元々スポリファールで実戦を経験済みのアイーシャ。しかも風魔法は得意な方です。
そして相方はあのシリアルキラー女騎士アンゼル。
組み合わせれば、それは仕事は限られますし。
そして血の雨が降る事になります。
街に巣くっていたタチが悪い賊が全滅。
癒着していた軍の高官も不審死。
更に、それらと連んでいた人身売買業者も全員が不審死。
それが数日で起きた事だった。
殺した犯人の首が並べられている。あらゆる罪状が並べられているが、実際にはその佐官が中継役であったのも分かっている。
もっと上に元締めがいるが。
それは将軍級の人間で、迂闊に手を出せないらしい。アンゼルでさえだ。
ともかく、今回はその将軍級の人間も、鮮やかすぎる手際にトカゲの尻尾斬りをするしか出来ないらしく。
こうして部下に全部の悪を押しつけ。
そして、この件から手を引いた。
アンゼルとわたしに賞金が支払われた。
宿はわたしとアンゼルだけ。
ぶるぶる震えている店主が食事を運んでくる。アンゼルは満面の笑みでそれをがつがつと食う。
しばらくは食うに困らない。
わたしはわたしで、魔法の仕事ができたので、それをやりに行く。
アンゼルと一緒にいるというだけで、わたしを怖れる相手も多くて。
仕事にケチをつける奴は殆どいなかったし。
言い値で料金を払ってくれるので、むしろ有り難かった。
勿論仕事に手を抜かない。
壁なんかの補修もやるし。
汚くなっている下水なんかも水の魔法で一気に洗浄する。
湯を大量に沸かして医療の手伝いだってしたし。
回復の魔法は腕が上がってきているので、怪我人の手当てで千切れた指なんかも治したりしてあげた。
料金については、既に調べてあるので、適切な額だけを貰う。
わたしに対して露骨に恐怖を覚えているらしい人間も多かったが。
わたしがふっかけてこないのを知ると、安心するようだった。
最初の内はスリが何人か狙って来たが、それも賊が全滅した辺りから、仕掛けてこなくなった。
晒されていた首が片付けられたのは、腐り始めたからだろう。
その頃には、アンゼルの悪名は街に轟いていたし。
わたしはその参謀と言う事にされていたので。
宿の主は、ずっとぶるぶる震えて、早く出て行ってくれないかなという顔をしているのだった。
一月ほど、街で過ごす。
やがて、アンゼルが大きな仕事を持ってきた。
軍への仕官、ということだった。
カヨコンクムへの仕官か。
例の将軍とかの話もある。大丈夫なのかと思ったが、アンゼルがにやにやする。
「カヨコンクムの騎士……まあカヨコンクムでは特務とか特殊部隊とか言うんだけれど、その質は知ってる。 パッナーロで散々裏で殺し合ったからね」
「軍の衝突の影で、アンゼルみたいな裏方が暗躍していたときですね」
「そうそう。 軍同士で衝突すると歯止めが利かなくなるから、わたしみたいな裏方が結構やり合ってたんだよ」
その話によると。
カヨコンクムで手強いのは海賊女王の異名がある海軍の荒くれ達で、此奴らは賊と変わらない様なのもいるが、そもそも海で鍛えられていると言う事もある。
それで強い奴は本当に強いらしい。
一方陸軍では、強い奴はかなり希で。
軍の規律は乱れているし、兵士も強い奴、上昇志向がある奴は海軍に転属を望んでしまうそうだ。
そういう事もあって、カヨコンクムと言う国は海軍国家なのだ。
海軍だととにかく荒くればかりのカオスの世界だが、その代わり手柄を立てれば気前よく出世させてくれる。
何も元手がなくても、大将首を上げる事で将軍に出世した人間は歴史上珍しく無いという。
今の海賊女王がそもそもその手合いで。
幾つかの会戦で大きな手柄を上げて、今の地位に実力でついたらしい。
元は漁村の娘だったそうだ。
それでも、その頃から凄まじい荒くれで知られていたらしいが。
「それで陸軍はこの間殺した佐官みたいなクズばっかりと言う訳。 冒険者とかから軍に転向する奴もおおいし、わたしもそれで声を掛けられた。 ただ。アイーシャも一緒ならと言って、それも特務でならいいよと言って採用させた」
「特務ですか」
「何、今のアイーシャだったら余裕だよ」
そうか。
わたしは魔法は色々できる事になったが、力そのものは弱いままだ。
魔法だって私以上に出来る奴はスポリファールでたくさん見た。今まで見てきた人間をかなりの人数越えたが。
まだまだわたしの上がいる。
それは分かっているから、大丈夫だろうかと思ったが。
大丈夫だとアンゼルはキャハハハと笑うのだった。
とにかく軍の基地に出向く。
基地と言っても、スポリファールにあった砦みたいな施設だ。騎士時代の鎧を持ち出したアンゼルと、教会の制服だったフードを被って出向くわたし。街の近くにある基地はそれなりの規模で。
一般人も平気で入り込んでいる。
商人もいるが、水商売の人間もいるようだ。
これは確かに軍が人材不足なんだろうなと、一発で分かる。
ただ兵士達は、賊を全滅させたアンゼルのことは知っているらしく、わたし達を見て顔色を変え。
騒ぐのを止めて、視線を背けていたが。
そのまま奧に。
奧では、威厳を出そうと髭なんか生やした軍人がいた。中佐という階級らしい。スポリファールではかなり違う階級制度を使っていたらしく、佐官というのはこっちで初めて聞いた。
「街に蔓延っていた賊を全滅させた腕利きである事は聞いている。 内偵や賊狩りのプロだと言う事だが」
「そういう事です」
「そうか。 特務として給金は出す。 早速だが、幾つかの山賊を始末して欲しい。 軍としては内部の秩序を守るだけで手一杯でな。 つい最近も、私の部下が不審死したばかりだ」
そう、敢えて含みがあるように言う。
アンゼルは噴き出すのを堪えそうになっている様だった。
まあ、どっちも事情は知っていると言う事か。
「まあ堅苦しいのは抜きにして。 あたしは殺すのが大好きなので、指示されれば誰だって斬ってきますよ。 流石に海賊女王とか言われたら困りますが」
「……剛毅なことだ。 では、手近にいる賊を始末してきて欲しい。 街道近くに縄張りを持っている凶悪な賊で、馬車などを襲うので、物流に大きな支障が出ている」
そう言って、提示された地図で、活動範囲を示される。
ちなみに、補助の要員はなし。
わたし達二人だけ。
情報を集めるところから。
ついでに給金は現物払い。賊を壊滅させてきた場合にのみ給金が出る。
その代わり、賊が蓄えていた金品なんかは、好きにして良いそうだ。
兵士達が戦場に出向くとき、略奪なんかを楽しみにするという話は聞いていた。スポリファールでは絶対厳禁だったらしいが。
此処では有りなのだろう。
「それでは、この賊を最初に始末してくるわけだな」
「ええ。 其奴らに関しては、情報もありますので」
「そうか。 軍でも手を焼く賊だし、失敗しても救援は出ない。 その代わり壊滅を確認したら、給金ははずむ」
「それでお願いしますよ」
アンゼルがわざとらしく礼をする。
ちなみに、中佐というとそれなりに偉い軍人らしくて、アンゼルが着ている鎧がスポリファール国軍騎士のものだということは理解しているらしい。これについては、全部先に聞いている。
それでも何も問題にしなかったのは。
単に腕利きなら何でも良く。
ついでに消耗品として考えているから。
そういう理由らしかった。
軍基地を出る。
支度金は貰っているが、まあ馬車で現地まで移動するのに使うくらいだ。普通なら。
わたし達は、そのまま現地に魔法と足で行く。
後は食費だろうか。
土魔法での移動を覚えたので。それで現地に向かう。魔力消費に比べて移動速度が早く。多少風魔法で風よけをしてやれば快適だ。
アンゼルがひょおと大喜びする。
「土魔法をこんな風に使うのは初めて見た。 アイーシャ、やるねえ。 天才だよ天才」
「まさか」
「まあいずれにしても便利だ。 それで、魔力消耗は問題ない?」
「特に問題はありませんね。 地図上の距離だと、最寄りの村に出向くまで、充分にもちます」
地図ももう読める。
これについては、スポリファールでの仕事の経験も大きい。
あそこにいたのは二年半くらいだろうか。
それでも仕事で彼方此方出向いたし、その過程で地図は読んだのだ。
どこの国でも、同じ言葉、同じ規格を使っている。
これがどうしてなのかはよく分かっていないらしいのだが。それはそれとして、地図が読めるのは大きい。
多少文字に癖はあるらしいが、今の時点では読み書きは問題なくもう出来る。
わたしは、どこで食べて行くことにも困らない。
それは、間違いのない事実だった。
現地へ急行する。
途中で早馬を追い越す。早馬に乗っていた人が、びっくりしたようにわたし達を見ていた。
別に腕利きの騎士なら、もっと早くいけるとも聞いていたが。
それを考えると、やはりこの国の軍人の上澄みはそれほど優れていないのだろうと思う。スポリファールでもアンゼルは上澄みだったらしいが、一芸特化だとかなり凄いのがたくさんいたらしいので。
いずれにしても、命令を受けてから二刻ほどで、目的の村に到着。
しばらくは此処を拠点とする。
宿を借りようと思ったが、アンゼルはまずは村の様子を見回してから。村長に、外れにある空き屋を貸してくれないかと交渉に出向く。
そういえばちいさな宿しかないか。
空き屋を借りたので、まずは内部を掃除。
水魔法と風魔法でボロ屋を掃除しながら、アンゼルに聞く。
「どうして宿を借りないんですか」
「ああ、先に言っておくけど。 こういう賊って、食いっぱぐれだけがなるんじゃないんだよ。 場合によっては村ぐるみでやってる」
「へえ」
「村が主導でやっている場合や、賊に乗っ取られた場合とか色々あるけれど、まずは其処から調べないとねえ。 勿論場合によっては村ごと始末する」
地図からして、この村は賊の勢力圏ギリギリ。
つまり、賊の根城どころか、村がそもそも賊である可能性があるそうだ。
他に賊の勢力圏に村は存在していないらしいので。
もしも可能性があるとしたら此処らしい。
また、賊とレッテルが貼られているが。国が駄目すぎて、自治勢力として他を寄せ付けないでいる者達や。
流れ者が集まっただけの集団なんて場合もあるらしい。
カヨコンクムはスポリファールに比べると、だいぶ国ががたついている。
内部がしっかり機能していない。
海軍との分裂については常に噂されているし。もしも海賊女王がへそを曲げた場合、現在抑えているパッナーロの旧領を地盤にして、独立しかねないという話だとか。その場合、精鋭を根こそぎ持って行かれたカヨコンクムは、文字通り抜け殻。スポリファールに攻めこまれて押し潰されるか。
もしくはパッナーロの末路のように、周辺国に食い散らかされるか。
その二択くらいしかないそうである。
そういう事情もあって、国内の浄化を必死に進めようともしているらしいが。
例のアンゼルが始末してきた佐官のような例が至る所にある。
つまり、国が傾いているのだ。
「多分だけど、この国あと五十年もたないよ。 今は賊の連中が、いずれは反乱軍になって、独立国になる可能性もある」
「そういう存在を狩ってお金にしようとしている訳ですか」
「ま、あたしにできる事は少ないからね。 悪いけれど、生きるための糧になって貰う。 それだけだよ」
なんだか業が深いな。
ただ罪悪感というのはよく分からない。
殺しには短時間で慣れてきている。
そしてこの国では、奴隷商人なんかが蔓延っている。いずれはパッナーロみたいに土台から崩れ落ちる可能性も高そうである。
大国でも崩れ落ちるときはあっと言う間だ。
パッナーロがそうであったように。
わたしはその過渡期を見ているのかも知れない。
ともかく、ボロ屋を綺麗にした後、魔法でトラップなんかを色々仕掛けていく。こういうのも、短時間で色々覚えた。
その後は、さっそくアンゼルが出かけて来る。
賊がどれくらい跋扈しているのか、実際に確認する為だ。
分かりやすく山塞とか作っているようだったら、正面から制圧しに行く。
だが、そうでない場合の方が多い。
洞窟とかを根城にしている場合は厄介極まりなく、熟練者でも見つけるのは苦労するそうである。
わたしは、まずは村に出向いて、食糧などを買い込んでおく。
料理はほとんど上達していない。
やはり魚の干物が結構流通している。
しばらくは賊の話題は出さないように。
そう言われたので、そうする。
同時に油断するなとも言われたので。
風魔法を周囲に展開して、最大限の警戒もしていた。
食糧を買い込んだ後、一度ボロ屋に戻る。その途中で、こっちを伺っている人間を複数確認。
視線は分からないが。
風魔法で、相手の動きを察知して。それで相手が何をしているか、ある程度分析は出来るのだ。
ボロ屋に入った後、あまり上手では無い料理を淡々とやっていく。
ナイフなんか使ってもどうせ上手に斬れないので、水魔法と風魔法を組み合わせて食材を切り分け。
それを鍋に放り込む。
火の魔法は使えないが、水を高速振動させて沸騰させるのは得意だ。
ただ一気に沸騰させると爆発するので、気を付けないといけない。
鍋はまず失敗しない。
それもあって、鍋で調理(料理なんて言ったら料理人が怒ると思う)して、食べられるようにする。
一応、パッナーロよりは多少は豊かなので。鶏なんかも売っている。あっちでは、街の外に生息している大型鳥の美味しくもない肉を命がけで取っていた。あまりいい鶏肉ではないが。
それでも得体が知れない肉よりはマシだ。
夕方くらいに、アンゼルが戻ってくる。
鍋二つを平らげて、三つ目を作り始めていたところだ。三つ目はアンゼルのために作っていた。
アンゼルは、血を浴びていなかった。
「仕掛けてこないなあ。 気配もない」
「そうなると、結構厄介な相手ですか」
「うん。 夜にまた出向いてみる」
「賊なんかいないって可能性は」
いや、それはないとアンゼルは断言。
潰された馬車なんかの残骸とかを複数見ているそうである。食い散らかされた死体の成れの果ても。
むしろ途中で仕掛けて来たのは野犬の群れ。
返り血を浴びる相手でもないし、おもしろくもないので全部斬り殺して来たらしいが。
「旅人なんかには野犬でも充分な脅威にはなるんだけれど、そもそも武装した護衛を連れている馬車がああ潰される訳がない。 何かしら活動している賊はいる。 ただそれが個人か複数かはわからないね」
「そうですか。 とりあえず夕食をどうぞ」
「うん。 少し喋るのが多くなってきたね」
「そうかも知れませんね」
それから打ち合わせをしつつ、夕食にする。雑だが食べられるものを作れる鍋は、アンゼルも好きなようだ。
明日からはわたしも出向く。
それで、どうにか何かしらの手がかりを見つけられるかも知れなかった。
翌日から、山を調べて回る。
山賊の縄張りと言っても、その範囲で襲われているというだけだ。アンゼルも一緒に、村での調査もするが。
村の人間達は、驚くほど冷淡で冷静だった。
山賊が出るとしても村には被害が出ていないし。
前から旅人がやられるのは珍しくもなかった。
戦力が足りない状態で危険地帯を行くのは自己責任だし。そんなんで死ぬのは死ぬ方が悪い。
そういう理屈らしい。
まあ、想定の範囲内だ。
そもそも山賊の話を聞いた瞬間、村総出で襲いかかってくる事すら考えていたのだが。それもないらしい。
ただこっちを伺っているのも事実なので。
油断はしてはいけなかったが。
それで山を探しに出向いたのだが。
今の時点では、手がかりはない。確かに馬車の残骸とかは見かけられるが、破壊の痕を見る限り、オークやら熊やらではないだろう。
ハルメンとかの奥地になると、熊なんか問題にならない凶暴な獣が出るらしくて、「怪物」とか呼んでいるらしいけれど。
この国は荒れていても人間の勢力圏。
場所によってはゴブリンが出るらしいけれど、それもリスクが高いから、人間と接触するのは相手が避けるそうだ。
オークに至っては二百年くらい前に根絶に成功しているらしい。
つまり、それら「準知的種族」の仕業である可能性は低そうである。
「アイーシャ、どう? 魔法による破壊の痕跡は分かりそう?」
「いや、これは魔法ではないですね。 魔法……ではないというよりも、魔法の力は借りているかも知れませんが、人間の手によるものだと思います」
「ふむ、そうなると賊は少人数で、騎士崩れだったりしてね」
「厄介ですね」
アンゼルと比べて実力が落ちるかどうか迄は判断できないが。
いずれにしても、騎士崩れとなるとその辺の賊なんか束にしたより強いだろう。
それに、この国は屋台骨が腐り始めている。
この国を嫌がって、野に降る人間もいるだろう。
別の国に逃れればいいと思うのだが。
まあ、そう上手くいもいかないのかも知れない。
「わざと痕跡を残して動いているのに、引っ掛からないなあ」
「村の方でも聞きましたが、今では早馬も馬車もこの辺りを避けているらしいですね」
「……ひょっとすると」
「?」
一度戻る。
地図を拡げて、もう一度確認。
潰されている馬車とかの跡を調べて、迂回路を調査。
迂回路では不自然な程治安がいい。
村の人間も、其方に行くように勧めていたようだ。
迂回路には村はない。
いや、迂回路の先に村がある。ただ、馬車などがやられていた場所に比べると遠すぎるのだが。
「なーるほど、そういうことか」
「分かったんですか?」
「可能性は一つ分かった。 多分これ、この村が絡んでる」
「そうですか」
そうなると、村の人間をアンゼルが嬉々として殺戮するのを見なければならないのか。そう思うと、ちょっと残念だ。
死体を見る事はなんとも思わないが。
少しずつ感情らしいものは育ちはじめているように思う。
だからなのかもしれない。
まず先に、夜の内に少し遠い村に出向く。
かなり貧しい村だが、幾つか馬車がいた。少し交易路から外れているようだけれども、それでも人はいるようだ。
わたしはアンゼルに頼まれて、風魔法で周囲を調査。
それで気付く。
どうやら、アンゼルの判断は当たりであったらしい。そうなると、かなり残酷な運命があの村を襲うことになるが。
別に元々恩があるわけでもない。
最終的にはどうでもいいか。
そうわたしは思った。
村の腕利きらしいのをアンゼルが引っ張って来て、わたしが審問する。最初は喚いていたそれも、どんどん腕が上がっていることもある。
すぐに全部吐いた。
この村は、あの貧しい村から、金を巻き上げていたのだ。
二重徴税という奴らしい。
もともと地理的に良くなく、人がまったく立ち寄らないあの村は、困窮しきっていた。そこで、この村で山賊を装って、街道を通れないようにした。その結果、あの貧しい村は、かろうじて生きていく収入を得た。
その収入を、この村で回収していたのだ。
彼方の村もそれを知っているから、いやだとは言えず。
勿論これ以上枯れるのもいやだから、軍にも言い出せなかった。
そして此方の村は、たまに来る馬車だのを襲うだけで寝ていても収入が入る。馬車だのに、あっちの街道が安全だと話すだけでいい。
俺たちは、人助けをしていたんだ。
そうわめき散らす屈強な村人を、アンゼルは躊躇なしに首を刎ねていた。
相変わらず殺す事しか考えていないんだな。
わたしは呆れたが。
此奴らが散々人殺しをして、寝ていても暮らせる状態を作ったのは事実。
わたし達の同類である。
ただ、わたし達はそれを狩る。
それだけだ。
もう村人が集まってきている。さっさと逃げれば、お尋ね者になるくらいで済んだかもしれないのに。
いずれも槍だの持ち出して来ていて、松明も持っている。
このボロ屋を蒸し焼きにする気まんまんだ。
まあそうなると、アンゼルを止めるつもりにもならなかった。
村の戦える人間が、飛び出して行ったアンゼルに皆殺しにされる。夜闇の中、剣閃が走る。
悲鳴は斬られた人間では無く、その周囲が上げていた。
瞬く間にボロ屋を囲んでいた人間は皆殺しになった。アンゼルは、他も処理するかといって、村に大股で歩き出す。
その前に立ちふさがったのは、引退した後らしい老兵。
そして、宣言する。
「軍の犬だな。 今回の件はわしが画策したことだ。 全て、わしが仕組んだことだ」
「ふーん……」
「もう村に戦えるものはいない。 わしを引っ立てて欲しい」
「いや、賊は殺せって言われてるんだわ。 まあ、この村みたいなカスみたいな場所でも、最後に守りたいって気概は買うよ」
剣を抜く老兵。
こんな村でも、この人には大事な居場所だったのだろう。だが、悪事をとめる事もしなかった。
或いは。気付いた時には手遅れだったのかも知れない。
アンゼルに一刀で首を飛ばされる老兵。
わたしは、大きくため息をつくしかなかった。
屠殺人だなこれは。
キャハハハと笑っているアンゼルを見ながら、わたしはそうとだけ思っていた。