の展開に関する構想も存在はしているのですが、もともとここで一度一区切りをつける予定だったことに加え、他に描きたい題材がいろいろ溜まっているため、今後しばらくはそちらの執筆に注力していきたいと思っております。
 具体的なあとがきはのちほど作者の活動報告でしたためる予定なので、興味のある方は覗いてみてもらえると嬉しいです。

 重ね重ね、ここまで読んでいただきありがとうございました!

 2025/12/30 矢代大介
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