辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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アイーシャが逃げ込んだグンリ国は、数百年前の大勢謎の能書きを背負った連中が現れて世界中滅茶苦茶にした事件のある意味当事者でもあります。

そしていにしえからある国には、それなりに恐ろしい伝承や真実が残っていたりするのです。

神話と呼ばれるものに登場するような存在が、今姿を見せようとしています。







3、巨影

グンリに来てからしばらく時間が過ぎた。

 

今までいた都市から出張することも出て来て。その過程で、服も新しく仕立ててもらった。

 

軍用のローブではなく、普段着ももっていなさい。

 

そう言ったのは、あのマリーンという老魔法使いだ。

 

給金も出るようになった。

 

ただ、それでも監視は解けない。

 

わたしが要監視対象だと言う事は分かっている。だから、それに不平を唱える気はなかった。

 

今日はグンリの奥地にある村に、ハンナと兵士達十名ほどと向かう。同時に物資も運ぶ。

 

土魔法と風魔法の組み合わせで、地面を高速で動かして高速移動する。速度、安定性、ともに更に磨きが掛かってきている。

 

ハンナは無邪気に喜んでいる。

 

何歳か年下のこの子は、わたしが散々人を殺して来た事なんて知りもしないだろう。そのまま知らないでいる方が良いのかも知れない

 

山の中を高速で移動完了。

 

兵士達は狼煙を上げたりして、実戦訓練をしていた。わたしは見ているだけでいいという話だ。

 

まあ山の中だ。

 

厄介な猛獣が出たら対応の支援をしてほしいということだったが。

 

狼煙を上げていると、彼方此方の山から狼煙が上がっている。

 

上がった色、上がっている長さ、順番などで暗号になっているらしい。わたしはただ見ているだけ。

 

軍事機密だろうし、知らなくていい。

 

退屈そうにしているハンナだが。

 

一応目を離さないようにする。

 

この山の中で一人になったら、万が一も助かるまい。山慣れしている兵士達ですら、諦めるだろう。

 

しばし狼煙を上げた後、谷川に降りる。

 

綺麗な水が流れているが、あくまで綺麗に見えるだけだ。

 

きちんと湧かしてから水は飲む。

 

わたしが瞬間で湧かして冷やして、兵士達が感謝の言葉を述べていた。わたしのことから目を離さないようにはしている兵士達だが。

 

それでも、感謝の言葉は口にする。

 

それだけでも、今までの対応よりはマシかも知れない。

 

わたしは淡々と水魔法で川の様子を探る。

 

結構上流の筈だが、水の流れは速い。川遊びをしたそうにハンナがしていたが。駄目ですよと一言だけ。

 

流されたらまず助からない。

 

川の水は、魔法で調べるだけでも結構深いし早いしで危ない。

 

それよりも深い所には、かなり大きな動物もいる。

 

ハンナみたいな子供、おいしい肉にしか見えていないだろう。わたしも多分そう見えている筈だ。

 

昼食を始める兵士達。

 

かなり練度が高く、ほとんど私語を発しない。

 

今回の訓練は、わたしの監視を兼ねて。見習いのハンナにやる事を出来ているか見るものであるそうだ。

 

わたしがたまに制止するから出番はないようだが。

 

兵士をまとめている中年の男性は、時々鋭く目を光らせている。採点を細かくしているのだろう。

 

わたしから見ても、ハンナはまだまだとても一人前には遠い。

 

とりあえずわたしは、火の始末を終えると、周囲を確認。

 

ちょっと遠い所に熊がいる。

 

それとは違う方向に大きめのヤマネコがいる。ヤマネコといっても人間を殺せる大きさである。

 

襲われたら、特に不意打ちされたら、大きな被害が出るだろう。

 

兵士をまとめている男性に話をしておく。

 

頷くと、男性は戻るぞと一言だけ言う。

 

後は、土魔法と風魔法による移動だ。

 

ハンナだけは無邪気に、結構危ない状況だった事に気付いていないようだった。

 

街まで戻ると、わたしはハンナと別れて、別の兵士達と山に入る。

 

少し前から、大きめの人影が目撃されているらしい。

 

ただの大きなおじさんだったらまだいいのだろうが、オークだとかだったら問題だ。或いは国境を越えて今頃逃げ込んできた敗残兵の可能性もある。

 

兵士達は緊張した様子で。

 

わたしの他に、もう一人気むずかしそうな老魔法使いがいる。

 

同じ老魔法使いでも、マリーンとは随分差がある。力量もそうだし、観察眼もそうだ。魔法が才能に依存する以上、これは仕方がないとは思うけれど。

 

マリーンと同年代だとすれば、色々とひがむのも仕方がないのかもしれない。

 

指定の位置まで、風魔法と土魔法で移動。

 

移動中、老魔法使いはずっと冷や汗を掻いているようだった。

 

わたしの移動魔法を見て、マリーンは喜んでいたが。内心では危険だとでも思ったのかもしれない。

 

複数人に見せて、判断させているのだろうか。

 

こういう反応を見ると、そんな風に思ってしまう。

 

ともかく指定の位置についた。

 

山の中腹で、麓を良く見渡せる。

 

この辺りで最近木が倒れたらしく、森が途切れていて、視界を遮るものもないのも調査の追い風だ。

 

「この辺りに展開しろ。 安全を確保し次第、探索範囲を拡げる」

 

「はっ」

 

「ふん、手品みたいな魔法をつかいおって」

 

わたしに対する嫌みか。

 

まあどうでもいい。

 

わたしは風魔法を展開して、周囲を探るが。これはちょっとまずいかも知れない。

 

足跡だ。結構大きい。

 

多分人間のものじゃない。

 

それについて、すぐに説明する。かなり近くを通っていて、しかも足跡は新しい。

 

「なんだと!?」

 

「オークじゃないと良いんですが。 人間とは違うように思います」

 

「素人が、勝手な事を抜かすな! 山に詳しいのは我々なんだ!」

 

「はあ」

 

そう言うのなら、お手並み拝見といきたいが。

 

老魔法使いは結局わたしが見つけた足跡を見て、ひっと声を漏らしていた。

 

それはそうだ。

 

わたしがすっぽり入るほどの足跡である。

 

「巨人でしょうか」

 

「可能性はある」

 

「巨人?」

 

「この辺りに住んでいる準知的だ。 境界の辺りまでいかないと普段はいないんだが……」

 

知らない言葉だ。

 

わたしはじっと周囲を探る。

 

近くにいてもおかしくは無いが。ともかく特徴が分からないとなんとも言えない。

 

とりあえず間近にはいなさそうだが。

 

兵士達の緊張ぶりからして、ロクな相手ではないだろう。

 

「どういう生物なんですか」

 

「オークを知っているのなら話は早い。 オークより知能が遙かに高くて、場合によっては人間の言葉を喋る。 それでいながら暴虐で、大きさも見上げるようだ」

 

「オークの全てを上回るということですか」

 

「幸い繁殖は滅多にしない……というよりも、子供を誰も見た事がない。 服を着ている事も多く、境界の先にいる別の人間ではないかなんて噂もある」

 

境界とはなんだろう。

 

老魔法使いがぶつぶつと困ったどうすると呟いている。こっちの方が知りたいくらいなのだが。

 

魔法を使うこともあるのかと聞いてみると。

 

あると即答された。

 

そうか、それは厄介だ。

 

さて、どうしたものかと思った瞬間だった。

 

二抱えもある岩が、凄まじい勢いで飛来した。わたしは全力で風魔法を展開。山の柔らかい土を踏みしめて、両手を岩に向ける。

 

風が炸裂するように吹き荒れ、辺りの木がなぎ倒される草のように傾いだ。

 

風を収束させ、岩に対して叩き付ける。

 

激しい激突の末に、岩が逸れて、近くの山肌に着弾。木をなぎ倒しながら、転がり落ちていった。

 

「ひ、ひいっ!」

 

老魔法使いが悲鳴を上げる。

 

うめき声のような唸りとともに、それが山の中から姿を見せる。索敵範囲の外だったが、それは想定外だった。

 

背丈は前に見た軍で飼われているオークの倍はある。

 

手にしているのは革の紐だが、あれは確か投擲で使うためのものによく似ている。

 

奇襲を仕掛けて来たという事か。

 

顔もオークと違って、人間とあまり変わらない様に見えたが。口からは鋭い乱ぐい歯が見えていて。

 

こっちを獲物としか認識していないのが一目で分かった。

 

吠える。

 

それだけで、老魔法使いは白目を剥いて失神した。

 

兵士達が浮き足立つ中、わたしは聞く。

 

「どうします。 逃げますか。 それとも戦いますか」

 

「戦える訳ないだろう! 逃げろ!」

 

「分かりました」

 

その気になれば勝てそうだったけれど、指示に今は従うだけだ。

 

立場とかそういうのを考えるのは苦手だが、今の時点では逆らわない方がいいとわたしは思っていた。

 

色々と状況が良くないからである。

 

風魔法と土魔法を駆使して、その場の土ごと全員で逃げる。巨人はもう一度投擲してきたが、軌道を見切って蛇行して避けた。

 

着弾した岩が、木々をなぎ倒して、凄まじい音を立てる。

 

巨人は走りながら追ってくるが、確かに服は着ているようだ。走りながら器用に石を拾って、すぐに装填している。

 

知能がある上に、身体能力もあの図体で高いと言う訳だ。

 

ぞくりとした。

 

土魔法と風魔法での移動解除。

 

兵士がなんで止まったと叫ぶが、次の瞬間、今までの比では無い速度で大岩が飛んでくる。

 

これはあの投擲具によるものではないな。

 

わたしは全力でそれを逸らす。

 

至近に着弾。

 

吹っ飛んだ木くずや土が大量に被さってきて、思わず目を塞ぐ。その隙に、巨人が至近まで迫っていた。

 

唸りながら、吹っ飛んだ木の一つを掴み、それを振り下ろしてくる。

 

巨人の言葉を発しているのかも知れないが、少なくとも意味は聞き取れない。

 

わたしは即座に魔法を切り替え。

 

土魔法と風魔法で、ぐるりと入れ替わるようにして、巨人の背後に回り込む。木が盛大に空振りして、地面を爆砕していた。

 

何度も何度もそうして地面に叩き付ける巨人。

 

その時にはわたしは、後ろに回り込み、風魔法に総力を投入。巨人の顔の周りの空気を文字通り止めた。

 

跳び上がった巨人が、顔を真っ赤にして、それでも木を手にとる。

 

息ができなくなった。

 

わたしのせい。

 

それを理解したらしい。

 

わたしを探して、振り返る。

 

これは魔法を使えて、魔力が見えているのかもしれない。わたしは更に風魔法の威力を上げる。

 

殺しきらないと、多分生き残るのは無理だ。

 

だが、巨人は喉を掴むようにすると、わたしの風魔法を強引にこじ開ける。もの凄い雄叫び、飛び散る唾。

 

凄まじい臭気に、流石に眉をひそめる。

 

巨人が風魔法を引きちぎった。

 

まあ、わたしの魔法は最強でもなんでもない。兵士達に逃げてと叫んで、わたしも土魔法を使ってさがるが。

 

巨人の手の方が速くて、兵士の一人が掴まれていた。

 

巨人はそのまま兵士を口に放り込むと、鎧ごとばりばりと喰らう。老魔法使いは気絶したまま。

 

これはちょっとまずいな。風魔法でもう一度と思うが、あの大きさだ。魔力も人間では手が出せないのかも知れない。

 

兵士達が殺された同僚の仇だと叫びながら、矢を浴びせかける。

 

巨人はすっと息を吸い込むと、爆発するような声で叫んだ。

 

それだけで、猛獣狩りにも使える剛弓から放たれる矢が、全部まとめて吹っ飛ばされる。しかし、その間に。

 

わたしは一人走っていた。

 

巨人が逃げ遅れた兵士を、また掴んで口に放り込む。気絶したままの老魔法使いも容赦なく食われた。次々に人を食いながら、それでも頭に血が上っている巨人は、辺りを見回す。

 

その時には、わたしは準備を終えていた。

 

木を風魔法で持ち上げる。

 

巨人がやったので、仕組みは理解出来た。

 

隕石の魔法について、教わった事はない。だけれども、空の彼方から隕石を降らせているんじゃない。

 

あれは大岩を空中高くまで持ち上げて、それを加速して地面に投射しているだけだったのだ。

 

巨人は投擲と同時に加速の魔法をかけて、大岩を吹っ飛ばすように投げていた。

 

それと同じ事を、鋭く尖った木でやる。

 

巨人が気付くが、遅い。

 

普通の矢だったらどうにもならないだろうが、巨人が走りながら踏み砕いたような木である。

 

その尖った切り口が、もろに巨人の膝近くを抉っていた。皮が爆ぜて、肉が剥き出しに、いや骨まで見える。

 

狙い通り。もうこれで迅速に動けない。

 

悲鳴を上げる巨人が、木を掴もうとする。

 

だがその時には、わたしは次の木に魔力を集中、装填していた。

 

今のは動きを止めれば良い。

 

アンゼルが言っていた。

 

遠くから敵を仕留めるときは、必中の固有魔法でも持っていない場合は二射を基本とする。一射で足か胴を撃って動きを止め。二射でとどめを刺すのだと。特に初撃で頭を狙うのはお勧めできないのだそうだ。頭は小さい上に良く動くからである。だから腹か胸を狙え。自信があるなら足を。そう言われた。

 

その通りに動く。

 

二射目。動きが鈍った巨人の腹に突き刺さる。巨人が尻餅をついて、逃げだそうとするが、させるか。

 

二射で仕留められなかったが、三射目。

 

今度はもろに喉に突き刺さり、それで巨人は絶命していた。

 

大量の血を噴き出しながら、人食い巨人が倒れる。

 

生き残った兵士達の中には、気絶しているものもいたし。巨人が荒れ狂う中踏みつぶされた仲間を見て、それで失禁している者もいた。

 

それよりもまずいのは、血の臭いだ。

 

巨人が死んだのを、周りの獣たちも見ている筈。

 

すぐに集まってくるはずだ。

 

死んでしまえば巨人だって肉の塊。

 

森の動物たちが、想像以上に厳しい生活をしていることは、わたしももう風魔法で観察して知っている。

 

「生き残り、集まってください。 戻ります」

 

「で、でも俺の弟が、潰れて」

 

「死体は集めてください。 持ち帰ります」

 

まずかったか、今の言葉。

 

兵士達が露骨に怯えるのを見て、わたしはそう思ったが。

 

ともかく今は、肉の塊になったものよりも。

 

助かったものを優先しないといけないと考えていた。

 

 

 

街に戻る。

 

すぐに来たマリーンに状況を説明。

 

ハンナが不思議そうな顔をしていたが、兵士の一人が奧に連れて行った。マリーンはいつもと別人のように厳しい顔をしていて。説明を聞くと、すぐに兵士を集めて、現場に戻る指示を出してきた。

 

魔力が枯渇寸前だ。

 

それを説明すると、食事を持って来てくれる。かっこむように食べなければならなかったが。

 

それを厳しい目で見ている兵士も多かった。

 

魔力の補給については、個人個人で違う。

 

それについては、最近痛感した。

 

わたしの場合は食事だが、睡眠だったりする人もいるらしい。ともかく、あまりうまくは無いご飯をかっ込むと。

 

さっきの数倍に増えた兵士とマリーン、何人かの魔法使いとともに、現地に向かっていた。

 

現地に到着。

 

その間に話すが、街の方でも巨人の凄まじい咆哮は聞こえていたらしい。

 

現地では、巨人の死体に鳥が群がっていて。更には小型の四足獣も集まり始めていた。マリーンが喝と叫ぶと、わっと散る。

 

兵士達が、三本の木が突き刺さっている死体を見て、吐きそうになる。

 

だが、その前に、回収しきれなかった死体を回収しなければならない。

 

巨人の死体の腹を割くと、消化されて原型もない死体が出て来た。相当に胃が強力らしい。

 

それ以上に胃から人間くらいもある寄生虫が出て来たので、それで悲鳴を上げる兵士もいた。

 

「下手に触ると手が溶けますよ」

 

「アイーシャ。 周囲の警戒に徹してくれるかな」

 

「分かりました」

 

アドバイスはしない方が良いか。

 

今までわたしの行動、発言が、追放されることにつながったことは何回もあった。自主的な行動が原因になったことだけではないが。原因になったこともある。

 

周囲を調べているマリーンが、いつもとは別人のように険しい顔で呻いている。

 

「ガンダルブも年老いたな。 如何に相手がヨトンとはいえ……」

 

「ヨトンというのですか」

 

「この巨人はグンリがパッナーロの旧領を抑えていた頃に何度か目撃例がある輩でな。 強いと言っても猿の仲間であることが分かっているオークとは違う。 準知的に分類されてはいるが、実際には人間と並ぶ知能を持ち、魔法まで使う。 こんな人間の領域にまで入り込んで来ているのは初めての事態だろう。 境界の監視に当たっている部隊の手を増やさないとまずかろうな」

 

「……」

 

兵士達が青ざめている。

 

巨人の死体をどうするかと話し合っていたが。

 

まあわたしは何も言わない方が良いだろう。

 

ヨトンか。

 

そういう名前があるとして、何か語源でもあるのだろうか。

 

いずれにしても、あれは人間とは相容れないだろう。人間をムシャムシャ食べていたような奴だし。

 

熊が出たが、マリーンが稲妻の魔法で一撃。

 

いや、一撃で死ななくて、悲鳴を上げながら逃げていった。

 

放っておけと、鋭い叱責が飛ぶ。

 

兵士達は辺りを探り、もう巨人がいないことを確認。

 

その後は点呼をし。

 

まだ残っていた死体の一部を集めていた。

 

「戻るぞ」

 

「これ、どうします。 持ち帰りますか」

 

「そうだな。 そうしよう」

 

「分かりました。 集まってください」

 

皆が集まった後、巨人の死体ごと戻る。

 

土魔法と風魔法を利用した移動は、滞在時に何度か見せたが。わたしの言動を見て、それでやはり嫌悪を示している兵士も多かった。

 

これは、駄目かな。

 

此処では監視がついているとは、ある程度上手く行っていたと思ったのだが。居心地も悪くは無いと思っていたし、出来るだけ大人しくもしていたのだが。

 

街まで戻ると、報告書を書いて、後は休むように言われる。

 

頷くと、困惑しているハンナを兵士が巨人の死体に近づけないようにしていた。

 

ハンナはどうしてかわたしを好いているようだったから。

 

マリーンが非常に険しい顔をしているのを見て、心を痛めているようだった。

 

 

 

翌朝は、仕事の話は掛からなかった。

 

マリーンの態度が露骨に硬化したのも分かった。

 

巨人の死体は燃やされて処分されたようだが、わたしはまあゆっくり過ごす事にする。ぼんやりしていると。

 

昼過ぎになって、聴取された。

 

マリーンが報告書を読んだ後、幾つかの話を聞いてくる。

 

巨人と遭遇した時の事について。

 

わたしはそのまま話す。

 

皆混乱していたこと。

 

巨人は最初から殺意全開だったこと。

 

明らかに食うつもりだったこと。

 

それらについてもだ。

 

巨人との戦いが終わった後、私を含めて生き残りは四人だけだった。生き残りの他の兵士からも聴取は既に終えているらしい。

 

マリーンは険しい表情だった。

 

「君はどういう人生を送ってきたのかね」

 

「……パッナーロの東辺境伯領に物心ついたときにはいました。 魔法を使えるということで、奴隷商に伯爵に売られたようです。 そこで火の魔法が使えないという理由で追い出されて」

 

以降の経歴を軽く話す。

 

聞き終えると、マリーンはため息をついていた。

 

「なるほどな。 監視をつけておいて正解であったわ」

 

「わたしが嫌われる事は知っています。 追放だというのなら、早めにしていただけますか。 わたしとしても、余所に行くのであれば、もう覚悟を決めておきたいので」

 

「今まで流されるままに生きてきたし、人を慈しむ事もしらない。 そして何処かに執着することもないのだな」

 

「生きて食べる事ができれば充分です」

 

それを告げると、マリーンは分かったといって、一度ついてくるようにいった。

 

ついていった先は城壁の上だ。

 

街が一望できる。

 

城壁は張りぼて同然だが。

 

それでも街に暮らす人間には、城壁は安心できる材料ではある。

 

それは理解しているつもりだ。

 

「わしはこの街をずっと守って生きてきた。 わしの残りも少ない命を考えると、この街とともに果てることは本望ですらある。 ともにいたという女騎士と、一緒に最後まであろうとは思わなかったのかね」

 

「思いませんでした」

 

「女騎士の方はそう思っていたのではあるまいか」

 

「そうかも知れませんが、わたしとアンゼルは違う人間ですので」

 

考え方だって違う。

 

わたしは今、街を見ていて、たくさん人間がいるというくらいしか感想を抱かない。この街と心中するというのなら、それはそれで良いのでは無いかとも思うが。それはわたしとは違う。

 

それだけだ。

 

「巨人については伝承があってな」

 

「はあ」

 

「巨人を殺した存在を、何処までも仲間が追っていくそうだ。 今まで信頼出来る文献が四つ確認できていて、それらでも巨人殺しとなった英雄が、数日以内に別の巨人に食い殺されている。 巨人は境界近くで目撃される事が多いが、内陸に出る事も珍しくはなかったそうだ」

 

別に足手まといがいなければ、殺す事は不可能じゃない。

 

魔法を使うと言うことは、前回と違う魔法を使ってくる可能性もあるが。

 

それでも次は恐らく勝てる。

 

そういう自信が、今はあった。

 

初見で手こずるのは当然の話。

 

アンゼルもそういっていたっけ。

 

概ねのスペックは理解出来た。

 

「街の外に宿舎を用意する。 当面は其処で暮らして欲しい」

 

「別にかまいません」

 

「そうか。 巨人が出たとしても、助けには出られない。 食事については、専門の兵士に運ばせる」

 

「分かりました」

 

巨人の贄ということか。

 

わかった。

 

別にそれはそれでかまわない。次は複数で来るかも知れないが、斃すための方法は既にくみ上げた。

 

わたしは大してある訳でもない荷物をまとめると、そのまま街を出る。ハンナがどうしてとマリーンに食い下がっているようだったが。

 

まあ理由は分かる。

 

この街……いや国の戦力では、巨人の襲撃の度に大きな被害を出す事確定だ。更に問題なのは、わたしが勝つためなら手段を選ばないし。なんなら人命なんぞどうでもいいと考えている事でもある。

 

別にそこまで異常な考えでは無いと周囲を見てわたしは思うのだが。

 

それが当たり前になっているのがまずいのかも知れない。

 

いずれにしても、また追放か。

 

今は街の外に追い出されたが。それも長くは続かないように思う。

 

一応確認はしてある。

 

街の外の獣は、食べる範囲だったら狩って良いそうだ。

 

それならば大丈夫だろう。

 

少なくとも空腹で遅れを取る事はなくなる。

 

新しい宿舎……いや山小屋か。それを掃除して、綺麗にしておく。わたしは非力だが、既に生活のための魔法は練り上げきっている。

 

一人でも生活には困らない。

 

だから、それで困る事はなかった。

 

 

 

翌日、さっそく気配がある。

 

巨人だ。

 

朝、魔力を練っていると、探知範囲にいきなり現れていた。此方に向けて、かなり急ぎ足で来ている。

 

足が長すぎるので、一歩が想像以上に大きい。

 

ばきばきと木をなぎ倒しながら、こっちに向かっている巨人。単体か。恐らく街から見えているだろうな。

 

わたしは魔力の練り上げを中断すると、ひょいと山小屋の上に上がる。

 

飛行魔法を使いながらの戦いはどうしてもまだ無理だ。少しでも背が高い地点に行く方がやりやすい。

 

巨人が見えた。

 

前の個体よりもかなり細くて、しかし筋肉質だ。それも若々しいようである。

 

まあどうでもいい。

 

口から見えている鋭い牙が、あれが人を殺して喰う輩だということを示している。手加減だとかする余地は無い。

 

殺す。

 

魔法を練り始めるわたしをみて、巨人が即応。

 

いきなり凄まじい勢いで、全身をしならせながら、大岩を投擲してくる。あれは着弾したら、爆発しかねない。

 

防ぐのは悪手だな。

 

わたしは跳びながら、風の魔法で加速。かなりギリギリだったが、大岩は至近を掠めて。それだけで、ごっと風が吹き荒れて。吹っ飛ばされそうになった。

 

後方で爆発。

 

人がいない方だろうし、どうでもいい。

 

人がいるとしても、かまっている余裕は無い。

 

また、岩を拾っている巨人。

 

好きかってさせるか。

 

風魔法を練り上げる。

 

そして、巨人が岩を投げようとした瞬間、その顔面に、猛毒の空気を貼り付けていた。

 

巨人がそれを手で引きはがしに掛かる。

 

魔力も強いから、それが出来るというわけだ。

 

即座に剥ぎ取られる。

 

だが、本命は既に終えている。

 

わたしは詠唱をしながら、巨人に向けていた手をにぎりこむ。

 

あの猛毒の空気と同時に、圧縮した空気を肺に送り込んでいたのだ。

 

巨人の体の構造は人間と同じ。

 

わたしはアンゼルと一緒に数限りなく人間を殺して来たし。人間がどうすれば死ぬかはよく分かっている。

 

空気を炸裂させる。

 

肺が破裂した巨人は、凄まじい雄叫びを上げる。

 

あれは街の方、ぐらぐら揺れているだろうなと思う。

 

まあ、これで勝ち確だ。

 

しばらくもがいていた巨人は、その場で倒れる。口から大量の血が流れている。まだ呼吸を試みているらしく、胸が動いていたが。

 

やがてそれもなくなり、白目を剥いて息も止まった。

 

念の為、風魔法で追撃して、ざっくりと喉を割いておく。

 

これで死んだ筈だ。

 

わたしは巨人を仕留めると、後は昨日捕まえて吊しておいた鹿の肉をいただく。黙々と燻製にした肉をしゃぶっていると、力が湧いてくる。

 

燻製肉を囓るだけではなく、野菜と一緒に煮込んで食べることで、気分を変えることも可能だ。

 

巨人を殺した事なんかどうでもいい。

 

後は、淡々とわたしは、日常に戻るのだった。

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