ある意味当然ではあるが。
ロイヤルネイビーが停泊していた港は、劫火に包まれていた。
海軍の船が派手に延焼している。
これは、艦隊が助けに来るどころじゃない。海上にいた艦隊も、遠めに見ているくらいしか出来ないだろう。
終わりだ。
叫んで、逃げ散ってしまう兵士達。
こいつらはこれから狩られて皆殺しだろう。
自業自得とは言える。
わたしも大きくため息をつく。膨大な火の粉が散っていて、熱波だけでも肌が焼けそうである。
劫火の凄まじさを、間近でみたのは初めてかも知れない。
これは、中に行くのは自殺行為だ。
「生き残りだ!」
「殺せ!」
周囲に気配。
多分「反乱軍」だろう。押し包んでくる。アンゼルが即座に動いて、一部を切り開いて、突破。
他の兵士は逃げ散ってしまって、各個に囲まれて狩られている。
見ると、敵は兵士には見えないものも多いが。
それでも憎悪と戦意は凄まじく、一人だって逃がさないという気迫が感じられた。
炸裂する火花。
アンゼルがいた辺りに、とんでもない火力の魔法が炸裂したのである。アンゼル。叫ぶが、あの恐ろしい友人の返事は無い。
立て続けに魔法が降って来る。
多分軍用の隕石という魔法だ。
アンゼルを相手にするために準備していたのかも知れない。アンゼルを囲んでいた兵士ごと、凄まじい火力が過剰に叩き込まれる。
思わず立ち尽くしてしまう。
多数の矢か飛んでくる。
一瞬の虚脱から立ち直ると、その全てを風魔法で弾いて、逃げに入る。
アンゼルは、あれは駄目だ。
いや、友人を信じろ。
ただ、助けにいける状況じゃない。
とにかく逃げるしかない。
飛ぶのは駄目だ。
一応低速でなら風魔法を駆使して飛べるようにはなったが、それでも此処で飛んだら鴨撃ちの的だ。
地面を高速で動かして、必死に逃げる。
風の魔法で、立ちふさがろうとする兵士はまとめて吹っ飛ばしながら、退路を作る。
何度も矢が擦る。
矢は敢えて不潔にしていたり、更には毒を塗ったりしているようだ。ただわたしは、ろくでもない環境で生きてきたこともある。
多少の毒程度だったら、どうにでもなる。
港から逃げ出す。
そして、ひたすら荒野を行く。
呼吸を整えながら、丸一日最高速度で移動した。まとまった軍勢がいるとしても、追ってくる事は出来ないだろう。
木陰で休む。
呼吸を整えつつ、近くの川にある水を、煮沸して、冷やす。
水を球体の塊にして浮かせ、そして少しずつ飲み込む。
丁度良い熱さにするのは難しいのだが、どうにか出来る。
持ち出して来た干し肉をかじる。
もうちょっとマシなものを食べたいが、今は距離を取らないとまずい。これでは回復魔法も使えない。立ち上がろうとしたその瞬間。
全身が凍り付いた。
すぐ後ろに何かいる。
「おや? どこかでちらっとみたような……」
ぽやぽやした声だ。
その声の主は、ゆっくり歩いて来ると、わたしの前に来て。ぼへえとしまりのない笑顔でわたしを見た。
何となく分かる。
人間の範疇の限界にいる存在だ。
スポリファールの騎士鎧を着ているが、わたしより何歳か年上か。
見かけと裏腹の、凄まじい実力を感じる。いずれにしても、勝てる相手じゃない。アンゼルがいても無理だろう。
「失礼しました。 多分探しているのとは違いますね。 ターゲットは港で消し飛んだのを確認していますし、死体の一部も回収しましたが、そこからもう一人腕利きが逃げたのを確認したので、確認しに来ただけです。 違うのであれば、別にどうでもいいです。 さようなら」
其処に最初からいなかったように。
そいつはいなくなる。
どっと汗が出て来た。
分かった。
あれが、アルテミスだ。
アンゼルが自分より十倍は強いと言っていたのが納得出来た。確かにあれは世界最強だろう。
なんとか呼吸を整えると、無言で逃げる。もっと遠くに離れる。
ロイヤルネイビーは全滅だろうな。
カヨコンクムは軍の半数近くを失い、旧パッナーロの民から恨まれる事になるし。クタノーンも似たような事になるだろう。
スポリファールだって、独立を声高に叫ぶ民を相手に、かなり苦労する事になり、国力を割くことになる。
確かにこれをハルメンが仕組んでいたとしたら、一石で何羽も鳥を落とす強力な策だと言える。
それに、西にあるクタノーンの国境付近は、がちがちに固められているとみて良い。だとすると。
旧パッナーロの南は、殆ど無人の荒野で、蛮族の国家が幾つかあるだけ、みたいな話を聞いている。
一旦は其処に逃げて、どうにか生きる道を探すしかない。
とにかく、南か。
星空は読める。
南を示す星を見つけたので、其方に向けて、全力で移動を開始する。
アンゼルは助からなかったかも知れない。
だが、あの場でアンゼルを探そうとしても、どうにもならなかった。
友を失ったわたしは。
一人、周りが全部敵の土地で。
それでも生きたいと思っていた。
(続)
どれだけ強くても人は死ぬときは一瞬です。
アイーシャもそれを知っている筈でした。
世界でも上澄みに入るアンゼルのあまりにもあっけない最後。
自業自得とも言える終わりでしたが、その最後は色々と後に波及していく事になります。
特にアイーシャは、これでまた一人になってしまいました。
生き残るための行動を起こさなければなりません。
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