巨人が大岩を投げつけようとした瞬間、ぴたりと止まる。
巨人がどんな毒ガスに弱いか、わたしはしっかり理解した。これでも試行錯誤したのである。
それも、肺に直接毒ガスをお届け。
ひとたまりもない。
巨人は倒れ、二度と動かなかった。
呼吸を整える。
これで四体目だ。
巨人は突然姿を現すようだが、数日おきに一回。それも、いきなり気がついたら踏みつぶされるとか、そういうこともない。
現れるのは、わたしが気付く範囲。
そして気付くと、即座に襲いかかってくる。
どうやら何かしらのルールがあるらしかった。
いずれにしても、これはもう駄目だろうな。そう思う。この山小屋に移ってから、三回巨人に襲われた。
最初の一体を斃してから、三回。
今後永遠に来る可能性だってある。
巨人殺しの英雄が、最後には必ず食われて死んだわけだ。これではどうしようもないだろう。
あれは普通の兵士や魔法使いでどうにかできる相手ではない。
それに斃した後の死体を観察していると、二体目くらいからは街の人間が処分しなくなったのだが。
いつの間にか、獣に集られていた死体が消えてしまう。
どうやらあれは、魔法以上に、生物とはかけ離れた存在らしい。
具体的になんなのかは分からないが。
いずれにしても、魔法的な生物とか、そういうものかもしれない。いずれ、肺に毒ガスを送り込んでも平気とか、そういうのが出てくる可能性もある。
まあ、その時はその時だ。
兵士が来る。
殺気立っている。マリーンもいた。
「出て行けというのなら出ていきますが」
「そうじゃない! ハンナが来ていないか!」
「来ていません」
「まずいぞ……」
ハンナが街を出て、行方不明だそうである。
立て続けに巨人が出て、それで街が恐怖に包まれているそうだ。
元々ハンナはマリーンが世話をした弟子で、性格からも周囲から愛されていた。それに才能があるため。マリーンの後継者候補でもあったらしい。
まあそれはそうかもしれない。
ただあの危機感がない性格は、どうにかしなければならなかっただろうと思うが。
わたしみたいに自分のも含めて命なんてどうでもいいと思っている人間は、意外と少ない。
他人の命をどうでもいいと思う輩は幾らでもいるが。そういう自称現実主義者は、自分の命や家族の命だけは特別視しているものだ。
わたしみたいなのは珍しいらしい。
ただ私も、生きてご飯は食べたいとは思う。
それはそれでおかしな話だ。
命はどうでも良いのに。
それでも、生はつなぎたいと思う心もある。
ただ人間は二面性があるらしいので、そういうものかもしれないが。
わたしは挙手して、風魔法で探す事を提案する。マリーンは頷くと、そうしてくれといった。
すぐにハンナは見つかった。
巨人の足跡の一つにあった。
巨人が出た直後に、出くわしてしまったらしい。巨人はハンナを踏みつぶしたことを気づきもせず、わたしに殺気を全部ぶつけていたようだった。
ぐしゃぐしゃに潰れたハンナを見て、マリーンは言う。
「君を慕っていた子の末路だ。 思う事はないのかね」
「気の毒ではあると思いますが」
「それだけかね」
マリーンが孫のように可愛がっていたことは知っている。
だが、その制止を振り切って出て来たのであれば自己責任だろう。ましてや巨人が出る事だって分かりきっていたのだ。
泣いている兵士もいる。
だがわたしは、涙一つでなかった。
アンゼルが死んだと分かっている今でも、涙なんか流れない。
わたしをみて、マリーンが激高していた。
「出て行ってくれ……」
「わかりました」
此方も、マリーンが激高するのは分かる。
出ていくしかないだろう。
それに、これで監視が外れるならそれもいい。ハンナは気の毒だったが。ちょっと迂闊だったな。
そう思って、どこか胸がちくりと痛んだ。
これが高じると涙が出るのだろうか。
そんな風にわたしは思う。
自意識が薄い。
そうアンゼルがわたしを評していたっけ。
わたしは幼い頃に、自我を作り損ねたのかもしれない。だけれども、そんな子はパッナーロには幾らでもいたはずだ。治安が悪い国にも。
天を仰ぐ。
わたしはどうしたらいいのだろうかと、ぼんやり思っていた。
(続)
こうしてついにいにしえの国からも追放されることとなったアイーシャ。
本人は身を守っただけではありますが、それが大きな飛び火になる事はよくあるのです。
ちなみにアイーシャが使っている窒息魔法は元ネタがあります。ウィザード〇ィ6に登場したもので、小型の雑魚敵を一瞬で全滅させられるとても有用な魔法でした。
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