辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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大人の八ヶ月と子供の八ヶ月はだいぶ時間感覚が違います。

アイーシャは閉塞した田舎で、更に子供としての時間をすり潰していくことになります。


1、お堅い上司

ここに来て八ヶ月か。

 

そろそろ次の年になるという時に、人事の変更があった。魔法教会の人間が、都会に「栄転」するらしい。

 

あんまり接点はなかったが。

 

わたしとしては、別にどうでも良いことだったので。

 

祝賀会とやらが開かれても、ただ隅っこで黙々と飲み食いしただけだ。

 

それなりに祝われていたが。

 

それは此処が左遷のために使われる場所ということで。

 

栄転するのは、懲罰から解放されるという意味があるから、らしい。

 

どうでもいい。

 

わたしには懲罰でもなんでもないし。

 

此処で何が悪いのか分からないからだ。

 

翌日には、新任の教会のボスが紹介される。

 

眼鏡を掛けた、いかにも頭が硬そうな、険しい顔をした中年の男性だ。眼鏡の存在は、スポリファールに来てから知った。

 

魔法使いは老境に入ってからも魔法で視力を補う事が多いのだけれど。

 

そうでない老人は、眼鏡を掛けていることが多かった。

 

それ以外にも、眼鏡は硬質の印象を与えると言う事で。

 

わざわざ印象操作のために使うケースがあるらしい。

 

此奴は多分それだな。

 

わたしはそう思いながら、着任についての演説を聴いていた。

 

なんでも新しいボスは、無駄を全て無くして、特別がない状態にするのだそうだ。

 

法に沿った厳格な運用をするとか言っていて。

 

それで周りの魔法使いはうんざりした顔をしていた。

 

わたしはどうでもいいので、そのまま話を聞く。

 

そいつそのものが法律。

 

そういう伯爵やフラムを見た後である。

 

法律の概念をスポリファールで知って、随分厳格に法律が使われているなと、呆れ気味に感心したほどである。

 

だから、何を今更という感想しかない。

 

そして翌日からも、同じように仕事をまわされて、それをいつもの中庭でこなしたが。いきなり、わたしより少し年上の、なんかとろい魔法使いが泣いているのを見た。随分と詰められたらしい。

 

どうでも良い話だ。

 

いつもわたしを勝手に怖がって、自分は被害者ですという雰囲気を作っている奴である。

 

わたしとしては死のうが泣こうが知った事では無い。

 

黙々と武器を直していると。

 

クラウスだったか。

 

新任の教会のボスが、わたしに声を掛けて来た。

 

「アイーシャくん」

 

「はい」

 

「この書類について聞きたい」

 

書類を見せられる。

 

わたしが書いた書類ではないのだけれど。

 

小首を傾げてから、それを指摘する。

 

眼鏡に手をやって、くいっと直してみせるクラウス。それが格好良いとでも思っているのだろうか。

 

「君が書いた書類ではないというのは知っている。 サインは確認しているからな」

 

「はい」

 

「此処に記載している、壊れた武器についてだが。 あまりにも壊れるのが早すぎる。 君は何か覚えがないだろうか」

 

そんな事を言われてもな。

 

丁度今、わたしは持ち込まれた荷車の車軸を直していたのだが。

 

こんな感じで、毎日のように直せそうなものなら直している。

 

死体を綺麗にすることもある。

 

仕事の内容なんていちいち覚えていない。

 

まあ産婆の手伝いとか。

 

大きめの病人の治療とか。

 

そういうのは覚えているけれど。

 

武器なんか下手すると一日十個とか直すのだ。

 

そんなの、覚えていられない。

 

そう説明すると、クラウスは眼鏡をまた直していた。ぴっちり整えている髪の毛といい、なんというか四角四面な人だなあと思う。

 

「手をつけた仕事については、きちんと覚えていて貰わないと困る。 君はそれなりに仕事の評判は良いようだが、人間としての評判は最悪だ。 これ以上立場を悪くしないためにも、仕事については一つ一つ覚えておいてほしい」

 

「無理です」

 

「覚えるんだ。 可能な限り」

 

苛立ったのか、繰り返してくる。

 

そう言われてもな。

 

この仕事量を、いちいち覚えておけと言われても。

 

それに、この間アンゼルが直していた重心とか、知らない事もある。

 

わたしはそれなりにできるようになってきた魔法を使って、少しずつ自分ができる範囲で仕事をしているが。

 

だからといって、何でもできるわけではないのだ。

 

クラウスが大股で歩いて去ると。

 

ずっとそこにいたように、アンゼルが姿を見せる。

 

一体今まで何処にいたのか。

 

「あいつうっざ。 仕事はできるらしいけれど、それにしても他人に完璧を求めすぎだっつーの」

 

「そうですね」

 

「おや、珍しい。 あたしの言葉にあんまり同意しないのに」

 

「全部覚えるのは流石に無理です。 あの人はできているんでしょうか」

 

恐らくそういう魔法だと、アンゼルは言う。

 

魔法の中には、人間の機能を強化するものがそれなりにある。

 

筋力を強化したり、体を重くしたりする。

 

体を重くすることに意味があるのかと思う人もいる。最初にその魔法を説明されたわたしもそうだった。

 

これは筋力強化と一緒に使う事が普通で。

 

重い武器なんかを、安定して振り回したりして使うためには必須なのだそうだ。

 

そういう魔法には、思考を司る脳を強化するものもあって。

 

中には記憶を絶対にするものもあるらしい。

 

「たまーに絶対記憶能力というのがあって、みたものを全部覚える奴はいるらしいんだけれどね。 魔法でそれは再現できるんだってさ。 多分あのクソ眼鏡、それだと思う」

 

「そうなんですね」

 

「ただそれも誰もが出来る訳ではないからねー。 いちいちブッ殺した獣の数なんて、覚えていないっての」

 

この様子だと、アンゼルの所にも行ったんだな。

 

それにしても命知らずだなと思う。

 

この子、影で気にくわない奴を何人か殺してそうなのに。

 

フラムと取引して確実に勝ちに行ったアプサラスが左遷するくらいの扱いにくい子なのである。

 

自分は真面目で、他人にも自分にも厳しいつもりなのだろうが。

 

ちょっと危ないんじゃないかなとわたしは思った。

 

まあ、それはそれで別にいい。

 

アンゼルはその後は適当に一方的に色々話して、それから行ってしまう。わたしは黙々と馬車の車軸を直して、それがちゃんと動く事まで確認してから、引き渡しを行っておいた。

 

書類を書いていると、クラウスが来る。

 

「アイーシャくん。 もう少し文字を綺麗に書けないか」

 

「できるだけ丁寧に書いていますが」

 

「もう少し丁寧に書くことを心がけなさい。 具体的には……」

 

何と何の文字が癖があって汚い。

 

そう言われた。

 

そうか。

 

まあ、文字を覚えたのは比較的最近なので、直すのは別に難しくはないだろうが。もっと汚い文字の人なんて幾らでもいそうなのだが。

 

他の魔法使いは、既にクラウスが来るとさっと消えるようになっていた。

 

これは、わたし以外にも色々されているんだろうな。

 

そうわたしは思った。

 

 

 

翌日。

 

結構大きめの仕事が来た。

 

今まで二度、兵士達が詰めている砦に呼ばれて、仕事をした。

 

わたしはアンゼルの親友ということにされているらしく。赤髪となんか整っているらしい顔もあって、最初の頃はにやにや見ている兵士もいたけれど。今ではすっかり兵士達は腫れ物扱いしている。

 

ガキ相手になにを逃げ腰になっているのだろうと思うが。

 

それだけアンゼルが化け物じみた強さで、いざ喧嘩になると腕くらい簡単に切りおとして平然としているらしいので。

 

話が通じない化け物と、それの仲間と言う事で。

 

怖がられているそうだった。

 

わたしが元パッナーロの人間だと言う事も最近は知れ渡っていて。

 

それもこの兵士達の対応の理由ではあるらしいが。

 

どうでもいい。

 

いずれもわたしには、どうにもできないことだ。

 

わたしが案内されたのは、砦の一角にある訓練場だ。石壁が随分傷んでいるので、何日掛けても直して欲しい。

 

そう言われた。

 

わたしは頷く。

 

訓練場といっても、基本的にこの砦の比較的外側にあるもので。構造的に此処が崩れると、一番大事な外壁にダメージが行くことがある。

 

それに砦を巡っての戦いになる場合、此処は死地として活用するそうだ。

 

死地というのは、こういう砦とか城とかで使う、相手を引きずり込んで周りから袋だたきにする場所で。

 

つまりいざという時、此処はもっとも激しい戦場になるということだ。

 

ちいさな砦だ。

 

此処は不備がないようにしておきたいのだろう。

 

わたしは頷くと、風の魔法でまず状態を調べる。

 

この風魔法も精度が上がって来ている。

 

国境の街にいたあの屈強な双子の片方が風魔法のわたしよりずっと格上の使い手だったけれど。

 

それも「だった」になりつつある。

 

風を操作して、順番に状態を確認していき。

 

それで、そのまま手元から紙を飛ばして、脆くなっている場所を整理。

 

全体的に石材が傷んでいるが。

 

まあ、力尽くで押したりしない限りは壊れないだろう。

 

修正すべき箇所を全て確認した後は次だ。

 

土の魔法を使って、修正箇所を補強していく。これも今までよりもずっと精度が上がってきている。

 

土の魔法というが、石から金属までなんでもやれる。

 

広い意味では土の魔法なのだろうけれど。

 

ずっと応用性は高い。

 

戦いにも活用出来そうだとアンゼルはいうのだけれど。

 

わたしはそのつもりはない。

 

淡々と一箇所ずつ直しながら。直してから風の魔法で確認を続ける。直したことで、構造体が変化して、脆くなったりすることがある。

 

国境の町で魔法使いとして仕事をするようになって、最初の頃は結構ミスをしたものなのだ。

 

ミスをした後は、同じ事はしないようにしている。

 

それで、てきぱきと直して行く。

 

昼になったので、食事にする。

 

人一倍食べるらしいが。

 

まあ体が育っているのもあるし。

 

昔からそうだけれど、とにかく魔法を使ったあとはおなかが空くのである。空きっ腹だと魔法の精度が落ちる。

 

だから、かなり食べる。

 

しばらく無言で食べていると、此処に務めている料理長が、そろそろ遠慮して欲しいと視線を送ってくるが。

 

食べないと魔法を使えないと説明して。

 

それで更に食べた。

 

ちなみにわたしはやせ形らしく。少しずつ二次性徴が出て来始めた今でも、そんなにふくよかになるようには思えない。

 

小柄な子供のくせにやたら食べる。

 

そういう陰口を聞いたことがある。

 

どいつもこいつも、見覚えがある武器を持っているので、苦笑してしまう。

 

全部わたしが直したんだが。

 

まあ、それを指摘しても馬鹿馬鹿しいので、いわないでおく。

 

それから夕方まで、ずっと仕事をする。

 

緊急性が高い場所から優先して直して、罅が入っているような石材は、土の魔法を重点的に使って、徹底的に補強した。

 

すぐに問題がありそうな場所は、一応なおした。

 

これ以降は翌日にやる。

 

貸し与えられている宿舎に入ると、寝る。

 

街の方にある教会と大して変わらないので、気にはならない。

 

砦は大した規模では無い。

 

あの南のハルメンとの国境にあった砦よりも小さいくらいだから、もしも別の国が角馬でも揃えて突進させたら、砦ごと粉々になってしまうだろう。

 

だから、数日もあれば直せる。

 

その日のうちに報告書も書き終えたので、何も残しは無い。

 

そして翌日。

 

朝の内から外に出る。

 

別に楽しくもないが、魔力を練り上げる訓練はやっておく。

 

座禅して、集中して。

 

それで一点に魔力を集める。

 

これをしっかりやっておかないと、体質によってはフラムみたいに寿命を著しく縮めることになる。

 

体内で魔力をどう制御するかを考えないと。

 

人間の体が内側から壊れてしまうのだ。

 

だから死にたくないのでやる。

 

それだけである。

 

それが終わってから朝食。またたくさん食ってると、陰口を叩かれるが、無視。兵士の一人が、殺気だった目でこっちを見ていたが、気にしない。

 

こんな程度の視線。

 

伯爵領で、嫌になる程見てきた。

 

朝の内に報告書を此処の指揮をしている「中隊長」だかに提出しておく。それから、すぐに仕事に入る。

 

昨日の仕事をまず確認するところから。

 

それから風の魔法で状態を確認しつつ、土の魔法と水の魔法で直して行く。黙々と作業をしていると、聞こえるように後ろで陰口を叩いていた。

 

「なんだあれ。 暇そうな癖に人一倍食いやがって」

 

「前来た奴は汗ダラダラ流しながら魔法使っていたのにな」

 

無視。

 

気がちるので、放っておく。

 

そのまま作業を続けて、細かい補修をしていく。しかし何カ所も問題が発生しているものだと呆れる。

 

水の魔法で汚れを落としてみると、石材が脆くなっている場所もあった。場合によっては取り替える。

 

二つの魔法を同時に使えるようにもなってきている。

 

ただ、その場合は一つ一つの出力が落ちる。

 

作業の際には、それぞれ工夫をしながら行動しなければならない。わたしとしても、そういうときはない頭を使わなければならなかった。

 

黙々と調整を続けて。

 

二日目の夜が終わる。

 

陰口が更に増えているのが分かったが、無視。

 

食事をしていると、にやついたひげ面の兵士が、隣に座ってくる。威圧的なつもりなのだろうが。

 

無視して食事をしていると、なんだか隣でほざいている。

 

ヒマしているなら、そんなに食ってるんじゃねえよとか。

 

手を抜いている分際で、偉そうにしやがってとか。

 

お高くとまりやがってとか。

 

終いには触ろうとして来たので、風の魔法で天井近くまで放り投げた。訓練を受けた兵士の筈だが、落ちたときに受け身も取れなかった。

 

一斉に兵士が剣を抜く。

 

普通は槍だからだろうけれど、明らかに動きが遅い。

 

面倒だな。

 

わたしも伯爵領で何度も殺すつもりで襲ってきた奴を、風の魔法で放り投げてきた身である。

 

襲ってきた奴と相対するのは久々だけれど、別に鈍っているわけでもない。

 

やがて見かねたのか、中隊長が来る。

 

そうすると、兵士達が此奴が悪いと、ぎゃあぎゃあわめき。目を回しているひげ面をさして、誰々さんが助言してやっていたのにいきなり暴力を振るったとか。泡を噴きながらほざくのだった。

 

「そうか。 君の言い分は?」

 

「隣にいきなり座ってきて、何か言っていましたが、内容は覚えていません。 触ろうとして来たので、放り投げました」

 

「分かった。 今日はもういいからさがりなさい」

 

「まだ使った分の魔力を回復しきっていません。 食べてから寝ます」

 

そう告げると、目を白黒させている中隊長が見ている前で、残りを全て食べてしまう。それから、食器やらを料理人に返して。

 

それで寝所に向かった。

 

兵士達が更に嫌悪感を込めて此方を見ているのが分かる。

 

どうでも良かった。

 

 

 

翌日。

 

朝修練をしていると、更に兵士の陰口が露骨に聞こえるようになった。

 

左遷されてきたのは、前の職場でさぼりまくっていたらしいから。

 

人を殺したらしい。

 

近付くと何をされるかわからないから近寄るな。

 

パッナーロの王族だったらしい。

 

そんなアホな発言がたくさんされていたが、無視。問題は、料理人が、食事を指定した量出してこないことだ。

 

なんでも此処では兵糧をいざという時に蓄えているらしく。

 

ただメシぐらいに出す分はないらしい。

 

それを聞くと、兵士が後ろでゲラゲラ笑っているのが分かった。

 

料理人もにやついているが、わたしがすんとなると、露骨に表情に怯えが走っていた。

 

「そうですか。 その分仕事ができなくなりますが、報告書に記載させていただきます」

 

「ひ、暇そうにしているという話なのに、仕事なんてしていないんだろう!」

 

「貴方は魔法を使えるんですか?」

 

そう指摘すると。

 

兵士達がぴたりと黙る。

 

そもそも、魔法は使えない奴は一切使えない。それが分かっているからこそ、魔法使いは重宝される。

 

此処にいるのは二線級の兵士だ。

 

それも問題を起こして左遷されている連中だろう。

 

それが自分より更に下を探して、血眼になっている。

 

自分より上か下かでしか者を判断できない奴はたくさんいる。それはわたしも知っているけれど。

 

それでも、メシが食えないのは困る。

 

「どうでもいいですが、今日で仕事は終わるので、今日で出ていきます。 さっさと指定分だしてください。 味だのなんだのでケチをつけたことがありましたか?」

 

「……」

 

「給仕長、指定分だしてやれ。 兵糧の不足は起きていない筈だ」

 

「わかりました」

 

また見かねた中隊長が来たが。

 

それを見て、兵士達が露骨に不満の視線を向けている。

 

リーダー格らしい、昨日放り投げたひげ面が喚く。

 

「隊長! それをどうして特別扱いするんですか! 命かけて戦ってるのは俺たちなんですよ!」

 

「報告書によると、砦の破損箇所はそれなりの数に上っている。 私も確認したが、確かに覚えがある破損なども多かった。 それを全部直してくれている。 暇そうに見えるというのは、魔法使いではない人間からのものだ。 魔法は才能がものをいう。 今まで来ていた魔法使いは、才能がこの娘より劣っていただけだろう」

 

「絶対にサボりだ!」

 

「そうだ!」

 

他のも喚くが。

 

中隊長が咳払いすると、不満そうに黙る。

 

ただ、中隊長はわたしにも好意的では無かった。

 

「君は君で協調性に著しく欠けるな」

 

「はあ」

 

「仕事をさぼっているとは思わないが、多少は誤解を解く努力をしてほしい」

 

「そんな事を言われても、最初から此方の行動を決めつけて掛かっている人間の意思なんて曲げられません。 全員風魔法で放り投げて黙らせればいいんですか?」

 

前だったらできなかっただろうが。

 

二線級の兵士のこいつらくらいだったら別にどうとでもなる。

 

それを聞いて、殺気立つ兵士達だが。

 

昨日放り投げられて気絶したひげ面が、青ざめるのを見て、それで黙る。

 

「お前達もこの娘は刺激するな。 砦にガタが来ていたのはお前等がそもそも不満として口にしていた事だろう」

 

「中隊長、でも」

 

「確かに砦の破損箇所は直っている。 手を出したものは許さない。 だいたいこの者が暴れたら、砦くらい倒壊するぞ。 腕がいい魔法使いや、魔法が使える騎士の実力はお前達も知っているだろう」

 

それを聞いて、黙り込む兵士達。

 

アンゼルに聞かされた話を思い出す。

 

最強の騎士アルテミスは、あのアンゼルの五十人分くらいは強いのだったっけ。

 

此奴らも勤務態度とかで左遷されているとしても。それでもそういう凄腕くらいは見ている筈だ。

 

任務に行くように。

 

そう急かされて、兵士達は不満そうに出ていった。わたしは黙々と食事を始める。

 

それを見て、中隊長は大きく嘆息していた。

 

何だかおかしな話だ。

 

ああいう連中を前に、何を協調性をだせばいいのか。

 

わたしには分からない。

 

幸い、あの手の兵士達は今日は一日外に出ていたらしく、邪魔は入らなかった。

 

鬱陶しそうにしている料理人から食事を受け取ると、それをさっさと腹に流し込んで。それで仕事を済ませる。

 

夕方には全ての破損箇所がなおし終わった。

 

ついでに武器庫にも案内して貰い、以前自分で直した武器を確認しておく。意図的に壊されたようなものはないようだが。痛みが早いらしい。

 

なんでもアンゼルによると、武器というのは使い手によって痛み方がだいぶ違ってくるとか。

 

どんな名剣でも下手くそが振るうと役に立たないし。

 

駄剣でも上手い人間が使うと、それこそ名剣のように輝くのだとか。

 

「傷んでいるものが結構ありますね。 持って来て貰えれば直します」

 

「分かった。 考えておく」

 

「そうですか」

 

面倒だな。

 

こいつも根っこでは兵士達と同じ事を考えているらしい。

 

まあわたしはどうでもいい。

 

仕事が終わったので、引き上げる。

 

乗合馬車が出たので、それに乗って帰るが、最後まで兵士達はわたしに陰口をたたいているようだった。

 

そして教会に戻った翌日。

 

例のクラウスに呼び出されていた。

 

「砦では幾つも問題行動を起こしたそうだな」

 

「仕事はこなしましたが」

 

「仕事については後で私で確認する。 君の技量が年齢の割に高い事は此方でも確認しているが、その性格が問題だ」

 

性格ね。

 

わたしの場合、性格なんてものは存在していないように思う。

 

動物と同じだ。

 

いや、動物の方が感情が豊かに感じる。

 

「私がいうのも何だが、君を不気味だと言って怖れている者は多い。 少しは改善をしてほしい」

 

「不気味ですか」

 

「いつも全く表情を見せない。 顔が整っている分それが不気味なのだそうだ」

 

「はあ」

 

そう言われても表情なんぞ作りようがない。

 

伯爵の屋敷では泣けば殴られ悲しめば殴られ何をしても殴られたのだ。

 

今更表情なんて作れるものか。

 

「いずれにしても砦に君を派遣することは避けて欲しいと中隊長から書状を受け取っている。 以降は教会で勤めて欲しい」

 

「それは助かります」

 

「……いきたまえ」

 

呆れたようにクラウスが言う。

 

そういわれても。

 

できないものは、できないのだ。

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