辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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かくして田舎に左遷されたアイーシャ。

ついでにとんでもなくヤバイ奴に目をつけられる事になります。

不思議な話でこのとんでもなくヤバイ女騎士アンゼルはアイーシャのよき理解者となり、その腐れ縁はそれなりに続のです。

これでアンゼルがシリアルキラーでなかったら良かったのに。







田舎の煮こごり
序、田舎に移されて


教会の庭。

 

わたしが仕事場にしている開けた場所に運ばれて来たのは、たくさんの武器だ。小競り合いで消耗したものが多い。

 

鍛冶師が直せるものは直す。実際いまわたしがいる村……正確にはロコットというらしいけれど。

 

そのロコットには、二つも鍛冶師の店があって。

 

此処がそもそも、この辺りの軍事の中継点だと言うことを知らされると、なる程と思うのだった。

 

今では主に南の山中に巣くっているオークとの戦いのために砦が作られて、野生化したオークの根絶のためにあまり多く無い兵士が配備されているらしいけれど。

 

オークにしても元々は森の中に住んでいた種族らしくて。

 

わたし達よりも、ずっと猿に近いらしい。

 

猿が大きく強く荒々しくなったのがオークであるらしく。

 

そういう事を思うと、森の中では人間よりも有利なのかも知れない。兵士がいつも小競り合いが続いて根絶できないと嘆いているらしいけれども。それも納得が行く話だなと思う。

 

わたしは武器なんかのなかで、鍛冶師だと時間が掛かるものを担当する。

 

まずは風の魔法で構造を把握。

 

水の魔法で綺麗にして。

 

それから土の魔法を使って、補修できるものは補修してしまう。

 

他にも色々できるようになってきたけれども、それを試しながら仕事にしていく。わたしに出世するつもりはない。

 

ただご飯が食べられればそれでいい。

 

だから黙々と仕事をする。

 

それに出世しようとしたところで、多分難しいだろうなとも思うし。

 

仕事をしていると、アンゼルが来る。

 

わたしがお気に入りらしい、獰猛な性格の子だ。ぱっと見は人なつっこい小柄な女の子に見えるらしく。同年代の男子にはそれなりに人気があるそうだが。

 

話をすると、あっと言う間に危険な性格がばれる。

 

今ではこの辺りでは、わたしくらいしかアンゼルとは話さないし。

 

アンゼルにしても、それでいいようだった。

 

「おー、今日も直しているねえ」

 

「何か武器を痛めましたか」

 

「いいや。 そんな傷むような相手には当たってない。 ここ数日はオークも出ていないし」

 

熊を殺してきたらしいのが、数日前。

 

熊を単騎で殺せる兵士はあまり多く無いらしい。魔法を使い、戦闘技術も高い騎士という存在が、重宝される理由である。

 

戦闘技術が高くなくても、大威力の魔法が使えると、それはそれで高給取りになるらしいけれど。

 

人間の身体能力なんて知れていて。

 

名が知れた凄腕の騎士は、だいたい戦闘技術を魔法で上乗せしているそうである。

 

多分あのアプサラスって騎士もそうだったんだろうなと。

 

わたしは思い出していた。

 

アンゼルは隣にどっかと座ると。

 

ひょいと手を伸ばして小鳥を捕まえて。

 

そのまま口に放り込んで、ばりばりと食べ始める。

 

手を物理的に伸ばしたわけではないらしい。

 

そういう魔法だ。

 

それを見て、ひっと声を上げるまだ年若い女性の魔法使い。わたしの事は無機質で怖いと言っていて。

 

アンゼルは化け物にしか思えないそうだ。

 

陰口をたたいているのは知っている。

 

勝手にやっていろとだけ思う。

 

「生のまま食べるとおなか壊しますよ」

 

「へーきへーき。 この程度サバイバルでさんざんやってるし。 この程度で腹下したら、騎士の試験なんて受からないし」

 

「女性の騎士は身だしなみもしっかりしていると聞きますけど」

 

「そういうのは出世目当てかなあ。 見た目で舐められる場合があって、出世しようとするとそれがまずいんだよねえ」

 

覚えがあるでしょと言われたので。

 

こくりと頷いていた。

 

あの国境の街の魔法使いのお偉いさん。みんな威厳を出そうと工夫していたのを覚えている。

 

これだけ実力主義が浸透した国でも、見た目なんだなと思うと。

 

人間なんてそんなものだとしか思えない。

 

「で、どう。 騎士にならない? あたしちょっと退屈でねえ。 アイーシャが騎士になってくれたら、コンビ組んで敵国に侵入して、大暴れとかできそうで楽しそうだって思うんだよね」

 

「わたし運動音痴ですけど」

 

「今最強で知られてるアルテミスって騎士知ってる?」

 

「はあ、まあ」

 

アルテミス。

 

スポリファール最強を謳われている女騎士だ。

 

とにかくもの凄く強いらしくて、どのくらい強いかとアンゼルに聞いたら。自分と比べて五十人分とか言っていた。

 

アンゼルだって二~三十人くらいの兵士だったら苦労もせず畳むという話だったから、ちょっと次元違いだ。

 

そんな凄い子が、少しだけ年上の世代にいる。

 

それは噂にもなる。

 

「アルテミスってあの子さあ、子供の時とんでもない運動音痴だったらしくてね。 いつも周りに虐められて泣いていたんだってさ」

 

「はあ……」

 

そもそもそういうのが分からない。

 

同年代の対等な子供が周囲にいるというのが、それだけ幸せな話だ。

 

わたしにはそうとしか思えない。

 

「それが魔法を使えるようになってからもの凄く伸びたらしくてねえ。 あたしなんか相手をブッ殺す事しか考えていないのに、この程度なのだけどね。 ちょっと羨ましいよねえ。 そういう性格の子が、世界最強と噂されるくらい戦闘適性が高いってのは」

 

「スポリファール最強とは聞いていますけれど」

 

「いや、世界最強だと思うね」

 

半年ほど前にパッナーロ国がスポリファールなどの国に負け、三分割されて滅びた。

 

その戦いに、途中までアンゼルは参戦していた。

 

まあ暴れすぎたせいで戻されたのだけれど。

 

その過程で、記録されている戦い以外を散々アンゼルはやったらしい。

 

要するに、あの戦いに参戦したもう二つの国。それらの国に所属している間諜や、汚れ仕事専門の騎士を殺して廻っていたという事だ。

 

結構こういう裏家業の仕事をする騎士は多いらしく。

 

アンゼルみたいな壊れた性格の子も多いとか。

 

そういえば、九歳の間諜がどうのこうのの理由で、わたしも審問だとかいうのに掛けられたのだった。

 

そうなると。

 

昔、スポリファールで今のわたしよりずっとちいさな子供が、闇に紛れて暴れ回っていたのかも知れなかった。

 

「あたしも他の国の騎士と散々やり合ったけれど、それらの水準を見る限り、アルテミスが出て来たら手も足もでないねあれは。 多分今の世代だとアルテミスが最強だと思うよ、悔しいけど」

 

「いずれにしても関係がありません」

 

「そう?」

 

「はい」

 

そもそも敵対する理由がないし。

 

わたしは戦いにも向いていない。

 

仮に戦う事になったら、一瞬で首を落とされるだけ。

 

それに関しては、アンゼルでも同じ結果だろう。

 

「野心がないなー。 なんでアイーシャって子供なのに、そんなに枯れてるのさ」

 

「興味がないだけです」

 

「興味持ちなよ。 血の味覚えると、色々馬鹿馬鹿しくなるよ?」

 

「はあ……」

 

アンゼルはこうやって、血の池の底から足を掴んで、有望そうなのを勧誘して自分の側に引き込もうとしている。

 

とにかくヤバイ子だ。

 

今までそういう事を繰り返して来たから、左遷を何度も経験しているらしい。

 

アプサラスの所ではかなり長くやれていたらしいのだけれども。

 

それも暴れ回りすぎたせいで、ついにお役御免となってしまった。

 

「はー。 相手が雑魚過ぎてつまらんわ」

 

「野生のオークを全部潰して来たら、次の戦場に行けるのでは」

 

「それは難しいんだよねえ。 オークは森の中の生き物で、とにかく気配を消す技術が人間なんかの比じゃない。 ハルメンが使うみたいな、対人兵器としての使い方の方がおかしいんだよ。 アルテミスでも野良オークの駆除は手間取るんじゃないのかな」

 

「そうなんですね」

 

気のない返事ーと、口を尖らせるアンゼル。

 

まあ、それでもわたしがお気に入りらしくて。わたしが直した長剣を手にすると、数度ふるって見せた。

 

長剣と言っても用途は様々で、今アンゼルが手にしているのは、分厚い刃を持つ大型のもの。

 

両手で使うのが普通で、あまりにも長いので鞘にも入れられない。

 

対人間用の剣ではない。

 

オークや熊を斬るためのものだ。

 

普通の兵士は槍を渡されていて、それで囲んで多数で仕留める戦術を採るらしい。

 

こういう剣は馬上の騎士が振るう事が多く。馬上からオークや熊の頭を狙って切りつけるそうだ。

 

刃こぼれして戻ってくると言うことは、使われたのだろう。

 

長大なその剣を。

 

アンゼルはなんの苦労もせず振り回して、風を切り裂いてみせる。

 

「なまくらではないけれど、魔法も掛かっていないなあ。 後随分重心がずれてる。 なおしとこ」

 

「直せるんだね」

 

「当然。 こういうのできないと、楽しく戦えないし」

 

わたしも仕事をするようになって、色々な武器を渡されるようになったけれど。

 

自分では使えないから、わからない事は多い。

 

剣を分解して、直し始めるアンゼル。

 

素直なので、どう直せばいいのか丁寧に教えてくれる。

 

重心なんかについては勘らしくて。

 

色々な武器を実際に使って、それで覚えた事らしいけれど。

 

まあ、何に使ったのかは聞かないでおく。

 

それで喜ぶと長いし。

 

ただ、勉強できることは勉強しておく。

 

出世のためではない。

 

わたしはスポリファールが楽園ではないことを、この間の理不尽な審問以降良く身で理解したし。

 

だからいざという時は、一人で生きていかなければならない。

 

その時に備えて。

 

どんな知識でも。

 

どんな技でも。

 

持っておかなければならなかった。

 

剣を調整すると、軽々と振り回し始めるアンゼル。アンゼルの体重と同じくらいあるはずだから、魔法で色々やっているのだろう。

 

とことん殺し合いのためだけに魔法を使っていることがよく分かる。

 

「うーん、所詮は直してもなまくらか。 でも少しはマシになった。 わたしの剣も、アイーシャに直して貰おうかな」

 

「壊れたら直します」

 

「うん、そーして」

 

アンゼルを誰かが呼びに来る。

 

鎧をしっかり着込んではいるが、それでも騎士達に比べると軽装だ。多少偉いくらいの兵士なのかも知れない。

 

アンゼルを明らかに嫌っているようだが。

 

それでも話しかけてくる辺り、仕事だからなのだろう。

 

「騎士アンゼル。 山の方でオークが目撃された。 数体いたということだ。 被害が出る前に、追い払って欲しい」

 

「まーたか。 最近活発になってるけど、エサでもやったんじゃないの」

 

「分からないが、兎に角追い払って欲しい」

 

「了解。 行っても高確率で逃げちゃうんだけどなあ。 斬れるといいなあ」

 

ぼやきながらアンゼルが行く。

 

アンゼルを化け物を見る目で見た後。

 

口ひげを少しだけ生やしている兵士は。

 

わたしの事を、ゴミでも見るような目で見て。

 

いきなりその場に戻って来たアンゼルに、胸ぐらを掴まれていた。背丈がだいぶ違うのに、軽々兵士をつるし上げている。

 

「一つ言っておくけど、あたしのダチに手出したら、翌朝には不審死してるよ」

 

「ひっ!」

 

「兵長程度の分際で、偉そうにするんじゃない。 お前がこの子を見下せると思ってるのか、無能が」

 

アンゼルはいつもと違う恐ろしく低い声だ。

 

凄みが利いている。

 

フラムがこんな感じで、他の人間を威圧していたっけ。

 

こくこく頷いている兵士を放り出すと、アンゼルはそいつをゴミでも見るようにみて。それから、今度こそ去って行った。

 

兵士は今度はわたしも化け物みたいに見て、それで小走りで行く。

 

それを遠巻きで、何人かの魔法使いが見ていた。

 

これでまた人が近寄らなくなるな。

 

そう、わたしは思った。

 

 

 

夕食を終えて、書類を出す。

 

決まった書き方が書類にあって、こういうのは「最適化」されているらしい。

 

やったことを書き込むだけで良く。

 

こういう書類にありがちな無駄は全て排除されているそうだ。

 

そうするだけでいい。

 

昔は書類を書くことにそれぞれの癖が出て、職場ごとに決まりがあるとかいう無駄だらけの仕組みが横行し。

 

それで無駄に仕事の時間が伸びていたらしいが。

 

スポリファールはこう言う国だ。

 

そういう無駄な書類を作らないように処理がされ。

 

今のようなやり方が定着したと言う事だ。

 

わたしも毎日の仕事で、直した武器についてリストを作り、何処が壊れていて、どう直したかだけを書いておく。

 

それでも毎日相応の量の仕事をしているので、書類仕事は面倒だ。

 

昔は徹夜になった事すらあったらしいし。

 

職場によっては懲罰で書類を書かせていたらしいので。

 

無駄がなくなったことだけは良いのだと思う。

 

書類を提出する。

 

わたしに文句を言う奴はいなくて、それで助かる。

 

読み書きの修得に苦労していたわたしだけれど。今ではすっかり読み書きもできるようになっていて。

 

どこでも同じ文字が使われ、同じ言葉が話されている事もあって。

 

特に会話にも、書類作成にも苦労はしていなかった。

 

フラムに拾われた頃は、指先もボロボロだったのだけれど。

 

恐らくスポリファールで栄養のいい食事を続けたからだろう。

 

生まれついて此処で育っている人みたいな、綺麗な手はしていないが。それでも以前みたいなボロボロではなくなった。

 

給金に余裕がある人は爪に色をつけたりしているが。

 

わたしは短く切りそろえている。

 

昔はノミ虱が当たり前にいる寝床にいたから、寝ている間に体を掻いて血が出たり膿んだりする事も多かった。

 

回復魔法でいちいち直していたから大事にはならなかったけれど。

 

それも何度も繰り返すのは嫌だし。

 

今では爪は丁寧に処理するようになっている。

 

一種の癖だが。必要な癖だ。

 

此処みたいな寝床でいつまで暮らせるか分からない。

 

だから、そうしているだけだ。

 

風呂に入る。

 

スポリファールの、全身つかれる湯の風呂は、わたしとしては最初驚いたものの一つである。

 

それだけ豊かに水を用意できる証左であるけれど。

 

確かに疲れが取れる。

 

贅沢なものだ。

 

しばらく風呂に入って、疲れを落とす。

 

それから、残りの書類を提出して、寝床に潜り込んだ。

 

今日も清潔で柔らかい寝床で眠れる。

 

それだけで充分だ。

 

食事の栄養も悪くない。

 

だからわたしは。

 

いわゆる左遷をされたらしいけれども。

 

それを恨んでもいなかったし、儚んでもいなかった。









騎士アンゼルについて

スポリファール国では魔法を使える精鋭戦士を騎士という階級に分類しています。一話からちょくちょく登場している騎士アプサラスなんかはその騎士の偉い人ですね。

魔法は才能の学問ということもあって、若い頃から大人顔負けの活躍が出来る人間はいて、まだ子供でも強い騎士は幾らでもいます。

アンゼルは幼い頃から色々あったこともあって精神的に問題があり、それ故に似たものであるアイーシャに興味を持ちました。

本人達は別にそれ以外で共通点がある訳ではないのですが。

ただ、あまり類友がいないのも、二人が仲良くなった理由の一つではありますね。

ちなみにアンゼルは固有魔法という、滅多にいないその人しか使えない魔法を使う精鋭の中の精鋭です。それが左遷されたのは、ダーティーワーカーとはいえどそれでも看過できないほどにあまりにもやり過ぎたからです。
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