スポリファールの侵攻と同時に、海路からカヨコンクム、西からクタノーン。それぞれスポリファールに比肩する列強が攻めこみ、元々堕落し弱体化しきっていたパッナーロは完全に瓦解。
全ての領土を切り取られ、首都のみが残り、今や生殺与奪は侵攻してきた三国に握られることとなりました。
こうして列強が一つ。弱国に格下げされたのです。
パッナーロの王都近郊で、三つの国の軍勢がにらみ合っていた。
もう王都ではないかもしれない。
「蛮族を討伐する」などと意気揚々と出て来た王はスポリファールの軍に敗れて、王は虜になった。
それでパッナーロでは、まだ五歳の王子を王に無理矢理戴冠させて、最大の領地を持っていた公爵がその後ろ盾になったのだが。
公爵領は西から乱入してきたクタノーン国の軍勢に蹂躙され、数日ももたずに権威は失墜。
公爵は暗殺され。
ああでもないこうでもないと貴族が喚いている間に、北からも海から乱入してきたカヨコンクムの大軍が北部の貴族領を文字通り灰にする勢いで焼き尽くし。
膨大な難民が南になだれ込み。
それらは暴徒と化して貴族領を荒らし。役にも立たない貴族を見限った軍は、その首を刎ねて一番まともだと噂されるスポリファールにこぞって投降してくる有様だった。
そうこうしているうちにパイ取り合戦もけりがつき。
そして、必然的に侵攻した三国の軍勢が、王都近郊でにらみ合う事態になっている。
ちなみに王都そのものは、スポリファールが落とした。
スポリファールの今回の遠征軍七万の指揮を執っているブラフマ騎士団長が前に出る。同時にクタノーンの遠征軍の長。見た目人間とはとても思えない、巨大なトカゲのかぶり物をした大男が前に出てくる。
同じく、筋骨たくましい、胸と腰しか覆っていない大柄な女性が前に出てくる。
これぞロイヤルネイビーを率いる女傑。
「巨人」の渾名を持つロイヤルネイビー提督、「海賊女王」である。勿論王族ではないのだが。
アプサラスは、会談の護衛だ。
政治家達がどうにか折り合いをつけた。
元々パッナーロの切り取りについては、三国がそれぞれ存分にやったのである。元々の領土が倍になる程にまで。
スポリファールが膨大な難民を囲い込む事になったが、それはクタノーンとカヨコンクムの軍が如何に暴虐を働いたかの結果であって。
両国の軍が通った跡は、廃墟と化しているそうだ。
書類を文官が出す。
それに、気むずかしい顔でブラフマ騎士団長がサインする。腕組みしてその様子を見ていた海賊女王が、鼻を慣らす。
他二人と比べて、頭一つ半は大きい。
亜人の血が混じっているという噂があるが、それもあながち嘘ではなさそうである。
ただ、準知的種族と人間の混血は、アプサラスが知る限り聞いたことはない。或いは、カヨコンクムの領内には、そういうのがいるのかも知れないが。
「面倒だね。 ここで盛大に殺し合って決めればいいのにさ。 ただそうすると、国のお偉方が五月蠅いんだよねえ。 なあ」
「そうだな」
「アンタの国が一番弱体だからね。 切り取った領土を保持できればいい。 だから胸をなで下ろしているんだろ」
「確かに軍は規模が一番小さいが、野戦になればどうなるかは分からんぞ、大女」
クタノーンのトカゲ頭が言う。
声はなんというか、人間と随分離れているように思う。
あれ、ひょっとして。
かぶり物ではなくて、何かしら意味があるのか。
まあ距離があるクタノーンとは、今回の侵攻で裏で条約を結んでいたという噂がある。事実軍に、一部の領土を放棄して転進しろという妙な指示が何回かあった。
これはそもそも、クタノーンと事前に切り取る領土を決めていたからという噂だ。まあ、アプサラスの立場では分からないが。
それに、クタノーンの将軍が言う通りだ。
実際問題、野戦になると、大軍が思わぬ負けを喫することはある。
三国入り乱れての大乱戦となると、どうなるかはまるで分からないし。
何よりも、三国とも確保した領土が大きく、補給線も伸びきっている。
血の気が多い軍人はまだ戦いたがっている者もいるが。
実際には、確保した領土を安定させるだけで、数十年は掛かる。
一気に領土を拡大できたのは、今後のためになるだろうが。
此処でその駐屯軍をすり減らすことにでもなれば、どの国にとっても得策ではないのだ。
ただ、それはあくまで理性的かつ論理的に話した場合。
見た感じ、海賊女王は明らかに本能で暴れ回るタイプだ。
カヨコンクムでも持て余しているという噂があるし。
どう動くか分からない。
側で見る限り、魔法なしだとちょっと勝ち目は無さそうである。
ただし。
こちらには、ぼへえと様子を見ている、頭が悪そうなのがいる。
アルテミス。
いざ戦わせたら、多分この場の全員を瞬く間に倒すほどの最強の騎士。スポリファールの切り札だ。
こいつがぼへえとしている事からして。
恐らく、斬り合いにはならないと判断しているのだろう。
「此方は調印が済んだ。 どの道領土を維持するために、此処で軍を無駄に消耗するわけにも行くまい。 仮に大勝したとしても、どの国の軍もこれ以上進む事は不可能だろうよ」
「ちっ。 行儀が良い騎士殿の言う通りではあるか」
「……」
海賊女王が露骨に不満そうに舌打ち。
トカゲ男が調印を始める。
最後にしぶしぶと言った風情で、海賊女王も調印を終えていた。
王都については、放棄が決まっている。
五歳の王と貴族どもが逃げ込んだ王都は、あっさりスポリファールが落としたが。そこは今後ロナウ国として、三国で独立を保証する。
要するに、パッナーロがいいと思う連中が逃げ込むための場所だ。
ただし、三国がそれぞれ監視もする。
アプサラスも視察はしたが、別に持っていても戦略的な価値のない街だ。此処を気に入って住み着いた賢者が、単に個人的に好いていたと言うだけの場所。
どうでもいい街である。
インフラも整備されていないし、あらゆる技術が旧式。ろくな魔法の設備もない。落としたあと、視察したアプサラスはがっかりしたくらいだ。
軍が撤退を開始する。
後は、各地に駐屯軍を配置して、数十年がかりでスポリファール化する。
スポリファールは元々多民族国家で、今更別の国家の人間を取り込んだ所でなんということもない。
パッナーロの旧支配者層は悲惨な目にあうだろうが、それは自業自得だ。
帰路で聞かされる。
フラムにたくされた、あの魔法が得意だという子供。
国境での紛争で色々とやらかした結果、左遷されたそうだ。
そうかとだけアプサラスはぼやく。
左遷先にはあのアンゼルもいる。
問題児が送られる場所である。
それもまた人生だろう。そこまで面倒は流石に見切れない。
さて、帰ったら昇進だ。
恐らく副騎士団長に昇進。スポリファールの方面軍はアプサラスが見る事になるだろう。
それで充分。
アプサラスにも出世欲はあるが。
別に国家元首にまでなろうとは、思っていなかった。
(続)
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