指定された場所に出向くと、以前交戦した男性が待っていた。鎧姿で、正装している。いわゆる精悍な顔立ちというのだろう。
街の中だが、道行く女達の視線を集めているようだった。
まあどうでもいいが。
「来てくれたか。 女王陛下がお待ちだ」
「一応来たけれども、場合によっては即座に斬るよ?」
「それくらいの鼻っ柱でいてくれる方があの御方は喜ぶだろう」
「へえ」
わたしがちょっと呆れた。
どうやらアンゼルと同種の存在らしい。
ともかく、案内されるまま街を行く。
町並みを抜けると、どこまでも拡がる水平線。豪壮な船が数隻。
海賊女王などといっても、大国に引けを取らない資金と技術をもった軍船による艦隊を持つ怪物だ。
普通の海賊だったら、どう頑張っても国軍には勝てないらしい。
だが、それに肉薄するロイヤルネイビーという強大な海軍を手にしている存在。
それが海賊女王と。
代々のロイヤルネイビーの首魁達だ。
大きな船に乗せられる。ちなみに、流石に海賊女王は此処には来ていないそうである。
艦隊を任せられている、海軍提督という人に引き合わされる。
若干太っているが、こっちは鈍っていないな。ひげ面の、大柄な男性が、葉巻を噴かしていた。
「おう、戻ったか」
「此方の二人になります」
「死神の二人組か。 腕は確かだって聞いているが」
「間違いなく。 そちらのアンゼル殿は直接戦闘では私より上。 アイーシャ殿は独学で既に軍魔法使いの一線級の人材に並んでいると思われます」
この年でかと、提督が呆れていた。
それから咳払いして、提督が自己紹介してくる。
第三艦隊の長である、モートン中将だそうである。
此方も自己紹介する。
アンゼルも騎士としての挨拶をしっかりしていた。それをみて、提督が笑う。
「なんだお前、その格好からまさかと思ってたが、スポリファールの騎士崩れか」
「色々あって抜けました」
「まて、覚えがあるぞ。 戦場で殺戮の限りを尽くして、随分怖れられていた奴がいたな。 そうか、年を考えればお前で不思議では無いか」
「ふふ」
アンゼルが笑う。
状況次第では船を即座に制圧すると考えているのが分かった。だからか、アンゼルと戦った男性は、ずっと気を張っているようだった。
提督はこういう異常な使い手を幾らでも見て来ているのだろう。
怖れている様子はない。
大佐とは偉い違いだなと、感心してしまった。
「一旦出港する。 そっちの魔法使いは吃驚するかもしれんぞ。 旧パッナーロは、今は悪魔でも逃げ出すような場所だからな」
「仕事場は旧パッナーロですか」
「今ではカヨコンクム新領土なんぞと言っているがな。 うちの下っ端どもは血の気が多くてな。 抵抗するようなら容赦しねえもんだから、民が逃げ出して、殆どが極貧の村になっていやがる。 少しずつ入植を進めているんだが、とにかく大変だよ。 そういう場所での治安維持を頼みたいのさ。 そのためには戦士として、殺傷力の高い魔法の使い手として、使える奴が幾らでもいる」
ガハハハと笑うモートン提督。
やがて、船が出る。
そうか、また彼処に戻るのか。
わたしが彼処の辺境伯領の出身だというと、モートン提督はぎょっとしたようだった。
「なんだ、じゃあ彼処の地獄は知っているのか」
「はい。 生きているのはとても運が良かったのだと思います」
「今の所はスポリファールやクタノーンとは上手くやれているが、小競り合いが起きていないってだけだからなあ。 どっちの国も新しく手に入れた領土の経営で精一杯よ。 ま、汚れ仕事頼むわ。 俺としては、海軍で提督やってるのが一番性にあうんでな」
また汚れ仕事か。
それにしても、旧パッナーロに汚れ仕事に行くなんて、なんて因果だろう。
色々と考えてしまう。
船室が与えられて、其処に入る。多少船が揺れるが、それくらいだ。船に乗っているのは男も女も屈強な人間が多く。カヨコンクムの陸軍兵士達より露骨に体格が良く、戦士としての訓練もしっかりしているのが分かった。
これでは確かに陸軍と海軍で対立もするか。
こっちはなんというか、最悪まで強化された賊という印象がある。
アンゼルが来たので、軽く話す。
「恐らくだけれど、カヨコンクムの国王と海賊女王は、話し合いの末に妥協案を出したんだろうね」
「それがこの結果だと」
「そういうこと。 海賊女王も、周り全部を敵にするのは好ましくない。 カヨコンクムも、腐りきった国をどうにかしないと国ごと破綻する。 だからある程度力が削がれるのは覚悟の上で、膿出しをしたわけ。 あたしとアイーシャはそれに巻き込まれたんだろうね」
今頃あっちでは血の雨が降っているはず。
しかもそれには、ロイヤルネイビーも荷担しているだろう。
将軍数人が、不審死する。
反乱を起こそうとしても、多分海賊女王と国王が連携しているとなると、動きでも先を行かれる。
何より財源をわたしとアンゼルが潰して回った後だ。
将軍達は混乱している所を各個撃破されて、不審死か絞首台送りだろうということだった。
「ま、それでも後五十年もてば良い方だろうけど」
「あのしっかりしていたスポリファールもいずれこうなるんですか
「なる」
アンゼルが断言。
そもそもスポリファールだって、ここしばらくまともな国家元首が出ているだけで、それも奇跡的な話。
どうせその内駄目なのが出たら、国が一気に傾く。
例のアルテミスが次の国家元首最有力候補らしいが。
アルテミスが政治家としてやっていけるかはかなり微妙だそうである。
むしろ騎士隊長のアプサラスの方が上手く行くのでは無いかとアンゼルがぼやいていたが。
その名前を出すのも、不愉快なようだった。
いずれにしても、また別の所に流され行く。
このままどこへわたしは行くのか。
まったく分からない。
(続)
腐敗した陸軍の利権を潰した事で陸軍上層部に睨まれ、海軍に放逐されることになったアイーシャ。
カヨコンクムという国の暗部に思いっきり巻き込まれ、強すぎるため殺される事もなく、厄介払いされてしまったわけですね。
そうして海に出る事になります。
この世界最強の海軍は。
文字通り最低最悪の集団です。
近現代までこの世界でもどこの海軍もそうだったように。
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