どこかで聞いたような単語が色々出てくるこの作品ですが。
カヨコンクムの途中で通った緩衝地域の幾つかの国家。古参のネットユーザーは何処かで聞き覚えがあるのではないでしょうか(笑)
とにかく陰惨な作品なので。緩和要素としてこういうお遊びは彼方此方に入れています。
事情に詳しいアンゼルについていく。
街に入るのを咎められもしなかったし、なんならアンゼルは鎧のままだ。色々な鎧を着ている人間もいる。
軍人とは思えない。
「普通の人が武装しているんですかこの街だと」
「ああ、あれは冒険者だね」
「冒険者?」
「要は武力を持った何でも屋」
そうか。
スポリファールにはいなかった職業だ。
話によると、カヨコンクムは元々古い時代……いきなり勇者だの賢者だのが世界に溢れた時代よりももっと古く。そんな時代にあった街なんかから、金目のものを漁ることで出来た街から、発展していったものであるらしい。
そういった場所にはゴブリンだのもいるし。
熊だのよりももっと危険な生物もたくさんいたので、軍が出るよりは、消耗品として扱いやすい使い捨ての人間が重宝された。
そういった人間も、一攫千金で成り上がることが出来るし。
中には王となって国を乗っ取ったものまでいるという。
だから盗掘を「冒険」と言い換え。
機会を力で掴む事を貴ぶ風潮が出来たとか。
そういった冒険者の一部が海に進出してロイヤルネイビーが出来たという。
そういう事情もあって、冒険者から軍に転向するもの、その逆、よくあることだそうである。
まだこの国にはそういった遺跡が眠っているらしく、それらの町に行く冒険者もいるらしいが。
殆どは治安維持を格安でやっていたり。
魔法なんかを使って問題を解決していたりと。
基本的に武力を持った何でも屋だそうだ。
まず宿を取る。
あまりいい宿ではないが、それでも寝床に蚤も虱もいなかった。一応寝床は熱風で温めて、即座に冷やすが。
それをアンゼルは喜んでいた。
「おお、応用力高いねー」
「できる事は一つでも増やしておきたいんです」
「いいことだ。 あたしは持て余していたみたいだから別にいいけれど、アイーシャに関してはスポリファールは良い人材を無駄にしたもんだよ」
「そうですか」
キャハハと笑うアンゼルは。休んでいてくれというと、部屋を出て行った。
わたしは風魔法で周囲の探知をするが。
隣の部屋では、まだ明るいのに男女が三人で盛ってる。
別の部屋では、人買いらしいのが、なんだか取引の話をしているようだった。相手は役人だろうか。
どうもスポリファールほど国はしっかりしていないようだ。
それはまあ、仕方がないだろう。
アンゼルが戻って来た。
国軍に潜り込めればいいと思ったらしいのだが。
現在、国軍は人員を募集していないらしい。
なんでも毛並みが良いのはみんな旧パッナーロの統治に向かってしまったらしい。
ロイヤルネイビーがとにかく荒らしまくったせいで、旧パッナーロの占領地はほとんど無人状態だとかで。
其処にまるごと移り住んでいる人間がたくさんいるそうだ。
その代わりに、彼方此方から流れ込んできた冒険者に、治安維持を任せているのだとかで。
同時に入り込んだ犯罪者をどうにかするので四苦八苦していて。
とてもではないが、この状況で。
信頼性が必要な国軍に、身元が分からない相手を雇えないそうだ。
「元騎士だというのを提示しては」
「駄目だねそれは。 カヨコンクムの騎士……まあこの国では言い方は違うんだけれども、たくさん殺したし、あたしのこと知ってる奴がいてもおかしくないし」
「それは、この国はさっさと離れるべきなのでは」
「カヨコンクムを離れるとなると、更に北の方に幾つか国があるけど、この国以上に貧しいし。 ロイヤルネイビーがたびたび略奪に出てるからね。 安全には暮らせないだろうね」
そうか。
まあ、アンゼルが連れ出してくれたのも事実だ。
少し今後の去就を話し合う。
幸い生活費はなんぼでもある。
宿にもしばらく泊まることが出来るだろう。
家を買うくらいは出来るかもしれない。
途中で何度か賊を皆殺しにして、その資産を丸ごと回収したが。その中には、結構な価値のある宝石やらもあったのだ。
「アイーシャは魔法を使う仕事を何かこっちで探すよ。 喋るの苦手でしょ」
「まあそうですね。 できる事を示すのは得意ですが」
「時期が悪かった。 もうしばらくしたら、国軍に大々的な応募もあっただろうに」
「軍ですか……」
あまり入りたくは無いな。
スポリファールとはあんな決別をしたけれど、別にスポリファールそのものに恨みがある訳じゃない。
周囲でくだらない陰口を叩いていた連中もどうでもいい。
まあ審問だとかで散々色々な事をしてくれた事についてはちょっと思うところもあるが、それも別に殺したいほど恨んでいる訳でもないし。
「アイーシャって出来るの実用的な魔法ばっかりだからね。 ふわっとした奴。 占いとか予言とか、そういうの出来ないでしょ」
「仕組みそのものが分かりません」
「そうだろうね。 まあ、ちょっと仕事は探してくるわ。 あたしだけなら、荒事は幾らでもあるんだけどねえ」
別に荒事でも良いけれど。
そう言う前に、アンゼルは部屋を出て行った。
相変わらず一方的に喋るが。
それでいながら。
不思議と意思疎通はある程度出来ている。
まあ、それに。
わたしも、アンゼルと一緒にいる事は、それほど不快ではなかった。
夕方にアンゼルが戻って来たので、宿から出て食事に行く。
この街は海まで数日ということもあって、魚料理は名物ではないが。干物なんかの魚はたくさん入荷しているらしい。
魚がたくさん料理に出てくるのは新鮮だ。
鮮度は低いが、それは仕方がないだろう。
黙々と魚を食べていると、アンゼルが色々話す。
今、幾つかの仕事を見繕っているらしい。
盗賊の駆除。
腕がいい冒険者を募集して、この街に巣くっている犯罪組織を潰そうとしているらしいが。
当然犯罪組織もそういうのを雇っている。
命がけになるだろうと言う事で、使い捨ての出がらしみたいなのしか集まっていないとか。
要件は街を混乱に落とさないように、さっさと全部駆除する事。
ただ問題は、犯罪組織の人間だと一目で分かるものがない。
だから、下っ端を捕まえて、どういう人間がいるのかから調べないといけない。
悪名を轟かせている犯罪組織はあるらしいが。
そういうののボスが大手を振るって歩いている事は、実際には滅多にないらしい。そういうのが好き勝手に振る舞っているような国は、基本的には終わる寸前。カヨコンクムでは、そこまで好き勝手はさせていないそうだ。
「とりあえずあたしはそれで稼ぐわ。 まあ二三日で潰せるかな」
「本職ですもんね」
「ふふん、そういうこと」
アンゼルは騎士の鎧を脱いで、普通の服を着ている。この街で買ってきたらしい。
服の質はスポリファールより良くないが、技術で劣るようなことはなく、金持ちにしかいいものは流通していないだけだそうだ。
そういう意味では、この国はスポリファールほどしっかりしていないのかも知れない。
ただ、スポリファールといい勝負をしているし、軍の戦力はほとんど変わらない。
そういう意味では、国の方針が違うだけなのかもしれないそうだが。
アンゼルはわたしと同年代だが、色気は出始めているし、男が声を掛けて来る事もあるらしい。
ただしアンゼルの目を見て、即座に逃げるらしいが。
まあそうだろうな。そうとしか言えない。
「とりあえず、魔法を使う仕事は幾つか見繕っておいた。 しばらくは日雇い同然になるけれど、それで稼いでくれる?」
「分かりました」
「この街は訳ありばかりだから、しばらくは気にしなくていいだろうね。 問題はあたしの方かな」
アンゼルは、大量殺人の実行犯だ。それも相手は民間人である。
まあわたしも途中で賊はわんさか殺したし、その数もいちいち覚えていないが。スポリファールの民を殺したわけではない。
人の命に軽重はないとよくいうが。身を守るために賊を殺すのと、無抵抗に近い一般人を殺戮するのでは、罪の重さは全く違うだろう。
此処までスポリファールの追っ手が来ても不思議ではない。
わたしの方も、アンゼルをおびき出すためのエサにされる可能性がある。
それをアンゼルは心配していたようだが。
そういう事情もあって、ここに来るまでに、戦闘用の魔法を練習してきた。
今なら、生半可な騎士よりももう強い。
そう太鼓判を押されている。
魔法の展開が、かなり早くなったのが理由だそうだ。
それに、周囲の気配を察知するのも、前とは別物に技量が上がってきている。
下手な相手に不意を突かれる事もないだろう。
「はー、食った食った。 アイーシャは相変わらずあたし以上に食べるね」
「ええ、魔法を使うので」
「魔法か。 いずれにしてもそれでベッドを綺麗にしてくれるから助かる。 じゃあ、もどろっか」
食堂の隅で、男二人が喧嘩をしている。
それを誰も止めない。
やがて剣を抜いた片方が、もう片方に斬られていた。斬った方も、左腕がぶらんぶらんだった。
店主がため息をつくと、死体を片付けている。
それを誰も気にしない。
此処は、そういう街なのだと分かった。
アンゼルは仕事が早くて、すぐに盗賊を二人捕まえてきた。下っ端で、ろくに何もしらないことは承知の上。
アンゼルに対しては最初吠え散らかしていた盗賊だが、何の躊躇もなくもう一人をアンゼルが斬り殺すと、それで口が即座に滑らかになった。
アンゼルが本当に楽しそうに、賊を殺して。
その後も死体を切り刻んでいるからかも知れない。
わたしもそれにつきあわされる。
まあわたしも死体には慣れているので、別に何とも思わない。
「ふーん、それでその男が上司だと」
「そ、そうだ。 軍にもコネがあるって言ってた! 顔は見せてくれない。 非常に用心深い奴だ」
わたしは頷くと、男に魔法を掛ける。
審問官にやられた奴だ。
あれほどの精度ではないが。
それでも嘘はつけなくなる。
アンゼルが丁寧に詰問をしていく。元々敵地に潜入してこういう仕事をする本職だったのだ。
幾つかの質問をしていくだけで、的確に情報を引き出していくようだった。
情報を引き出すだけ引き出すと、何の躊躇もなく首を刎ねる。
大量の血を流しながら横倒しになる死体を、わたしはそのまま押し潰してしまう。風の魔法と土の魔法の応用。
水の魔法も使って、流れ出た血も全て固めてしまった。
それでもそれなりに人を殺すと血が出る。
始末は手間だ。
「おー、随分小さくなるね死体」
「賊で練習したのが効いています」
「血も殆ど出ない。 衛生的だ」
「炎の魔法が使えたら、もっと楽なんですが」
そのまま死体だったものを二つ上空に打ち上げると、其処で木っ端みじんに消し飛ばす。上空といっても、見えもしないほどの高さだ。
しかも処理をしているから、血とかが降って来ることもない。
雲に混じって、雨の材料になるだけである。
ちなみに首から上は無事で。
アンゼルは詰め所に持っていって、賞金に変えてきた。
そして、その足で、更に数人を狩ってくる。
わざわざ見せつけるようにして首をぶら下げて歩き。それを見ていた奴の視線から、関係者を割り出すという技を使っているらしい。
えげつないが。
まあアンゼルらしい。
それにアルテミスという騎士のような特別でないかぎり普通の相手に負ける事はない自信もあるのだろう。
こういう所の賊は、暴力が好きで腕力が強く、頭がイカレていればでかいつらを出来るのだとアンゼルは言っていた。
残念ながら魔法による強化が信じられない倍率で入っているアンゼルみたいな殺しに特化した騎士相手だと。
そんな賊ではどんなに群れても勝てない。
魔法がない世界だったら、そうもいかなかったのだろうが。
現実とは無情である。
そうして、毎日アンゼルが賊を狩ってくる。
その内、上司だという人間も狩ってきた。
冒険者崩れだったり、魔法使いだったりする賊もいた。元軍で密偵などをしていた人間が、身を崩した者もいた。
いずれもアンゼルみたいな本職の前には無力で。
片っ端から狩られていくだけだった。
それをわたしが尋問する。
尋問の魔法は自分の身で味わった事もある。
やり方さえ覚えてしまえば再現は出来たし。
更に実験台を豊富にアンゼルが捕まえてくるので、実験もとてもはかどった。わたしは魔法の習得がかなり早いらしく、どんどん精度も上がっていく。
やがてアンゼルが捕まえてきた奴が、短時間で全部吐くようになった。
嘘をつけなくなるだけの魔法で、こうも簡単に正確な情報が手に入るというのは驚きだ。
それで何となく理解する。
審問官がわたしを厄介扱いしたのを。
わたしみたいな審問の魔法が通じにくい相手は、審問官もとてもやりづらくて。それで正か偽か判断しづらかったのだろう。
別にそれはそれでかまわない。
もうスポリファールに戻るつもりはないし。
やがて、街にいた賊の半数ほどがアンゼルに狩られてしまう事態になると、大人数で宿を襲撃してきた。
わたしだけがいる時を狙って来たようだったが。
それもアンゼルが仕掛けた罠だったし。
何よりもそういう計画がある事は、アンゼルが捕まえた賊が全部吐いていた。
宿を襲撃する前に、先に罠を仕掛けた。
それに大人数だと言っても、アンゼルが戦場で相手にしてきた軍部隊とは、数も装備も練度も違う。
複数のルートから宿に襲撃を企てた賊は。
殆ど全部アンゼルに斬り倒され。
僅かな残りは、わたしが事前に待ち伏せて、水の魔法で窒息死させた。
作戦も雑だったし、気配だってモロバレ。
外にいた山賊の方が、まだ練度が高かったくらいである。
猪と豚をやりあわせたら、猪が勝つ。
そういう話があるらしいが。
都会で暮らしていると、どうしても鈍るらしい。
そうわたしは、この賊達の為体を見て知ることになった。
いずれにしても、わざと生かして捕まえた賊以外の首は、アンゼルが全部駐屯所に持っていく。
毎日首をぶら下げているヤバイ女がいる。
そういう話は既に噂になっているらしく。
宿の客は全部いなくなっていた。
巻き添えになるのを怖れているのだろう。
宿の主人は、出て行ってくれとだけいうが。アンゼルにではなくわたしにだけ言う。だが、それも途中でなくなった。
アンゼルが、宿の主人にわたしの方が強いという話をしたらしい。
それにわたしも、宿の部屋の数だけお金を出すことにした。
賊の賞金がたんまりあったし。
それで宿の主人も何も言わなくなった。
賊の大半を狩った日は、生き残りを尋問した。魔法をかなり使うので、食事をしながらだが。
宿の主人は、青ざめたまま大量の食事を運んできて。
もう他に客もいないので、宿の食堂で賊を審問した。
吐いたら全部首を落とす。
そうしてアンゼルが事務的に賊を全部処理していく。それを見て、宿の主人だって荒くれを相手していただろうに。
何度も奧で吐いていたようだった。
まあわたしはどうでもいいし。
首を刎ねてもすぐに魔法で処理するので、周囲は汚さなかったが。
全部殺して、情報も取りだした。
後は、首魁とその取り巻きを始末するだけだった。
街の外を、急いで走る馬車。
あれに首魁と取り巻きが乗っている。
アンゼルは放たれた矢のように向かって行くが。わたしは、まだ飛ぶ魔法は使えない。
そこで、土の魔法を使って。
地面を滑らかに動かして、わたしの体を前方に移動させる。
蛇なんかが動いているのを見て、それを参考にした。
これが意外に快適で、速度も出る。
火の魔法以外は使えるというのは、こう言うときに威力を発揮できる。アンゼルが大喜び。
前を行く馬車が、矢を放って応戦してくるけれど。
わたしが風の魔法で全部弾きかえす。
オークが放ってきたつぶてに比べれば、こんなものは小枝も同然だ。そのまま馬車に余裕を持って追いつく。
御者が逃げ出す。
あれは賊ではないらしいので、放置。
馬車から飛び出してきた賊は、例の顔も見せない慎重な奴だという輩だ。一応それなりに腕は立つようで、アンゼルと数合切り結んでいたが、それも数合。
両腕を落とされ、蹴られて地面に転がっていた。
護衛の賊が何人か馬車から降りてくるが、それもアンゼルが出会い頭に全部斬り捨ててしまう。
「ほら、お頭さん、出て来なよ」
「わ、わしにこんな事をして、無事に済むと思うか!」
「軍の佐官が後ろにいるんでしょ。 全部部下が吐いたし。 その佐官もこれから暗殺してくるから関係無いかな」
「ひっ……」
豚みたいに太ったおっさんを、アンゼルが片手で馬車から引っ張り出す。
これが賊の長か。
なんとも情けない。
恐らくとアンゼルが言っていたのだが。
さっきアンゼルと数合切り結べたのが、実際に賊を牛耳っていたのだろう。まあどうでもいい。
そいつは両腕を切りおとされた上で。
わたしが土の魔法で拘束している。
「じゃ、散々手間を掛けさせてくれたし、苦しめて苦しめて殺してあげようねー」
溜息が出た。
アンゼルは何のためらいもなく、その言葉を実行した。悲鳴は辺りに響き渡り、馬が怯えて馬車ごと逃げていった。
首から上だけ以外は原型も残らなかった賊の首領。
死体はわたしが全部処理しておく。
最後の一人。
賊を裏から操っていたらしい元精鋭兵士。兵士崩れというのか。それも、多分軍につきだしても無駄だろう。
審問の魔法を掛けるが、抵抗が強い。
それでも、審問の魔法には逆らえなかった。
重宝される訳だなと、使っていて感心する。
やはり街の何とか言う佐官(軍の階級らしい)と連んでいて、それでかなりの金を得ていたこと。
それだけではなく人身売買もして、行き所のない人間や、その辺りの女子供を売り飛ばして小銭に替えていたらしい事。
そういう話が出て来た。
まあ、どこでもやっていることなのだろう。
わたしもフラムもそうだったのだ。
パッナーロほど悲惨ではないが、それでも此処はスポリファールよりだいぶ治安が悪い。それはよく分かった。
風の魔法で音声を全部記録しておく。
これも最近使えるようになったことだ。
ただ、出来るには出来るが、まだまだ精度とかが足りない。
強めの魔法使いが相手だと、多分弾かれてしまうだろう。
アンゼルは、すぐに街にとって返すそうだ。即座にその何とか言う佐官と、息が掛かった商人を斬ってくるらしい。
それで賞金を折半だと、嬉しそうに言っていた。
わたしの周囲では。
どうやらしばらく、血の雨が降るようだった。