辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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かくしてスポリファールを離れたアイーシャ。アンゼルの暴走に巻き込まれた形ではあるのですが、本人も内心は嫌気が差していたこともあり。またアンゼルが自分のために行動してくれた事もあり。

黙々とついていく事になります。

そして向かう先はカヨコンクム。

列強の一つとしてスポリファールと争う国の一つですが、海軍と陸軍が対立しているうえに政治の腐敗が激しく。

また違う苦労をアイーシャは背負い込むことになります。


腐りかけ
序、強攻


馬車が走る。

 

何しろアンゼルがいるので、追っ手はあまり熱心ではないようだったけれども。それでも軍のまとまった部隊に追跡されると面白くないとアンゼルは言っていた。わたしとしてはちょっと困っている。

 

アンゼルは一方的に友人だと思っているけれど。

 

わたし自身も、別に嫌ってはいない。

 

意外な事に、まともに話が出来る数少ない人間だからである。

 

だからそれが友達なのかも知れないが。

 

わたしにはそれさえ分からない。

 

ただ、アンゼルに連れられて逃げるのは、別に嫌ではなかったし。何よりアンゼルはやり過ぎたと思ったのも事実だけれども。

 

わたしとしても、もうスポリファールにいなくていいかと思っているのも事実なのではある。

 

それだけの理由で、命がけの逃避行をしているのだから馬鹿馬鹿しいといえば馬鹿馬鹿しくはあるのだけれど。

 

わたしの人生なんて、最初からそうだった。

 

親がどうしてわたしを手放したのかはわからない。

 

盗賊かなんかにわたしがさらわれて売り飛ばされたのか、それとも自主的に売ったのか。

 

そもそもパッナーロの話を後から聞くと。

 

貧しい家では、ある程度子供が育つと長男以外は売り払うのが当たり前、という所だったそうだ。

 

嫁入りの結納金と称して、女の子を売りつけて、金を受け取る。

 

そういう文化が当たり前のようにあった。

 

だから人間は普通に売り買いされていた。

 

スポリファールでは考えられない文化らしく、それを聞いて皆蛮人がと吐き捨てているのを見た事もある。

 

まあ、確かに蛮人だ。

 

ただ、それを蛮族の所業と嘆くスポリファールだって、楽園でもなんでもない事はここしばらくの経験で理解出来たわけだが。

 

馬車が止まったので、ため息をつく。

 

この馬車はかなりの強行軍をやれるものなのだけれども。それでももう道からだいぶ外れて走っている。

 

森の中を突っ切るのは難しいし、どうしても車輪跡が残る。

 

追跡の部隊はいるだろうと、アンゼルは言っていた。

 

それでも馬車を使っているのは。

 

わたしを逃がすためだ。

 

アンゼルはアンゼルなりの義憤でわたしを助けたのだろう。やり方が、パッナーロの人間も吃驚な程に乱暴だったが。

 

とりあえず、馬車を降りる。

 

馬が潰れかけているらしく、エサを食うようにアンゼルが促していた。滝のように汗を流している馬を水場に誘導。

 

水も飲ませていた。

 

「最悪馬に乗って行く事も考えたいんだけれど、この馬だとどこまで荷物を積めるかだねえ」

 

「わたしを置いていけば早いのでは」

 

「見損なってもらっちゃ困る。 あたしは変人だけど、友人は裏切らない」

 

「そうでしたね」

 

それについては信用して良さそうだ。

 

あれだけのことをやるくらい頭が狂っていても、そういう筋を通す奴だ。

 

馬に水を与えて、それで夕食にする。

 

馬車の中で、保存食を囓る。この馬車には、それなりに食糧が積まれているので、それを消費していくだけだ。

 

ちなみにアンゼルは汚れ仕事が主体だったからか、給金はあまり貰っていなかったらしい。

 

この国でもまっとうな軍人は給金が高く。

 

アンゼルみたいなダーティーワーカーは給金が安い。

 

そういう話であるらしい。

 

一応特別手当て何てのもつくらしいが。

 

それもあくまでおまけ程度のものらしかった。

 

「それで、今はどの辺りですか」

 

「もう少し行くとインシークフォの国境かな」

 

「インシークフォ」

 

「古くからある国だけれど、スポリファールが大きくなってからは国土の殆どを消失してしまった国だね。 古くには多くの英雄と優れた文化を輩出したみたいだけれど、今は殆ど土地も残っていない。 現在ではカヨコンクムの保護国になっているけれど、スポリファールの間諜も入り込んでるし、状況次第でいつでも寝返るだろうね」

 

大国の緩衝地域としてしか存在意義がない小国だ。

 

他にもルベノイケータ国という似たようなのが、もう少し西の方にあるらしい。

 

スポリファールとカヨコンクムの大国の間には、主にこの二つの国があって。直接領土を接して、戦闘が激化するのを避けたい両国が、利用しているというわけだ。

 

そして両国が利用していると言う事は、国が潰れないように両国が後ろから手を回しているということで。

 

古い国の上に腐りきっていて。

 

この世のあらゆる悪徳が積み重ねられてもいるそうである。

 

「インシークフォの街にアイーシャを置いてきぼりにしたら、目を離した一瞬でさらわれて、娼館行きだね。 後は死ぬまで色々させられると思うよ」

 

「いや、人攫いなら慣れていますので」

 

「ああ、そうだったか。 あたしもあの国には何度か潜入したんだけど、国と人攫いが連んでいて最悪だったね。 スポリファールにも犯罪組織はあるんだけれど、基本的にインシークフォと絡んで、国の追求をしづらいように立ち回ってる。 そういうのを潰すために何度か侵入して、随分殺したよ」

 

楽しそうに言うアンゼル。

 

やっぱりこの子、人を殺すのが好きだし楽しいんだな。

 

あまり同意はできないが。

 

そういう人間もいるということだ。

 

国境と言っても、線が引かれている訳でもないし、関所もない。

 

それに先の話からして、国境を越えたところで安全になんかならないだろう。馬を休憩させると、そのまま行く。

 

いちおう風魔法で轍を消しておいたけれど、多分無駄だろう。

 

わたしより優れた魔法使いなんて幾らでもいるのだ。

 

追跡を本気でするつもりだったら、あっと言う間に追いつかれるはずだ。

 

ただアンゼルほど強い騎士は殆どいないということで。

 

その殆どいない騎士の大半は、今は旧パッナーロに出払っているという事でもある。

 

だとすると、大規模な軍でも追跡してこなければ大丈夫ではあるらしいのだけれども。それもどこまで信じられるか。

 

夜闇の中、馬車が行く。

 

アンゼルの体力は底無しで、一日中馬を走らせても平気な顔をしている。馬の方が耐えられないくらいだ。

 

実の所アンゼル一人なら、馬より早くいけるらしいのだけれども。

 

それも友人を守るため、というやつなのだろう。

 

感謝の気持ちというのは分からない。

 

だけれども、わたしはそれを抱かないといけないのかもしれなかった。

 

幾つか点々としている村やらを避けながら途中まで馬車で行ったが。ある街で、馬車をアンゼルが馬ごと売り払った。

 

その代わり荷車に買い換える。

 

ちなみに言葉は通じる。

 

わたしの事をやっぱりごちそうでも見るような目で見ている男は多かったが。それも頷ける。住民の服装は伯爵領の人間よりはまし、程度だ。

 

スポリファールより明らかに町並みが貧しい。

 

非常に古い石造りの建物が目立ち、それをずっと直し直し使っているのが分かる。それになんだか異臭がする。

 

理由はすぐに分かった。

 

排水がきちんと機能していない。

 

スポリファールだとちいさな村ですら排水をしっかりしていたのに、此処ではやっていないのだ。

 

古い国でも、こういう……インフラだったか。それをきちんとできているかは別問題なんだなと分かる。

 

ましてや大国に挟まれて、緩衝地帯である事だけを求められている国だとなおさらなのだろう。

 

大国からすれば存在してくれていればいいし、そこに住んでいる人間は肉の盾になってくれればいい。

 

そんな風に思っている訳だ。

 

荷車をアンゼルが引いて、後は歩いて行く。

 

途中で前後を囲まれたが、アンゼルが文字通り秒で全部斬り捨ててしまった。恐らく人買いだろう。

 

話も聞かずに皆殺しか。

 

まあ、アンゼルは見るからにヤバイので、わたしを狙っていたのだろうけれど。

 

「これからこういうのが何回かあると思うよ」

 

「警邏とかは仕掛けてこないんですか」

 

「無視だろうね。 連中にとっても収入源だし」

 

「そうですか」

 

ま、こっちを売って金にしようというのなら。

 

殺されても文句は言えないか。

 

街を出る。

 

案の場、街の外に出ると、さっき以上の数のが待っていた。全員何かしらの武装をしていて、表情は獣同然である。これが人間の普通の姿であることは、伯爵領で生きたわたしは良く知っている。

 

多分、人間の暗部を散々見てきたアンゼルも。

 

そして会話が不可能なことも。

 

アンゼルは笑顔のまま剣を抜くと、即座に全部殺した。

 

血の雨が降る。

 

そんな中、喚きながら一人突進してくる。

 

自棄になって、ナイフをかざしているのが分かった。

 

脅威と認定。

 

風魔法で、空に放り投げた。

 

オークに比べれば簡単。

 

それに、風魔法で捕まえるのも、ぐっと簡単になっていた。技量が上がっているのだ、単純に。

 

空高くまで飛んでいったそれが、落ちてきて。ぐしゃっと潰れる。

 

即死だ。

 

前は放り投げる程度で済ませていたが、これはそうしても逆恨みするだけだ。

 

左遷されて田舎に飛ばされていた兵士ですら逆恨みしていたのだ。こんなのが殺されなかったことを感謝なんかするわけもない。

 

人を殺したのは初めてかも知れないが。

 

別にそれを、なんとも思わない。

 

周りは既に静かだ。

 

大量の切り刻まれた死体から、膨大な血が流れているが。街の方でも、騒いでいる様子はない。

 

厄介者が消えて清々したのかもしれない。

 

いや、死んだ奴は自己責任くらいの考えなのだろう。

 

「殺してみてどうだった?」

 

「特になにも」

 

「やっぱりあたしの同類だよアイーシャ。 いいなあ、同類がいると分かるとちょっとぞくぞくする」

 

「そうかもしれないですね」

 

それから、森の方へ向かう。

 

森の中の誰も使っていない小屋を見つける。

 

いや、誰か住んでいたのかも知れないが。さっき襲ってきた連中にでも殺されて、金目のものは全部取られたのだろう。

 

中でアンゼルは剣の手入れを始める。

 

わたしは横になって寝る。

 

風の魔法で浮かせて地面に叩き付ける。自衛の魔法としては充分だろう。勿論風魔法で防御出来る相手には通じないが。

 

もう少し習熟したら、まとめて十人ぐらいああやって地面に叩き付けて潰せるかもしれない。

 

そう思った。

 

 

 

翌日からは、人里を避けて黙々と歩く。

 

山賊はこの辺りでは珍しくもないらしくて、途中で何度となく仕掛けて来た。子供も普通に交じっているけれど。

 

子供だからといって加減なんかしない。

 

伯爵領でも、フラムの手下には普通に子供もいたし。

 

人を殺して一人前、なんて考えて動いているのが当たり前だった。

 

わたしは魔法が使えたから特別枠だったけれど。

 

そうでない子供は、スリとか火付けとか。

 

力がいらない行動で、如何に悪辣を極めるか競っていた。

 

そういうのを見ている。

 

わたしはアンゼルに言って、複数人数をまとめて浮かせて地面に叩き付ける奴を試してみる事にする。

 

途中仕掛けて来た山賊は、包囲してから殺しにきたのだが。

 

それ全部を捕獲して、浮かび上がらせる。

 

動物そのものの悲鳴を上げている連中を、豆粒くらいに見えるくらい浮かび上がらせて、それから離す。

 

それで充分。

 

賊が全部地面で潰れて、木っ端みじんに砕け散っていた。

 

「おおー。 面白い魔法だ」

 

「賊くらいなら使えそうですね」

 

「こっちから不意を撃てるならね。 まだ発動までに時間が掛かりすぎているかな」

 

「なる程」

 

賊の一人が逃げ出したのを。

 

音みたいな速さで捕まえて戻ってくるアンゼル。

 

今のは敢えて逃しておいたのだ。

 

アンゼルが、その場で体に聞き始める。

 

拷問なんてものは基本的にはほぼ意味がない。審問官が言っていたことだ。

 

だからアンゼルは、話したら生かしておいてやると言うような話術を使って、山賊のアジトを吐かせていた。

 

吐かせた後は即座に首を刎ねるのだから、まあ徹底している。

 

こんな風なやり口が、ダーティーワークをする他の騎士からも嫌がられたのかも知れない。

 

面倒なので、山賊のアジトも根こそぎにする。

 

アジトには売られる寸前だったらしい人達も捕まっていたが、無視。好き勝手にするようにだけ言って。

 

アンゼルが賊が蓄えていたらしい金品を根こそぎに持っていくのを横目に。

 

わたしが不意を突いて、全部潰した賊の死体を、浮き上がらせ。

 

風魔法の練習に、圧縮してまとめて肉団子にしておいた。

 

ばきばきと音を立てて潰れる死体。

 

血が噴き出さないように練習して潰す。

 

別に死体を嬲っているわけでもない。

 

単純に訓練のためだ。

 

もっと精密に、速度を上げる。

 

人を殺すのは嫌だが、身を守るためには仕方がない。それについては、この国に入ってからよく分かった。

 

だったらやるべき時にはやるしかない。

 

わたしは死にたいとは思わない。

 

流されるばかりに生きているのだけれども。

 

それでも。

 

自分でできる事はしておきたかった。

 

そうして、カヨコンクムへの国境へ急ぐ。

 

何度も賊に襲われたし。

 

呆れたことに、賊とつるんでいるこの国の軍勢が襲ってきたこともあった。装備も訓練も劣悪で、田舎の街の砦にいた兵士が精鋭に見えるくらい酷かった。

 

この国は潰れないことを大国に保証されているから、国政なんて実質していないし。

 

国民だって法律なんて鼻で笑っているんだろう。

 

だから伯爵領みたいな状態になっている。

 

彼処よりはマシだと思うけれど。

 

多分それは経済が彼処よりはまだマシだからであって。

 

根は変わらないのではないかとさえ思う。

 

いずれにしても、襲ってくる奴は全部殺す。アンゼルがだいたいは殺してしまうけれど、わたしは魔法の練習をする相手として活用させて貰った。

 

わざと生き残らせたのを、実験台に新しい魔法を試す。

 

手足をアンゼルが切りおとしたから、どの道助からない。

 

わたしは風魔法を操作して、一人を内側から破裂させた。

 

土魔法を使って、左右から押し潰してぺしゃんこにした。

 

水魔法で相手の顔を覆って、窒息死させた。

 

別に何も思わない。

 

こうしなければ、それ以上の目にあっているのは確実なのだから。無抵抗で殺されてやるつもりはないし、尊厳をくれてやるつもりだってない。

 

国を出たのは二回。

 

追放されたのは三回か。

 

いずれも、わたしはできる事はしていたし、それに関しては周囲も認めていたはずだ。

 

なら、もう良いかなと思う。

 

アンゼルはわたしが新しい魔法を編み出す度に、滅茶苦茶褒めてくれる。

 

それだけで、魔法を編み出した甲斐はあったかなと思う。

 

でも、別に嬉しくもなんともない。

 

また、襲ってきた奴は一人も逃さない事もある。

 

誰か生き残りが、わたし達の事を触れ回るようなこともないようだった。

 

国境を越える。

 

カヨコンクムも国境線は広く長く、全てに壁がある訳でもない。というかアンゼルも何度も潜入をしているらしく。非常になれたものだった。

 

国境を越えた頃には、もう水の魔法を使って、服さえ脱げば体も髪も適温の水で洗う事も出来るようになっていたし。

 

アンゼルもそれを使うと喜んでいた。

 

服も洗濯して、あっと言う間に乾かせるようになっていて。

 

生活に困る事はなかった。

 

ご飯さえ食べられれば、それで魔法は使える。

 

問題は寝床だが、アンゼルはどこでも平然と寝られるようだったが。わたしは流石に荷車を使わせて貰った。

 

これは伯爵領での生活を思い出して、土の上で寝るのはしんどいからである。

 

まあそれに加えて。

 

スポリファールで、寝床で寝るのに慣れたから、というのもあるのだが。

 

国境を越えると、露骨に空気が変わった。

 

今まで見たいに、賊が当たり前にいて、それを軍もまったく取り締まろうとしていない状況ではなくなった。

 

カヨコンクムはかなり荒々しい国だと聞いていたが。

 

スポリファールほどしっかりしているようには見えないが。一定の秩序があるように、遠めに街を見ることで判断する事が出来た。

 

この辺りには賊もいないようだ。

 

賊同然の事をしている軍も。

 

「ロイヤルネイビーは賊以上に評判が悪いんだけれど、それも自国領では好き勝手はしていないからね」

 

「そうなんですね」

 

「この国は陸と海で別の国に近いんだよ。 ロイヤルネイビーのボスは海賊女王なんて言われている奴で、残虐非道でどこの国の軍人からも怖れられてる。 陸の方だとある程度秩序はあるけれど、ロイヤルネイビーとは何度も内戦じみた小競り合いをしていて、結局抑える事は上手く行ってない。 世界最強の海軍であるロイヤルネイビーは、その気になれば別の国につくことも出来るし、なんなら独立しかねないんだ」

 

ただしぶしぶながらとはいえ、潤沢な補給を提供してくれる陸の人間とは、ある程度上手くはやっている。

 

それはそれで、海上では商船でも平気で襲う。

 

それがロイヤルネイビーであるらしい。

 

ただしその構成員は荒くれぞろいで、略奪も強姦も平気でやるし、寄った港では毎度問題を起こすそうだが。

 

少なくとも内陸で問題が起きることはあまりないらしい。

 

事情に詳しいアンゼルは、というわけでまずは仕事を見つけようかと、街を視線で指すのだった。

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