滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く   作:矢代大介

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第9話 夜半の語らい

 

 突然響いたノックの音に、思わずベッドから跳ね起きる。

 

 マザーとの会談にそこそこの時間を費やしたこともあって、時刻的にはもうそろそろ夜も深まり始める頃だ。

 それに、俺がこの病室に泊めてもらっていることを知っているのはマザーだけだが、彼女はノックを必要としない。ならば一体誰が――という疑問は、扉越しに響いた声であっさりと氷解した。

 

『こんばんはー、スイでーす。チヒロちゃんはいますかー?』

 

 扉の向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのあるのんびりとした声。

 引き戸型の扉を開くと、そこにはやはり見知った顔が――スイがいた。

 

「あ、いたいた。お話にきたよ〜」

 

 そう言って笑うスイは、昼間見た姿とは正反対の格好をしている。

 脚周りや背中を覆っていた装甲は取り外されており、その手には武器のひとつも持っていない。着心地の良さそうな寝巻きに身を包んだその姿は、どこからどう見ても人間の少女のそれだった。

 

「スイ? なんでここがわかったんだ?」

「マザーに聞いたら教えてくれたよー。……本当は、訪ねるのは明日でもいいかなって思ったんだけどね? いろいろあっただろうから、チヒロちゃんのこと、どうしても気になっちゃって」

 

 どうやら、あの場で別れて以降、ずっと俺のことを案じてくれていたらしい。あの時かけてくれた励ましの言葉といい、つくづく心優しい女の子だ。

 

「わざわざ心配してくれたんだな。……立ち話もアレだし、中に入る? 借りた病室だから出せるものもないけどさ」

「いいの? じゃあ、お邪魔しまーす」

 

 半歩下がって部屋の中を指し示すと、いつものゆるい笑みを浮かべたスイが、いそいそと部屋の中へと入りこんでくる。

 部屋の隅に積まれていた面会客用と思しき椅子をスイに用意してやると、「ありがとー」と礼を述べながら、すとんとその場に着席。こちらがベッドへ腰かけたのを確認するや否や、スイはさっそくと言わんばかりに口を開いた。

 

「それで、チヒロちゃん。マザーとのお話はどうだった? 知りたい情報は聞けた?」

 

 話題は当然というべきか、先刻まで行われていた俺とマザーの会談について。別れ際にあんなことを言った手前なのか、興味津々といった様子だった。

 

「うーん、半分半分ってところかな。この世界についてはいろいろ知れたけど、俺自身に関してはそんなに……的な」

「そっかー、やっぱり。さすがに、マザーも全部は知らないよねぇ」

 

 半ば予想はしていたのか、スイはさして驚いた様子も見せずに苦笑する。

 ……その様子をつぶさに観察してみるが、振る舞いも顔に浮かべる表情も人間のそれと遜色ない。マザーから正体を聞かされていなければ、とてもじゃないが「人を守る為に生み出された人型ロボット」だとは気付けない自信があった。

 

「なーに? そんなにじっと見られたら、なんかむずむずしちゃうんだけど」

「あ、ごめん。マザーとの話の流れで、〈鎧装機兵(メタルイェーガー)〉のことも聞いたから、つい気になってさ。……こう言っていいか分からないけど、まさか、スイがロボットだとは思わなかったよ」

 

 素直な感想を吐露すると、当のスイは「あー」と納得したような声を漏らす。

 

「確かに、鎧装機兵(わたしたち)は人間そっくりに作られてるからねー。見分け方を知らないなら、分からないのも仕方ないよ」

「へぇ、見分け方なんてあるんだ。……どこで見分けるんだ?」

 

 改めてスイの全身を軽く見やるが、やはりその姿はどこからどう見ても人間のそれだ。

 一体どこに見分けるポイントがあるのだろうか――

 

 と言う疑問は、突然上着をはだけさせたスイに中断させられた。

 

「ちょッ?!」

「ここだよー。ほら、これこれ」

 

 思わず目を逸らすが、促された手前見ないわけにもいかず、恐る恐るスイが指差す場所を見やる。

 たおやかな指先が示していたのは、はだけた上着の間、人間で言う鎖骨の間に相当する部分。人間と遜色ない白い肌の上には、少し縦に長い六角形をしたごく小さなパネル状のパーツがくっついていた。

 

「わたしたち機兵(イェーガー)は、みんなここに端子カバーがあるんだ。人と機兵を見分けるときは、これが一番の証拠になるんだよー」

「な、なるほど。オッケー、よくわかったから……その、ちゃんと着直してくれるとありがたい」

 

 スイ曰くの端子カバーを確認してから、手早く目をそらして早口にまくしたてる。

 勢いに気おされたのか、上着の前を直してくれるスイだったが、その首はなぜかこてんとかしげられたままだった。

 

「ん、いいけど……どしたの、そんなに慌てて?」

「いやそりゃ……目の前でいきなり女の子が服はだけるとか、慌てるというか目のやり場に困るっていうか」

 

 ほんのり自爆気味に弁明するが、スイの首はまっすぐに戻らない。

 

「えー、別にわたしは困らないけどなぁ。男の人に見られるならともかく、チヒロちゃんだって……あ」

 

 へにゃりとした表情で苦笑していたスイが、何かに気づいて言葉を詰まらせた。

 

「あー……そっか、チヒロちゃんってもともと男の人なんだっけ」

「うん、気づいてくれてありがとう」

 

 そう。スイの目の前にいる俺は、外見こそ少女であるものの、その精神性はしっかりと男なのである。

 なので、目の前で無防備にあんなことをされてしまうと、非常に反応に困ってしまうのだ。

 

「えへへ、ごめんごめん。見た目が普通に女の子だから、つい忘れちゃってた」

「いや、こっちこそいきなりごめんな。……正直、俺も今指摘するまでこの見た目のこと忘れてたから」

 

 謝り返しながら、これもまた解決しなければいけない問題だということを改めて実感する。

 今みたいな事故もそうだが、身体と心の乖離が残ったままだと、無用なトラブルのもとになりかねない。

 それに、こうしていちいちギャップに苦労していると、精神的な負担も否応なく積み重なってくる。今すぐどうこうというわけではないが、いずれどうにかしなければいけないということは、頭の片隅にとどめておくべきだろう。

 

「……そういえば、チヒロちゃんは結局機兵(イェーガー)じゃないんだよね?」

 

 なんてことを考えていると、思い出したようにスイがそう問いかけてくる。

 

「まぁ、俺は少なくともなった覚えはないかな。マザーが言うには、俺もスイたちと似たようなロボットではあるらしいけど」

「あー、やっぱり? なんとなくそうじゃないかなーとは思ってたけど、当たってたんだねー」

 

 その言葉で脳裏に思い起こされるのは、このコロニーへ入る直前の出来事。

 あの時はスイが口をつぐんでしまったが、ようはあの時点で、彼女は俺の正体に薄らと察しがついていたということなのだろう。

 

「でも、そっかぁ。もしチヒロちゃんが機兵だったら、一緒に戦う仲間になってくれないかなーって思ってたから……ちょっと残念だなぁ」

 

 そういって、スイが残念そうに眉尻を下げるのを見て――

 

 

 ――俺の脳裏に、ひらめきが走ったような気がした。

 

 

「……そっか、その手があったか!」

「わっ。どしたの、チヒロちゃん?」

 

 無意識に立ち上がってしまったらしく、驚いたスイの声が下の方から聞こえてくる。

 

「あ、ごめん。スイのおかげでいいアイデアが浮かんだから、つい」

「んー、わたしのおかげ?」

 

 首を傾げるスイからすれば、先の発言は単なる願望に過ぎなかっただろう。

 だが、俺にとってその一言は、ともすれば天啓とも呼べるほどの一言だった。

 

「俺さ、自分がこうなった理由を知りたいって思ってるんだ。でも、いろんな話を聞いた後だったから、『自分で調査するのは難しい』って、ずっと思い込んでたんだよ」

 

 外の世界は一般人が生きられない環境で、そこには異形の化け物が跋扈している。

 対して、俺は外の世界で目覚めただけの一般人なので、それらに対抗する手段は持てない。――それが、俺の中で確立された認識だった。

 

「でも、俺のこの身体はロボット。スイたち〈鎧装機兵(メタルイェーガー)〉と、ある意味では似たような存在なんだ」

 

 だが、この身体は既にスイたちと同じ人ならざる身。

 そしてその正体は、スイたちと同じ機械仕掛けの人造人間。

 

「ならさ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()って。そう、思ったんだ」

 

 それはつまるところ――スイたちと同じ存在になれる可能性があるということだ。

 

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