辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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世界規模の大破壊と法則の破綻。

その中を必死に逃げるアイーシャ達。

大国だろうと列強だろうと、人がまとめて狂えばどうにもなりません。

何もかもが崩壊する時は、こういうものです……







1、瓦解する大国と現れる異邦

ハルメンの首都が燃えている。

 

此処も駄目か。

 

軍師どのが涙を拭っている。これではもうどうしようもない。わたしは手をかざして、様子を見ていた。

 

かなり腕が良い魔法使いが飛翔しながら殺し合っている。

 

あれはこの国で一位と二位の魔法使いで、それも夫婦だとストレルがいう。仲がいい夫婦で、あんな風に殺し合うのはあり得ないとも。

 

たしかに手をかざして見ていると、相当な腕前だ。

 

だが、あれで一位と二位か。

 

今わたしの腕は更に上がってきている。それでもまだその一位と二位の方が上だとみたけれど。

 

だが、手が届かないほどでは無い。

 

あのアルテミスほどの異様さは感じない。

 

これなら、不意でもつけば倒せそうである。

 

とにかく派手な魔法を撃ちあって、閃光が炸裂しあっている。ストレルが呻く。

 

「おかしい。 どちらも堅実な戦いを旨とする魔法使いであられたはずよ。 あのような見栄えだけの戦いなどする筈がない」

 

「オークがいきなり大きな猿から豚に変わったくらいです。 ゴブリンも更に小さくなっていたじゃないですか」

 

ストレルが呻く。

 

ゴブリンには途中で襲われた。

 

幼児くらいの大きさになっていて。しかも此奴らも、女とみた瞬間、襲おうと集団で掛かって来た。

 

全部窒息させたが。

 

おかしいのは、全部オスだったということだ。

 

ゴブリンも猿から変わっていった種族。

 

つまりは生物だ。

 

それがオスしかいないとかあり得ない。

 

色々な種族を見てきたけれど。オスとメスで役割分担をしているのは確かにいる。交尾のためだけに雄がいて、それが終わるとメスの栄養になってしまうような種族だって存在した。

 

だがオスしかいないのはおかしすぎる。

 

それ以外にも、おかしなものは散々見た。

 

世界が、急激に書き換わっているとしか思えない。

 

「ああっ!」

 

ストレルが悲痛な声を上げた。

 

殆ど相討ちになるような形で、一位と二位の魔法使いが落ちていったようだ。あの高さだと助かるまい。

 

二人とも、ハルメンを支えていた支柱だったそうだ。

 

それがあんな無惨に。

 

そう思うと、悲しくてならないのだろう。

 

わたしにそういった愛国心だのは存在しないが。悲しんでいるストレルが、顔を覆って震えて泣いているのを見ると。

 

悲しいのだと言う事は分かる。

 

だから何も言わない。

 

離れるべきだと提案するが、いやいやとストレルは首を振る。

 

あれで心が折れたのだろうか。

 

軍師どのはいう。

 

「せめて国王陛下の安否は確認しないと……」

 

「リスクが大きすぎるように思いますし、多分発狂していると思いますよ」

 

「そうよ! 何もかもおしまいだわ!」

 

あ、これは壊れたかな。

 

わたしはストレルがヒステリックに泣き出すのを見た。どうやら完全に今ので抑えていたのがあふれ出したらしい。

 

ストレルが喚き出す。

 

軍師殿を不愉快だったとか、どうしてガキのくせにこんなに出世が早いのだとかとか、唾を飛ばして罵り始める。

 

此奴に敵対されると面倒だ。

 

殺すか。

 

そうおもった瞬間、軍師殿が、突然土下座していた。

 

「僕が気にくわないのなら謝りますし、殴ってくれて結構です! だから、今はアイーシャさんと協力して、この国のために動いてください! 貴方はこんな状態で正気を保てている少ない例外だ! そんな狂気になど負けないで!」

 

「……」

 

「ぐ、うう、うああああああっ!」

 

顔を憎悪と涙でぐしゃぐしゃにしながら。

 

ストレルは子供みたいに泣きじゃくっていた。

 

わたしもまだ子供から片足を抜け出した程度の年だが。

 

それでも、こうも感情は乱れない。

 

豊かな感情を持っていて羨ましいな。

 

ほんのりそう思ったが。

 

しばしして、ストレルは地面を何度も蹴りつけた。そして、恨みが篭もった言葉を何度も吐き捨てた。

 

それで、どうにか自分を取り戻したらしい。

 

何度もメイクが壊れた顔を拭うストレル。

 

メイクが取れると、随分地味な顔である。

 

それもさっきまでの憎悪とかの原因なのかも知れない。化粧すれば美人になるのだから、それで良い気がするが。

 

「ごめんなさい、落ち着いたわ」

 

「とにかく、国王陛下を救出します。 それから少しずつ、周辺の状況も探らないと。 それに、正気の人間を少しでも見つけないといけません。 特務で正気の者が一人でも生きていると良いのですが」

 

無理だろうな。

 

わたしはそう思うが。

 

他に方法もあるまい。

 

それにあのスポリファールを振り回した軍師どのだ。今は動転しているようだが、それでも生きていれば少しは役に立つかも知れない。

 

だいたい見捨てるにしても、わたしもこの状況で生き残れる自信はあまりない。

 

世界そのものが発狂したとしか思えないこの状況で。

 

少しでも味方が欲しいと言う点は、わたしも同じだった。

 

 

 

ストレルと軍師どのと一緒に、王都に入り込む。

 

人が殺し合っているのはずっとだ。こっちを見る視線は、憎悪と敵意に満ちている。それはもうどうでもいい。

 

分厚い城壁も堅牢な城門も開けっ放し。

 

そこらの下水には死体が放り込まれ。頭を叩き割られた死体には、蛆が集りはじめていた。

 

殺し合いの声がまだそこら中から聞こえている。

 

声を荒げているのは男も女も同じ。

 

断末魔。

 

どこからでも聞こえてくる。

 

殴打の音が、明らかに致命傷のものだ。絶叫。狂ったように笑う声。

 

これはもう、どうにもならないだろうな。そう思いながら、わたしは風魔法で気配を探る。

 

辺りが突然燃え上がった。

 

風魔法で防ぐが、凄まじい炎魔法だ。

 

あの伯爵が欲しがっていたんだろうな、こんな魔法。わたしはそう思いながら、必死に防ぐ。

 

ストレルが風魔法で加勢してくれる。

 

炎は空気が無くなると消えるらしいが、炎魔法の多くは炎を作り出して投射してくるものだ。

 

だから空気が無くて消えるほど温いものでもない。

 

ただし、凄まじい風圧で投射を逸らすことは出来る。

 

ほどなくして、打ち破る。

 

人影が見えてくる。

 

そろそろ子供が産めなくなる年の女性だ。凄まじい憎悪で顔を歪めていたが、ストレルが息を呑んでいた。

 

「アルクネ陸将!」

 

「ううう、ううるううう!」

 

「知り合いですか」

 

「この国で上位に食い込む魔法使いよ。 ああ……こんな方まで!」

 

そうか、立派な人だった訳だ。

 

だが、こうなってはおしまいだろうな。

 

手加減とか出来る相手では無い。わたしは即座に魔法を展開。相手の肺に毒ガスを送り込む。

 

しばし喚きながらそれに抵抗していたアルクネという将軍だが、やがて白目を剥くと、倒れた。

 

手加減できる相手じゃない。

 

暴れ狂って魔力を消耗していたから勝てたが。そうでなければ、確定で殺されていただろう。

 

死んだアルクネという将軍を放って、先に行こうとする。

 

そうすると、ストレルが叫んでいた。

 

「人殺し! だから貴方の事は危険だって皆に言っていたのよ!」

 

「殺さなければ殺されていましたが」

 

「だとしても、少し呼びかけてみるとか!」

 

「アレを相手に、そんな事をしている余裕なんてありませんでしたが。 追放するというなら出ていきます」

 

わたしもいい加減、追放されるのには慣れている。

 

しばし火花が散るが、軍師殿が頼むからと必死に頭を下げてくる。

 

「アルクネ陸将がもう駄目だったのは事実です! 今は二人、協力してください! 状況を確認して、味方の一人でも見つけないと!」

 

「だからあんたは嫌なのよ! こんな時まで冷静ぶって!」

 

「……」

 

「アイーシャさん、やめてください! とにかく、今は力を合わせないと、生き……」

 

わたしが即座に動く。

 

立て続けに飛んできた弩の矢を、風で防ぐ。

 

狙っていたのは軍師の方だ。

 

わたしが防ぐと、周囲から兵士崩れらしいのがわらわらと現れる。

 

どれも女性兵士のようだが、全員顔を歪めて、口から泡を吹いていた。

 

これは駄目だな。

 

「近衛兵の鎧よ! こんな人達まで、狂っているの!?」

 

「これはもう生き残りなんていないと思いますが。 さっさと王都を出るべきでしょう」

 

「……もう少しだけお願いします! 幾つか隠れるための場所に見当がありますので!」

 

軍師がそう叫ぶ。

 

まあいいか。

 

わたしは即座に魔法を展開。全員窒息させるべく動くが、近衛の鎧とやらに対魔法の仕掛けでもあるのだろう。

 

兵士達は、普通にこっちに来る。

 

ただし足下がおぼついていない。

 

途中で倒れる兵士。

 

ストレルが泣きわめきながら、兵士を炎魔法で焼き払う。次々に来る近衛らしい兵士だが、いずれも理性を保って等いなかった。

 

全部殺しても、まだ周囲では戦いの音と、怒鳴り声が聞こえてきている。

 

死体の山を一瞥だけすると、軍師どのに次はと視線を送る。

 

軍師どのも涙を拭いながら、こっちだと案内してくれるが。案内された先の建物は、内部に死体が山ほど詰まっていて、しかも焼け焦げていた。

 

戦争の狂乱そのものだ。

 

わたしはロイヤルネイビーにいた時期があるから、こういうのは見慣れているが。

 

ストレル一佐は軍人の筈なのに、時々口を押さえて青ざめている。

 

線が細いな。

 

たくさん殺してその地位になっただろうに。

 

他も調べて回る。

 

駄目だ。何処も死体か、凶暴化した人間しか残っていない。

 

わたしは王都を出るべきだと提案したが、王宮を確認すると軍師殿は言う。或いは其処は誰か生き残っているかも知れないと。

 

仕方がない。

 

わたしも単独で生き残れる自信はあまりないし、無言で付き従う。

 

途中で訳が分からない言葉を発しながら、顔を歪めて襲いかかってくる人間を。片っ端から排除しなければならなかった。

 

やがて、井戸の一つを見つける。此処が地下通路につながっている避難所になっているらしいのだが。

 

玉座の間を、遠隔で調べて。

 

其処でたくさん人が集って、人間を滅多刺しにしているのを既に風魔法で確認している。

 

それらの人間は、「王族は優秀なはずだ」「容姿も優れている筈だ」「そうでないのだからお前は王族では無く偽物だ」とか喚きながら、玉座の肉塊をぐしゃぐしゃにしていた。よく分からないが、貴族だの王族だのが優秀だのいう妄想で勝手に人を定義して、それを元に相手を殺すのはまっとうな人間がやる事なのだろうか。わたしにはそうとはどうにも考えられない。

 

それは勿論軍師どのに伝えてあるが。

 

影武者かも知れないと、何だか情けない様子で口調を落として言う。

 

最後の希望に賭けたいのだろう。

 

まあいい。

 

好きなだけもうやらせるしかない。

 

井戸の底に降りる。

 

血で真っ赤だ。

 

辺りは死体だらけだし、土にしみこんだ血が井戸に流れ込んでいるのだろう。ろくでもない話である。

 

ともかく、井戸の底に道があったので、そこに入る。

 

上の方では乱痴気騒ぎが続いているし、こっちの方が気が楽だ。

 

ひんやりした空気と、しんとした静かさ。

 

こっちのが、わたしにはあっている。

 

「此処は氷室になっていて、氷を保存しています。 王族だけが許される贅沢品だったりします」

 

「そうですか」

 

水魔法使いでも、氷を一定量作れる人間はあまり多く無いらしい。風魔法と水魔法を組み合わせて、それでやっと氷は作れるようだ。

 

中には氷を専門で作り出す魔法使いもいるそうだが。戦闘で氷魔法を展開する技量となってくると、国に十人といないらしい。相手を冷やすことだったら簡単なのだが、氷をそれで瞬間的に作り出して、相手を殺傷するのはそれだけ難しいと言う事だ。氷を作るのもしかり。

 

故に冬の間に氷を作っておいて。

 

こういう場所で保管しておくのだとか。

 

馬鹿馬鹿しい話だが。まあそれについてはどうでもいい。

 

奧へと進んでいくと、ストレルがあっと声を上げていた。

 

膝から崩れ落ちてしまう。

 

声を殺して泣いている。死んでいるのは、頭を真っ二つにかち割られた男性だった。兵士のようだし、どうみても探している王ではないだろう。

 

「知り合いですか」

 

「ええ。 近衛の副長、アタシの好きな人。 好きだった……人……っ」

 

「そうですか」

 

まあ、恋人くらいいてもおかしくないか。

 

軍師どのが黙祷しているが、随分と余裕があるな。錯乱しかけているストレルを引きずって、奧へ。

 

点々と兵士が死んでいる。

 

この様子だと、駄目だな。そう思うが、それでもまだ可能性があると言って、軍師どのは進む。

 

最深部。

 

兵士の死体が積み重なっていた。どれも死んでいる。

 

此処の先が、王都の外につながっているらしいのだが、扉はさび付いていて。開けた様子はない。

 

風魔法で調べるが、埃などの状態からも、ずっとあけていない。

 

つまり此処で殺し合いをしたということだ。

 

兵士の死体を避けていくと、男性の死体だ。

 

胴から真っ二つにされて死んでいる。

 

軍師どのが、悲鳴を上げていた。

 

殿下。

 

そう叫んでいる事からして、これは王子様とやらだろう。普通の男性だ。容姿が優れているわけでもなんでもない。

 

逃げるためだからだろう。地味目の服を着ていて。

 

それもあるだろうが、別に優れた容姿の人間でもなんでもなかった。

 

「これで全滅ですね。 ただこの脱出路は使えそうですが」

 

「あんたそれでも人間!? これだけの人の死を目の前にしても、なんでそんなに平静でいられるの!?」

 

「わたしの故郷はこうでしたよ。 毎日人がゴミみたいに殺されて、腐った水が流れている側溝に死体が流れていて。 人攫いが子供をさらって、奴隷がそこらで当たり前に売られていて。 わたしも売られた一人でした。 今更こんな光景を見ても、嫌なところに戻って来たなくらいにしか思いません」

 

「このケダモノ!」

 

掴み掛かってくるが。軍師殿が必死に止めに入ってくる。

 

震えている。

 

年齢は下手するとストレルの半分くらいだろうに。

 

「第二王子殿下がこれだと、第一王子殿下が脱出出来たとも思えません。 しかし王都にいなかった末の王女殿下は、まだ生きているかもしれません。 い、今は、少しでも冷静に。 まずは王都を脱出しましょう。 この有様では、玉座で死んでいるのが陛下でしょうから」

 

「このクソガキが!」

 

「僕は地獄に直行便が用意されているクソガキです! あれだけの悪辣な策を準備して成功させたんですから! でも、それでも……今は無駄死にをこれ以上出したくない……最善は無理でも次善の策を実行したい。 それだけなんです」

 

それだけいうと、膝から崩れ落ちる軍師どの。

 

わたしは何も思わないし思えない。

 

ため息をつくと、土魔法で無理矢理さび付いた扉を開ける。

 

この様子だと、王子を連れて逃げだそうとした兵士達が次々と錯乱していって、此処で殺し合ったのだろう。それに王子も巻き込まれたと。

 

いや、まて。

 

本当に錯乱か。

 

わたしは扉を開けると、考え込んでしまう。

 

今まで暴れていたような連中を、わたしは見た事がある。

 

そう、あの伯爵だ。

 

あいつは王以外に抑える相手もいなかった。それで、あんな風になった。恐らくはパッナーロの他の貴族なんかもそうだったはずだ。

 

勿論抑える相手がいない場合、人間が全てああなるかは分からないが。

 

ハルメンが壊れた直後だろう。わたしの所に審問に来た奴が吠えていた。

 

法なんかより感情の方が大事で。

 

わたしは見た感じ気にくわないから、罰を与えて良いのだと。

 

それは人間が、こういう群れを作っていないときに持っている感情で。誰もの中にあるのではないか。

 

それを抑えなくなると、こうなるのではあるまいか。

 

なんとなくそうとだけ思ったが。

 

軍師どのは見解を口にしない。

 

ともかく、脱出路を行く。流石にこっちは何もいない。淡々と進んでいくが、かなりの長さ、洞窟が続いている。

 

ストレルが何度か涙を拭っている。

 

坂道に入ったので、わたしが土魔法と風魔法での移動を提案。だが、軍師どのが駄目だと言った。

 

「僕は事前に聞かされているんですが、この先は魔法に反応する罠が幾つもあるそうなんです」

 

「なんでそんな面倒な事を」

 

「出口側を抑えられるのを防いだり、毒の風を流し込まれて一網打尽にされるのを防ぐためだと思います」

 

「……」

 

だとすると、風魔法の展開も止めた方が良いか。

 

この三人だと、肉弾戦がかろうじて出来そうなのはストレルくらいか。わたしは論外。軍師どのに至っては、同年代の子供に比べてもだいぶ劣っていそうである。

 

ともかく急ぐ。

 

半日くらい掛けて洞窟を抜けると、外は夜になっていた。

 

王都だか首都だかの方は明々と燃えていて。

 

この国が終わった事を誰でも分かるように見せつけていた。

 

離宮に王女がいるらしいが、まだ四才だそうである。なんでも妾腹の子らしくて、暗殺などを避ける為に監視付きでそんなところにいるそうだ。

 

軍師どのがなんでこんなに詳しいかというと、パッナーロを巡る広域戦略を提案して成功させたのが要因らしく。

 

その功績を受けて、いざという時に王族を守るべく、こういう情報を貰ったのだとか。

 

というかだが。

 

見た感じ、野心が欠片もないのが原因ではないかと思う。

 

それについてはわざわざいわない。

 

くすんくすんと泣いているストレルを引っ張って、そのまま行く。まあ恋人も死んだし、守るべきものもなくなってしまった。

 

わたしとしては、聞いておかざるを得ないが。

 

「それで王女様も死んでいる可能性が高いですが、その時は?」

 

「……他の国に一度移動します。 スポリファールは流石に受け入れてくれないでしょうから、隠密しながら旧パッナーロに抜けましょう。 かなり危険な旅路になると思いますが、それくらいしか思いつきません」

 

「そうですか」

 

また彼処に行くのか。

 

わたしにとっては因縁の地そのものだ。

 

ただ、ハルメンだけだろうか。こんな風になっているのは。

 

他の国も全部まとめてこうなっていたら、ちょっとどうするべきなのかわたしには見当もつかない。

 

外に出たので、もう風魔法と土魔法で、一気に移動する。

 

本来は徒歩二日くらいの場所に離宮があるそうだが。

 

この魔法だと、半刻も掛からない。

 

さっさと次の方針を決めるためだ。わたしとしても、用事は早々に済ませたい。

 

ほどなく、離宮に着く。

 

空に瞬いている星が異様に明るい。

 

これは辺りに人気がないためで。ついでに今天気が晴れだからだ。

 

ただ星明かりが強いといっても、昼のように周囲が見えるというわけでもなんでもないのだが。

 

「光魔法は使えます?」

 

「いや、やめておきましょう。 発見されやすくなります」

 

「今更だと思いますが」

 

「それでもです」

 

少し冷静さが戻って来たのか、軍師どのがいう。

 

森が見える。あの奧に離宮……といっても少し大きめの家程度しかないそうだが。其処を目指す。

 

森の中にも、死体が点々としていて。

 

野犬が囓っている。

 

わたしは目につき次第風魔法で窒息させる。血の味を覚えている時点で、いつでも襲ってくるからだ。

 

それにしてもこの辺りでも散々殺し合ったんだな。

 

これは駄目だろうな。

 

そう思って、離宮に。離宮とは名ばかりのちいさな家に。

 

家の周りには、それなりに良い鎧を着たのが死んでいる。此処を守っていた、忠誠心が高い兵士とか近衛とかだろう。

 

どう見ても同士討ちの結果だ。

 

それらも野犬がかなり囓っていた。熊もいる。全部窒息させて殺す。既に死体の一部は腐り始めていた。

 

離宮に入る。中も戦いの後でさんさんたる有様だ。

 

風魔法で確認。上に子供の死体がある。

 

二階に上がって、部屋の一つを見た。

 

そこには、壁に槍で串刺しにされた、事前に聞いていた容姿通りの子供の死体があった。

 

どうやらハルメンの王家関係者は全滅とみて良いだろう。

 

ストレルが限界を迎えたらしく、泡を吹いて倒れてしまった。

 

「……少し休みましょう。 この国はもう終わりです」

 

軍師殿が、ここに来る前に見つけていた、兵士の詰め所らしい建物に行こうという。

 

其処ならば、確かに休む事は可能だ。

 

内部には、誰もいなかったのだから。

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