辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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4、燃える港

ある意味当然ではあるが。

 

ロイヤルネイビーが停泊していた港は、劫火に包まれていた。

 

海軍の船が派手に延焼している。

 

これは、艦隊が助けに来るどころじゃない。海上にいた艦隊も、遠めに見ているくらいしか出来ないだろう。

 

終わりだ。

 

叫んで、逃げ散ってしまう兵士達。

 

こいつらはこれから狩られて皆殺しだろう。

 

自業自得とは言える。

 

わたしも大きくため息をつく。膨大な火の粉が散っていて、熱波だけでも肌が焼けそうである。

 

劫火の凄まじさを、間近でみたのは初めてかも知れない。

 

これは、中に行くのは自殺行為だ。

 

「生き残りだ!」

 

「殺せ!」

 

周囲に気配。

 

多分「反乱軍」だろう。押し包んでくる。アンゼルが即座に動いて、一部を切り開いて、突破。

 

他の兵士は逃げ散ってしまって、各個に囲まれて狩られている。

 

見ると、敵は兵士には見えないものも多いが。

 

それでも憎悪と戦意は凄まじく、一人だって逃がさないという気迫が感じられた。

 

炸裂する火花。

 

アンゼルがいた辺りに、とんでもない火力の魔法が炸裂したのである。アンゼル。叫ぶが、あの恐ろしい友人の返事は無い。

 

立て続けに魔法が降って来る。

 

多分軍用の隕石という魔法だ。

 

アンゼルを相手にするために準備していたのかも知れない。アンゼルを囲んでいた兵士ごと、凄まじい火力が過剰に叩き込まれる。

 

思わず立ち尽くしてしまう。

 

多数の矢か飛んでくる。

 

一瞬の虚脱から立ち直ると、その全てを風魔法で弾いて、逃げに入る。

 

アンゼルは、あれは駄目だ。

 

いや、友人を信じろ。

 

ただ、助けにいける状況じゃない。

 

とにかく逃げるしかない。

 

飛ぶのは駄目だ。

 

一応低速でなら風魔法を駆使して飛べるようにはなったが、それでも此処で飛んだら鴨撃ちの的だ。

 

地面を高速で動かして、必死に逃げる。

 

風の魔法で、立ちふさがろうとする兵士はまとめて吹っ飛ばしながら、退路を作る。

 

何度も矢が擦る。

 

矢は敢えて不潔にしていたり、更には毒を塗ったりしているようだ。ただわたしは、ろくでもない環境で生きてきたこともある。

 

多少の毒程度だったら、どうにでもなる。

 

港から逃げ出す。

 

そして、ひたすら荒野を行く。

 

呼吸を整えながら、丸一日最高速度で移動した。まとまった軍勢がいるとしても、追ってくる事は出来ないだろう。

 

木陰で休む。

 

呼吸を整えつつ、近くの川にある水を、煮沸して、冷やす。

 

水を球体の塊にして浮かせ、そして少しずつ飲み込む。

 

丁度良い熱さにするのは難しいのだが、どうにか出来る。

 

持ち出して来た干し肉をかじる。

 

もうちょっとマシなものを食べたいが、今は距離を取らないとまずい。これでは回復魔法も使えない。立ち上がろうとしたその瞬間。

 

全身が凍り付いた。

 

すぐ後ろに何かいる。

 

「おや? どこかでちらっとみたような……」

 

ぽやぽやした声だ。

 

その声の主は、ゆっくり歩いて来ると、わたしの前に来て。ぼへえとしまりのない笑顔でわたしを見た。

 

何となく分かる。

 

人間の範疇の限界にいる存在だ。

 

スポリファールの騎士鎧を着ているが、わたしより何歳か年上か。

 

見かけと裏腹の、凄まじい実力を感じる。いずれにしても、勝てる相手じゃない。アンゼルがいても無理だろう。

 

「失礼しました。 多分探しているのとは違いますね。 ターゲットは港で消し飛んだのを確認していますし、死体の一部も回収しましたが、そこからもう一人腕利きが逃げたのを確認したので、確認しに来ただけです。 違うのであれば、別にどうでもいいです。 さようなら」

 

其処に最初からいなかったように。

 

そいつはいなくなる。

 

どっと汗が出て来た。

 

分かった。

 

あれが、アルテミスだ。

 

アンゼルが自分より十倍は強いと言っていたのが納得出来た。確かにあれは世界最強だろう。

 

なんとか呼吸を整えると、無言で逃げる。もっと遠くに離れる。

 

ロイヤルネイビーは全滅だろうな。

 

カヨコンクムは軍の半数近くを失い、旧パッナーロの民から恨まれる事になるし。クタノーンも似たような事になるだろう。

 

スポリファールだって、独立を声高に叫ぶ民を相手に、かなり苦労する事になり、国力を割くことになる。

 

確かにこれをハルメンが仕組んでいたとしたら、一石で何羽も鳥を落とす強力な策だと言える。

 

それに、西にあるクタノーンの国境付近は、がちがちに固められているとみて良い。だとすると。

 

旧パッナーロの南は、殆ど無人の荒野で、蛮族の国家が幾つかあるだけ、みたいな話を聞いている。

 

一旦は其処に逃げて、どうにか生きる道を探すしかない。

 

とにかく、南か。

 

星空は読める。

 

南を示す星を見つけたので、其方に向けて、全力で移動を開始する。

 

アンゼルは助からなかったかも知れない。

 

だが、あの場でアンゼルを探そうとしても、どうにもならなかった。

 

友を失ったわたしは。

 

一人、周りが全部敵の土地で。

 

それでも生きたいと思っていた。

 

 

 

(続)







どれだけ強くても人は死ぬときは一瞬です。

アイーシャもそれを知っている筈でした。

世界でも上澄みに入るアンゼルのあまりにもあっけない最後。

自業自得とも言える終わりでしたが、その最後は色々と後に波及していく事になります。

特にアイーシャは、これでまた一人になってしまいました。

生き残るための行動を起こさなければなりません。




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