この作品世界ではとても珍しい信仰。
それが最果ての国の一つドラダンには存在していました。
そしてその信仰対象は巨人だったのです。
人知を越える存在であり、圧倒的暴虐だからこそ信仰の対象にもなる。
そしてこの存在は、信仰の対価として命を。代わりに予言を与えるのです。
家を作りあげた後。
周囲に獣が入り込まないように工夫をして。それから少しずつ遠出する。
山奥のつもりが、実は人里のすぐ側でしたとかだと笑い話にもならないからである。
それに、辺境とはいうが。
その辺境の先に、大国が無いとは言い切れない。
境界という言葉については、真実をわたしはまだ知らない。
それはただの国境かも知れず。
或いはその先には巨人の国があったりするかも知れない。
わたしは世界の全てを見てきたわけでもなんでもない。だから、その先に何があっても不思議ではないのだ。
空を飛ぶのも、だいぶ速度が上がり、高度も取れるようになって来た。
だから上空に上がって、視界を確保する。
裸眼では見えない範囲に対しては、水魔法で擬似的に眼鏡を作って、それで遠くを確認していく。
それで分かってきた事は、かなりの広範囲に深山が続いていると言う事だ。
開発されている様子もない。
無敵を誇ったいにしえの勇者だの賢者だのは、こっちには踏み込まなかったのだろうか。
たまにそういった連中には、田舎でスローライフをする(スローライフという言葉の意味はよく分かっていないそうだ)とかいいながら、辺境に攻めてきて傍若無人の限りを尽くす輩もいたらしいが。
そういう連中は、こういう山の中には興味を示さなかったのだろうか。
或いは暴力を振るうための実験として訪れて、在来の生物を殺戮しまくった挙げ句に、飽きて去ったのか。
それについては、わたしは分からない。
ともかく、彼方此方の地形を見ていくが。
巨人ほど大きさがある得体が知れない生物は何体もみた。
オークを苦もなく補食していたあの触手の塊は、谷間にいた。其処を巣にしているらしく、時々動き回っているのが見えた。
首がとても長いのもいた。
しかし観察していると、それは首では無く鼻なのだと分かった。
とにかく重厚な生物で、オークはそれをみるだけで逃げ散っていた。あれはわたしもちょっと戦いたくない。
触手の塊ですら、そいつは避けていた。
空から観察していて、そして気付く。
遠くの方の光景が歪んでいる。
不安要素は少しでも取り除いておいた方が良い。
超巨大な生き物は避けるとして。
得体が知れない自然現象も、避けて通った方が良いはずだ。
一月ほどかけて、まずは原生生物の分布を調べて回る。遠くの方については、その後である。
飛んで回ると腹が減る。
持って来たものには、簡単な調理器具もある。
料理はほぼ出来ないに等しいが、調理だったら出来る。アンゼルと一緒にいたときに、野草などのなかで食べられるものについても教わったし。
食べられる動物についても然り。
そういうものを食べながら、少しずつ行動範囲は拡げる。
それと、髪の毛が邪魔になってきたので、細かく手入れはしておく。
人間としての生活は捨てていない。
魔法が使えるというのが、捨てなくていい理由とはなってはいるのだが。
それはそれだ。
わたしは単に快適な生活をしたいだけである。
この辺りはある程度調べて回った。
次は境界だ。
そう思って、空を飛んで移動する。
なんだか歪んで見えている地点は、蜃気楼の一種かも知れないが。近付いて見て、それが違う事は分かった。
境界というのは、これらの人がとても入れない山のことかも知れないと、わたしは思っていた。
だが、わたしくらいの魔法使いだったら以前にも幾らでもいた筈だ。軍属の一線級の魔法使いだと、わたしより上が幾らでもいるだろう。
今の世代でも、アルテミスくらいになると、この程度の苦難なんかなんでもないとみていい。
それらが入れないと判断するほどでは無いと思う。
だから、その結論には違和感があったのだが。
その異様なものを見つけて、それが境界なのだとなんとなしに理解出来た。
それは壁だ。
其処を境に、世界がぐしゃぐしゃに歪んでしまっている。
触ってみる勇気はない。
その先がどうなっているのか、まったく分からないのだ。壁みたいな空間を境に、向こうは光景が歪んでいる。
そして、飛んで移動してみるが、ずっとその異様な壁は続いている。
地面から空まで、である。
これは本当に世界の果てなんだと、わたしは理解していた。
興味は持ったが、それ以上に危険だと判断してしまう。
まずは距離を取り、飛ぶのに使った魔力を食事で補給する。わたしは食事を楽しむことはほとんどしない。
美味しいまずいくらいはあるのだが。
それはそれとして、食事は魔力と体力の補給のためにしている。
この境界が、最大の危険要素だ。
そう理解したので、少しずつ確認をしていく。
複雑な地形になっている場所でも境界は遠慮なく存在している。川が境界に流れ込んでいる場所もある。
水の上を歩くだけではなく、水の中に濡れずに入る魔法も既に習得した。
水の中の危険な獣に襲われるから、出来るだけ使いたくはないのだが。それでも、調べて見る価値はあるし。
山奥と言う事もあって、川の勢いもそれほど強くは無い。
だから潜ってみると、川も深くなく。
川の中でも、境界は変わらずあることが分かった。水も平気で、境界の向こうに流れ込んでいる。
土の中はどうか。
山の中にはクレバスと呼ばれている亀裂が時々ある。
出来る理由は色々らしいのだが。
山を歩くしか出来ない人間には、これに足を踏み入れる事は文字通り致命的な事態である。
わたしは空を飛べるようになっているので、今では問題にならないが。
ともかく中に入ってみて、その底まで降りる。
光がろくに差し込んでいないくらい暗い穴の中だが。
水と空気を操作して、光を誘導する事は出来る。
擬似的な眼鏡を作る魔法の応用だ。
それでクレバスの中を調べて見るが、やはり境界は存在しているようだ。明らかに光の届き方がおかしい。
その向こうがグシャグシャになっているのも同じ。
世界は此処で終わっているんだ。
それが分かると、どうにも不可解な気分だった。
しばらくそうやって、境界を単独で調べていると、それだけで時間が過ぎていく。
持ち出して来た紙に、境界の調査記録をつけていく。
見ただけで全部覚えるとか、フラムは言っていたっけ。
そんな能力はわたしにはないので、たまにこうして経験したことを記録しておくのである。
それに意味があるかどうかはしらない。
なかったとしてもどうでもいい。
ともかく記録をつけた後。
境界に対して、アクションを起こしてみる事にした。
地面に降り立つ。
これは飛行魔法が消耗が激しいからである。複数の魔法の同時展開は、今でもわたしには負担が大きい。
大きめの魔法を使うときは、基本的には着陸してから。
これは身についていることだ。
境界近辺を探索している間に、大きくて危険な動物の生息地域は把握した。行動範囲もである。
強いていうならオークが仕掛けて来るかも知れないが。
まあオークなら、片手間に始末できるだろう。
大岩を魔法で持ち上げると、境界にぶつけてみる。
水は何の問題もなく流れ込む。
空気もそれは同じだ。
だが、岩ならどうか。
放り投げてみた岩は、まるで抵抗なく、境界の向こうへと消えたが。直後、倍する勢いで戻って来ていた。
全力で逸らすが、至近を掠めた。
これは間近で調査をするのは危ないかも知れない。
次は用意しておいた倒木を用いる。
倒木を風魔法で掴んで持ち上げると。境界に突き刺して見る。
さて、どうだ。
境界に突き刺しただけでは、何も起きない。
倒木を境界から引き抜いてみるが、特に傷んでいる様子はなかった。
そうか。
では次、と思った瞬間。
境界から何やら手が伸びてきて、倒木を掴んでいた。手と言っても、巨人のものくらい大きい。
それが倒木を掴むと、一気に引っ張り込む。
倒木から風魔法は制御を外していたのだが。それでも凄まじいパワーによって、あっと言う間に境界の向こうへと持ち去られてしまった。
何かが向こうにいる。
それは間違いが無さそうである。
一度距離を取る。至近での実験は危険だと判断したためだ。
そして風魔法で、まずは風を送り込んでみる。水が流れ込むし、風だってそうだということは分かっている。
だが突風が流れ込むとどうなるのか。
少しやってみると、しばしして。
爆風が帰ってきた。
即座に全力で防ぐが、それでも危なかった。距離を取っていなかったら、粉みじんになっていたかもしれない。
これは、下手な実験は避けるべきだな。
わたしはそう思って、今日は切り上げる。
巨人が境界から出て来たとしても、確かにこれは不思議ではない。
というか、あの壁はなんだ。
空のかなり高い所にも、境界は続いていた。境界は、世界にとっての壁なのか。だが、水や空気は流れ込んでいる。
それどころか、川によっては境界の向こうからこっちに流れてきているものもある。
確認したが、魚なんかは境界を出入りしている個体も見つけている。
虫なんかもそうだ。
小虫なんかが境界を避けている様子もなく。
境界があるのかないのかまったく分からないように、飛んで出入りしているようにも見えた。
しかし、野犬などは境界が見えているようで、決して近付かない。
大型の魚などもそのようで、絶対に境界には近付かない様子も確認できた。
あれはなんだ。
滝が近くにある境界を見つけた。水が流れ込んでいる。これは実験に良いかも知れない。
少し観察してみる。
そうすると、大きめの魚が、境界に流し込まれるのが見えた。だが、それで何かが起きるわけでもない。
ただ、魚はそのまま戻って来なかった。
つくづくよく分からない場所だ。
近付かないのが吉だな。
わたしはそう結論を出す。
だが、その結論が喜ばしかったのは。観察を切り上げた、その日までだった。
騒がしい。
それも人間の声だ。
それなりの規模の人間が来ている。今確認できただけでも多分百人かそこらはいる。
恐らくドラダン連邦の兵士だろう。すぐに広域に風魔法を展開するが、百人だけじゃない。
恐らく数千という規模だ。
百人は、その一部である。それを察知しただけだ。まあ、敵の数を正確に把握できたからそれでいい。
小国だと聞いていたが、思った以上に数がいる。
とりあえず身を隠しながら、風魔法で何を話しているか確認する。
「巨人様と戦っていた外道者が此方に逃げたのは間違いないのか」
「おそらくな。 罰当たりが、境界の近くまで逃げ込んだとすれば、立ち往生している筈だ。 だが巨人様を殺すほどの使い手だ。 この辺りでも生き延びている可能性は否定出来ない」
「それにしても大げさな。 親衛師団を丸ごと出す程か」
「グンリから使者が来たらしくてな。 巨人を殺した魔法使いが去ったとかいう話らしい。
それで国王様が激怒して、討伐隊を出す事になったそうだ」
罰当たりね。
グンリでも転生神とやらを信仰していたが。
ドラダンでは、巨人を信仰しているわけか。
あれはどうみても人食いなのだが、それでも信仰するのは何故だ。何かしらの論理的な理由があるのだろうか。
恐ろしいから信仰するのだろうか。
伯爵領では、フラムは力で降臨していた。あれと同じ事が此処でも起きているのかも知れない。
しかし巨人はどうみても理性で接する事ができるとは思えなかった。言葉を話すことがあり、魔法を使うといっても、人間と違う理屈で動いているとしか思えない。信仰したところで、何か利益があるのだろうか。
それにこれだけの戦力を用意できるのなら、巨人を倒す事は出来るはずだ。
信仰に思考停止しているのか。
それとも他の理由があるのだろうか。
信仰というもの自体がわたしにはよく分からないので、何ともいえない。ともかく此処は、一旦距離を取らないとまずいのは事実だ。
わたしは風魔法で気配を消すと、そのまま洞窟を離れる。これを作るのは結構手間だったのだが、それも仕方がない。
兵士達はいつこっちを発見してもおかしくない。
わたしは特務として正式に訓練を受けているわけでもなんでもない。アンゼルだったらあっさり突破するかもしれないが。
わたしは手探りでそれを試行錯誤していかなければ、成功の可能性すら掴めないだろう。
荷物は出来るだけ持ち出すが、荷車は諦めるしか無さそうだ。
こればかりはどうしようもない。
山の中を、更に奧へ奧へと行く。
視界を遮るように移動しなければならない。
これだけの奥地で暮らしている人間。奥地でやっていけている軍隊だ。わたし以上の魔法使いがいる可能性もあるし。
やっかいな固有の魔法を持っている可能性もある。
アンゼルもそういう固有魔法を持っていた。
「見つけたぞ! 此処にいたらしい!」
「すぐに皆を呼べ!」
兵士達がわたしの洞窟を発見したらしい。
持ち出せたものの大半はおいてくる事になってしまったな。
そう思うと、多少は残念だが。
それで気を引けると思えば安い。
土魔法を使って移動しているので、足跡も残していない。犬などで臭いを追跡するのも不可能だろう。
更に奥地へ移動していく。
ともかく、兵士達から距離を取る。
空に人影。
案の場、空を飛べる魔法使いがいるか。当然、彼方此方に探知の魔法を使っている筈。
わたしは世界最高の魔法使いでもなんでもないし。
魔法の全てを知っているわけでもない。
あれらがどんな未知の魔法で探知をしているか分からない。そう判断して動くべきだと考える。
こういう思考方法はアンゼルに習った。
同時に相手を過大評価するなとも教わった。
過大評価しすぎると、身動きが取れなくなる。
それでは本末転倒なのだと。
土魔法と風魔法の組み合わせで移動中には音も立たない。
それでひたすら距離を稼ぐ。
境界と言われている妙な障壁のようなものの側を移動して行くと、兵士も境界とやらは避けているようで。
移動はしやすい。
ただ、川があると、どうしてもそこは避けていきたい。
兵士達もかなり広範囲に散って此方を探している。
強い臭いがある。
恐らくは獣よけだ。
ただ、巨人がそもそも境界の近くでは出る事があるとマリーンが言っていた。オークやらの原種がいてもおかしくはないだろうし。大型の不可解な獣はグンリで多くの数を見ていた。
そういうのに襲われると、兵士の数人程度だとひとたまりもないだろう。
何か対策をしているのか。
そうこうしているうちに、後方に兵士達が迫ってきている。木の陰でわたしは息を殺して、行ってくれるのを待つ。
しかし兵士達はかなり慣れていて、山狩りを極めて効率的にやっている。
どうやら巨人を十数体も殺したわたしは、彼等にとって怨敵も良い所であるらしい。捕まったら八つ裂きだな。
苦笑い。
今までもそういうことはいくらでもあった。
兵士達を相手にするにしても、兵士だけならどうにでもなるだろう。
問題はかなりの数いる魔法使い。
辺境国の軍と侮れない。
グンリからしてそうだった。ドラダンの軍だって、これだけ山で高速での浸透をして、なおかつ秩序が取れている。
はっきりいって、正面からやりあったら勝ち目はゼロだ。
多分アンゼルでも厳しいというだろう。
アンゼルと二人がかりでも無理と判断する他無かった。
広域殺傷用の魔法などを使っても、それでもこの数は殺しきれない。
冷静に逃げるべきと判断したわたしは、急いで川を抜けようとするが、その瞬間声が上がっていた。
「いたぞ!」
見つかったか。
全速力で行く。
川を一気に抜けて、水魔法と風魔法の組み合わせから。川岸で土魔法と風魔法の組み合わせに切り替える。
今までは消音に使っていた風魔法を防御に使う。
水魔法で一気に川を抜けている最中から、後方から矢が飛んできていた。それもかなりの剛弓だ。
上空からは、魔法使いが来ているのも分かる。
雷やらの指向性が低い魔法はまだ良い方で、厄介なのは火などの単純な魔法だ。そういうのは威力を上げやすく、指向性も高くしやすい。隕石魔法も使ってくる奴がいてもおかしくない。
スポリファールやカヨコンクムの軍ではそれを使うのが当たり前のようにいた。クタノーンの黒軍も質はそれほど変わらなかったと言う話だ。
それらに対応できる戦術をハルメンの密偵が仕込んでいたようだし。
わたし程度の魔法使いなんて、なんぼでもいると考えないといけない。
左右に蛇行しながら、森の中に飛び込む。
犬笛か何かが吹き鳴らされ、狼にしては大きすぎるのが猛烈に追いかけてきている。戦闘用の狼だろうか。
走る速度も人間の比ではない。森の中でも、正確に追跡してきている。
土をぶちまけて、後方の視界阻害。速度は一時的に落ちるが、それでも派手に森の中の柔らかい土……腐葉土をばらまく事で、そういった追跡者の視界を狂わせる。だが、やはり兵士は相当に訓練されている。
境界とわたしを挟むように、かなりの速度で追ってきていた。
「生死は問わない! 首を上げろ!」
「首を上げた兵は陛下より褒美が出るぞ!」
「確実に殺せ!」
物騒な声が聞こえるが、まあ巨人が信仰対象だというのならそうなるだろう。
マリーンはハンナを可愛がっていたようだし、相当にわたしを恨んでいるとみた。それとも、時間が立ってじわじわ怒りがこみ上げてきたのかも知れない。
だが、だったらわたしはどうすれば良かった。
あの場にいた兵士達もろとも、巨人にまとめて食われれば良かったのか。
弱者は死ねというのか。
わたしに生きる権利も資格もないと。
わたしは命にあんまり価値は見いだしていないが。それでも、殺されるのは嫌だ。それは素直な言葉として出る。
だから逃げる。
至近。
飛びついてきた巨大な狼だか犬だか。凄まじい気迫だ。
わたしはそのまま、風の塊を叩き付けて、空中で押しやる。文字通り吹っ飛んだ犬。風圧を浴びてみると分かるが、風というものの力は侮れない。
更に二匹。
速度を上げるが、どうしても厳しい。
二つ同時の魔法が限界。
三つ同時はやれるかも知れないが、あんな大きな犬を吹っ飛ばすのは無理だ。
犬の獰猛な吠え声が至近まで迫ってきている。
二匹同時、左右から来る。
わたしは上空に土魔法を利用して跳躍すると、犬を風魔法で二匹とも地面に叩き付け、着地。
更に逃げようとしたが。
そこで、至近の前が炸裂していた。
上空にいる魔法使いだろう。周囲の気配を探る限り、これはもう囲まれるな。ふうと息を吐く。
呆れているわけじゃない。
ただ平常心を取り戻すためだけの行動。
そのまま、更に急ぐ。
今度は五匹。
一気に犬が追いついてくる。
このまま境界を避けて逃げても、活路はなし。
わたしはそう判断する。
上にいる魔法使いは、わたしに追いついて飛行しながら、攻撃魔法を打ち込んでくるくらいの実力がある。
流石は軍所属の魔法使い。
わたしも大国の軍に所属する魔法使いの、一線級くらいの実力はあるとマリーンが言っていたが。
それが複数今相手になっていて。
大量の兵士と、猟犬がおまけと言う状態だ。
突破は無理。
だったら、賭けてみるしかない。
わたしは目を閉じると、全力で境界に向かう。
世界を歪ませているよく分からない障壁は、水は少なくとも通していた。だから、水で身を覆う。
犬が凄まじい唸り声を上げているが、わたしが境界に突っ込んだのを見て、明らかに躊躇していた。
小型の動物は出入りしていた。
どうしてか、大型の動物は入ろうとしていなかった。
本能的に何かまずいと知っているとみて良い。
つまり命の保証は無い。
だが、それでも。
今は此処しか活路がない。
そのままいれば確定で殺される状態だ。だったら、境界の先へ、進んでみるしかなかった。
境界の側に降り立ったドラダン連邦所属の魔法使いカリーは、舌打ちしていた。
境界を越えることは、その存在を知っている者には禁忌とされている。
追い詰めればそうする可能性はあった。
兵士達も、困惑している。
ドラダン連邦では、境界を越えることは最大の罪とされていて。もしも越えたら幾億の輪廻を虫として過ごさなければならないと言われているほどなのだ。
後方から親衛師団の将軍が来る。
敬礼すると、状況を報告。
屈強な初老の将軍は、舌打ちしていた。
「境界を越えて追跡するのは不可能です。 踏み込んで帰ってきたものはいませんし……」
「罰当たりなことをいうな。 それにしてもおのれ外法め。 巨人様を散々殺した上に、境界にまで踏み込むとは」
「如何なさいますか」
「一度引くぞ」
やむを得ない。
それに、これだけの人間が一度に山に入れば、多くの獣も反応する。一部の部隊は、大型の獣に襲われ、交戦している有様だ。
カリーはこの軍で上位に食い込む魔法使いだが、此処にて長居したいとは思わない。巨人が姿を見せた場合には、贄を捧げて帰ってもらっているほどなのだ。その贄は巨人が選ぶのである。
下世話な話。
まだカリーは、死にたくなかった。
ドラダンに入った瞬間追放され。
ついでに世界からも追放されるアイーシャ。
今章の追放ノルマ早くも達成です。しかも二つ同時に。