辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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様々な思惑が絡んだ末の大反乱。

皮肉な話に、これに一切旧パッナーロの首脳陣が関わらず、完全に蚊帳の外だったのは歴史の皮肉と言わざるを得ないでしょう。

そして大反乱から逃れたアイーシャが辿りついたのは。

この世界でもっとも古い歴史ある国でした。






1、原初の魔法の国

アルテミスが戻って来た。旧パッナーロに駐屯しているスポリファール軍の司令官を相変わらず務めているアプサラスは溜息をつくと、栄養が大量に含まれている飲み物を飲み下す。

 

蜂蜜を中心とした飲み物で、恐ろしくまずい上に体に負担を掛けるのだが。

 

ただ、それくらいしないと、とてもではないが執務をこなしきれない状態だった。

 

旧パッナーロで起きている反乱は、とんでもない規模になっている。

 

既にカヨコンクムのロイヤルネイビーは壊滅。クタノーンの黒軍もそれに近い状態だ。

 

唯一スポリファールは多少の小火で済んでいるが、それはこの国の民から略奪もしなかったし、虐殺を絶対にさせなかったからである。

 

それでも小火が広がって来ているほどで。

 

連日気が休まる事がなかった。

 

本国からは、大量に流出する難民をどうにかしろという命令と。

 

いいからいかせろという命令が同時にきている。

 

これは要するに、本国も大混乱していると言う事である。

 

大量の難民が出入りする混乱の中、ハルメンの密偵が入り込んで、この大反乱を誘発したことは分かっている。

 

ハルメンが出張ってきていると言う事は、恐らくハルメンにとって最大の敵であるスポリファール。アプサラスの祖国を、混乱させ、弱体化させる事が狙いで。

 

それは今の時点で上手く行っているとみていい。

 

どうせ数世代はかかるだろうと判断していた政治的な併合が、その通りになろうとしている。

 

この状態では、精鋭であるスポリファールの軍も、小火を初期消火する以外は、どうにもできなかった。

 

ちなみにロナウ国は蚊帳の外だ。

 

むしろロナウ国の首都にまで小火が拡がりそうになっており。

 

情けなくも救援を求めてくる有様だった。

 

まあ、それでアルテミスが戻って来た。

 

一定の成果はあげたと言う事だろう。

 

本陣に顔を出したアルテミスは、あいかわらずぼへえとしている。緊張感がない奴である。

 

「ただいま戻りました」

 

「成果は」

 

「此方です」

 

袋を出して、中身を見せる。

 

騎士アンゼルの頭蓋骨の一部と、脊髄の一部だ。

 

説明される。

 

港町に撤退をしようとしていたアンゼルと、アイーシャを補足。

 

港町では既にハルメンの密偵が指示をしたのか、軍船に火を掛け。猛烈な火攻めを展開していた。

 

其処で立ち往生した上に、一気に反乱軍に囲まれた二人のうち。

 

アンゼルが離れた瞬間に、隕石の魔法を叩き込んだらしい。

 

隕石の魔法は対個人には普通向かないのだが、アルテミスは違う。色々と厄介な魔法を使えるため、個人に必中させることが出来る。

 

それが世界でも上澄みに入る、アンゼルのような高速で機動できる例外に対してもである。

 

隕石の魔法を複数直撃して、アンゼルは断末魔もなく消し飛んだ。

 

それで、死体の一部を回収して、持ち帰ったという。

 

ちなみにアンゼルの体の情報は既に魔法で解析済だとかで、これが本人のものであることは確定だそうである。

 

アルテミスは今回の件で、状況の推移を確認する為に旧パッナーロに入り込んでいた。

 

それで、元々サーチ&デストロイの指示が出ていたアンゼルを発見。

 

アンゼルと共にいたアイーシャにはその指示が出ていなかったので放置。

 

アンゼルだけを仕留めて戻った、というわけだ。

 

「アンゼルも無意味な死に方をしたな。 きちんと騎士として生きる事ができていれば、歴史に名を残しただろうに」

 

「アンゼルさんはちょっと色々と心に問題があったので、いずれどこの国にもいられなくなったと思います」

 

「そうだな……」

 

「それで海賊女王の件ですが」

 

頷く。

 

ロイヤルネイビーは反乱の初期に、既に支離滅裂の状態になっていた。

 

国境にいた主力部隊は頻発する反乱に対応するために分散して行動しており、それを囲まれて各個撃破された。

 

屈強な水兵も、特務も、それに対する戦術を仕込まれた膨大な数の兵士相手ではどうにもできなかった。

 

海賊女王の反応は決して遅くなかった。

 

ハルメンの密偵が動きが速すぎたのだ。

 

撤退時に、敗残兵を装って合流したハルメンの密偵と精鋭が、隙を見て首を取った事だけは確認できている。

 

その結果報告だ。

 

「旧ルメラ侯爵領にて、首を晒されているのを確認しました。 調べてきましたが、本人のもので間違いありません。 酷く焼かれ損壊していましたが、それでも情報が一致しました」

 

「そうか。 残忍だが英傑には違いなかった。 哀れな死だな」

 

「そうでしょうか? あれだけ好き放題して、部下に無差別殺戮をけしかけたのだし、当然の末路に思いますね」

 

「そうかも知れないな」

 

アルテミスは見かけぽやぽやしているが、非常にシビアに考える人間だ。

 

いずれにしても、これからやって貰う事はいくらでもある。

 

既にアプサラスは、反乱の鎮圧はなかば諦めている。

 

幾つかの領地は放棄。

 

緩衝地帯とするしかないだろう。

 

一方、スポリファールの統治を歓迎している地域もある。赴任した役人が、心を砕いて民との融和策に力を割いた場所だ。

 

そういった地点を中心に、旧パッナーロからもぎ取った領地を、安定させるしかないだろう。

 

反乱というのは集団ヒステリーから始まる。

 

事実、融和策が上手く行った地域では、もとの支配者である貴族による圧政の記憶の方が民の間で強い。

 

だから、反乱の気配はなかった。

 

「それでは、国境付近の小火の処置に向かってくれ」

 

「クタノーンの情勢は良いんですか」

 

「どうせ支離滅裂だ。 他にも特務の騎士を何人か入れている。 アンゼルほどの使い手はいないが、あっさりハルメンの密偵に殺されるほど弱くもない」

 

「わかりましたー。 それでは守りにはいりますね」

 

その場にいなかったようにアルテミスが姿を消す。

 

アプサラスは嘆息すると、部下を呼んで、アンゼルの亡骸の残骸を片付けさせた。

 

最近は伝聞によると、すっかり美しくなっていたらしい。

 

人間が死ぬと無惨なことになるとは分かっていたが。それでもこれは。

 

民間人八十人以上を殺傷した。

 

それでサーチ&デストロイの指示が出ていた。

 

実際、殺戮中毒だったアンゼルは、生きていればそれだけ周囲に害を為し続けただろう。それは分かっているが。

 

旧部下である。

 

その死には、アプサラスも色々と思うところもあるのだった。

 

 

 

山をこえたわたしは、グンリ国とやらの都市を見下ろしていた。

 

山深く緑濃い地点から見下ろすと、まあまあの規模だ。スポリファールの都市に比べると小ぶりだが、それでもいわゆるインフラはしっかりしているようである。

 

問題はどう入り込むかだが。

 

風の魔法で調べていると、門の辺りで人が並んでいる。

 

あれは。

 

見覚えがあるのが何人かいる。

 

恐らくロイヤルネイビーの人間だ。

 

そうか、考える事は同じか。

 

一万からいた海賊女王の直衛だと、全滅といっても生き残りはいただろう。その中の幾らかは、必死に南に逃げ続け。

 

そしてそのうちの少しは、国境を越えてグンリに逃げ込めたというわけだ。

 

他にもいるのは、恐らくはクタノーンの黒軍の残党とみた。

 

しばらく様子を観察する。

 

何かしらのものを渡した上で、城門の中に入れて貰っているようである。ただ手続きには、時間も掛かっているようだが。

 

スポリファールほどではないが、それなりにしっかり入国を管理しているようである。

 

グンリという国は既に衰えたいにしえの国の一つと思っていたが。

 

これは全く侮れないかも知れなかった。

 

ともかく、何をやっているかは分かった。

 

城門に向かう。

 

兵士が槍を向けてくる。

 

兵士の装備は鎧に槍で、それほど列強のものに練度でも劣っているとは思えない。

 

少なくとも旧パッナーロの兵士よりはマシに見えた。

 

「止まれ」

 

「国境を越えてきました」

 

「名前と所属は」

 

「アイーシャと言います。 最後にいたのはロイヤルネイビー。 中佐の階級を持っていました。 特務の人間です」

 

兵士達がひそひそと話した後。

 

誰か来る。

 

魔法を使える人間らしい。かなり年配の、髭をもっさと蓄えた老人だった。眼鏡を掛けてローブを着込んで、いかにもである。

 

それから軽く面談をする。いちいち部屋に入ることもなく、外で立ったままである。その間も、兵士は槍を向けていた。

 

随分と訓練されていると思った。スポリファールの田舎の兵士より、練度が高いかも知れない。

 

こんな山の中で、熊やもっと危険なのが出るからかも知れない。可能性は低くは無いだろう。

 

「随分と毛並みが良いが、ロイヤルネイビーでは厚遇されていたのかね」

 

「厚遇はされていません。 魔法がそれなりに出来るので、馬車馬のように使われていました」

 

「そうか。 しばらく風の魔法で此方を伺っていたのは君だね」

 

「はい。 よく分かりましたね」

 

嘘をつく必要もない。

 

魔法で存在を感知できなかった人間が何人かいたし。別にわたしは世界最強の魔法使いでもなんでもない。

 

ましてや古き魔法の国となれば。

 

スポリファールの精鋭もびっくりの魔法使いがいてもおかしくは無いだろう。

 

「戦争犯罪の類はやっていないだろうね」

 

「そもそも旧パッナーロに来たのは、ロイヤルネイビーの侵略が終わってからです」

 

「そうか。 では巻き込まれたのか今回の大反乱に」

 

「そうなります」

 

老人はそうか、ともう一度ため息をついていた。

 

老人はマリーンというらしく、この国の魔法使いだそうである。

 

似たような名前の魔法使いが、いにしえの時代にいたそうだ。いにしえの時代に現れた「賢者」だの「勇者」だのは、普通の人間では絶対に攻略不可能な能力を持っていて、基本的に能力をガバガバに解釈できるためあらゆる事が可能だったそうである。そんな奴の一人が、そういう名前を名乗っていたとか。

 

それを討ち取ったのが、この国の先祖達。

 

いにしえの時代に暴れた連中を討ち取った例は殆どないらしく、快挙の中の快挙だったらしい。

 

以降は斃した相手の名前を名乗るという風習もあり。

 

ただそのまま名乗ると縁起が悪いと言う風習もあるらしいため、少し名前を変えて名乗っているのだそうだ。

 

よく分からない風習だが、その土地では大事なものなのだろう。馬鹿にするつもりはない。

 

他にも幾つかの尋問をされる。

 

魔法を使えること。

 

何よりカヨコンクムの敗残兵であると言う事。

 

それらもあって、数日は尋問された。流石に外で立って待ちではなくて、粗末な家をあてがわれたが。

 

粗末な事は、苦にはならなかった。

 

伯爵領にいたころに比べれば、なんぼでもマシだったからだ。

 

最初審問に来たマリーン老人は二日で来なくなって、以降は猜疑心が強そうな、眼鏡の男性が審問に来た。

 

四角四面という雰囲気で、スポリファールの人間を思い出す。

 

だが、どれだけ挑発的な事を言っても、わたしが怒る気配もない様子を見て、その男性も気味悪がったようだった。

 

それから更に数日。

 

食事があって寝床がある。

 

それだけで、わたしには充分だったので、まあこれでもいいかと思ってたまにくる審問に受け答えしながら。

 

ある程度の安全を、わたしは享受していた。

 

 

 

グンリ王国は千百年の歴史を持つ国家で、古くにはパッナーロの領土の大半を有していた覇権国だった。

 

他にも幾つかの国が存在していたのだが。

 

それらはいずれもが、いにしえの時代に現れた勇者やら賢者やらに踏みつぶされ、今では存在していない。

 

一部存在している国も、グンリ同様に小国となって、細々と命脈をつないでいる状態である。

 

グンリの南部には世界の果てとか境界とか言われる障壁が存在していて、それは魔法なのかそうでないのかすら分からず。

 

グンリが全盛期だった頃も色々な人間が突破を試みて、果たせずにいる。

 

良くしたもので、遙か北の海にもそういうものがあるらしい。

 

この国は、昔は覇権国だったが。

 

今では文字通りの世界の果てなのだ。

 

魔法使いマリーンは、王の下へ書類を運ぶ。

 

国の規模が小さいため、王と民の距離は近い。愚王が出る事もあるが、この国は傾くことが許されない。

 

愚王が出た場合は、民が総出で追い出す。

 

そういう仕組みがあるため、王も必死に政務を執る。

 

今の王はまだ若い男性だが、それでも必死に賢王であろうとしていて。少なくとも今マリーンが見る所、無能では少なくともなかった。

 

有能でもなかったが。

 

また別に顔立ちが整っているとか気品があるとかそういうこともない。

 

王族は血統が優れているから優秀であるとか言う妄想を抱く人間の夢を、存在するだけで粉々にするような王である。

 

だから凡王とまで陰口をたたかれていたが。

 

それでも、凡人であればいいと国民は思っているので、排斥の動きはないのだった。国政にエゴを優先するような愚王でさえなければいいのである。

 

書類を持ち込むと、うんざりした顔で処理を始める王。

 

「マリーンよ。 まだ難民は入り込んでいるのか」

 

「はい。 何しろ大きな戦でありましたので。 初期は賊そのものの連中が入り込んで来ていましたが、それらはみな駆除しました。 今は比較的大人しいものが入ってきています」

 

「それでも油断はするな」

 

「分かっております」

 

マリーンが一番警戒しているのはアイーシャという者だ。

 

ロイヤルネイビーの中佐だったようで。物的証拠もあるが、あれはどうみてもまだ十代半ば。

 

ロイヤルネイビーの首魁だった海賊女王は、能力主義者で有名で。使えると判断したら、強盗だろうが強姦魔だろうが平然と雇い入れていたという話がある。

 

中佐というのはかなり大規模な軍を率いる立場であり、地位的には国家の高官に充分分類され。

 

しかもマリーンが見る限り、魔法の腕は上澄みに入る。

 

世界最高とまではいかないが、あの年齢であれだけの魔力と魔法の技術を持っていれば、最強とまではいかないがいずれその座を狙えるかも知れない。

 

ただ非常に無機質で、感情らしいものを殆ど見せない。

 

たまに僅かに感情を見せるが。

 

それ以外は人形じみていて、接している者が不気味がっていた。

 

多分ろくな人生を送ってきていないんだろう。

 

それは唾棄すべき事ではない。

 

哀れむべき事だった。

 

問題は、マリーンは立場的に。

 

それでも手心を加えられないことであったが。

 

「麓はそれでどうなりそうだ」

 

「恐らく反乱軍がクタノーンとカヨコンクムの占領地を奪回して終わるでしょう。 クタノーンはもろに陸続きなので、領土を失うかも知れません。 スポリファールも獲得した領土の割譲を強いられるかも知れず、またロナウ国として生き残っているパッナーロの残党は、復権の目はないかと思います」

 

「つまり状態は変わっていないのだな」

 

「仰せの通りにございます」

 

首を振って残念そうにする王。

 

上手く行けば旧領奪回をと思ったのだろうが。

 

そもそもグンリの国力では、外征して占領地を広げる事は不可能だ。

 

パッナーロが出来たのは数百年前の混沌の時代で、その前はグンリの領土だったとしても。

 

数百年も時が経てば、完全に違う土地の違う人間である。

 

今更真の王がどうのといっても、誰も気にもしないだろう。

 

ましてやパッナーロは最初の数十年くらいしか統治が上手く行っておらず、それ以降は圧政と失政で極貧国にまで堕落した国だ。

 

今反乱軍を率いているものが誰かは知らないが。

 

国を建てたら。今まで以上に排他的になるだろうし。

 

グンリがまた出向いても、新しい敵としか認識しないのは目に見えていた。

 

「退屈な日々が続くわけだな」

 

「いえ。 少なくとも反乱軍の動向に目を光らせなければなりません。 当面は国内の安定に必死でしょうが、もしも侵攻を企てるようであれば……」

 

「分かった。 兵の配備を続けよ」

 

「御意」

 

グンリは山深い土地だ。

 

パッナーロに大小八回遠征軍を送り込まれたが、その全てを撃退したのは、霧も多く山も深く。

 

何よりもその地形に適応した兵士達の存在がある。

 

八回の遠征軍が全滅的な打撃を受けたことにより、パッナーロは南辺境伯を配置して、グンリに備えたほどである。

 

まあ、それだけは正しい判断だっただろう。

 

そのうちに国がさらに腐敗して、より豊かなことが目に見えているスポリファールに目が向き。

 

止せばいいのにそっちに遠征軍を出した事が、破滅の引き金となったのだが。

 

まあそんなことは知らない。

 

先祖が同じであっても、もうどうでもいいことだった。

 

マリーンは戻ると、軍の将軍を集める。

 

マリーンは立場的に軍司令官である。

 

このちいさな国だ。

 

とにかく人間関係も狭い。

 

将軍と言っても、率いている兵は数百から千程度でしかない。

 

他の国が見たら指を差して笑う程度の規模だ。

 

ただし魔法戦力はそれなりに充実している。

 

賢者の子孫をうそぶくパッナーロよりも、魔法戦力についてはずっと充実していて。魔法を使える人間を厚遇してきたのがこの国だ。

 

そのため、軍司令官にも魔法使いが置かれるのが恒例で。

 

マリーンもその恒例で、三十年間司令官を務めてきたのだ。

 

「司令官閣下。 王はなんと」

 

「侵攻作戦はない。 敵からの侵攻に備えよと言う事だ」

 

ほっとする司令官達。

 

実際にはそうするべきだと進言して、そうさせたのだが。

 

それは今言わなくてもいい。

 

「既に内部に受け入れた難民も含め監視せよ。 特に国境付近では、濃霧の魔法を常に展開しておけ」

 

「わかりました。 新しい血を敢えて入れる必要はないと言うことですね」

 

「この機に乗じて入れる必要はない、ということだ」

 

新しい血をいれなければ、あっと言う間に国が駄目になる事くらいは分かりきっている。

 

だから国策で、村などの間では人間を行き来させて、血を循環させるようにしているほどなのだ。

 

パッナーロでは奴隷売買が悪名高く。

 

売られてきていた奴隷の幾らかは、グンリに流れていた。

 

グンリに流されていたのは「上物」ではない、魔法が使えない人間ばかりだったが。

 

そんなことはどうでもよく、新しい血が入るというだけで貴重だった。

 

奴隷の身分から解放するだけで、随分と感謝もされたし。

 

それでこの国は、新しい血を入れることも出来る。

 

ただ、だからといって余所から来るものを好き勝手にさせない。

 

そのノウハウも、千年以上の歴史でしっかり身に付けているのがこの国で。

 

だから滅びず、今まで隣に大国があってもやってくることが出来たのだった。

 

幾つかの指示を軍司令官に出した後、マリーンは一度戻って休む事にする。

 

流石に老齢だ。

 

若い頃の様に闊達には動けない。

 

家で報告書を読む。

 

審問につけた魔法使いは、アイーシャのことが気味が悪くて仕方がないらしく、陰険な悪口を書き募っていた。

 

良くない傾向だ。

 

アイーシャが得体が知れないのは事実だが。

 

これは明らかにアイーシャが抵抗しないことを前提にものをかいている。

 

アイーシャの実力はスポリファールなどの先進国の軍の一線級の魔法使いなみとマリーンは見ている。

 

その気になれば、下手な都市くらい一人で全滅させる事が可能と言う事だ。あくまで理論的には、だが。

 

そういう存在を侮るのは危険極まりない。

 

すぐに報告書を書いた審問官を呼び出すと、その旨を説教する。

 

時々別人のように恐ろしくなるため、マリーンはそういう点では怖れられているようだが、それでいい。

 

優しいというのは舐められる要素である。

 

人間というのはそういう存在だ。

 

だから時々怖れさせなければならない。

 

それが人間の世界で生きるには、必要な事だった。

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